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The Artifact Reaching Out Truth   作者: たいやき
45/82

替え玉!?

「なんか外、騒がしくねーか?」

「おそらく知れ渡っんだと思う。私たちが紛れ込んだことを」


努めて冷静にそう判断する恵南さん。


そのとき、バーの扉が乱暴に開けられた。


「おい! ここにこの写真の女、来なかったか?」

「……さあ? 知らねぇな」


入ってくるや否や、いかついスキンヘッドの男とその舎弟らしき2人が、いきなり恵南さんの写真を見せながら恫喝をかけてくる。


マスターはと言うと、僕たちをバーカウンターに隠しているような素振りもなく、ポーカーフェイスを貫き通している。


「チッ、中を探させてもらうぜ」

「…………あんたら客かい?」

「あ?」

「客じゃないなら出て行け。ここはバーだ」


そう物怖じせず、渋く言い放つマスター。男の僕でも、惚れるぐらいの格好よさがあった。


「傭兵くずれがっ!!」

「………やるかい?」

「っ!! 行くぞ、お前ら!!」


大きな音を立てて、3人組はバーを出て行く。


一先ず、難を逃れた。


「で、マスター? 私たちはいつまでここにいれば良いの?」

「もうすぐだ。もうすぐで来る」

「ここに来てから、ずっとそればっか」


旧知の中なんだろう。あの恵南さんが軽口を叩いている。


マスターの方はと言うと、9層に行きたいですとかいう恵南さんの無茶振りに、眉根を顰めることもなく叶えようとしてくれている。


本当に良い人だ。



そんな不安な時間を過ごしていると、再び扉が開かれる。


「来たぞ、待ち人だ」


マスターの言葉に、入って来た人物を手鏡越しに確認する。


顔を白粉で塗りたくり、従者をたくさん引き連れた、見るからに貴族風の男がそこには立っていた。



「マスター。本当にこいつなの」


眉根を顰めて、嫌そうにそう尋ねる恵南さん。その気持ちは、痛いほどわかった。


「ほっほっほ。聞いてた通り、気の強い女子よ。しかしだからこそ気に入った。どうじゃ、マロの側室になる気は」

「死ね」

「ほっほっほ! これは、手厳しい」


わざとらしい喋り方で、いきなり求婚したかと思うとすぐに振られて、目に涙を溜める男。凄く胡散臭い。


「自己紹介をしておこうかの。マロの名前は上泉(かみいずみ) 是清(これきよ)。何を隠そう、4人しかいない超VIP会員の、一人であるぞ」


その超VIP会員とやらがなんなのか知らないけど、取り敢えず偉い人ってのは良くわかった。


「で? そちらが、9層に行きたいとぼさいていた者たちだな。良い良い、マロが連れて行ってやる。本当は、超VIP会員にしか9層に行くのは許されておらんのだが、これも特別ぞ?」


願ってもない申し出だった。


だからこそ二人とも、怪訝そうな視線を送る。


「……話がうますぎねぇか? あんたのメリットはなんだよ」

「メリットなど、野暮なことを聞くでない。旧友の頼みとあっては、誰が断れるものか」


旧友?


