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The Artifact Reaching Out Truth   作者: たいやき
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敵地侵入!?

「安心して良いよ。この場所はすぐにはバレないから」


薄暗闇の中、蝋燭の火を頼りにコーヒーを淹れてくださる。


「紅茶の方が良かった?」

「あ、いえ。全然」


その綺麗で濁りのない目に見つめられると、相手が男だと分かっていても緊張してしまう。


いや? 本当に男性だろうか?


胸の無い女性という可能性も……


なんて失礼なことを考えていたら、目の前に可愛らしい猫が描かれたマグカップが置かれた。


「い、いただきます」


ギロリと睨みつけられ、出されたコーヒーを一気に飲み干す。


砂糖もミルクも入っていない苦味の塊は、喉に燃えるような熱さだけを残した。


「ゲホ! ゴホ!」

「だ、大丈夫かい? 別にそんなに慌てて飲まなくても」

「い、いえ……大丈夫です」


努めて、心配をかけないように振る舞う。


その行動が正しかったのか、さっきからずっと仇のように睨みつけられていた視線が、途切れるのがわかった。



「取り敢えず、自己紹介でもしようかな。僕は仙波(せんば) 悠里(ゆうり)。で、こっちのムスッとしてるのは明智(あけち) 歩足(ほたる)。小動物とか好きだよ」


そう説明を受けると、ペコリと頭を下げる明智さん。


髪を後ろで一つに結び、腰に刀を差して和服を着込んでいる、顔立ちのハッキリとした美人さん。


そしておそらく気は強い。さっきから時折り見せる、獲物を狙うかのよう目つきは、ここがダンジョンであることを思い出させる。


「あ、僕は釘抜延壽です。先程は、ありがとうございました」

「いや、良いよ。見捨てるなんて、できなかったし」


先程のこと。

僕が今ここでお世話になっている経緯として、9層に降りてすぐに正体がバレかけて命からがら逃げていたところを、仙波さんたちに助けられたということがあった。


もし、地面の下の抜け道からここの場所に連れて来てもらえなかったら、どうなっていたかすらわからない。


「それより、どうしてこんな場所にいたのかが気になるよ。差し支えなければ、教えてほしいな」

「………実は、」


あまり言うべきことじゃないけど、助けてもらったお礼に僕がここまでやって来た経緯を話した。




「……………グスッ」

「……え? 泣いてるんですか?」

「ごめんね。そう言う話に弱くてさ……良いよね、愛って」


涙ながらにそう語る仙波さん。明智さんはそれを予期したように、ハンカチを手渡していた。


「愛だなんて、そんな大袈裟なものじゃ」

「いや、愛だよ。仲間のために危険をかえりみず、こんなところまで来てるんだから。その行為が無償である限り、全ては愛に裏付けされている」


端正な顔立ちゆえ、こんな風に真剣な顔で真っ直ぐ見据えられると、思わず顔を逸らしてしまう。


隣に立っている明智さんも、恍惚とした目線を送っていた。


「そ、そういう仙波さんたちは、どうしてここに?」


照れから、必死に話題を逸らす。

こんなに真っ直ぐ、自分の価値観を語られるなんて経験中々無いから、素面ではまともに聞いてられなかった。


「僕たちは消えた家族を探しにね。結局、アテは外れてたけど」

「家族……お二人は、ご兄妹なんですか?」


仙波さんの言い方的にそうなるけど、あまり似てはいない。


「いや? どっちかって言うと、親子かな」

「親子?」


オウムのように言われた言葉をそのまま返してしまう。


勿論、それは嘘だと思う。けど、その表情から冗談を言っているような様子はなく、頭がこんがらがる。


「家族とは血縁ではなく、愛情によって成り立つもの。お互いに愛情がある関係性を、家族と呼ばずになんて言うんだい?」


未だ飲み込めずにいる僕に、諭すようにそう言う。


なんとなく、言っていることはわかるような気がした。


「君とは、家族になれそうだよ」

「あ、ありがとうございます?」


初めて言われたその言葉を、褒め言葉だと受け取った。


「……残念ながら、君とはまだ家族になれないみたいだね。君から僕への愛情が足りてないみたいだ」

「は、はぁ……」

「10層に行きたかったんだっけ? 送るよ」


終始、相手のペースで話を続けていると10層まで送られることが決定してしまった。


流石に、この人たちに迷惑をかけるのはマズいと思い断ろうとすると、周りの景色が一変していた。


「え?」


さっきまで薄暗闇の中にいたはずなのに、気づけば月明かりに照らされた墓場の真ん中に立っている。


未だ、状況が読み込めなかった。


「ここが、君の来たがっていた10層だよ」

「え? 今? え?」

「はい。ここの階層の地図と、聖者のお守り。これがあれば安全に、ここの階層を進めれるはずだから」


混乱している最中に、次から次へと物を貰ってしまっているので、慌てて返そうとすると。

『無償の愛だよ』と言って、断られてしまった。



「それじゃ、またね。次会う時は家族になれることを願ってるよ」


それだけ言い残して、僕の前から消え去った仙波さん。一瞬の瞬きのうちに、その姿は消えていた。


異能力……だと思う。


