表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
The Artifact Reaching Out Truth   作者: たいやき
49/82

神風!?

「さ、寒い」

「我慢してよ。男でしょ」


無茶苦茶自分勝手なことを言う恵南にキレそうになるが、そんな怒る元気すら今は惜しい。


気を抜けば、死んでしまいそうな寒さが身を襲う。


「………はぁ」


ため息をついて、恵南が能力を解く。


未だ寒さは残るが、身に染みる凍てつくほどの冷気は、一瞬にしてどこかへ消え去っていた。


「もう、能力を解いても大丈夫みたいね」

「わ、わかってただろ。そんなこと」


歯をガチガチ鳴らしながら、文句を言う。が、勿論『麗姫』様は俺の言葉なんて完全に無視していた。


「……で? 知り合いだったのか、あいつ」

「さあ? 知らないって」


さっきの個人的に『麗姫』様に恨みを抱いていた男について尋ねるが、本人は本当に興味なさそうにしていた。


多分逆恨みなんだろうが、覚えてないってのも事実だろうな。


結構凄腕そうだったけど、赤子の手を捻るように倒してたし。


「しかし、改めてお前って凄いんだな」


街中に倒れる死屍累々の束を見回して、感心するように言う。


ざっと数えて200人はいたけど、その全員が『麗姫』の前に敗れていた。


これでは策をこうじた意味さえ無かった。馬鹿げた火力だ。


「あっそ」


こっちの褒め言葉を、照れもせずに淡白に返す。


その目は9層への階段の方に向けられていた。


「そんなに気になるなら、見に行ってこいよ」

「……待っててって、言われたから」


その顔は、間違いなく恋する乙女のするそれで。そんな顔をさせられるのは、この世で一人なんだろうなと思いもした。



遠くから、釘抜の野郎が歩いてくるのが見える。


その手には、ガキンチョの左手が握られており、再び気温が下がったような気がした。


◇◇◇


「あら? お目覚めね」

「……ん」


小太郎が連れ帰ってきた少女が、ぼんやりと覚醒する。


その手は手錠で繋がれており、抵抗できないようになっていた。


「寝起きのところ悪いけど、色々聞かせてね。お名前は?」

「……覚えてない」


伏し目がちにそういう少女。名前はおそらく南 果穂。


誤魔化しているのか、本当に記憶を失っているのかは、今の段階ではハッキリと判別ができなかった。


「彼らに協力してた理由は?」

「……あーこたちを、殺すって」

「多分、もう死んでるわね。その子たち」

「………そう」


薄々勘づいていたのだろう。

自分が騙されて利用されていたと知っても、あまりその少女から動揺は見られなかった。


ただその無表情な顔から光が消えたのは、万が一の可能性に縋っていたからだろう。


なんの未練も無くなったと、少女は呟いた。


「殺して」


ハッキリとした口調で言う。


その懇願を無視して、更に質問を続けた。


「彼らの目的は?」

「……新人類の研究」

「そっちじゃない方」

「………聞かされてない」


小太郎の話では、50人もの少女が、その部屋に閉じ込められていたらしい。


今まで慎重に慎重に、被験体を集めていたということ。なのに、今になって完全にアウトな誘拐行為までして、少女たちを集めたこと。


実験にも使わず、集めていた少女を残していたのも気になる。


が、それらの理由はこちらで調査するしか無いみたいだった。


「それで? あなたが新人類なの?」

「………そう」


少女はコクリと頷く。


新人類と言っても、見た目的特徴にあまり新人類らしさはない。ごく普通の少女だった。


「その異能の方ね」


またもや、少女は頷いた。



新人類が能力者のことを指すのなら、あいつらがやっていた行いは、能力者を作り出すというもの。


戦争でも、起こすつもりだったのだろうか。


能力とは才能の世界だ。

能力自体は誰にでも発現させることはできるけど、その質や使いやすさは千差万別、本人の才能によってしまう。


そんな異能力を人工的に植え付けることができるのなら、きっとこの世界はすぐにでも滅亡する。


大変、危険極まりない実験だった。



そしてその実験の、唯一の成功例が目の前にいる。


研究所に残っていた資料によると、夢を見せる能力としか技術されていなかった。



「殺して」


聞きたいことは一通り聞き終わって、用済みになったと判断したのだろう、再び私にそう懇願してくる。


懇願されたので、懐から取り出した拳銃の標準を額に合わせる。


「…………」


覚悟を決めて目を瞑る少女に向かって、躊躇わずに引き金を引くと水がピューっと飛び出した。


眉間を濡らした少女が、無表情の目で睨んでくる。


ふざけるな、と言われているようだった。



「勘違いしてもらったら困るけれど、別に私は貴方を殺すつもりなんて微塵もないわよ」

「…………」

「かと言って、他の子たちみたいにここに置いておくつもりもない。貴方は危険分子以外の何ものでもないのだから」

「…………」


話が見えずにいるようだった。


若干、困惑している様子の少女の表情に、私の中のサドスティックな部分が刺激される。


「ということで、引き取ってもらうことにしたの」


その言葉を見計らったかのように、部屋がノックされる。


少女は一際、嫌そうな表情をした。


◇◇◇


案内に従って、裏口の方から出口へと向かう。


目の前の重厚な扉を開けると、6階から1階をすっ飛ばして外に出ることができるらしい。


恵南さんに脅され、腰が低い様子の強面さんが、ヘコヘコしながら教えてくれた。


「……騙したりなんか、してないでしょうね」

「それは勿論! はい!」

「なら、先に出て行って。私たちもその後に続くから」


仰せのままに! という感じで、喜び勇んで外へと出る。



端的に言って、その人は僕たちを騙してなんていなかった。


なにせ一番乗りで外に出て、そのまま外で構えていたヤツらに狙われて眠らされたんだから。


騙していない故に、尊い犠牲となってしまった。



「やはり、私の予想は正しかったみたいだな」


その外で構えていたヤツらを指揮している風の若い男の姿に、2人揃ってゴミムシでも見るかのような目を向ける。


2人の知り合いらしかった。


「………なんの真似ですか? 兄上」

「兄上?」


栞菜ちゃんのその言葉を、聞き返す東雲君。


ということは、この人があの連の……え!?