おそらくそれはバーのマスターのことなんだろうけど、この二人に接点があるとは思えない。


そんな僕たちの視線に気付いたのか、マスターはただ一言、『偶々だ』とだけ呟いた。


「それで? 連れて行くって、どうやって?」

「簡単なことよ。お主たちが、我の従者に返送すれば良い」


上泉さんが二度手を鳴らすと、後ろの従者の人たちが僕たちに衣服を手渡してくる。


それは従者さんたちが着ているものと全く同じもので、顔を隠すベールや、ゆとりのあるデザインなど、着ている人の容姿から性別まで隠す工夫をしている。


「これに着替えて我とともに行けば、簡単に9層まで行けるであろうな」


◇◇◇


「すみません。止まっていただけませんか」

「……お主は、マロが誰だか知っておるのか?」


9層への階段の見張りに立っていた男たちに呼び止められる。


そのことに、上泉さんは非常にご立腹の様子だった。


「はい、心得ております。上泉様ですね。ですが今は非常事態でして、誰であっても通しては行けないと、言われておりす。何卒、理解の方をしていただきたく」

「それはそっちの都合であろう! そんなくだらない理由で、マロを通さぬと、申すのか!!」

「いえ、そのようなことは……せめて、お連れの従者共のお顔の方を拝見させてください。そうすれば、お通りになってもらっても大丈夫ですから」

「何!? そんなこと、許すはずがない! マロの従者を疑うということは、マロを疑うということだぞ!」


男の言葉に、あからさまに動揺する上泉さん。


その反応に、疑いの目が濃くなってしまう。この人に、演技は向いてないと思ってしまった。


「すみません。今は疑わざるをえない状況ですので。お前ら」


他の男たちにそう命令すると、一人は上泉さんを取り押さえ、他の4人は従者たちの身元の判別に移る。


「な、何をする貴様ら!!」


そんな静止の声も聞かずに、従者たちの顔のベールをとって手に持った写真と判別する作業に移る。


従者の数は12人ほどいたが、4人も手分けしているので当然、全員確認するのに10分もかからず。


「いました! 『麗姫』です!!」

「こちらにも、身元不明の男が一人!」


次第に、そんな声も上がってしまう。


「な!? マ、マロの従者の中に賊が紛れ込んでおったとわ!」


芝居がかった口調でそうわかりすく驚く。見事なまでの尻尾切りだった。


2人はそんな上泉さんに軽蔑の視線を向けると、その場から逃げ出し、歓楽街の方へと走って行く。


「追うな、お前ら!! どうせ追いつけ……チッ!」


取り逃したことにショックを受けたのか、3人ばかり冷静な判断からの命令を無視して、恵南さんたちを追いかける。


その場に残ったのは、命令を出していた男と比較的、新米そうだった2人。厄介なヤツが残ってしまった。


「いやー、大変なことになったのー」

「……上泉さん。お話は聞かせてもらいますからね」

「断りたいが……そういうわけにもいかんかの。じゃあさっさと、マロを連れて行かんか。お主が話を聞いてくれるんじゃろ?」


疑われている立場だと言うのに、不遜な態度を貫く上泉さん。


その様子を怪しんだのか、暫く考え込んだ後、断った。


「いえ、事情聴取はこいつがします。良いですね」

「の!?」

「まさか、嫌とは言いませんよね?」


事情聴取は部下に任せるという男。


上泉さんはさっきの負い目から、それを断れるはずもなく。渋々、その提案を了承した。


これで残るは2人。




僕は携帯を出して、どこかに連絡を取っている男に近づく。


ここは電波も通っているらしい。電気が通っているんだから、当然と言えば当然なのかな。


「おい! 止まれ、貴様!!」


近づく僕に気付いた男は、耳元から携帯を離してそう大声で忠告してくる。その目線は鋭く、睨まれると、縫い付けられたみたいにその場から動けなくなった。


「ここに何の用だ。すぐ答えろ」

「9層に降りたいんです」


相手の返答にそう答えると、正気を疑うみたいな目で見られる。


「無理だ。帰れ」


構っている暇はないとばかりに、しっしと手を振ると、再び耳元に携帯を当てて連絡を再開する。


もう一人の方は、どう対応すべきか迷っているみたいだった。


「ちっ……いつまでそこに。おい、あいつを追い返せ」

「でも若頭。あいつ、『麗姫』の仲間かもしれませんぜ」

「だからどうした。アイツを捕まえろと? 状況を考えろ。馬鹿どもが消えたせいで、ここの警備は手薄になっている。そんな今、更に人手を減らすなど不可能だろうが。考えやがれ」


