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The Artifact Reaching Out Truth   作者: たいやき
35/82

拉致!?

「釘抜さん。良いお話があるんですけど」


夏休みに入って、いつものようにソロでダンジョンを潜っている日々を繰り返していると、いつもの受付さんにそう話を持ちかけられる。


「現在、釘抜さんはお金に困っているご様子で」

「それは、まあ……はい」


受付さんのいきなりの言いように、戸惑いを見せる。


連日のように、ダンジョンへと潜っている姿からそう推察したんだろうけど、金に困っていない人なんてほぼいない。


「そんな釘抜さんに、良いお話があるんです」

「……はぁ」


それはさっきも、聞きました。


どこか、前置きが多い気がする。言いにくいことを提案するような、後ろめたさを受付さんから感じた。


「実は、釘抜さんにピッタリの依頼があるんですよ」

「依頼ですか」


依頼。

クエストとも呼ばれるそれは、多くは納品依頼の形で探索者協会に出される。


魔物料理を出すことに定評のある飲食店が魔物の肉を要求したり、怪しげな研究所が魔物の内臓を要求したり。


それらは全てクエストボードに貼られ、それを見て今日受ける依頼を決めるシーカーもいたりする。


が、その依頼はどうやら趣旨が違うみたいで。


「用心の護衛ですか?」

「はい。日給80,000円を1ヶ月間! 破格じゃないですか!?」


確かに破格だ。

なんせ、1ヶ月バイトを続けるだけで2,400,000万円。


学生が稼げるお金としては、殆ど最大値だろう。


だけど……あまりにも怪しい。


怪しすぎて逆に安全の域を通り越して、普通に怪しい依頼だ。


こんなの、受ける人なんているんだろうか。


「せっかくですけど」

「なんと今なら大特価! この依頼を受けてくださった方には、素材買取り強化のキャンペーンを実施しています!!」


ヤケクソ気味に、そう捲し立てる。


中々強引な、パワープレイだ。


「お願いです! 上から色々言われているんですよー! この依頼をなんとしてでも受領させろって……このままじゃ、私の首がとんでしまいますよー!!」


今度は泣き落とし。

オイオイと大の大人が人目も憚らず、泣き出してしまった。


その異様さから、クビになるのもあながち冗談じゃないのかと、冷や汗をかく。


「わ、わかりました。恵南さんに話を通しておきますから」

「それじゃ、駄目なんですよー! 見てください、ここ!!」


そうやって勢いよく示された依頼書の備考欄には、二つ名持ち不可とハッキリと書かれている。


おかしな話だった。用心の護衛というのに。


「その点、釘抜さんはピッタリなんです! 二つ名持ちでは無ければ、シーカーとしての実績もちゃんとある! ね、ね? 御一考、お願いできませんか?」


こちらの手を取り、縋るような目を向けてくる。


色仕掛けに弱いわけではないけど、可哀想に思えてきた。


「わ、わかりました。受けます、依頼を受けますよ」

「本当ですか!? 本当の本当に!?」

「本当ですって」


受けるというと、滂沱の涙を流しながら手を擦り合わせてきた。


お礼がしたいと言うので、丁重に断ると、手書きで書かれたデート券なるものを貰ってしまった。


破り捨てようかな。


「それで依頼を受けるに当たって、お願いがあるんですけど……もう一人連れて行っても良いですか?」

「ええ、そりゃ! 二つ名持ちではなければ何人でも……いえ、何人は言いすぎました。一人まででお願いできますか?」

「ああ、はい。大丈夫です」


若干引き気味になりながらも、その日はそのまま家へと帰った。


◇◇◇


「で、この話って完全にやばいヤツだろ」


待ち合わせ場所で迎えを待っていると、隣で東雲君が今更ながら当たり前のことを言ってくる。


「どこが? 護衛するだけで2,400,000だよ」

「どう考えても、怪しいよなー」


間違いない。

並の詐欺だって、もっと慎ましやかな金額を設定する。


「受けるって言ったのはそっちじゃん」

「テンションだよ。1日寝たら、冷静になれたわ」


なら、寝なきゃ良かったのに。


「ということで、俺はもう帰るわ」

「……ごめん。もう遅いみたいだよ」


遠くの方から高級車がやってくる。

全体が黒塗りで、一目で数千万かかる代物だってわかる感じの。


「俺は帰るんだって!」

「わがまま言わないでよ、ほら」


悪あがきをする東雲君を抑えていると、黒塗りの高級車は僕たちの目の前を通り過ぎる。


2人揃って、拍子抜けした表情をした。


「待ち合わせ場所間違えたか?」

「そんなことは、ないと思うけど」


考え込んでいると、クラクションの音が鳴る。


どうやらそれは僕たちに向けられたもので、僕たちの前に一台の軽自動車が止まった。


「おい。ここってほら」

「そっか。月極め駐車場か」


おそらく僕たちの立っていたところに停めたかったのだろう。


他のところに停めろよ、と愚痴る東雲君を宥めつつ、その場所から移動する。


も、それに合わせて、その軽自動車もスイーッと移動した。


「………おい、まさか」


東雲君があり得ない想像をする。それは、今僕がしていたものと、全く同じものだった。



助手席の窓が開き、そこに座っていた黒服のSPみたいな人に声をかけられる。


