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The Artifact Reaching Out Truth   作者: たいやき
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仇を討つ

一人、校舎の屋上へと来た僕を浅間君が出迎える。


ここ、グラウンドを見渡せる場所に僕を呼び出したのは、浅間君自身だった。


「やー、惜しかったね釘抜君。もう少しだったのに」

「あ、浅間君……」


生気を失ったような表情を、諸悪の根源の彼に向ける。


その僕の様子を、彼は愛おしげに眺めていた。


「……何の真似かな?」

「お願いしますお願いします……どうか、どうか」


頭を土につけて必死に懇願する。


彼の表情は見えなかったけど、その声には落胆の色が見てとれた。


「うーん……そこは、君の美徳だと思うけど、見ず知らずの人のために頭を下げるなんて……そんな生き方、疲れない?」


腑が煮えくりかえるも、そんな様子は微塵も見せずに、ただじっと頭を下げ続ける。


少しでも、考え直して貰えるように。


「言いにくいんだけど、無駄なんだよねそんなこと。命乞いとか、そう言うのをされると、無性にやりたくなっちゃうからさ」


ニッコリとした笑顔で、彼は手に持ったスイッチを僕の方へと見せつけてくる。

心が、壊れる音を聞いた。


「ふふふ。良いね、その表情」

「浅間ーーー!!!!!」


掴みかかろうとする僕を容易にヒラリと交わすと、すれ違いざまに僕の背中に何かを貼り付ける。


それだけで、僕は一歩も動けなくなった。


屋上からグラウンドを見下ろす形で、完全に停止する僕の身体。これから何が行われるのか、ハッキリとわかってしまった。


「せっかく特等席を用意したんだ。喜んでくれると嬉しいな」

「や、やめろ……」


僕のその言葉を無視して、躊躇いもなくスイッチを押す。


目も閉じれない中、僕はその光景を強制的に見せられた。


「……………」

「……………ぷっ」


が、グラウンドでは見渡す限り、爆発のようなものは起こらない。つつがなく、閉会式は進行していた。


そのことに困惑している僕を見て、堪え切れないとばかりに浅間君は笑い出す。僕はそれと反対に、怒りが込み上げた。


「……どういうこと?」

「いや? ただ、今回の体育祭は僕たちの優勝だったってだけだよ。おめでとう、釘抜君」


コイツは、何を言ってるんだ?


「あれ? その様子じゃ、気づいてないみたいだね。最後のリレー、途中でこけたのは偶然じゃない。故意的な異能によるものだよ。誰も気づいてはなかったみたいだけどさ」


浅間君は全てをわかったような口をきく。


「その点で言うと、君もやってるからお相子だけど……君の方は、直接的な勝敗には関わってなかったしね」


見逃してあげることにしたよ、と続ける。


その全てを見透かしているかのように、例えようのない不気味さを感じた。浅間君には、僕の異能がバレている。


「そもそも、何を勘違いしていたか知らないけど本当に爆弾なんて仕掛けているわけないじゃないか。それだけのスペースなんてあるわけないんだし」


再び、バカにするように言ってくる。完全に僕で遊んでいた。


「何がしたかったんだよ、君は!!!」

「ただ遊びたかっただけだよ。スキンシップだって」


僕の怒号に、飄々とした声で答える。


そこに一つも真実が無いことは、火を見るより明らかだった。


「そうだ。君に、プレゼントがあったんだ」


やっと身体の自由を取り戻し、浅間君の方へ向き直って厳しい目で睨みつける僕に、浅間君は思い出すように言った。


「……プレゼント?」

「うん。君が……いや、僕が喜ぶものかな?」


意味深なことを宣う彼に警戒していると、屋上の階段を誰かが登ってくる足音が聞こえてくる。


今は閉会式の真っ只中、生徒がここに来るはずもない。



だとしたら、浅間君の仲間。もしかしたら、ラグナロクとかいう組織のメンバーがやってくるのかも知れない。


そう思って、タロットカードをしまっている右ポケットへと、ゆっくり手を伸ばす。

油断なく、屋上の扉から目を離さない。


そして遂に、その誰かは屋上の扉へと手をかけた。



ガチャ



「あれ? 何で私、こんなところに来たんだろう」

「な、中谷さん?」


僕の予想に反して、向こうから現れたのは中谷さん。今、グラウンドで閉会式をしているはずの人物だった。


「ど、どうしてここに?」


そう呼びかける僕の姿を確認して不快そうな表情をすると、その隣に立っている浅間君を見て首を傾げた。


「釘抜。誰、こいつ」

「……浅間君だよ。知ってるでしょ」

「浅間? 誰それ?」


仮にも同じクラスの生徒だったはずなのに、中谷さんは本当に思い当たらないと言った感じで僕に聞いてくる。


それを悲しむこともなく、浅間君は笑っていた。


「うん、悲しいね。クラスメイトなのに」

「知らないって……で、なんであんたたちここにいんのよ」

「そ、それは……」


その質問に答えかねて、浅間君の方を見る。


多分、中谷さんをここに呼んだのは浅間君だろう。じゃあ、何のために? プレゼントって、どういうこと?


