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The Artifact Reaching Out Truth   作者: たいやき
38/82

誘拐!?

「ふふ……久しぶりに満足した。でも、まだ足りない」

「………え?」

「残念だったわね。また明日も期待してるから」


ポカンとしている僕をよそに、靴についた砂を落として、お嬢様はビーチから去って行く。


「えーっと、えっと……気を落とさないでください。期待されてると言われたので、間違いなく進歩はしてますから」


この人はそれで、僕を励ましてるつもりなのかな?


いや、諦める気はないけどさ。ちょっとばかり、挫けたけど。


「取り敢えず、こいつらを病院に運ばないとな」

「そうだね」


砂浜に死屍累々と倒れ伏している男たちを見て、東雲君の意見に同意する。


これでまた、あの子たちに説教することが増えた。


◇◇◇


浜に打ちつける波の音が、夜の港に寂しく響く。


僕はただ、月に照らされてキラキラ光る海を、港から眺めていた。


「面白いこと、面白いこと……」


そう答えを求めるように、何度も呟いてみる。



彼女の求めているものを、探しているフリをする。


奥底では既に答えは出ていた。ただ、リスクを恐れていた。


けれども、最初から怯える必要は無かった。悲しいことに。



「あの子。幸せになって欲しいな……」


同情からそんな言葉が漏れてしまう。僕は偽善者かも知れない。


「サムッ!」

「………寒いです」

「……いえ。私はまだ大丈夫です」

「そうだね。帰ろうか」




「あ、SPさん。ちょっと良いですか?」

「SPさん……私のことですか?」


家に帰るとすぐに、3階への階段の前に立ち塞がっていたSPさんに声をかける。大事な用事だった。


「ーーーーー、」

「……承知しました」


僕のお願いを、SPさんは思った通り快く引き受けてくれた。


「おやすみなさいませ。釘抜様」

「おやすみなさい」


そう言って、部屋へと戻る。



「……何してるの?」

「見てわかんないのかよ、荷支度だよ荷支度。明日帰るからな」

「またそう言って……と言いたいところだけど丁度良かった」


東雲君は手を止め、不思議そうな顔を向けてくる。


「僕も今から荷支度するからさ」

「お! 遂にお前も諦めたか! そうだよな、あんな我儘娘」

「いや、そういうわけでもないんだけどさ」


煮え切らない僕の言葉に、ますます眉間に皺を寄せる。


「そうだ。東雲君に頼みたいことがあったんだよ」

「なんだよ。改まって」


促されたので、お願い事の内容を話す。


「ーー、え? 大丈夫なのかよそれ」

「任せてよ。きっと上手く行くから」


心配そうな顔をする東雲君をよそに、荷支度を続ける。


根拠のない自信だけど、上手く行く確信はあった。


◇◇◇


「……わかってる? 今日が期限ってこと」

「はい。それは勿論」

「そう。なら早くお願い。私、待つの嫌いだから」


朝食の時間、お嬢様にそう脅されてしまう。


昨日、期待してると言ったのは嘘だったのか。そう思うばかりの冷たさだった。




「で、こんな所に連れてきてどうするつもり? 今から、イルカショーでも始めるの?」


港に連れてこられて、不機嫌そうなお嬢様。


港にはただ船がいくつか溜まっているだけで、特に変わったところもなく、ハナから期待なんてしていない様子だった。


「それはすぐにでもわかりますよ」

「……期待外れ。言った通り、私の気は長くないから。それじゃ」


そう言って、帰ろうとするお嬢様の腕をガッと掴む。


人を射殺せるような目線を、至近距離で向けられる。


「離して」

「いいえ、離しません」


着いてきていたSPさんたちが今にも飛び掛かろうとしてくる。


僕はそれを嘲笑うように、お嬢様を抱き抱えた。


「キャッ!!」

「貴様!!!」


年相応の可愛らしい声を上げるお嬢様。


その様子に、下手人を捕まえようと突撃してくるSPさんたち。



逃げるように僕は抱き抱えたまま、港を走る。


そこにチャーターしていたボートがタイミングよく、到着した。


「乗れよ!!」

「うん」


そう叫ぶ東雲君の指示に従って、ボートに飛び移る。


それを確認すると東雲君は、最高速度を出して港から離れていく。


「お嬢様ーー!!!」


遠くの方で、SPさんの叫ぶ声が聞こえた。




「ははっ! 上手くいったぜ。しかし、良くこんなの借りれたな」

「うん。女のSPさんに頼んでね」

「へー! あの人も、協力してくれたんだな」


楽しそうに話す僕と東雲君の姿を、何か言いたげに見つめてくるお嬢様。少女は、見るからに怒っていた。


「あなたたち……何してるか、わかってるの?」

「誘拐ですよ。見た通り」


