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The Artifact Reaching Out Truth   作者: たいやき
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気を張る

「やっぱ、明日は恵南のことを応援するのか?」

「うん。僕の家族と、向こうの両親とも一緒にね」


昨日は来なかったくせに、僕の父親は、『明日は有給を取ってでも行ってみせる』と息巻いていた。少し複雑でもある。


恵南さんの家族と僕の家族は、昔から仲がいい。こういうことも、何度も経験して来た。


「でも、やっぱり恵南って凄いんだよな。たった一人で、テレビを呼ぶくらい影響力があるんだから」

「何今更なことを言ってるの?」


東雲君の発言に呆れ返る。


過去、中学生でありながら二つ名を賜ったシーカーが何人いたか。多分、片手で足りるほどだろう。


それでいて尚、発展途上なんだから。今一番、将来を有望視されているシーカーでもある。



「斎藤、釘抜。ちょっと良いか?」


そんなことを話していると、担任先生に呼び出される。昼休みだと言うのに、何の用なんだろう。


2人して昼食を食べるのをやめ、廊下へと出る。


そんな僕たちを、申し訳なさそうな目で見ていた。


「悪いな、2人とも」

「いえ。で、用ってなんですか?」

「いや、あんなこと言っといてなんなんだが……お前ら2人とも、明日の体育祭のメンバーに選ばれてな」

「はい?」


僕はその言葉を聞いて目をパチクリさせる。


斎藤さんは納得だけど、僕まで? 何かの間違いじゃ?


「嫌ですけど」

「ま、当然お前ならそう言うよな」


斎藤さんはその言葉に驚きもせず、逡巡もせず辞退する。


先生はその返答が返ってくることも読んでいたらしい。この1ヶ月、いや数日で斎藤さんのことを完全に理解していた。


「勿論、この話を受けるか受けないかはお前ら次第だ。俺としては……ま、受けて欲しいのが本音だけどな」


良い話しかと思いきや、『俺、まあまあ目をつけられてるから、ここら辺で評価上げときたいんだよね』と、自己中心的な本音をぶっちゃけてくる。


やっぱり、この人はダメかもしれない。


「……でても良い」

「え? いやいや、無理しなくても良いぞ」


突然の斎藤さんの意見の変化に、先生の方も手のひら返しを決める。出て欲しいんじゃ、なかったのか。


「釘抜君と、一緒の競技にして」

「そこは、他の出場者と相談しないとなんともな……」

「これが呑めないなら、出ない」

「わかったわかった。できる限り、根回しはしとくよ」


その答えに、斎藤さんは満足そうに頷く。


他の出場者に話を聞く前に、僕に聞いて欲しい。もはや、僕が出ることが確定の雰囲気になっている。


「あの……僕は辞退していいですか?」

「駄目だ」


選ぶのは各自の自由という言葉は、本当になんだったのか。


そんな選択肢なんて最初からあり得ないという風に、いちにもなく否定される。なんで?


「いや、駄目って言われましても」

「いくらだ? いくら欲しい」


先生は財布の中身をチラつかせて、そんなことを聞いてくる。


買収。教師が生徒に、絶対やっちゃいけない行為だ。間違いなく、冗談で言ってるんだけど、その目はガチである。


そんな顔をされたら、断れるはずもなかった。


「……わかりました。お受けします」

「そうか! 2人とも、自主的に参加を表明してくれて嬉しいぞ」


自主的とはなんだろうか?


