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The Artifact Reaching Out Truth   作者: たいやき
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カチコミ!?

「それで? ここまで来たのは、何の御用かしら? もしかして、私に会いに来てくれたとか?」

「いえ……その……」


チラリと秘書さんの方を確認する。


未だに後ろで控えていて、手を伸ばせば届く距離にいた。


「攫った子どもたちを、返して貰いに来ました」


意を決して、そう言い放つ。


するとさっきまでの蠱惑的な笑みを消し、能面の様な無表情でこちらを見つめてくる。発汗が止まらない。


「……私たちが、子どもを攫ったって?」


心の奥底にまで重く響くような、冷たい声。


さっきまで浮かれていた気分が、急速に冷やされる。蕩けるような甘い気持ちは、彼方へと消え、ただ恐怖のみが残る。


「……能力、解けちゃったか」


残念そうにそう呟くと、手を首の前で水平に切る。


それが合図だったのか、いつの間にか背後へと近づかれていた秘書さんに、後ろから首を絞められる。


「……く、苦し」

「私を疑った罰。甘んじて、受けなさい」


意識が遠のく、必死に暴れるも抜け出せる気配はない。


このまま死ぬのかと自分の運命を案じること、たっぷり40秒。絞められていた拘束が解かれ、床へと受け身も取れず倒れる。


「ゴホ! ガホ!」

「それで? 攫った子どもたちってのはどういうこと?」


床にミミズのように這いつくばる僕を見下ろして、まだ息もまともにできていないのに、そう尋ねてくる。


悪魔だ、悪魔がいる。




「……ハァ」


ことの経緯を話すと、今までで一番重く、深いため息を吐く。


額に手まで当てて、本気で困っているみたいだった。


「とうとうカタギに手を出したわね……あの、馬鹿ども」


その言い方だと、心当たりがあるみたいだった。


その言葉の真意を尋ねようとする僕と、逃げ出す秘書さん。



驚いている僕の前で、銃声が響く。


ドアへと手をかける秘書さんの足から血が大量に出て、その直線上に机の下から拳銃を取り出していた社長さんの姿があった。


◇◇◇


「敵のスパイだったのよ」


最初の雰囲気はどこへやら、僕の質問に苛立たしげにタバコを吹かしながら答える。


「相互不干渉も破ってたのよ、あいつら。ムカつくことにね」

「あいつらって言うのは……」

「エンドルフィンよ、エンドルフィン。あんたの知り合いを攫ったっていうのも、おそらくエンドルフィンのやつらでしょうね」


なぜそう言い切れるのかと尋ねると、ただの勘だと答えられてしまった。そしてその自信から、それが間違いだとも思えなかった。


「取り敢えず後は私たちに任せて、あんたは帰ってなさい。心配しなくても、ちゃんと攫われたお友達は返してあげるから」

「嫌です!!」

「あっそ」


決死の否定を軽く流される。まるで僕の答えを、予め読んでいたみたいだった。


さっきもそうだ。

秘書さんが逃げるのを見越して、拳銃を取り出していた。



「なら、小太郎に着いて行きなさい。それも嫌っていうなら、あんたの足を撃ち抜くしかないわね」

「つ、慎んでお受けします」


手に持った拳銃の撃鉄を起こすと、冗談でもなさそうに僕の足元へと狙いを定めてくる。


この人は多分、やると言ったらやる人だ。だからこそ、今のこの地位につくことができたんだろう。


「わかったら、速く部屋を出て行って。今は一人になりたいの」


足を撃たれる前に、急いで社長室を後にする。


部屋から出る直前、社長さんの目に涙が溜まっていたことを、見逃さなかった。




「よー! 姐さんが言ってたけど、お前のことか!」


気前の良い兄貴分。僕が小太郎さんに初対面で抱いたのは、そんな印象だった。


見るからに熱血漢って感じで、与えられたであろうスーツの至る所がボロボロになっている。

それでも尚、格好良く着こなす姿には漢を感じた。


「知ってるぜ、お前のことは。ここに一人で来てただろ。中々良かったなアレは! 気合の入った、カチコミだったよな!!」

「あ、ありがとうごさいます」


バンバンと背中を強く叩かれる。


キリッとした眉毛と、燃える瞳に、笑ったときに出る白い歯がとても良く映えていた。


「気になるのか、あいつらが」


僕たちと離れたところで、というより僕たちが離れたところにいるんだけど、指揮系統を構築している社員さんたちの方を見ていると、小太郎さんにそう尋ねられる。


「ま、俺らは別働隊だからな。基本的にあいつらと、一緒に行動はしねぇな」


参加させてくれるといっても、流石にメインの部隊に入れてくれることはなかった。


当然だと思う。

一人、異物が紛れるだけで指揮系統は崩壊しかねない。そんなリスクを賢そうなあの人が取るとは思えないし。


遊撃くらいのポジションが、丁度良い。


わかっていても、そのことに流石にショックを隠せなかった。


「何を心配することがある」

「はい?」

「成すべきことは、わかってるはずだぜ」


胸をドンと叩かれる。


「ここにいる全員で作戦を成功させる。姐さんは、テメェ一人を無駄にするようなことはしねぇ。使えるものは何でも使う。だからお前も、使われる覚悟を持て!」


