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The Artifact Reaching Out Truth   作者: たいやき
5/82

家族

「あの……ホルダー様?」


長くウェーブのかかった淡い青の髪と、日に焼けていない青白い肌を、とんがり帽やローブといった魔法使いらしい装束で隠している少女。


シャツとズボンといった装いのモミジと比べて、随分と立派なものを着込んでいる。


ジロジロ見られていることを不快に思ったのか、少女はその垂れた目で、困ってますよーと控えめに自己主張をしてきた。


「モミジちゃん。これは」

「私の次のカードの子ですね」


つまり、この子もまた、そのタロットカードの一人ってことか。


というか僕は、いつの間に次のタロットカードを手に入れていたのか。甚だ疑問に思う。


「その、ホルダー様……名前を……」

「あ、ああ。君もなんだね」


当然です、とばかりに頷くモミジちゃん。


「じゃあ、レインちゃんで」

「レイン……レイン……良い名前です」


僕としては安直だと思う。

でも凝った名前にしたら、モミジちゃんが可哀想なので直感を大事にした名前にした。


「それであの、ホルダー様。もしよろしければなんですけど……あそこにいる魔物。倒しても、宜しいでしょうか」


おそるおそると言った感じで、尋ねてくるレインちゃん。


指差した方向には何もいなかった。


「う、うん。別に良いと思うよ」

「そ、そうですか。良かったです。さっきからずっと見てきて、ちょっと気持ち悪かったんですよね」


性格的には弱気っぽいのに語気は強いんだと、そこのギャップを感じていたら、どこからか取り出した杖と魔導書で魔法を紡いでた。


「『火よ。あのブタを丸焼きにしやがれ』」


そんな罵倒でしかない呪文を唱えると、炎が杖の先から発生し、壁を焼き尽くす。


それと共に、身元がわからないほど黒焦げになった物体が大きな音を立てて落ちてきた。


「こ、これは?」

「多分幻覚を見せてた魔物だね。幻覚を使って隠れてたんだけど、そっちにも適性のあるレインちゃんに見つかって殺されちゃったんだと思うよ」


一人スッキリしているレインちゃんの方を見る。


さっきの魔法一個分だけ疲れた様子の少女は、何を勘違いしたのかこちらの視線に謝罪を返してきた。


「ご、ごめんなさい! 素材のことを考えず黒焦げにして!」

「い、いや良いよ。むしろラッキーだったこもしれないよ? 黒焦げにしたことで死体の判別がつかなくなったんだから」

「それにここ、ちょっとだけ寒かったしね」


そのモミジちゃんの言葉に今になって気づく。


確かに寒い。

この部屋が鉱石に囲まれているからでは、決して説明がつかないぐらいの外気温だ。


「あ、来る」


そう言って2人がカードに変わった数秒後、突風が吹き荒れた。


◇◇◇


「あ、意識が戻ったみたいだよー」


目を覚ますと、目に涙を溜めながら駆け寄ってくる桐生さんの姿と、幽鬼のような足取りでフラフラと近づいてくる幼馴染の姿があった。


「ご、ごめんなさい! 私の不注意でこんなことに!」

「違うよ、やったのは私。よりによって延壽に『異能』を当てちゃったんだから」


恵南さんがいつもの、厄介なモードに入る。こうなると、僕の取れる手段はほぼほぼ一つしかない。


「杏香ちゃん。お手」


そう言うと瞬時に屈み、僕の差し出した手に右手を乗せてくる。


「おかわり、お座り、伏せ」


シュババババと効果音が聞こえてきそうなほど高速で、次々と命令を実行していく恵南さん。


「そこで鳴く」

「わ、わ、ワン!!」


人目もあってか、いつもより恥ずかしそうな顔で忠実に命令を実行していく。僕の方が恥ずかしくて死にそうだった。


「はい、おしまい」

「………今日は、いつもより短いね」


残念そうに物欲しそうに、言い放たれた言葉に2人からの視線が強くなるのを感じる。


「え? そう言うプレイ?」

「ち、違うよ!」


近藤さんの発言を、全力で否定する。


「恵南さんがその……罰が必要だって、いうから」

「そうでも言わなきゃ、延壽はすぐ私を許すから」


恥ずかしがる僕と正反対に、恵南さんは堂々と言い放つ。その格好良さは今は必要じゃなかった。


「あんたら。何かあるたび、こんなことをしてるの」


そう言って、呆れたような目を向けてくる近藤さん。


最初は僕も断ってたんだけど、断ると今すぐにでも首を吊りにいくかのような思い詰めた表情をするんだよ。



「あ、あの! 私にもお願いします!!」

「へ?」


意を決したように、ずずいっと詰め寄ってくる。


僕の困惑をよそに、恵南さんが代わりに勝手に答える。


「駄目。これは私だけの特権だから」

「そこをなんとか!」

「はー……今回だけね」


そこでチラッとこちらを見てくる恵南さん。


なんでこっちに視線を向けてくるの?


「ありがとうございます!」


だからなんで、それを僕に言うの?


