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The Artifact Reaching Out Truth   作者: たいやき
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「あら? お疲れ? 肩でも揉む?」

「い、いやいや。良いよ」

「まあまあ、遠慮せずに」


言われるがまま、ガーデンちゃんに肩を揉ませてしまう。


その力加減は絶妙に気持ち良く、彼女の言う神の奇跡を使っているのか、肩の凝りも自然と取れていった。


「気持ち良いー?」

「ま、まあ」

「あらー、それは良かった。じゃ、次はここに寝転んで?」


叩かれる膝に、これまた言われるがまま頭を乗せようとしたところで、ギリギリ踏み止まる。


ガーデンちゃんは右手にいつの間にか耳かきを持った状態で、キョトンといった顔をしていた。


「どうしたの?」

「いや、耳掻きは自分でするよ。うん」

「えー……気持ち良いのに」


フワフワとした雰囲気を霧散させ、ショボンと落ち込むと残念そうにチラチラとこちらを見てくる。


お世話できなかったことが、残念とでも言いたげだった。



(これはノートに記述だよね)


そう思って、机の棚に置いてある一冊のノートを取り出す。


表紙にはタロットと書かれており、中には4人の少女たちの性格や嗜好が纏められていた。


例えば、モミジちゃんの場合なら。

運動神経抜群で元気はつらつ。好奇心旺盛で自由奔放、いつも周りを振り回している。

いつでも軽装を好み、気軽になんでもこなすタイプ。

一方、無計画でことを進めたり、良く言えば臨機応変、悪く言えば無計画なところもある適当さも垣間見せている。


レインちゃんの欄には。

自己肯定感が誰よりも低く、いつも自信なさげでおどおどしている。何事にも消極的で、挑戦することすらおそれる日本人らしさも感じられる。

ただその知識も深く、誰よりも才能に溢れている。常時でも非常時でも、やるときはやる決断力を併せ持っている。


アッシュちゃんに関しては。

少女たちの中で、一番礼儀正しくてまともな子。その知識からくる判断と、冷静さからくる先見性は他の誰も及ばない。戦闘面では力になれずとも、頼りになる存在。

本人もきっちりとした服を好み、その真面目さ故に、冷たい印象も与えてしまっている、ちょっと残念な子。


そしてガーデンちゃんなんだけど。

纏う雰囲気や、溢れ出ているオーラから誰よりも大人っぽい。というより事実、他の3人へのムーブを見ていると、その面倒見の良さや包容力から、母親っぽく見えることもある。

治癒の能力が使えて、傷を癒せるところもそれっぽい。

ただその逆に、彼女の強引さから故の、子どもっぽさを感じてしまうこともある。


今だって僕の身体に寄りかかりながら、耳かきさせてさせてと、子どもっぽくねだっていた。



気のせいかもしれないけど、4人の性格はどれも元となったタロットカードの、正位置と逆位置の意味をなぞってるように思えた。


もしかしたら、本当に関係しているのかもしれない。


「ガーデンさん。耳かきをお願いします」

「はーい!」


僕を助けるため……とかではなく、純粋に他人からの耳かきの気持ちよさにハマってしまったアッシュちゃんを見て、笑ってしまう。


少女たちについて、まだわからないことも多いけど、人となんら変わらないってことは、間違いのない事実だった。


◇◇◇


「いやー、悪い悪い。昨日あみだくじに名前を書いてもらったは良いけど、肝心の下半分がなくなっててな。また、作り直しても良かったんだけど、巡り合わせってことでこんな物を用意した」