「気になるかい? 釘抜君」

「は? 何、無視してんの?」

「ふっふっふ。瞬き、禁止だよ」


僕の心を読み取った様子の浅間君は、投げかけられる中谷さんの言葉を無視して、ポケットに入っていたメモ帳に何かを書き記していく。


「うん。できた」


そういうと、浅間君はそのメモ用紙をメモ帳から引きちぎると、空中でその引きちぎったメモ用紙を手放した。


手放されたのに、空中で完全停止するメモ用紙。


数秒後、一人でに動き出すと、不機嫌さを隠そうともしていない中谷さんの額へと、吸い込まれるように貼り付いた。


「は?」


それを引き剥がそうと中谷さんは手を伸ばすも、そのメモ用紙には既には触れられなかった。

額から、中谷さんの身体の中へと溶け込んでいったからだ。



突然のことに、僕はただ見ていることしかできなかった。


メモ用紙を取り込んでから、ものの数秒で身体がボコボコと変化していく中谷さん。

まずは右手、それかれほっぺと。形を留めず膨張していく。


「は? は?」


中谷さん本人は、まだ何も理解していなかったようだけど、その見た目は既に人のそれではなくなっている。


異形の化け物。

生物という原形すら、怪しくなっていた。


それでも中谷さんは膨らみ続ける。本人の意思によらず、空気を送り込め続けられている風船のように。


だとしたら、結末は一つしかなかった。


ボンっという爆発音とともに、中谷さんの姿は跡形もなく消えてしまう。そこに人がいたという痕跡さえ、消し去って。



「あ、あああ、あ、あ」

「どう? 人間爆弾。面白いと思わない?」


「ああ、あ、あ、あああああーーーー!!!!!!」


人が死んだ死んだ死んだ死んだ。目の前で、一瞬で。嘘みたいに、冗談みたいに。一人の人の命が消えた。


なんで? どうして? どうやって? 


頭の中に、疑問の濁流が埋め尽くす。も、すぐに押し流される。


死ぬ瞬間に触れたという何にも勝るショックが、僕の中の、正常な思考をする部分をボッコボコに破壊していた。



「どうしてだよ! 浅間ーーーー!!!!!!」


チラつかせるメモ帳も無視して、浅間に掴み掛かり、屋上のフェンスへと思いっきり押し付ける。


「どうしてって……利害の一致だよ。僕も彼女のこと嫌いだし」

「そんなことで、そんなことでっ!!!!!」


浅間を掴む力を上げ、更に押し付けるように力をかける。


彼は純粋悪であり、許されざるべき敵だった。かけていた友としての情けが、粉々に砕ける。


コイツだけは、絶対に許せなかった。


「そんな怖い顔しないでよ……釘抜君は、何で怒ってるの?」

「何でだ!!?? なんでって……何で……なんで?」


浅間君にそう問われて、思わず力を緩めてしまう。


許せない、コイツだけは許しちゃいけないはずなのに……その理由がサッパリと、わからなかった。


そもそも、なぜ僕は今さっきまで怒っていたのかも。


別に何か、浅間君にされたわけでもないのに。



そんな心の迷いから、拘束していた力が自然と抜けてしまい浅間君は自由の身となった。


「な、何で……?」

「……ねえ、釘抜君。人が死ぬ定義って、何だと思う?」


意図が不明な問いを投げかけてくる。


答えられずにいる僕を面白そうに見つめるも、浅間君はその答えを僕に教えてくれることはなかった。



「釘抜君。僕の言葉を大成するようだけど、僕は本当に観客席へと多くの爆弾を仕掛けていたんだよ」

「…………は?」

「誇って良い。君は間違いなく、多くの人の命を救ったから」


それだけ言うと、混乱している僕を置いて、浅間君は屋上から去っていった。


結局、僕をここに連れて来た理由は何だったんたのか?


足音が聞こえて来たから、てっきりここで僕を始末しようとしてたんだと思ったんだけど、結局誰も現れなかったし。



納得ができない中、僕は大事な記憶を思い出そうとするように、浅間君が去った後も屋上で一人、佇んでいた。


◇◇◇


かかって来た電話に出る。


『計画は順調なのよね』


キッパリと用件だけを確認する電話。無駄を嫌い前置きを敵視する、彼女らしい内容の電話だった。


「うん、順調だよ。ちゃんと消されたし」

『……例え、他に影響が出ないとは言え、消すのはもっと慎重にしなさいよ。全く』


彼女のお小言を聞き流す。


彼にとっても害でしかない彼女は、この世界にいらない人間だった、それだけは間違いない。


『本番は明後日でしょ? 遊んでないで、そっちに集中しなさい』

「わかってるよ。心配症だな、君は」

『べ、別にあんたのことを心配してるわけじゃ』


電話を途中で切ると、掛け直してこないように握り潰す。


これで連絡手段は失ってしまった。


「ふふふ……釘抜君」


そんなことを気にもせず、僕は笑っていた。


いつの間にか異能に目覚めていた。きっと僕を止めてくれるのは、彼しかいないだろう。


最初から、出会ったときからそういう運命だったんだ。



スキップをしながら校舎の階段を降りる。


膿が一つ分消えた校舎は、さっきよりどこか清々しかった。

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