急すぎる展開に頭がついていけていない中、僕はその墓場をお守りを頼りに、歩き始めた。


◇◇◇


このずっと墓場が広がっている10層には、大雑把に見て東西南北それぞれの場所に、4つの組織のアジトが構えてある。


北には、『ヘラ』。東には、『エンドルフィン』といった風に。


そして僕が目指しているのは、北にある『ヘラ』のアジトだった。



4つの組織にはそれぞれ特色があり、中でも『ヘラ』は有り体に言って風俗をメインのシノギとしているらしい。


間違いなく、4つの中で一番怪しかった。


一人で何ができるとは思えないけど、取り敢えず行ってみないことには始まらない。




「でっか」


ダンジョンの中に聳える、50階はあると思われる高層ビル。


地図のポイントに示された位置には、その建物が建造されていて、そこがアジトであるのはまず間違いなかった。


都内にあるオフィスビルのようにも見える。売春で稼いでいるとは到底思えない風貌だった。


超常型ダンジョンだからといってやりすぎだし、8層のときも思ったけど、資材とかどうやって運んでるんだろ。



物怖じする足を叱咤し、エントランスへと真正面から入る。


そこに屯していた、この組織の構成員と思われる方々の視線が突き刺さる中、フロントの受付のもとへと歩いていく。


「ご用件を、お伺いします」

「……あの、社長さんにお会いしたいんですけど」

「アポイントはお済みですか?」


勿論しているはずはないので、正直にそう答える。


既にポケットには閃光玉を忍ばせていた。なんなら、この人を人質に取っても良い。

とにかく、この場を切り抜けなくては。


「そうですか。では、4問のアンケートに答えていただきます」

「アンケートですか?」

「はい。このアンケートの回答次第では、社長への面会も可能になる場合がございますので、心してお望みください」


そう言って、バインダーにとじられたアンケート用紙とペンを渡され、椅子の方を手で示される。


襲い掛かられるものとばかり思っていたので、面を食らった。



チラチラと向けられる視線を気にしながらも、渡されたアンケートを記入していく。


僕は侵入者のはずなんだけど、奇妙なことに誰一人として敵意を持って襲いかかってくる様子はなかった。


(……逆に、気味が悪いな)


アンケートの内容は拍子抜けするほど、単純で普通だった。


てっきり、好きなAVのタイトルとか、好みのプレイとかを書かされるものと思っていたけど、そんなこともなく。


好きな食べ物とか、動物とか、そんな質問ばかりだった。


自己紹介タイムとかでは定番の質問だけど、アンケートとしては随分と似つかわしくない気もする。



「はい、大丈夫です。それでは後ほど名前をお呼びするので、それまで席におかけしてお待ちください」


受付にアンケートを提出すると、マニュアル通りそう応えられる。


凄く居心地が悪い。

ジロジロ見られているのもそうだけど、何よりここは敵地のど真ん中なんだ。気を休めることなんてできるはずもなく。


結局、1分が10分にも感じれる中、僕はじっとその席に周りを警戒しながら座り続けていた。



「釘抜延壽様。社長からの面会の許可がおりました」

「……本当ですか?」

「はい。ご案内しますので、ついて来てください」


綺麗な女性の方が目の前に現れて、僕にそう言う。『誰ですか?』と、尋ねると社長の秘書だという答えが返ってきた。


その秘書さんについていき、僕もエレベーターに乗り込む。


押されたボタンは42階。


それがこのビルの、最上階だった。


◇◇◇


コンコンと秘書さんが社長室の扉をノックすると、『入って』という女性の声が聞こえてくる。


『失礼します』とことわってから、社長室の扉を開ける。


そこには、蠱惑的な視線を秘めた大人の女性が座っていた。


「それで? 貴方が、私に会いに来てくれた人?」

「は、はい」


そのねっとりとした喋り方や、絡みつくような視線に、思わず声が上擦ってしまう。

今まで、一度も会って来たことのないタイプの女性だっただけに、耐性がついていなかった。


その胡乱な目や、柔らかな唇。何より、そのはだけた衣服に目が行って、中々集中することができない。


魔法にでもかかったみたいに、その女性から目が離せなかった。


「そんなに緊張しなくても良いわ。

「は、はい」


無理な注文に生返事を返す。胸を打つ鼓動が、うるさいくらいに鳴っていた。


「……駄目そうね。良いわ、用件を聞く前に何でも貴方の質問に一つ、答えてあげる。特別よ」


特別、という言葉に一々胸が高鳴る。


まるで、自分が自分じゃないみたいだった。


「そ、それじゃその……何で、僕に会ってくれたんですか?」


お言葉に甘えて、一つ気になっていたことを聞いてみると、なぜだか驚いた顔をされた。


「そんなこと? もっと、踏み入ったことを聞いて良いのよ?」

「いえいえいえいえ!!!」

「変わってるのね……ただ、初心なだけかしら」


高速で否定すると、揶揄いがいのあるものでも見るかのように、口角を上げて楽しそうに笑う。


その仕草に、またもや視線を奪われる。どうして?


「そうね、理由としては簡単かな。私もハンバーグが好きなの」



この人、ムチャクチャだと思いながらそのギャップに、再び胸をときめかせるのだった。

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