「お前らが依頼を受領したシーカーだな。早く後ろに乗れ、時間が押している」


◇◇◇


「………おい、俺たちどこに連れてかれるんだ?」


車で移動する中、縮こまった東雲君が話しかけてくる。何をそんなに不安がってるんだか。


「どこか施設に連れてかれるだけでしょ」

「頭逝かれてんのかよ。おい」


もはや2人とも、希望なんて持っていなかった。


僕たちは騙されたんだ、汚い大人たちに。こんなことなら、もっとあの子たちと思い出を作りたかったな。


「冗談じゃねぇ。俺は逃げさせて貰うぜ」

「無理だよ。ルームミラー越しに、ずっと監視されてる」


そもそも僕たちはどこに向かってるんだろう。こっちに研究室なんてなかったと思うけど。


「あは、あはははは」

「おい、諦めんなよ! なんとしても、逃げる……んだ……」


あれ? 意識が遠のいて……いく……




「やっと静かになったか」

「はい。ようやく薬が効いたみたいですね」

「しかし、まさかこんなガキを寄越されるなんてな。シーカーは人員不足なのか?」

「仕方ないですよ。多分圧力でもかかったんでしょ」


苛立たしげに頬杖をつく助手席の男に、ビクビクしながら運転席の男は運転を続ける。


2人を乗せた車は、港へと進路を固めていた。




「おい、起きろ」


肩を強く揺さぶられ、起こされる。


なぜか2人揃って、一緒の段ボール箱に詰められていた。これから出荷でもされるのかな。


「ツレも起こして、早くそこから出ろ」


一々上から目線だけど、従う他ない。

言われた通り、東雲君も起こして段ボールの中から出る。


「ここは、どこですか?」

「ここはリゾート地だ」


答えを期待していなかった問いに、答えが返ってきて、若干驚く。



というかリゾート地って?


後ろを振り向くと港があった。もしかして、僕たち眠らされている間に船にでも乗せられていたんだろうか。


そしてここは、そういう体の無人島ってことかな?


だとしたら、僕たちに何をさせるつもりなのか。僕たちを置き去りにして、極限状態の人の行動を観察する実験でも始めるのか。



悪い予感が頭によぎる中、強面で乱暴な人について来いと言われて、大人しく従う。


未だに東雲君は逃げようとしているみたいだけど、もう一人の男が僕たちの後ろについて、それも叶わないみたいだった。


「僕たち、どこに連れて行かれるんですか?」

「リゾート地だって言っただろ。別荘だよ」


そういう名目の研究所。そういう名目の研究所。


何度も言い聞かせることで、ショックを和らげる。


「ここ、無人島じゃなかったのか」


東雲君の頭にも、島の中にポツンと一つだけ研究施設が建てられているイメージがあったんだろう。

人の手が入っている歩道を見ながら、そう呟いた。


「何度も言わせるな。リゾート地だと言ってるだろ」


その言葉に若干、警戒心が解かれる。


さっきまではずっと疑い続けていたけど、今は少し怪しいかな、といったところで止まっていた。


ここに連れて行く方法は荒っぽかったけど、僕たちの身体には何もされていなかってみたいだし。方法は荒っぽかったけど。




「もうすぐ、主人様の住んでいる別荘に着く。改めて言うまでもないことだろうが、くれぐれも失礼のないようにな」


東雲君と顔を見合わせる。お互いに安堵からか、笑みが溢れていたと思う。


ここからでも、この人が言うその別荘を見ることができた。


遠近感を狂わすほどに、巨大で豪華なお屋敷が木々の間から見え隠れをしている。

あれが別荘とは……金持ちとは、正気じゃない。


「? おい。どこに行ってるんだ?」


曲がり角があったので、東雲君と2人揃って、別荘の見える左の方に曲がろうとすると、注意が入る。


もしかして、こっちに行っても行き止まりなのかな?


見た目的にはこっちの道の方が近い気がするけど、なんやかんやあって、右の道の方があそこの別荘への近道なのかもしれない。



そう信じて後をついていく。

後をついて、ついて、ついて、ついて……気づけば、開けた場所に出ていた。


ポツンと小さな一軒家みたいなのが建っている。


「え……トイレ?」


東雲君の当然のその問いに、強面さんは頭を思い切り叩いた。


「失礼のないようにと、言ったはずだな」

「そ、それって……」

「行くぞ」 


こちらの疑問も一切聞かずに、ズカズカと一軒家の方へと近づいていく。確信が、疑念へと近づいた。



僕たちが固唾を飲んで見守る中、インターホンが押される。


……も、15秒経って、誰も出てこない。


そのことに深いため息を吐くと、ドアを躊躇わずに開けた。



「……何してるんですか?」

「見てわかんない? 海老反りよ、海老反り」


10歳にもいかない少女が、倒れ伏した大の大人の背に乗って、上半身を身体全体を使って引き上げている。


それは少女の言う通り、プロレスで良く見るあのわざでーー、


僕たちは、その衝撃的な光景に声も出せずにいた。


「? ゴリラ。そっちの貧乏くさい奴らは誰?」

「お嬢様。こちらが昨日、お話しした……」

「ああ。随分とハズレを引いたみたいね」


その随分な物言いに何も言えずにいると、ゴリラさんが紹介をしてくださる。


「お前たち。この方が依頼主の、(むらじ) 栞菜(かんな)様だ。頭を下げろ」



これなら、研究施設の方が100倍良かった。

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