悪びれもしないその言いように、更に怒気を強める。


「……やったわね。私の苗字、知らないわけでもないでしょうに」

「ああ。お飾りの苗字ですね」


その言葉に口をつぐむ。

悔しくても、何も言い返せずにいるようだった。


「それ、俺も気になる。本当に誘拐して大丈夫だったのか?」

「大丈夫だよ。あのSPさんたちは追ってくるだろうけど、それ以外に追っては増えないから」


自信満々に言い切る姿に、首を傾げる。


「でも、警察とかに電話されたら」

「多分、圧力がかかって警察も動かないんじゃないかな」

「圧力って……誰の?」

「この子の親の」


驚いて一度東雲君はお嬢様の方を向くが、当のお嬢様は悔しげに視線を逸らした。


それが殆ど、答えみたいなものだった。


「なんで親が、圧力かけるんだよ。普通逆だろ」

「察し悪いな。この子は親に嫌われてるんだよ、それも尋常じゃないぐらいに」


言いにくいことを本人の目の前でズバズバ言う。


どうせ誤魔化しても意味がない。この子が一番、それを自覚しているんだから。


「だからなんだよ。それと警察に通報しないことの関連性は?」

「もし、この子を捜索するために警察を頼ったら、それは警察に恩を受けたってことになる。つまり、自分の嫌いな娘のせいで警察に借りを作ることになる。それは対外的にもよろしくない」


僕のメチャクチャな発言に、目をパチパチさせる。まだ、話についていけてないみたいだった。


「……意味わかんないけど、警察は駄目なんだな? じゃあ、警察に頼らなかったら? 八色なんだから、自分の兵隊ぐらい持ってるだろ?」

「それもない。理由はとても単純で、自分の兵を娘のためなんかに使いたくないから」

「それ全部、憶測だろ?」


首を横に振る。残念だけど、憶測なんかじゃない。


この子は嫌われている。

それを決定づけるようなヒントは、今までいくつもあった。少し考えれば、簡単に気づけるほどに。


「そんなゴミなのか? こいつの両親は」

「お母さんを悪く言わないで!!!」


東雲君の言葉に、ヒステリックにそう叫ぶ。

息は荒く肩を震わせて、眼光が更に鋭くなり、可愛い顔が台無しになっていた。



この子にとっての地雷は、お母さんか。



「悪いのはあいつよ!! あのクソ野郎!!! あいつが、あいつが、私のお母さんを……!!」


猛禽類のように釣り上げられた目から、涙が溢れる。


その嗚咽混じりの悲痛な叫びは、胸に深く突き刺さる。


「…………」


あの東雲君でも、何かを察したのだろう。いつもの軽口も身を潜め、険しい顔をしていた。


目線が合った東雲君に、ジェスチャーで促される。それを察せれない、僕でも無かった。


「やだ!! 来ないでよ!!!!」


乱暴に振り回される手を掴んで、ハンカチを渡す。


「いや、違うだろ」


後ろからそんな呆れたような声をかけられるが、無視無視。



と思っていたけど、本当に違ったみたいだ。


お嬢様は渡されたハンカチを見ると、フルフルと肩を震わせて、ハンカチを床に叩きつける。


そんなに気に食わなかった? ハンカチを渡すのが礼儀じゃ?


「胸ぐらい、貸しなさいよ!!」


そんなことを叫びながら、混乱している僕の胸に突進してくる。


知った風に後ろで頷く東雲君にイラッとしながらも、ギュッとしがみつかれている現状に、どうすることもできずにいた。


◇◇◇


「お? ようやく泣き止んだか?」

「うるさい!!」


かけられる野次に、そう叫んで返すと僕をドンと突き飛ばす。


目は腫れているけど、東雲君の言う通り涙は止まっていた。


「あはは! 耳まで真っ赤じゃねぇか」

「うるさい! 死ね!」


東雲君の軽口に、少ない語彙力で罵倒する。さっきから、どうも子どもっぽい反応が多くなってる気がする。


というか東雲君には怖いものがないのかな?


「……それで? これから私をどこに連れていくの?」

「大阪だよ」

「……それって」

「言ってたじゃん。ダンジョンに行きたいって」


僕の言葉にコクリと頷く。また、やけに素直だ。


「でも、良いの? 危険だって」

「僕たちがいれば危険じゃないよ」

「お、言うじゃねえか。釘抜」


正しくは、恵南さんもいるから……だけど。


用事、空いてると良いな。


「でも、どうして」

「どうしてって言われても……そう、依頼されたからとしか」


面白いことを見たいって言ったのは、この子だ。


「真面目だねー。こいつ、そんなつもりで言ったわけじゃないと俺は思うけどな」

「違う!! そう言うつもりで言った! あんたは黙ってて!」


不思議なことに、2人ともなんだかんだ仲良くなってる。


達観したような外面を捨てて、こんな風に子供らしく言い合いをしているお嬢様の姿に、暖かい気持ちが胸の中へと流れた。

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