教師であるはずなのに、言葉を間違って使っていた。


「取り敢えず放課後、総合教室に集まってくれ。そこで顔合わせも兼ねて、明日の日程とか色々話すから」


それだけ言うと、先生は僕たちの前から去っていった。



何か、他の思惑を感じざるにはいられない。


◇◇◇


「おい、一年だぞ。あいつらも参加すんのか?」

「右の子って、最後のリレーの子でしょ。あの走りができるなら、選ばれてもおかしくないでしょ」

「その隣の男子って……確か、騎馬戦の子だよな?」


僕たちが総合教室に入ると、先に集まっていた先輩方が一年次を表す青の挿し色が入った中履きを見て、ひそひそと会話しだす。


凄く居心地は悪かった。


「君って、確か斎藤さんだよね。覚えてる俺のこと」

「すいません」


周りが遠慮している中で、親しげに話しかけに来た先輩の問いに、覚えていないと答える斎藤さん。


それを気にも留めず、明るく返してくださる。


「そっか、そりゃ覚えてないよね。最後のリレーで、君に抜かされたうちの一人だし。あの走り、凄かったよー」

「どうも」


褒め言葉を、変わらず淡白に返す。斎藤さんはブレない。


「君の名前も、君と同じクラスの部活の後輩に聞いたんだよ。俺、君に興味があったからさ」


見た目通りチャラい人のようで、親しげに肩に置いた手を思いっきり振り払われている。


「はっはっは! 振られてるし!」

「いや、そんなんじゃねぇーって」


間違いなく、そんなつもりはあったと思う。


斎藤さんの身体に向けた下卑た視線や、手を振り払われた時の不機嫌そうになった表情を見る限り。


そのことは斎藤さんも気づいたんだろう。冷たくて、ゴミムシを見るような先輩に向けたらイケナイ顔をしている。


斎藤さんに見惚れてしまうのは仕方ないけど、先輩という立場を活かして仲良くなろうとするとは、僕もいただけないと思ってしまった。


「で、そっちの君は? 付き添い?」


その僕を馬鹿にしたような発言に、笑いが起きる。けど、そう言われても仕方なかった。僕だって、そう思うもの。


「やめてください。先輩」


けど、そう思ってなかったのは斎藤さんだけだったらしく。僕の前に庇うように出ると、訂正しろと迫った。


「え? 何ムキになってんの? そいつ、君の彼氏?」

「……今は違います」


その発言を言葉通り受け取れなかった先輩は、今度は僕に標的を向けて、さっきまでとは違う冷たい目を向けてくる。


「……ま、これぐらいなら勝てるか」


ボソッと呟いた声は、こちらの耳に届いた。


僕の耳に届いたと言うことは、斎藤さんの耳にも届いたということで、彼女の目が更に細められる。


「良い加減にしてくださいよ。先輩」


そんな剣呑な雰囲気を引き裂くように、涼やかな声が通る。


「桜庭……」

「すんませんね。ウチの先輩が失礼をしたみたいで」


そう言って先輩に代わって頭を下げる。


頭じゃ、処理しきれないことが起こっていた。


「じょ、女性?」

「あ?」


物凄く低い、女性の声で恫喝される。


この人のことは知っている。

あの騎馬戦で陣形を組んでいたとき、2つの騎馬のガードをすり抜けて、僕のもとに突っ込んできた騎手の人……のはずだ。


あのときは男性だったはずなのに、今は女性になっている。


一瞬、あの場の勢いや恐怖から、男性だと勘違いしてたんじゃないかという思考が過るが、そもそも騎馬戦は男子生徒しかでられないはずだ。



というか、昨日の人と同一人物かも怪しくなって来た。

他人の空似とか、そういうレベルじゃないくらいそっくりなんだけど、細部が少し違っている。


顔のパーツも若干女性っぽく柔らかくなってるし、髪だって伸びている。なんなら、少しばかりか胸に膨らみもある。


女性ホルモンでも、注入されたのかな?



「……あー、あんたが兄貴の言ってた」


なんて失礼なことを考えていると、女性が気怠そうに言った。


「兄貴?」

「双子の兄貴だよ。よく似てるって言われる」


そう言って、携帯の中の一枚の写真を見せてくる。


入学式で撮られたものらしく、桜が舞う校門の前で2人の、見た目がそっくりな生徒が並んで立っていた。


見れば見るほど、そっくりだ。


男女の双子が似ないっていうのは、嘘だったのか。


「昔から良く間違えられるんだよ。そんなに似てるかなー?」


似てるすっごい似てる。

どっちもイケメンってところまで、凄い似通っている。


「それで? あんたが兄貴を倒したっていう……」

「あ、はい。すみません」


これから先の展開を読んで、先に謝罪をいれる。


あの人の騎馬を崩したのは僕じゃないけど、僕みたいなものだ。もしかすると、兄貴大好きとかで恨まれているかもしれない。


なんて、思っていたのに。


「やー、ありがとう! 久しぶりにスッキリした!」


メチャクチャ良い笑顔で握手しながら、そんなことを言われる。


そこには皮肉もなにも込められていない、純粋な感謝だった。


「あんたも明日の大会に出るんだろ? 名前は?」

「斎藤詩織」

「あんたには、聞いてないって」


前に出る斎藤さんをまるで興味が無いみたいに無視して、再度僕に名前を尋ねてくる。


昨日の体育祭を見ていたら、あり得ない反応だった。


「釘抜延壽です」

「釘抜!? すっごい苗字だ。私は桜庭 佳奈恵、2年生。私も明日の大会出るから、一緒に頑張ろ」


僕はその言葉に気になるものかあった。


大会に出る以前に、出場要項を満たしてないような。


「失礼ですけど…….昨日の体育祭。参加していましたか?」

「私? 病欠だったから、してないね」


思った通り、していなかった。じゃあーー、


「なんで先輩はここに呼ばれてるんですか」


斎藤さんが僕の疑問を代弁してくれる。


が、なぜか当たりが強い気がする。喧嘩でもふっかけてるの?


「去年も選ばれてるからね」

「え!?」


その言葉に驚いてしまう。


去年ってことは、この人1年生だったんだよね? つまり、斎藤さんみたいなことをこの人もしてるってことだ。



その事実にも驚かされるけど、更に驚いたのは担任のあの発言。『お前らには関係ないだろうけど』って、その事実が去年あった上で、良く言えたものだ。



「やば、先生来たわ」


目の前の桜庭先輩のことが気になり始めたところで、そこで会話は一旦お開きとなってしまう。


あの人、何者なんだろう。


◇◇◇


30人の生徒を一同に介した事前説明は、明日の日程や集合時間やらに、ウチの生徒としての振る舞いについて話しただけですぐに終わってしまった。


わざわざ、集める必要はなかったように思う。


出る競技に関しては、そもそも行われる競技が、毎年当日まで未発表ということで決めることはできなかった。


明日、それを決めるための時間が、大会が始まる1時間前に設けられるらしい。


自分たちの対応力も、計られているみたいだ。良い迷惑。


「明日、楽しみだね」

「う、うん」


総合教室を出た後の、斎藤さんに話しかけられた言葉に、素直に返事をすることはできなかった。



浅間 健治。彼の存在が、脳裏にチラつく。


きっと彼は、明日もなにかしらの形で会場に現れ、大会を台無しにしようとする。

そんな予感に似た確信があった。


このことを警察に相談したいけど、多分相手にはしてくれない。


というより、警察の方も浅間君のことを掴んでいるような気がしてならない。


その上で、理由は知らないけど大会を開くことを止めていないんだから、何を言っても無駄だろう。



「今度こそ、絶対に止めてみせる」


自分自身でも、説明のできない誓いを立てた。

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