表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
The Artifact Reaching Out Truth   作者: たいやき
59/82

幕が開く

「見てみてレイン! カメラ、買っちゃったんだよねー!!」

「わー! 凄いです! それ、最新のやつですよ!」

「ふふーん……凄いでしょ」


モミジちゃんとレインちゃんは、2人で明日持っていくものの準備を進めている。


2人とも……というより、4人とも観覧席に来るつもりらしい。勿論、彼女たち4人だけで。


子どもたちだけってのは色々と変な目で見られるだろうけど、僕はなんだかんだ、ガーデンちゃんがいるから大丈夫だと思ってる。


あの子自身見た目は幼いんだけど、纏う雰囲気や上品なオーラは大人よりも大人っぽいし。


「あー、興奮で今日眠れないかも。ホルダーさん、一緒に寝よ」

「いや、遠慮しとくよ」


今日も今日とて、一緒に寝ないかと誘ってくる。


なのでいつもと同じように断ると、2人して文句を言ってきた。


「はいはい。わかったからもう寝なよ、明日は早いんだし」


そう2人に言うや否や、外からノックされる。外から。



おそるおそる窓の方を見てみると、再びコンコンという窓をノックする音が聞こえてきた。


カーテンの向こうで、誰かがこの部屋の窓をノックしている。それだけで怖いんだけど、あそこの窓にはバルコニーなんて上等なものは付いていない。


強盗か幽霊という最悪な二択。


強盗の場合、わざわざ頑張って2階の窓までよじ登ってきた上で、ノックをするというお茶目さが見えるので、まだマシといった具合だった。


僕は急いで布団に潜りたかったんだけど、窓をぶち破る勢いを見せる2人を前に、仕方なく僕が応対する必要がでてきた。



シヤッ


ノックが強くなるのに合わせて、手遅れにならないうちに思い切って窓のカーテンを開ける。


一人の女性と、その女性の脇に荷物みたいに抱えられている少年と目が合った。

女性の方は完全に重力を無視した状態で、空中に静止している。


その光景にカーテンを閉めたくなる衝動に駆られるも、女性が向けてくる圧がそれを許さない。


ガラガラガラ


「悪いわね。こんな夜遅くに」


窓を開けると、いきなり女性の方に謝られる。


謝罪から入ってくる辺り、一応の常識を持ち合わせてはいるみたいだけど、それなら普通に玄関から入ってきて欲しかったと、切に願った。


「それで、あなたに聞きたいことがあるんだけど」

「………何ですか?」

「最近、浅間健治に接触を図られたりしてない?」


いきなり、予想外の名前が出てきたことにたじろぐ。


この人も、浅間君のことを何か知っている。あの、ラグナロクとかいう組織を追っている人たちの仲間なのかな。


「いえ、ないですけど……」

「どう?」

「……シロだよ、シロ。こんなことに付き合わせやがって……」

「やっぱり、無駄足だったのね。そんな報告は上がってなかったけど、万が一があり得ると思ったんだけどね……」


残念そうに言う女性。僕としては、それどころじゃなかった。


報告。

その言い方だと、僕が常時見張られているみたいじゃないか。


不安からか、ポケットの2枚のタロットカードを触る。もしかして、この子たちのこともバレてるのかも。


「……あれ、一気にクサくなった」

「どうでも良いわよ、隠し事の一つや二つ。どうせ、大したことじゃないんでしょうし」


僕の動揺に気づいたのか、急に少年に不気味に光る眼を向けられる。こちらの心中を見透かすような不気味さを感じた。


その変化を興味なさそうに受け取ると、女性は静止したままの状態から、不意に重力に引かれるように落下する。



慌てて窓に駆け寄ると、彼女は何事もなかったように家の庭へと着地しており、非常に軽く2メートルはある塀を飛び越えた。


その状態でこちらの視線に気づいたのか、後ろを向いたまま手をひらひらさせて、道路の向こうへと消えていく。


完全なる不法侵入だった。




「僕を見てる視線には気づいてた?」

「……ううん。視線には気をつけるようにしてるけど、これといって特定の視線は感じたことはないかな」

「はい……勿論、あんな方も見かけたことはありません」


恥いるようにそう言う、モミジちゃんたち。どうやら、僕の期待に応えられなくて落ち込んでいるみたいだった。


「いや、気にしないでよ。君たちの正体はまだバレてないみたいだし、ギリギリセーフじゃん?」


僕の説得に渋々応じて、2人は悔しさを顔に滲ませながら明日に備えて、布団へと潜り込む



ただの予感だけど、今年の体育祭。楽に済みそうにはなかった。


◇◇◇


茹だるような暑さの中、照らす晴天に照らされる青少年たち。


そんな僕たちの様子もお構いなく、校長先生は前に出て長々とスピーチを続けている。


せめて日陰に入らせてほしい。頼むから。


もう10月と言えど、日が昇ると未だに気温は高くなる。30度を超える日も、ザラにあった。



チラリと観客席の方を見る。


行進の時に確認した、少女たちが取っていたスペースには現在、親御さんたちに混じって日傘の下で椅子に座っているガーデンちゃんの姿があった。


この距離で見ると、本当に違和感がない。誰かの保護者って言われても、しっくり来てしまう。


他の子の姿は見えない。

ジュースを買いに行っているのか、校舎を探検しているのか、どちらにしろモミジちゃんたちは、長い間スピーチを座って聞くのは無理だったみたいだ。


『プログラム一番、準備体操』


ぼーっとよそ見をしていると、開会式はいつの間にか校長先生のお言葉で締められており、次のプログラムに移っている。


