表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
The Artifact Reaching Out Truth   作者: たいやき
36/82

契約破棄!?

お姫様カットというのかな。


ぱっつんとした前髪に、キリッとした目つき。桜色の唇は年相応に潤っていて、見目麗しい美少女。外面だけは。


「あー、名前? 良いわよ。モブA、Bとかで」


お嬢様と言うよりは、悪役令嬢の方がしっくりきそう。


そんな失礼なことを考えながらも、内心は恐々としていた。



連の性。

古くの八色の姓に由来するその苗字は、現代日本においては絶大な意味を持っていた。


八つの家系にのみ許された姓。

そのどれもが絶対的な地位と権力を保有しており、日本という国は8つの家によって存続していると揶揄されるほど。


例え少女とは言え、その姓に名を連ねるもの。


偉いとかそう言ったレベルじゃない。悪役令嬢と言うより、姫君と言った方が近いような存在なのだ。



まず、そんな子が一介のシーカーに依頼するなんて信じられないし、更に言えばこんな変哲もない一軒家に住んでいるなんてこともあり得ない。


一番高い可能性としては、偽名を名乗っているとか。けど、嘘をついているような様子も感じない。


自らが偉いことを、自覚しているような立ち回りだ。


もしその話が本当なら、受付さんがあんなに焦っていた意味が、わかった気がする。


「……分家の子とかか?」

「……知ってるでしょ。分家でも、八色の姓を名乗るのは許されないって」

「何を、コソコソやってんの」


2人で内緒話をしていると、ギロリと睨みつけられたので姿勢を正して敬礼する。

この少女の一言で、僕たちの首は簡単に飛ぶ。文字通り。


「……次はないから」


威圧感を込めてそう言うと、目線を逸らしてくださる。


どうやら、許されたみたいだ。


「依頼内容を伝えていなかったな。お前らには1ヶ月間に渡り、連様がダンジョンへと潜るときの護衛をしてもらう」

「私はいらないって、言ったんだけど」


ダンジョンに、潜る? 何を言っているんだ?

え、要人の護衛ってそういうこと? 誰かに命を狙われているとかじゃなくて?


というか、ちょっと待った。

今気づいたけど、ボディーガードの数、少なすぎない?


さっきの2人を合わせても、5人しかいないんだけど。


この子、本当に連の家の娘なの?


