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The Artifact Reaching Out Truth   作者: たいやき
33/82

テスト勉強

「あー。夏休み、どうしよっかなー」


なんだかんだで林間合宿から、1ヶ月の月日が過ぎ去り、季節は既に7月となっていた。


ということで、東雲君みたいにあちこちでは、夏休みのの予定を話し合う生徒で溢れている。


「俺、予定とかないんだよなー」


チラッ、チラッと飛ばしてくる視線を無視する。


生憎と、僕の方は予定が入っていた。ダンジョンに潜るという。


「釘抜は部活とか入ってないのかよ」

「そんなことしてる暇はないよ。生活がかかってるんだから」

「なら、作ろうぜ。シーカー部」


東雲君の世迷言を聞き流す。暇じゃないんだ、暇じゃ。


「あ、釘抜君これ。私の部屋に忘れてったよね?」

「九谷さんの部屋に? ごめん」

「しっかりしてよね、全く」


なくしていたシャーペンを受け取る。困ってたから助かった。



「お、おい。さっき、なんて?」

「ん?」


東雲君は僕の肩を掴むと、口をパクパクさせて、声にならない声をあげている。


こんなの、前にもあったような。


「部屋って、部屋って」

「あ、僕もう行くね。次、音楽だし」


壊れたように同じ単語を繰り返し呟く東雲君をほっといて、席を離れる。東雲君、遅刻しなきゃ良いけど。


◇◇◇


「お前ら。明日から、夏休みに入る前の最後の期末テストがあるからな。これで成績が悪かったやつは、夏休みないと思えよ」


その脅しに、生徒間からブーイングの嵐が飛ぶ。


それを無視するように終礼を打ち切ると、スタスタと職員室に帰って行った。


「勉強会しようぜ」

「……勉強会って」


終礼が終わるや否や話しかけて来て、しかも勉強会とかいう漫画みたいなことを提案してきた東雲君に呆れ返る。


そもそも一人でやっても全員でやっても、効果にあまり違いはない。むしろ、ノイズが増える分効率は落ちるはずだ。


それこそ、駄目な奴は何やっても駄目なんだ。


「夏目も呼ぶからさ」

「ちょっと待って。それはおかしい」


なんで東雲君は夏目さんを引き合いに出したら、僕が乗ってくるなんて思っているんだ?


そりゃ、心は惹かれるけど。心は惹かれるけど!


「そもそも、僕には先約があるし」

「先約?」

「こっちの話、それじゃ」

「九谷か?」


話を打ち切り帰ろうとすると、そう呼び止められる。


「……なんのこと?」

「もしかしてとは思ってたが……九谷と付き合ってんのか?」

「そんなわけないじゃん」


その推測を一笑にふすも、しぶとく食い下がってくる。


「いいや、そんなわけなくない。なんせ、お互いの家に出入りする中なんだからなー!!」


肩を掴み、幽鬼のごとくにじり寄ってくる。


多分、シャーペンの件から勘違いしたんだ。だとしても、お互いの家とか拡大解釈がすぎるけど。


「それは違うんだって」


事実、違う。

九谷さんの家に行ったのは事実だけど、それはあくまでも少女たちのうちの一人を預かってもらってるお礼に、勉強を教えに行っているだけだった。



流石に3人は、家族に隠し通すのは厳しかった。2つあるベットもなんだかんだ言って、邪魔だったし。


そのことを九谷さんにぼかして相談すると、九谷さんは一人暮らしらしく、一人なら預かっても良いと言ってくださった。


家も割と近くにあったので、そのお言葉に甘えることに。



勿論、最初はあの子たちも嫌がっていたけど、そこは頑張って説き伏せた。


今では、週一ペースで預ける子を変え、少女一人分の養育費を九谷さんに振り込む生活を1ヶ月続けている。


え? 九谷さんと離婚したの?