そう言われ頭を叩かれると、部下の方は短く返事をして、指をポキポキ鳴らしながら僕の方へ近づいてくる。


体格差を考えても、無事では済まない。


だからやられる前に、ポケットのカードを取り出し見せた。


「は? 金色の、会員証? なんだそれ?」


新米の男は、そんな物知るかとばかりに金色の会員証へ手を伸ばす。若頭はその間に割り込むように入ると、僕が見せびらかしていた会員証を強い力で奪い取った。


「馬鹿な……本物だと? あり得ない……」

「え? それ、知ってるんですか?」

「馬鹿が!!!」


急にブチギレると、新米の男の鳩尾に膝蹴りを入れる。


余程聞いたのか、膝をついて前に倒れ込んだ。


「これは超VIP会員を示す会員証だ」

「………超VIP会員って……さっきのヤツと同じ?」


なんとか起き上がった部下の言葉に、無言で頷く若頭。その疑いの目は更に強くなる。


「それ、本物なんですか?」

「あり得ないことに本物だ……間違いない」

「じゃあ誰かから盗んだんですよ。それこそさっきの男からとか」

「いや。アイツの数字は4だが、これは2。全くの別物だ」


若頭は、書かれている数字について言及する。


「ならその2番の持ち主から盗んだんだ! そうに決まってる!」

「……いや、2番の所有者は一切が不明なんだよ。顔や名前どころか、性別すらもな。つまり……」

「こいつが本当に超VIP会員ってことも、あり得るんですか?」


悔しそうに、ああ、と頷く。未だ、穴が空くほど奪い取った金色の会員証を凝視していた。


「そんなこと、ありえませんぜ! 何がなんでも、今更その隠れてたヤツが現れるなんて、都合が良すぎる!!」

「俺もそう思う……が」


そこで若頭さんと視線が交錯する。


無言の圧に負けず、真っ直ぐ目を見返してやった。


「……お通りください」

「な!? 良いんですか!?」


自分の判断に食いついてくる新米の男を、鬱陶しそうに受け流す。


「……うるせえ、俺たちの面子もかかってるんだ。ただ怪しいからって、超VIP会員様を通さねえわけにもいかないだろうが」

「でも若頭! もしこれが」

「黙れって言ってんだろ!! だとしてもたかが一人だ! 通したところで、さしたる問題はねぇ!!」


言い争っている二人の横をそそくさと通り抜ける。


なんとか、関門は突破することができた。



「……あの人。何者なの?」


受け取った、超VIP会員証とやらを手に取りながら呟く。


これを手にした経緯を思い出していた。


◇◇◇


「で、なんでお前は着替えねーんだよ」

「いや、マスターに止められたから」


従者さんの服に着替えて、他の従者さんと見分けが付かなくなった東雲君にそう言われる。僕だって、知りたいよ。


「全員変装してたら、もしその変装がバレたとき全滅するでしょ。それを避けるためにも、一人は変装をしていない人間を作る必要がある……でしょ?」


その恵南さんの問いかけに、マスターは頷く。


僕一人残ったところで、どうしようも無いと思う。

7階から8階に降りたときみたいに、見張りが全ていなくなるとも思えないし。


「なんでその役目が釘抜なんだよ」

「あいつらは、私の侵入に気づいていてマークしている。その私が相手の裏をかけるわけもないし、残ったのがアンタと延壽なら、延壽を選ぶのは当然だと思うけど」

「おい」


マスターはまたも、恵南さんの言葉に何度も頷く。通訳かな?



「何をしておる、従者ども! チンタラしてる暇は無いぞ!」

「いや、本当に上手くいくか心配になってたんですよ」

「何を言っておる! マロがフォローをするのだから、上手くいくに決まっておろう!?」


どうにも信用できないその言葉に急かされ、僕たちはバーを出る。


その直前、マスターからあるものを渡された。



その金ピカに輝くカードには、2という数字だけが刻まれていた。

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