いきなりの情報量に、頭がこんがらがる。東雲君に至っては、もう考えることをやめていた。


「で、あんたたちがいると私はダンジョンに入れるよね。なら、早く来なさい。ほら、早く」


急かすように、手をパンパンと2回うつ。


その所作が決まっていて、流石お嬢様と感心してしまった。


「一つだけ、忠告しておく」


急いでお嬢様の後をついて行こうとする僕の腕を、SPさんがガッチリと掴んで顔を近づけてきた。


「もし、何かあったらお前が盾になれ。良いか、わかったな?」


簡潔でとてもわかりやすい忠告に、何度もコクコクと頷くとやっと解放してくれた。


◇◇◇


「案外ダンジョンってのも、地味なのね」


足元を這う、トカゲの魔物を踏み潰しながら退屈そうに呟く。


「テレビで見たときは、もっと魅力的だったわ」

「多分、それは超常型のダンジョンですね」

「ここは違うの?」


何も知らなそうなので、超常型とそうじゃないダンジョンの違いを詳しく説明する。


話してる途中に欠伸をされたけど、それでも詳しく説明した。


「わかりましたか?」

「ええ、勿論。なら、その超常型のダンジョンに連れてって」


どうやらまともにこっちの話を聞いていなかったみたいだ。隣で東雲君が大袈裟にずっこける。


「だから、超常型のダンジョンは危険なんですって」

「だから? 私は別に構わないけど?」


いや、こっちが構うんだって。


「それに超常型のダンジョンなんて、滅多にないですよ? それこそ、近くで言うと大阪ぐらいにしか」


林間合宿のとき行ったダンジョンは、ボスが倒されたことで消えちゃったし。


「そ、なら諦めるしかないんだ」


思いの外、早く諦めてくれて助かった。


しかし、ダンジョンに潜りたいとか超常型のダンジョンに行きたいとか、このお嬢様は大分お転婆なのかも知れない。



……? お嬢様なら、プライベートジェットぐらい持ってそうだけど。漫画の見過ぎなのかな。



「なら、もう良いよ。あなたたち解雇」

「「は?」」


東雲君と声が揃う。藪から棒になんなんだ。


「顔だけじゃなく、耳も悪いんだ。解雇よ、か・い・こ。1日も持ってないから、報酬は無しだから」

「いやいやいや。それはおかしいでしょ」

「何もおかしくないけど。私はダンジョンに行きたかった。けどダンジョンには魅力が無かった。あなたたちは必要無かった。ほら、わかったなら荷物まとめて帰ったら?」


東雲君の反論に、その倍の言葉で返すお嬢様。


慌てて猛る東雲君の口を塞ぐ。『ここに置き去りにしてやろうか、小娘!!』みたいな言葉が東雲君の口から聞こえてくるけど、気のせいに決まっている。


「何、不服なの? そんなにお金が欲しいんだ……そういう、欲望に忠実なところは嫌いじゃないけど」


『俺はお前が嫌いだけどな!!』という声が、再び聞こえてくるような気がした。気のせい、気のせい。


「わかった、3日間待ってあげる。その間に何か面白いことを、私の目の前に持って来て」


それだけ一方的に告げると、一人でスタスタと地上へと戻ってく。


周りの魔物も、オーラに気圧され近づけずにいるみたいだ。


「僕、心配だから。地上までついていくよ」

「やめとけやめとけ……全く、ムカつくヤツだ」

「多分……東雲君の思ってるような子じゃないと思うよ」


一人憤っていた東雲君は、僕の発言に変な者でも見るような、侮蔑が含まれた目を向けてくる。


僕はそれを無視して、少女についていった。


◇◇◇


コンコン。


その日の夜、あてがわれた部屋で東雲君と一緒にくつろいでいると、ノックの音が聞こえてくる。


どうぞと声をかけると、女性のSPの方が入ってきた。あの5人の中の、唯一の女性。


「どうか、あの子のことを嫌いにならないであげてください」


用件を言う前に、頭を下げて僕たちにそんなことを頼み込んでくるSPさん。いや、それが用件だったのかもしれない。


「……無理だろ」


直球にそんなことを言う東雲くんの脇腹を思わず小突くが、SPさんはその言葉に反応した様子はない。


不敬罪と取られても、おかしくなかったのに。


そうしなかったってことは、本気で僕たちに頼み込みに来ているという、証左でもあった。


「どうか、どうか。あの子の期待に、応えてあげてください」


それだけ言うと、逃げるように部屋を出ていってしまった。


「なんだったんだ?」

「……わかんない。でも、なんとなくわかる気はする」


それだけ言うのが、精一杯だった。


「んだよそれ。俺はもう寝るからな」

「まだ9時だよ」

「スマホも奪われたんじゃ、することねーよ」


そう言って不貞腐れると、ベットに潜り込む。スースーという寝息が聞こえてきた。


「お腹空いたー」

「……ペコペコです」


タイミングを見計らってたみたいに、少女3人も飛び出す。


「……取り敢えず、キッチン行こうか」




3回建てのこの家は5LDKで、一階にリビング、2階にSPさんたちと僕たちがあてがわれた部屋、そして3階全てがお嬢様専用の部屋となる構造をしている。


おしゃべりなSPさんの話では、毎回毎回3階まであの女の人がお嬢様を運んでいるらしく、そこまでしてお嬢様が3階に拘っている理由は他人より下にいるのが、気に食わないかららしい。


うーん……凄く、アロガント。


「釘抜様、どちらへ」

「ちょっと、トイレに……」

「そうですか。それは失礼しました」


3階へ上がる階段の前で見張っていたSPさんに声をかけられる。


あの人、いつ寝るんだろう……



少女たちを連れて下に降りると、リビングには誰もいなかった。


あのSPたちは部屋にも戻っていなかったので、多分パトロールにでも行っているのかな? とにかく好都合だった。


「うん……材料はそこそこか」


庶民感溢れる冷蔵庫を開け、庶民感溢れる食材を取り出す。


ここに、八色の姓を持つ子が住んでいるとは思えないほどに、どれもこれもが庶民感に溢れていた。



材料をキッチンに並べると、パッパと炒め始める。


作るのはチャーハン。お手軽で美味い、庶民の味方だ。


「これを入れましょう」

「これもこれも」

「これも……お願いします」


少女たちの手によって、キッチンに唐辛子と、クエン酸と、バニラエッセンスが並べられる。


それぞれの好みの味が、はっきりとわかるラインナップだった。


「使わないよ」


少女たちの不満の声を受け流しつつ、仕上げに入る。


なんだかんだ言って、美味しそうに食べるんだから作り甲斐があるってものだ。



モミジちゃんたちがお風呂から上がるのを待ってから、再び2階へと上がる。


トイレにしては長すぎる時間に、SPさんに訝しげな視線を向けられるが、堂々として部屋に戻った。


用意されたベットに入る。


色々あったがここでやっと、1日目は過ぎていった。


◇◇◇


朝早く起きて、キッチンに赴き朝食作りを手伝う。


最初は嫌な顔をされたけど、僕の手際を見て使えると思ったんだろう。調理場に入るのを許可してくれた。


それに加えて、別に賃金を払うと言われたけど丁重に断る。


今こうして手伝っているのは、昨日と今日からの3日間。何もせずにお金をもらうのが、忍びないからだ。



最後の卵焼きが焼き上がったところで、目を擦っているお嬢様が女のSPさんに抱えられ3階から降りてくる。


ここでやっと、朝食が始まるのだ。


「……へー。まだ、いたんだ」


寝起きとは言え、こちらをディスるのはやめない。


その精神に、感服するばかりだった。



お嬢様が箸に手をつけ、朝食を食べ始める。


勿論、僕たちとSPさんたちは一緒に朝食を食べることはできない。お嬢様が食べ終わって初めて、朝食に手をつけれるんだ。


「ん? 今日の味噌汁は美味しい……」


その言葉にコックをしていたSPさんが、それは僕が作ったものだとお嬢様に教える。


「ふーん。もう一人の方とは違って、あなた使えるんだ。このコック、首にしてあなたを雇おうかな」


首にする発言を受けたのに、コックの人はただ申し訳なさそうな笑みを浮かべ頭を下げるだけだった。


この精神を、見習いたいな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