言ってて気づいたけど、僕のムーブが完全に娘の親権を取られた夫のそれだったので、軽いパニックになる。



「よし、わかった。なら九谷の家で勉強会をしよう」

「何が? 何が分かったの?」


意味不明の妥協案に、今度はこちらが食いつく番だった。


「わかった。勉強会をするから、九谷さんを巻き込むのは」

「よー、九谷ー。今日、お前の家行くから」


そうだよね。コイツが僕の言うことを聞くわけないよね。


というか、話したこともない女子に平気でこういうこと言えるんだよな、この男は。


イケメンだからコミュ力が付随しているのか、コミュ力があるからイケメンになったのか。永遠の議題に思える。


「え? いや、その」

「駄目か? 駄目なら諦めるけど」

「駄目じゃ……ないけど。その、でも……」


顔面偏差値に気圧され、九谷さんはしどろもどろになる。


「なら決まりだな。今日はよろしくな、九谷」

「う、うん……よろしく」


胸中での応援も虚しく、白旗を上げてしまう。


それで、今日の勉強会は決まってしまった。


◇◇◇


「へー! ミサキチって一人暮らしなんだ! 羨ましいなー」

「うん。えーっと……ミサキチ?」

「あ、ごめん。あだ名とかイヤなタイプ?」

「う、ううん。友達みたいで、嬉しいかな」

「もー、可愛いなー! みたいっていうか、まんまじゃん?」


5歩ほど前で百合百合しい展開を繰り広げられる中、どういうことかと東雲君の脇腹をこづく。


「俺も意外だったよ。近藤さんも来るなんて」

「あの人、勉強必要ないでしょ」


前も言ったけど、ああ見えて近藤さんは勉強ができる。噂によると、学年順位で一桁台から落ちたことがないらしい。


「そんな僻むなよ。つか、お前もテストの点は良いじゃん」

「暗記教科に限ってはね。他は並以上って感じだから」


それも教科書抜粋の問題はいけるけど、記述になるとてんで駄目になってしまう程度だけど。


「そんなんで、良く勉強を教えてたりなんかしてたな」

「それはーー、」


前にいた九谷さんから視線の圧が飛んできたので、それ以上言うのは控える。誰にだって、向き不向きはあるさ。




「ここの203号室が私の部屋なんだ」

「へー! 近くにコンビニとか色々揃ってるし、結構良いとこ住んでんじゃん」

「その分、学校からは遠いんだよ」


ガチャっと、玄関の鍵を開け扉を開ける。


間取りは、一人暮らしには良くある1LK。キッチンとリビングがサーモンピンクのカーテンで仕切られていた。


「へー、自炊とかもちゃんとしてるんだね」


近藤さんが玄関に入ってすぐ目に入る、使い込まれているも、きちんと清掃が行き届いたキッチンに言及する。


「……最近だよ。子どもにコンビニ弁当は……ね?」

「子ども?」


非常に気まずそうにこちらを見てくる。


僕と同じ理論で九谷さんも料理を始めていたみたいだ。料理を上達するには、食べさせる相手を作るのが大事って良く聞くし。


「それじゃ、お待ちかねの……」

「あ、そんなに溜めなくても」

「雰囲気だよ、雰囲気。こう言うのは雰囲気が大事なんだって」


そう言うと、ドルドルドルドル、とセルフSEを付け加えて、カーテンに手をかけて開くのを溜めに溜める。


そして、たっぷり10秒ほど溜めたと思うと、一気に解き放つ。


「じゃん!! ここが、ミサキチの……へ……や?」


思わず口をあんぐりと開けてしまう。


実はゴミ屋敷だったとか、そういうわけではない。むしろ、隅々まで綺麗に掃除されており、清潔ささえ感じる部屋だった。



問題はベットの上。


そこには深い青色の髪の少女が、いつものローブ姿を脱ぎ捨て、可愛いパジャマに身を包んでグッスリと眠っていた。


シーンと静まり返った部屋に、スースーという可愛い寝息が聞こえてくる。



おそるおそる近藤さんの方を見ると、目頭を強く揉んでいた。その光景を、未だ信じられていないらしい。


近藤さんの話では、おそらく少女たち3人に出会っているはず。そして、その正体を掴めずにいたはずなんだ。


そのうちの一人が、こうして寝ているんだからその反応も当然のものだった。



「子持ち?」


東雲君は東雲君で、最低なことを言っている。


せめて妹だ。なぜ、そこまで突き抜けてるんだ。



「……どうしよう」


九谷さん本人も予想外だったのか、こちらに判断を委ねてくる。



判断を下すなら、どうしようもなかった。


◇◇◇


「へー、従姉妹なんだ。それにしては髪色とか、色々違うね」

「う、うん。この子のお父さん外国人だから」


100%無茶な誤魔化し方をする。


どういう遺伝があったら、髪の色が青くなるのか。


けど、これ以上言うとバレるから黙ってて。とも直接言えないもどかしさ。


九谷さんの頑張りに期待するしかなかった。


「ふーん?」


あー、なんか無理っぽい。疑いの目で見ている。


なんとか話を逸らしたいけど、ここで僕から出しゃばるのも不自然に思われるかもしれない。



ということで、残った東雲君の方に願いを込めた視線を向けるも気づいてくれない。

というか目が合わない。ずっと下を向いている。


コイツ、学校ではあんなに強気だったくせに、いざ女子の部屋に入ったとなると、小学生みたいな羞恥心を見せている。


なんでこういう時に使えないんだ。この男は。



「そっか。じゃ、従姉妹ちゃんも寝ていることだし、今のうちに私たちも勉強会始めようか。起こさないように静かにね」


ありがたいことに、近藤さん自ら話を終わらしてくれる。


「そうだよね。さっさと始めよう」

「さっさとね。さっさと」


2人揃ってここぞとばかりに乗っかる。もはやこれで疑われるんじゃないかというぐらいに、息ぴったりだった。



ジリジリジリジリ!!!



そのまま勉強会が始まるかと思いきや、水を差すように、東雲君の方から目覚まし時計の音が鳴る。


「やっべ。アラームの設定、午前と午後間違えてたわ」


わざとなの? やっぱり、近藤さんに何か言われた?


というか今、午後5時だけど? 何、朝の5時に起きようとしてたの? 気持ちはわかるけど、無謀じゃないかなー!?



心中での怒涛の非難も虚しく、ベットに眠る少女は目を覚ました。




「……おはよう。お姉ーちゃん」

「お姉ちゃん?」

「この子にとって、私は姉みたいなもんだからね」


すかさずフォローを入れる九谷さん。格好良い。


「………誰?」

「私たちは、お姉さんのお友達だよ。よろしくレインちゃん」

「……どうも」


名前を呼んで近づく近藤さんに対して、慌てて九谷さんの後ろに隠れて対応するレインちゃん。


「ごめんね。この子、人見知りだからさ」

「そうなんだ……よろしく、レインちゃん。僕は」

「ヒッ!!」


初対面のていを装って、挨拶をしようとする僕に、さっきよりも怯えた表情を向けてくる。


演技としては100点満点で、もし演技じゃなかったら3日寝込むことになる。


「ごめん。この子、若干の男性恐怖症入ってるから」


その言葉に深く考え込む近藤さん。


ずっと黙っていたかと思うと、自分の中で自己解決できたのか、僕たちを見回し一つ提案をしてきた。


「取り敢えず、レインちゃんのためにもファミレス行こうか」

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