とんでもなく偉い人だ。栞菜ちゃんの話を信じるなら、僕たちが拝むことすら中々出来ないような人である。


それと同時に、稀代のクソ野郎でもあった。


「なんの真似か、など……お前を助けに来たに決まってるだろ」

「は、馬鹿馬鹿しい。構えている銃を下ろさせてください兄上。この人たちは私の友人ですよ」


その栞菜ちゃんの言葉に、馬鹿馬鹿しいとばかりに首を振る。


初対面の僕でも、イラつく仕草だった。


「違うな。そいつらは、お前を誘拐した賊どもだ」

「そのような言い方! 例え兄上であっても、許しませんよ!」

「なぜ私がお前に許される必要があるんだ? お前が、私に許しを乞うんだろうが」


とても、兄妹喧嘩とは思えない言い合い。


お互いがお互いのことを、軽蔑しあっていた。


「良い加減にしてください! 兄上は何がしたいんですか!」

「何もなにも、ただお前を助けたいだけだ。早くこっちに来い。でなければ、お前も巻き込んでしまう」


その命令を無視して、僕たちの前で手を広げて庇おうとする。


「……そんなにも、その者たちが大事なのか」

「当たり前です! わかったなら、兵を退いてください!」

「……わかった、兵を退こう」


呆気ないほどの変わり身に、肩透かしに合う栞菜ちゃん。


その目は、油断なく兄の方へと見据えられていた。


「何を企んでるんですか?」

「企んでなどいない。企んでなどいない、が一つ条件もある。そこにいる『麗姫』を渡せ。そうすれば、他は見逃してやろう」


随分と近くで、堪忍袋の緒が切れる音がした。


「……ハナから、それが狙いだったんですね」

「狙い? なんのことだ」


惚けたように男は言う。


が、恵南さんに向けられた下卑た目線を考えれば、男の思っていることなんて手に取るようにわかった。


「『麗姫』よ、私の元に来い。他のヤツらは助けてやるぞ」

「………」


むしろ、隠すつもりもないんだろう。

向こうから自分の方へとすり寄ってくるように、仕向けている。


そんな屑な男の発言に、恵南さんは何も答えない。


ただ冷気を発生させて、その答えとした。


「……わかっているのか? 私に牙を向ける意味を。お前だけでは、済まんのだぞ」

「お願い、やめて!!」


その脅しが効いたのか、栞菜ちゃんは恵南さんの方に向くと必死な面持ちで懇願する。


その圧に負けてか、恵南さんは冷気を解除する。



誰よりも近くにいたからこそわかるんだ。


連の家の、八色に名を連ねる家の持つ権力の大きさを。それは、僕たちは言うまでもなく、二つ名持ち程度であっても、簡単に消せれるほどに強大だということを。



「やはり、私に似て賢いな。お前は」

「………ッ!!!!」


その煽りに、殺意剥き出しにする栞菜ちゃん。


その様子に一歩踏み出そうとする僕を、恵南さんは強い力で引き止める。


「駄目」

「……なんでさ。僕くらいいなくなっても」


言い終わる前に、強い力で叩かれる。


その瞳には、涙を溜めていた。



「……本当に。他の人たちには手を出さないんでしょうね」

「そう睨むな。約束しよう必ずな」

「破ったら、絶対に殺すから」

「……ふっ、賢い女は嫌いじゃない」


今度は、僕が引き止める番だった。


「恵南さーー、」


声が出ない。いや、出せなかった。


口づけをされる。


それは、あまりにも唐突で。


離れゆく恵南さんを、引き止めることもできなかった。



「じゃあね」



僕たちの元から離れて、一歩ずつクソ野郎の元へと近づいていく。


そこに秘めた覚悟に、誰も立ち入ることはできず。


ただ、奇跡が起こるのを願うしかなかった。




そしてーー、奇跡は起きた。


◇◇◇


吹き抜ける突風。

操作されたような風の暴力は、僕たち諸共その場にいた全員を吹き飛ばした。


敵味方構わず、誰一人として立ってられているものはいない。


ただ二人だけ、恵南さんと、恵南さんが庇っていた栞菜ちゃんを除いて。



「いやー、まさか耐え切れるなんてね」


あの時と同じ、明るい口調で彼は言った。まるで、その光景を自分自身が引き起こしたみたいに。


「おっと、そんな怖い顔しないでよ。僕たちじゃ、君に敵いそうにもないなー、アハハハ」


1ミリたりともそう思っていない口調で、軽く言い放つ。


隣に立っていた女性は、首を振って否定していた。


「それじゃ、僕たちはお暇するよ。釘抜君によろしくね」


それだけ言い残すと、彼らはーー、仙波さんたちはその場を立ち去った。



凄惨な光景だけを残して。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