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The Artifact Reaching Out Truth   作者: たいやき
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進展!?

「ごめんって」

「いえ。別に謝罪など、要求しておりません」


ツンとした態度で、アッシュちゃんにそっぽを向かれる。


どうやら、彼女に頼らなかったことが気に食わなかったようだ。


「時間が無かったんだよ」

「それで解決できるなら、私の存在なんて必要ありませんよね」


そんなことないってと一人、落ち込んでいる様子のアッシュちゃんを励ます。こっちが、本音らしい。



僕は一人、泊まっていたホテルの、僕と東雲君の部屋のベットで療養していた。


病院に行くほどの傷ではなく、ほっといても治っていると主張したけどお嬢様には聞き入れて貰えず、まだ正午だと言うのにホテルへ帰されてしまった。


今頃、あの3人は何をしてるんだろうな。


ちなみに、モミジちゃんとレインちゃんの2人は水族館で買ったお土産に夢中になっていた。




「よー。昼メシ、買って来たぜ」

「ありがとう……て、マックか」

「別に良いだろマック。美味しいしよ」

「でも、大阪らしさはないよ」


そんなのどうでも良いとばかりに、ハンバーガーを手にして食べ始める東雲君。先にハンバーガーからいくタイプなんだ。


「食わないのか?」

「食べるよ。でも、先に相談しておきたいことがあってさ。結局、あのイルカが魔物化したのって、偶然なのかな?」


そう聞くと、食事の手を止め真面目な顔をする。


「誰かが故意に仕掛けたって、言いたいのか?」

「うん……だとしたら、狙われてるのって」

「心配はねぇよ。もしそうだとしても、今は一番安全なヤツの隣でショッピングを楽しんでる。大阪にいる間は、安全だろ」


そうやって不安を除こうとしてくるが、お嬢様自身が狙われているという懸念は、否定してくれなかった。



連の家の連中が、家にとって邪魔なあの子を消すために動いた。


考えたくもない憶測だけど、考えられない理由でも無かった。



「それでも、今襲われた理由は説明できないんだろ」

「うん……やるなら、もっと速くやってるだろうし」

「なら、偶然かも知れない。考えるなとは言わないけど、張り詰めて、考える必要はねぇよ」


それだけアドバイスを残すと、東雲君はハンバーガーだけを持って部屋から退出しようとする。


「まだ、一杯袋の中にあるけど」

「後は全部、お前の分だよ」


東雲君は僕のことを、大食いキャラとでも思ってるのかな?


◇◇◇


「……何してるんですか?」


東雲君が気を利かせて多く買ってきたハンバーガーを、4人で分け合って食べた後、いつの間にか眠ってしまっていたらしく。


唐突に目を覚ますと、くっついていた隣のベットへ上がって、眠っている僕の方へと手を伸ばしているお嬢様の姿と、目が合った。


「……!! な、なんでもない」


そう言うと、ベットの上にペタリと座り込む。


色々無理はあると思うけど、違うと言われてしまったので、それ以上追及はしなかった。


「今、何時ですか?」

「5時だけど。それくらい自分のスマホを……あ、ごめん」


そこまで言って、今僕たちがスマホを没収されていることに気づいたんだろう。


なんとなく、気まずい空気が流れた。


「お嬢様は、どうしてここに?」

「いちゃ悪い? あの2人に、様子を見て来てって言われたから」


突然、不機嫌そうになってそう答える。


「一応。私が怪我させちゃった、ようなもんだし」

「お嬢様のせいじゃないですよ」


フォローが足りなかったのか、またしても顔が険しくなる。


話せば話すほど、機嫌を損ねているみたいだった。



「お嬢様、何か」

「お嬢様って、呼ばないでよ」


低く、しかし耳によく通る声。


怒れる少女に胸ぐらを掴まれ、押し倒される。傍目から見たら完全にやばい状況だけど、少女は気づいている様子もない。


「さっきからずっとずっと、お嬢様って。その気色悪い敬語も、全部全部アンタのこすい考えが見え透いてんの。どうせアンタも、私の連の苗字にしか眼中にないんでしょ」


押し倒した体勢のまま、早口で捲くし立てられる。その瞳はわずかに潤っていて、今にも決壊しそうな勢いだった。


「あの」

「は、残念だったわね。私に媚びをうっていたらワンチャンとでも思ってたんでしょうけど、無駄よ。アンタが思っている以上に、私は嫌われてるの。こんな無価値な私に、わざわざ誘拐までして気を引こうなんて、ご苦労なことね」


