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The Artifact Reaching Out Truth   作者: たいやき
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帰還!?

「おい、釘抜」

「…………」


気まずくて目を合わせることができない。


恵南さんが僕たちのもとを去っていくまでは覚えているけど、その後の記憶がどうにも怪しい。


というより、全くない。何が起きたのかもさっぱりだった。


恵南さんの話では途中で助けが入ったらしく、なんとかその場を切り抜けることができたと言う。


そこまでは喜ばしいことだった。ただ、その故に今のこの事態に陥ってしまっていた。


「釘抜って」

「……………」


聞こえてくる雑音を気にも留めず、僕は考え込む。


……覚えている限り、僕はキスをされたような気がした。


それが記憶が混濁している中の、幻だという可能性はなくもないけど、あのときの感触をハッキリと覚えていた。


やっぱりキス……されたのかな?



そう思って恵南さんの方をチラッと見るも、やはり目は合わない。というより、意図的に逸らされている気もする。


恵南さん自身、後悔しているのかもしれない。


その場の雰囲気や流れとか、テンションが上がっちゃってとか。そもそもあのキスには、何の他意も無いのかも。


それを確かめようにも、今の恵南さんの様子じゃ、当分会話するのも難しそうだった。



「……はー」


そんな僕たちの様子を見兼ねてか、栞菜ちゃんが僕と恵南さんの間に割って入ってくる。


「延壽。しゃがんで」

「……え?」

「立ってるままじゃ、できないでしょ」


何をと聞きたかったけど、言われた通りしゃがんだ。


おでこへの口づけ。

なんでもないように少女はすると、急なことで呆けている僕に説明をしてくれる。


「何、驚いてんのよ。ただの挨拶よ、出会いとか別れのときにする。ま、大体はほっぺとかおでこなんだけどね」


そう言うと、当てつけるかのように恵南さんの方を見る。


そこでやっと気づいた。あのキスが僕への餞別だってことに。


だとしたら、僕はとんだ間抜けだ。一人で勝手に勘違いして、思い詰めてる。

側から見て、滑稽以外のなにものでもなかった。


「ごめんね。恵南さん」

「ああ……うん、別に」


何とは言わず取り敢えず謝ると、複雑そうな顔をしながらもやっと目を合わせてくれた。



2人の、恵南さんと栞菜ちゃんの視線が交錯する。


お互い何も言わずとも、心で通じ合っているみたいだった。


◇◇◇


(……何のつもり?)

(わかるでしょ。助け舟よ)

(別に頼んでないし……そもそも、余計だって)

(はー? よく言えたわねそんなこと。あんなに意図して、避けてたくせに)

(……避けてないし)

(そもそも勘違いしないでよ、私は延壽のためにやったの。キス程度で心が揺れてる延壽のためにね)

(…………キス程度じゃないし)

(はー……まだまだ子どもなのね)