その鼓舞に、心を動かされる。


兄貴と呼びたくなるほどには、格好良かった。


「へ、良い顔してんじゃねぇか。気張れよ」

「はい!」



そして、作戦は開始される。


僕たちを含めた『ヘラ』のメンバーは、ここから南東に位置する『エンドルフィン』の本拠地へと、行軍を開始した。




その軍隊とも呼べるほどの隊列は、見事の一言に尽きて、墓場の中を現れる敵を薙ぎ払いながら、止まることなく進んで行く。


それはさながら、一匹の生き物のようで。


「壮観だろ? 姐さんの教育のおかげだぜ」

「グリーンベレーか何かなんですか?」


その隊列から少し横に離れた位置で、僕たちも南東に進む。


「こんな風に、組織同士で抗争が起こったことがあるんですか?」

「俺が知ってる限り、一度だけな。その時の抗争で、姐さんはうちのトップになったし、5つあった組織は4つに減った」


相互不干渉の決め事も、そのときの抗争を反省して作られたんだと補足してくれる。


それを向こうが、破ったわけだ。


「奇跡的に4つの組織のシノギは被ってねぇ。全員仲良くやれば、こんなことにもならなかった。本当、馬鹿なやつらだ」

「『エンドルフィン』って組織のことを知ってるんですか?」

「詳しくは知らねえ。が、知らなくてもあいつらが馬鹿だってことはすぐにでもわかるよ」



その小太郎さんの言葉の真意は、すぐにわかることになる。


無駄に広い敷地に建てられた、多くの製造工場に一際デカい建造物。その独特な外観は他に例えようもなく、無駄に多くのお金をかけて権威を示しているのが窺えた。


「あの製造工場では、薬を使ってるんだ。依存性の極めて低い、可愛らしいヤツをな」

「作ってる? 密輸とかでもなくて?」

「ああ、イカれてるだろ。薬を作ってるなんて、警察にとっても何が何でもひっ捕まえたい内容だがよ。依存性も低く、治療も簡単だからって見過ごされてきたんだ。ただ」


苦虫を噛み潰すような顔で、小太郎さんは続ける。


「最近になって、サツを挑発するかのように依存性の高い薬も作り始めやがった。それが市場に結構流れて、被害も出始めたた。今回の件がなくても、遅かれ早かれこうなってただろうな」


終わってる。

その話を聞いて、僕が抱いた感想はただその一言のみだった。


「ボチボチ俺たちも行くか」


敵の本拠地へと、真正面から踏み込もうとする彼らを見て、小太郎さんは裏口の方を指差す。


闘いの火蓋は、切って落とされようとしていた。


◇◇◇


「ここにいる子たちから一人、探し出せっていうの?」


灰色の無茶な要求に、思わず聞き返す。何度も言うようだけど、ざっと50人はいた。


この中から一人って。


「不可能よ、そんなの!!」


私の叫びに、涼しい顔をする。


「そうでしょうか? それは些か、早計では?」


剰え、否定さえしてくれた。相変わらずムカつく。


「良く観察すれば見えてくるはずです。違和感に」

「何よ、偉そうに……言われなくてもするわよ!!」


灰色にそうけしかけられて、じっと他の攫われた子どもたちのことを観察する。


中には数日単位でここに捕まった子もいるらしくて、時折り目が死んでいて荒み切っている子も混じっていた。


私が観察してわかったのは、それくらいだった。


「勿体ぶってないでさっさと教えなさいよ!」


違和感を探すことを早々に諦め、灰色に掴み掛かる。


攫われてから既に3時間は経っていた。延壽に心配をかけていると思うと、暴力的にもなってしまう。


「まだ、気づいておられなかったんですね」


馬鹿にするようにそう言うと、自分の裾のあたりに付けられたワッペンを指差す。


「そして、あなたにも」


そう言って今度は私の胸元の辺りを指差してくる。彼女のと種類が違うワッペンが縫い付けられていた。


勿論、こわなもの見覚えはない。


「これと似たようなものが、攫われた少女たち全員に付けられています。まるでそれが、目印のように」


彼女の言葉に釣られ、少女たちの方を再び見ると、靴下や帽子など付けられている位置は様々なれど、確かに共通してワッペンが付けられていた。


気づかなかったことが、間抜けだと思えるぐらいにわかりやすく。


全員が少女のため、ワッペンが付けてあっても違和感が無かったと自分の中で言い訳をする。


「さて、わかりましたね。違和感の正体に」

「………うん」


灰色の少女の言葉に頷く。


全員が共通してワッペンをつけている中で、一人だけワッペンを付けていない少女がいた。


彼女の言う、違和感の正体とはそれのことに違いなかった。


「おそらく、能力の弱点の一つでしょう。見分ける方法が無いと、まさしく無敵になってしまいますから」


………凄い。


淡々と説明する少女の姿に、悔しささえ覚えてしまう。


認めざるを得なかった。彼女が、私よりも優秀だということを。



自惚れになるけど、今まで同年代で自分より賢い子に会ったことは無かった。


昔はよく、大人びていると言われたもので、そのことを誇りに思っていた時期もあった。



……本物は格が違う。


赤い髪の少女に攻撃命令を下す彼女を見て、本気でそう思った。




赤い少女は、高く高く飛び上がる。


そして私たちが反応するより速く、灰色の少女の後頭部へと、渾身の踵落としを決めた。

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