そう言って、用意したのは段ボールの箱。


「ここに席の番号が書かれた紙が入ってるから。昔ながら、伝統のやつだよな。やってみたかったんだよこれ」


全員の脳内に、お前の話は聞いてないって、という言葉が流れる。


「一番右前に座ってる逢沢からだ。中を見ながら引くなよ」



席替え。

漫画とかでは目玉イベントとして書かれがちなこの行事に、僕の心はあまり動いてはいなかった。


クラス内では勿論、全員盛り上がってる。


自分のこれからの運命を天に任せるドキドキ感。仲のいい友人と隣になれるかというワクワク感。例え席が離れたとしても、それはそれで楽しめてしまう。


まさしく無敵の行事。そもそも今までと違った景色で授業を受けられるってだけで、興味を惹かれてしまうんだと思う。


ただ、やっぱり僕は今の席が気に入っていた。このクラスで唯一仲の良い、東雲君の隣を。


「おい! 釘抜! 窓際の一番後ろ! 神席を引いた!」


だからテンション高めに報告してくる東雲君のことを、うざったく思えてしまう。


後、そこは思ったよりも良い席じゃない。そこの席、教師からも丸見えだし。一番は、真ん中辺りの席なんだ。



なんてことを思いながら、僕の番が回って来たので前に行って、くじを引きに行く。


結果は廊下側の一番前。見事に、真反対になった。


しかも、何よりも不安なことは。


「げっ!? 一番前の席とか、大外れじゃねーか!! しかも、右から2番目とか。せめて一番端にしてくれよなー!」


あのカーストを気取ってる男子が、おそらく僕の隣に来るだろうことだった。憂鬱な気分が加速する。


悪い予感は当たると言うもので、考えうる限り最悪な結果だった。


「釘抜君。ちょっと良いかな?」


ため息をつきながら、移動するため机の中の荷物を出していると、そう声をかけられる。


今まで話したことのない女子だ。何の用だろう。


「その……番号、交換してくれない?」


願ってもない申し出に心が動く。


どういう意図かはわからないけど、いや考える限り意図なんて一つしか無いんだけど、僕はその提案に食いついた。


多分、僕の番号が偶々見えたんだろう。そして、あの男子と隣の席になるために、僕の番号と交換を申し出て来た。


あんなのでも、好意を寄せられる人はいるんだな。と、メチャクチャ失礼なことを考えながら、お互いに持っていた紙を先生にバレないようにこっそりと交換する。


しかもその番号の席は、廊下側の一番後ろという神席だった。



「あ、偶然隣になったみたいだね。釘抜君」


……僕は図られたのかな?


移動中の僕を見て、隣に座ることを確信しているように手招きしている斎藤さんを見て、そんな邪推をしてしまう。


流石に偶然だよね? あの女子生徒が、僕と番号を交換したいと言ってきたのも、彼女の意思によるものだよね?


当たり前の確認を、何度も脳内でする。


怖くて、あの女子生徒の方を見れなくなってしまった。



「へー、2人って仲良いんだねー?」


心臓が跳ね上がる。

低い声で、圧をかけながら僕の席の前に陣取る近藤さん。


どうやら、僕の前の席は近藤さんが引いてたらしい。そんな噛み合い方、して欲しくは無かった。


これなら、変わる前の方がまだマシだったようにさえ思える。


「そう言えば釘抜君、昨日先に帰っちゃったよねー。一緒に帰ろうって約束したのになー」


怖くなって、約束をすっぽかしたのを思い出す。悪いとは思ってるけど、本能的に逃げてしまった。


「それで? 2人はどういう関係なの?」

「……あなたに、言う必要ないでしょ」


2人はそう言うと、お互いバチバチに目線を合わせる。


言う必要はなくとも、言って欲しい。その言い方だと、勘違いしか引き起こさない。


「知り合いだよ知り合い。フロンティアで知り合ったんだって」


疑わしげな視線をこちらへと寄越してくる。そんな、疑われている僕を庇うように引き寄せる。

その行為で、更に疑いの色が深くなる。


そんな最悪な悪循環を前にした、僕の2個前の席に座っている女子生徒は、黄色い声をあげる。

この2人の会話のせいで、僕たちにあらぬ勘違いを抱いてしまっているのは明白だった。


ハッキリ言わせてもらうけど、斎藤さんはともかく、近藤さんには大分嫌われていると思っている。


偶に僕を見る目が、ゴミを見るみたいになっているときがあるくらいなんだから。僕、何かしたっけな?


関わりが増えれば増えるたび、嫌われていってる気がする。根本的に相性が悪いんだろう。



あ、東雲君が羨ましそうな顔でこっちを見てる。


散々な気分が、ちょっとだけスカッとした。


◇◇◇


「へー。シーカーの免許、取れたんだ」

「うん。夏休み中になんとか」


隣同士ということもあって、自然と会話をしてしまう。そんな僕たちの様子に、前の席で聞き耳を立てているようだった。


「異能の方は、大分制限がかかったんだけどね」

「あー……そう言うことは、あんまり大きな声で言わない方が」

「そうなの? わかったわ」


シーカーにとって、異能とは微妙な立ち位置にある。


勿論、発現したら探索者協会に報告するのが義務とされているけれど、発現したかどうかなんて本人にしかわからない。


そのため、報告せずに隠している人も、割と一定数いる。


それだけ、シーカーにとって異能というのは大事なものなんだ。奥の手と言い換えても良いかもしれない。


だから、他のシーカーに異能の有無を聞くのも御法度とされている。シーカー間での、数少ない約束事だった。


だから、恵南さんみたいに異能を出し惜しみなく披露するシーカーは珍しかったりする。


彼女の異能の場合、ネタが割れているとしても対策の仕様があまり無いんだけどね。


「異能持ちって、そんなに珍しいの?」

「シーカー全体の60%って、よく言われてるかな」

「意外と多いんだね」


そもそも、シーカーとしての必須技能と言われてるぐらいだ。数が多くなるのも当然だってりする。


ただ、その中で探索で使える能力で限定すると更に少なくなる。


異能とは本当に千差万別。

冷気を生み出したり物を瞬時に凍らせれるという、わかりやすく強い能力もあれば、味覚が鋭くなると言ったしょぼい能力まで、多岐に渡っている。


それこそ、斉藤さんレベルの能力を持っているシーカーなんて、全体の1000分の1もいないはずだ。


殆どのシーカーは、スタミナが常人の1.5倍になる。とか、視力が4.0になる。みたいな、微妙な能力を持って妥協しながらシーカーを続けている。


そう考えると、生物を操れるってわかりやすくチートだよな。


いや、あの子たちをいつでも召喚できる僕が、言うことでもないんだろうけどさ。

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