なので、周りの生徒たちに合わせて適当に広がり、適当な位置を取って適当にお手本の人の真似をする。


真面目にやってる人は、少なかった。



準備体操を終えると、元の場所に戻り、再びクラスごとに列の形を形成する。


そして、退場の指示に従って順々に退場していった。


退場口のところのアーチを潜ると、クラスごとにわかれてそれぞれ与えられたテントに戻っていく。


日陰とは言え扇風機とかも当然ないので、当たり前に蒸し暑い。


こんなとき、恵南さんがいたら便利だろうな。とか、馬鹿なことを考えていると、肩を叩かれた。


「飲み物、買いに行こうぜ」


東雲君からの、余りにも早いお誘いに当然乗った。こういう暑い日は、冷やされた清涼飲料水を飲まないと、やってられない。


ということで僕たちは、自販機ではなくPTAの人たちが販売している場所へと赴く。

一目見た時から、あの氷水で冷やされているジュースが欲しくて欲しくてたまらなかった。


「斎藤さん。他のクラスのとこ行かない?」

「うん、良いよ」

「やった!」


立ち上がった僕たちの前を、斎藤さんを含んだ女子3人が、足早に通り過ぎていく。


「……なんか意外だな。もっと気難しいやつだと思ってたけど」

「……過去の反省を、活かしてるんじゃない?」


ただ斎藤さんの表情には、取り繕ってる風な様子もなく。純粋に、クラスメイトとの交流を楽しんでいるみたいだった。


人って、変われば変われるんだな……




「あ、やばい。ちょっとトイレ」


キンキンに冷やされたペットボトルを片手に、焦ったように東雲君はそんなことを言う。


「ちょっとこれ持って、先帰っててくれ」


こちらの同意も待たずに、ペットボトルを押し付けるとトイレの方へ走って行ってしまった。

いつも思うんだけど、東雲君は常に慌ただしい。


パン!


鳴り響く空砲の音に、反射的にそちらを見ると何人かの生徒たちが懸命に腕を振って走っている。


ゴールテープを切ると、再び空砲の音が鳴った。


既に最初の競技の100メートル走が始まっていたみたいで、各チームに着々とポイントが入っていってる。


途中経過では、やっぱりウチのチームは劣勢らしい。


仕方ないなと思いつつ、テントへの道を歩いていく。



「あ、いたいた。釘抜君」

「はい?」


テントへと帰る途中、後ろから僕の名前を呼び止められたので背後を振り向いた。


僕の手から転がり落ちたペットボトルが、コロコロと地面の上を転がっていく。

彼はその一つを手に取ると、僕に手渡してきた。


「これ、落としたよ?」

「あ、あ、浅間君……どうしてここに?」


彼の厚意も無視して、僕は疑問をぶつける。その足は、無意識に後退りし、彼から距離を取っていた。


「どうしてって……僕、ここの生徒だよ?」

「そんなこと聞いてないよ!!」


まあまあな大声で叫んだ。しかし、周りの行き交う人達は僕たちのことをチラリとも気にした様子はない。


まるで、僕たちのことを見えていないように。


「そんな怒らないでよ。僕だってたまには、学校行事に参加したくなるような……そんな日もあるってことさ」

「何のつもりなの?」


彼の軽薄な質問を無視して、更に質問を畳み掛ける。そんな僕の慌てた様子を、浅間君は面白そうに眺めていた。


「そんなに警戒しないでよ、悲しいな」

「……ラグナロク。君とそれは、何か関係あるの?」

「……それ、どこで聞いたの?」


その僕の質問に、初めてその不気味な笑みを崩す。


が、僕が何も言えずにいると再び笑みを取り戻して、『最近の警察は口も軽いんだね』と、口にした。


「ま、今は良いじゃないかそんなこと。純粋に体育祭を楽しも」

「……楽しむ?」

「そ、折角だから楽しまなきゃ損でしょ?」


自分が正しいと信じきった様子で、浅間君は続ける。


「うーん……でも、単に勝ち負けだけを競うのは。ちょっと、盛り上がりに欠けるとは思わない?」

「何する気なんだよ」

「ちょっとスリルを足すだけだよ。スリルをね」


そう言うと、浅間君はポケットから何かのスイッチを取り出す。とてもシンプルな作りで、だからこそ不気味な代物だった。


「これ、何のスイッチかわかる?」

「……っ!! ば、爆弾!!」

「おー!! 凄い凄い、冴えてるじゃん」


こちらの動揺を気にした様子はなく、純粋に褒めてくる。それが何よりも不気味で、イかれていた。


「何がしたいんだよ! 君はさ!!」

「ゲームだよゲーム、ちょっとしたね」


掴みかかる僕をヒラリと交わして、浅間君は説明を始める。


「もし僕たちのチームが優勝したら、観客席に仕掛けた爆弾は爆発させない。でも負けたら……ボカン。簡単でしょ?」

「お、お前! 人の命をなんだと」


「……さあ? 興味もないから、わかんないや」


なんてことのないように浅間君は言う。


自分たちが楽しむためだけの、道具としてしか見てなかった。


「ど、どうしちゃったんだよ! 浅間君!! 昔は」

「ごめんね。昔話とか、あんまり興味ないんだ、僕」


そう言って僕を黙らせると、浅間君は手を広げて天を仰いだ。


「こういうのもスリルが合って、面白いとは思わない? 勿論、誰かに言ったりするのは無しだからね。君と僕だけの、文字通り命懸けのゲームを始めようよ」


浅間君はそう宣言すると、人混みの中に消えていく。



パン、という空砲の音が鳴る。


思わずそちらを見ると、今うちのクラスの男子がヨレヨレの状態になりながら、最下位でゴールしているところだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