◇◇◇


大阪旅行から地元へと帰ってきた僕たちは、恵南さんと別れ、リゾート地行きの船に乗り込んだ。


大分遠回りしたけど、元々の依頼は栞菜ちゃんを楽しませるということで、更に本を正すと、1ヶ月間この子の護衛任務という依頼として僕たちは受けていた。


依頼が始まった日から、今日で丁度8日目。後、3週間程、依頼の期間は残っていた。


「ふんふふ、ふーん」


栞菜ちゃんはその事実に、ニコニコ気分になっている。


今も船の中、僕の膝の上で楽しそうに鼻唄を歌っていた。



「お、釘抜。見えてきたぜ」


人肌が恋しかったんだろうな……と、やるせない気分に陥りながらも、その少女の頭を撫でていると、東雲君が報告をしてくる、


その島の外観に、3日間ぶりとは思えないほど、懐かしい気分に浸ってしまった。




「捕らえました。誘拐犯です」


島に降りるや否や、SPさんに取り押さえられどこかに連絡がいってしまう、状況を考えれば、当然のことだった。が、


「その人を離しなさい」

「で、ですがお嬢様!」

「2度は言わないわよ」


理不尽なことに、攫われたであろう当事者に怒られてしまう。


取り押さえられた身として、こんなこと言うのはおかしいんだけど、なんだか可哀想だと思ってしまった。


「あのー……俺の方も離してくれると助かるんですけど……」

「……お嬢様?」

「そっちは大丈夫。引き続き、捕らえていて」

「は、わかりました」


ここにもっと、可哀想なヤツがいた。


◇◇◇


「お嬢様……ご無事でしたか」


心底安心した風に、強面のSPさんは言う。


目の下のクマは深い。どうやら、眠れない日々を過ごしていたみたい。誘拐した身としては、本当に申し訳なくなる。


「それでその……その格好はどういうことですか」


迷惑をかけた身としては非常に肩身が狭い体勢にいた。


具体的にはリビングのソファの上で栞菜ちゃんのを膝枕している。その僕たちの様子に、SPさんは厳しい目を向けている。



これでも、自分なりに譲歩はしていた。


膝枕をしてあげる、というマズい提案を何とか断って、なんとか今の体勢に落ち着いている。


そこら辺の頑張りを認めて、勘弁してほしいところだった。



「そういうことよ。悪い?」

「悪いに決まっています。そいつは誘拐犯なんですよ」

「次、誘拐犯って言ったら怒るわよ」


もっと言ってくれと強く願うも、栞菜ちゃんの圧に負けて説得するのを引き下がってしまう。


ここで、怒る、という言葉で止めている辺り、栞菜ちゃん自身も負い目があるんだな、と推察することができた。



ジロリと訝しげな目を向けられる。僕が怪しまれているのは、間違いない。




「私の部屋に、案内してあげるわ」


膝枕に満足したのか床に降りて、今度は僕を階段の方まで引っ張っていく。


そして階段を駆け上がっていく栞菜ちゃんの姿は楽しそうで。


僕が知っている限り、彼女が自分の足で階段を上がるなんてことは初めてのことだった。



長い階段を上りきって、扉と相対する。


『入ったら殺す』という物騒な文字が書かれたドアプレートがかけられた扉を開けると、中にはファンシーな空間が広がっていた。


乱雑に置かれている大量のぬいぐるみに、フカフカなベット。ついでの天蓋。ベット周辺だけ見ても、この家のどこよりもお金がかかっている。


ピンクの絨毯や壁紙など、壁や床までピンク色で固められていて、何らかの障害を起こすのではと勘繰ってしまうほどだった。


「ど、どうかな?」

「その……可愛らしくて、とても似合ってるよ」


意外だという言葉を何とか抑えて、それっぽい回答を出す。


それが大正解だったらしく気丈に振る舞おうとするも、僕のその感想に顔がニヤついてしまっていた。


「……気に入った?」


どう返答すれば良いのか迷う。ここで気に入ったと言ってしまうと、キモいような気がしなくもない。


なんていう僕の迷いを好意的なものに受け取ったらしく、栞菜ちゃんはベットに座って、もじもじしながら視線を向けてくる。


「このベット……私一人じゃ、広いと思わない?」


思わず額に手を当ててしまった。


その言葉の真意を察せないわけじゃない。ただ、いくらなんでも幼すぎる。6歳は離れていた。


初恋は大抵、勘違い。


体温が上がったり、鼓動が速くなったりもしない。ただ、そういう言葉を知るには早すぎるのでは……という少女に対しての父性が、前面に押し寄せてくる。


「……そう言うのは、もっと大人になってからの方が」

「そ、そうよね。婚前交渉とか……色々と不健全よね、うん。そういうところ、ちゃんとしてるんだ」


向けられる視線をまともに見れなかった。


勘違いだったら良いんだけど、勘違いが加速してるような、そんな気がしてしまった。



ハッキリと断った方が良いのか、それとも自然の流れに身を任せるべきなのか……少女にとって、どちらが良いかは判別ができない。


ただ、嬉しそうに笑う栞菜ちゃんの笑顔を壊したくはなかった。


◇◇◇


「普通のダンジョンも、悪くないわね」


僕たちは今、栞菜ちゃんが初日で潜るのをやめたダンジョンの内部に再度来ていた。


将来、シーカーになることを誓ったのもあってか、この島にある全てのダンジョンを巡ってみたいと言われたので、まずは最初にここへ訪れていた。


「これは?」

「おお! 珍しい。魔石だよ、魔石」


栞菜ちゃんが拾い上げだものを取り上げて、光源へとかざしながら東雲君はそう教える。


「魔石って?」

「モンスターから偶に落とされる万能のアイテムだよ。使用方法は多岐に及んで、それ専門の業者があるくらいだ」


へー、という感じで東雲君の話を真面目に聞く。


シーカー関連の話なら、聞き逃さないようにしているみたいだ。


「それ、握ってみてよ」

「……こう?」


東雲君から返された魔石を、指示に従っておそるおそる握る。


無駄にゴツゴツしているから、訪れるであろう痛みに警戒しているみたいだったけど、すぐに違和感を感じたのか、握りしめている手をじっと見ている。


握りしめているものが消えていくなんて経験、初めてしたのか。


その手をパッと開くと、目もパッと見開かれた。


「消えただろ」

「………うん。どうして?」

「自分の経験値になったんだよ。普通に倒すよりも効率よく手に入るから、シーカーに人気の理由の一つだな」

「……経験値に」

「更に言うと、異能まで手に入ることもあるからな。レアモンスターの魔石とか、市場だと1000万円で取引されるぜ」

「い、一千!?」


庶民みたいに驚く栞菜ちゃん。


信じられないことだけど、それは事実だった。


「ま、こんな低階層に出てくるモンスターの魔石なんて、端金にしかならねえがな」

「そんなことないよ」


ゴミ拾いのバイトをしていたプライドから、東雲君の発言をつい強く否定してしまう。


モンスターの魔石ってだけで、一万円はくだらない。


魔石が落ちている日は、思わずルンルン気分になるぐらいには魔石というものは種類に問わず貴重である。



そう言えば今更だけど、モミジちゃんたちの存在って、僕の異能によるものなんだっけ。

だとしたら、僕はいつ魔石を拾って使っていたのか。


寝ぼけたって、自分に使うとは思えないけど。


だとしたら、あの子たちの正体って。



「おい、行くぞ釘抜」


謎が謎を呼んでいると、東雲君に声をかけられてしまう。



取り敢えず今は、難しいことは良いと思ってしまった。

いつかまた、わかるときが来る。


僕は元来、楽天家だった。

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