反論は聞きたくないとばかりに、口を挟む隙も与えない。


言っているうちに、感情が更にヒートアップしていく。



「あれも……あの、水族館で私を助けたことも、それの一環だったんでしょ……私のトキメキを、返してよっ!」


感情のまま、僕の身体を引き起こして再度ベットに叩きつけながら、そんな叫びを上げる。


少女はじっと黙って、一人で何かを耐えているようだった。


「それは勘違いだって」

「何が? 何が、勘違いなの? 言い訳ばっか重ねてーー、なら私の名前ぐらい、呼んでみなさいよ!!」

「栞菜」



そこでやっと、俯いていた少女と目が合った。何よりも予想外だったらしく、目をしきりにパチパチとさせている。



「な、なんで私の名前……」

「勿論、覚えてるよ。忘れるわけないじゃん」


不思議そうにそう尋ねる僕に、栞菜ちゃんは初めて、と一人小さく呟いている。


「……アンタが初めてよ。私を、見てくれたのは」


そう言うと栞菜ちゃんは、その瞳から溢れる涙を隠すように、僕の胸へと抱きついてくる。


「………頭ぐらい、撫でなさいよ」


抱きつかれ何もできずにいる僕に、抱きついた状態でそう指示してくる栞菜ちゃん。僕は黙って、言われる通りにした。



少女のすすり泣く声だけが小さく響く室内を照らすように、西陽が窓から差し込んでいた。


◇◇◇


「……離れなさいよ」

「い、や」


僕の腰のあたりに抱きついて、離れようとしない栞菜ちゃんに、恵南さんが冷たく言い放つも、それを拒否した。


絶対、離れないとばかりに抱きしめる力を強くし、僕の脇腹の辺りに顔を埋めてくる。


「……延壽?」

「栞菜ちゃん……離してくれたりは、しないよね」

「うん!」


2人の圧に押されて、板挟みになる。


「いや……何があったんだよ」

「僕も知りたいよ」


何かしたとか、決してそういうわけじゃない。ただ名前を呼んだだけなのに、謎に気に入られてしまったみたいだった。


「助けて」

「いや無理だろ。俺は恵南をなんとかしとくから、お前はその子をなんとかしとけよ。今の抱きつかれてる状況、色々とまずいぞ」


言われるまでもなかった。



宣言通り、謎にムキになっている恵南さんを東雲君がなんとか部屋から連れ出してくれると、僕もなんとか栞菜ちゃんを言い聞かせて引き剥がす。


が、謎に距離が近い。


僕の座っているベットの上で、隣に肩がふれ合うほどのゼロ距離で座ってくる。


その状況に慣れず、視線を彷徨わせているとこちらを見ていた栞菜ちゃんと目が合ってしまった。


すると、僕の方へと顔を近づけてくる栞菜ちゃん。驚いて後ろに後退りするも、その分だけ近づいてくる。


そして、逃げ場は失った。



もはや、どうにもならないというタイミングで救世主が部屋に入ってくる。


「……犯罪だぞ、釘抜」


その救世主は僕のことを、ゴミを見るような目で見てきた。




手を繋いでいる状態で、ホテルのロビーで待っていた恵南さんの元に現れる。


恵南さんは僕たちの到着に気づくと、次に繋がれた手へと視線を落として、問うような鋭い視線を向けてきた。


その左手には携帯が握られており、こちらの弁明を待っている。


勿論、東雲君は僕のことを既に見捨てているので、僕が頑張るしかなかった。


「これは、その」

「そういうことだから、諦めて?」


僕が弁明するより速く、見せつけるように僕の右腕に全身の体重を委ねて、栞菜ちゃんは意味不明なことを言う。


が、恵南さんはその意味を正確に理解したらしく、左手に持った携帯を握り潰すんじゃないかってぐらい、力を込めていた。



「と、取り敢えず早く店行こうぜ! お腹空いちまったよ」


演技くさい口調で、2人の間に割り込む東雲君。やっぱり、彼は僕を見捨てたりはしなかった。


「そうだね。早く行こう、ね?」

「うん!」


僕の呼びかけに、子どものような無邪気な笑顔を浮かべて同意してくれる。最初会った頃とは、全くの別人だった。


まだ5日しか経ってないんだけどね。


◇◇◇


4人で、テーブルに設置された鉄板の上で焼かれていくお好み焼きを、揃って見つめている。


ひっくり返すたびに香る風味が、席に充満していた。


「これって、裏返したりするものなの?」

「知らね」


隣で独断専行でお好み焼きを焼き上げていく東雲君にそう尋ねるも、素っ気なく返される。


お好み焼き調理のセルフサービスを選んだのは東雲君なのに、なんとも無責任な返答だった。



「ねー、延壽の好きなものってなんなの?」


調理中暇だったのか、僕の正面に座っていた栞菜ちゃんが僕の好みについて尋ねてくる。


席順は、隣同士男女で分かれる形で座っていた。


半ば、東雲君が無理矢理決めた形だったので、暴動が起こりそうになってたけど、なんとか今は収まっている。


「延壽の好物はクッキー」

「……アンタには聞いてないんだけど」


僕の代わりに好物を答えた恵南さんが噛みつかれる。


そしてそれは僕の好物じゃなくて、恵南さんの得意料理だった。


「お前の好物って、総菜パンだよな?」

「違うって。じゃあ君は、カロリーバーってことになるから」

「良いだろうが、カロリーバー。一本で栄養素簡潔してんだぞ」


話の流れで、ふざける東雲君に丁寧にツッコむ。


高校の昼休みで、よく見かける光景がそこにあった。


「…………」

「…………」


2人の正面から向けられる意味ありげな視線に、東雲君は怯えたように萎縮すると、黙ってお好み焼きに集中しだした。


冷や汗が、ダラダラと流れている。


あれ? 焦げてない?




「ちょっと、トイレ」


皆んなにそう断って、席を立つ。


なぜか東雲君に、縋るような目線を向けられ服の裾を掴まれたけど、その手を振り払って席を離れる。


「あ、私も」


後ろの方で立ちあがろうとする栞菜ちゃんと、その方を押さえて再び席に座らせる恵南さんの姿が、目に入った。



水に濡れた手を拭きながら、トイレから出る。


やけに静かになったその空間には、人の喋り声どころかさっきまで威勢よく聞こえていた、鉄板の焼ける音すら消えていた。


辺りを見回しながら自分の席へと戻る。


全員が全員、食事中だというのに机に突っ伏して、寝ているかのように静かだった。


それは、彼女たちも例外ではなく。



他の客と同じように、2人分席の空いたテーブルの上に突っ伏すようにして、恵南さんと東雲君はすっかり眠っていた。

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