「え、えーっと……おかわり?」


そう言って手を差し出す僕を、近藤さんは冷めた目で見ていた。




「で、目が覚めたらあの空間にいたけど、敵の姿はどこにもなかったってわけ?」


あの時の状況を、事細かに聞いてくる恵南さん。


その僕の言葉に納得がいかないのか、顔を顰めている。


「あり得るかもしれないね。あの魔物は気まぐれだから」

「……延壽が倒したって考えるよりは自然か」


未だ顔は顰めているものの、渋々といった感じで納得する。


「その魔物ってなんだったの?」


僕のその問いに近藤さんが答えてくれる。


「クジャって言ってね。高い身体能力と幻覚能力を持った厄介な魔物だよ。本体を倒そうにも幻覚を用いて姿を隠してくるから、それこそキョンちゃんぐらいの実力がないと対処に困る感じかな」

「私なら瞬殺よ。瞬殺」

「強いのは強いけど幻覚は一人ずつしか見せれないし、絶対に群れで行動しないしで、逃げようと思えば簡単に逃げれたりするんだけどね」


そんなヤツをレインちゃんは、赤子の手を捻るように楽々と倒しちゃったのか。


モミジちゃんはそれに驚いている様子はなかったし、僕が思っている以上にこの子たちは強いのかもしれない。

それこそ、僕自身の手にあまるほど。


ポケットに入れたカードを摩りながら、そんなことを考える。


「ま、取り敢えず今は早くここを脱出しようか」

「そうだね。まだ敵に狙われているかもしれないし」


その言葉に全員で頷き、僕たちは慎重に出口へと向かった。


◇◇◇


ダンジョンから出ると、多くのシーカーの人々が恵南さんのもとに殺到する。


「クジャはどうなったんだ!?」

「もしかして倒せたのか!?」

「もう入れるんだよな!?」


それらの問いかけ全てに、力無く首を振るう。


後一週間は6層に入らない方が良いともつけてして。



その言葉に露骨にガッカリとして、潮が引くみたいに集まっていたシーカーたちが去っていった。


「でも釈然としませんね。誰がクジャが出たなんて情報を広めたんでしょう」


怒り心頭、といった具合に桐生さんが憤る。


「大方、あの中の誰かがクジャの被害にあったんでしょ」

「だとしても不用意すぎる! そのせいで日下部君が」

「いや、もう良いよ。無事だったから」


その言葉に、桐生さんが申し訳なさそうに押し黙ってしまった。


空気を悪くするつもりはなかっただけに、こっちも申し訳ない気分になってしまう。


「ごめん。先、帰るから」


いたたまれなくなって、そこから逃げるように帰路を走った。




「ただいま……ってそうか。今日はどっちも帰りが遅いんだった」


その呟きに呼応するように、ポケットの中からボフンと2人の少女が飛び出してきた。


「やっほー! リビング広ーい!!」

「走っちゃ駄目だって……あう」


歩いていたはずのレインちゃんが、ローブの裾を踏んづけて派手な音を立てて転んでしまう。


ドジなのかな。親近感が湧くなー。


「ご飯、ご飯」

「お腹……ペコペコです」


あんだけ喜んでいたのに、リビングに入るなりリビングを素通りして、ダイニングテーブルに着く2人。


もしかしてだけど、食費も一人分増えたってことかな。


これからのことを考えると、気が重くなるみたいだった。


「取り敢えず、何かチンするか」


冷凍庫を開けて、そこら辺のものを適当に拾いあげる。


いきなり2食分も消えるんだ。後で買い足しておかないとな。



「うま〜い!」

「……お、美味しいです」


冷食クオリティーでも喜んでくれる2人。コストとかも考えると、料理する方が得だよね……


なんて考えていると、本格的に二児の父親になった気分になる。


今はまだ微笑ましく見れていれるけど、ここから更に増えでもしたら本格的にまずいよな……え?


「どうしたの? いきなり怖い顔して」

「ホルダー様は食べないんですか? 私のわけてあげましょうか」


嫌な予感に従って、スマホでタロットカード、枚数と検索する。


一番最初に出てきた21という数字に、意識が遠退いてしまう。


「ホルダーさん!」

「ホルダー様!」


食事も途中で中断して、2人が駆け寄ってくる。


そうだ、確か言っていた気がする。タロットカードを全部集めれるのは稀だって。


「あ、あのさ。ちょっと良いかな? 今まで君たちを集めてた人って、平均して何枚ぐらい集めれていたものなの?」


その質問に答えにくそうに、2人は顔を見合わせた。


「平均してって言われても、私たち前のホルダーさんのときの記憶とか持ち合わせていないから……」

「詳しくはお答えできません……はい。すみません」


心底申し訳なさそうに頭を下げてくるので慌てて顔を上げさせる。


「ごめんごめん。気になっただけだから、この質問をそんなに深く捉えなくても良いよ」


こっちの必死の説得が効いたのか、それなら良いですけど……と言って、2人は食事に戻っていく。


良くはない。

正直言って後2人までならなんとかなったかもしれないけど、10人単位で増える可能性があるとなると、気分も自然と重くなる。


今のバイトだけではまかないきれない。


「あ、おかわり!」

「すいません……私も」


後一人増えるだけでもきつそうだと、顔には出さず心の中でため息をつくのだった。

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