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The Artifact Reaching Out Truth   作者: たいやき
32/82

その後

目が覚めたのは、病室のベットの上だった。


痛む頭を抑え、記憶をなんとか再構築する。確か、近藤さんを庇ってそれで………


ガバッと病院服を捲ると、身体には包帯が巻かれていて。付けられた傷は、すっかり塞がっているみたいだった。



「やっほー。目、覚めたみたいだね」


隣のベットにいた近藤さんに声をかけられる。


「その、あの」

「あー、謝罪とかは良いよ。お互い様だし」


すました顔でそう言う。

事実、あの時のことを気に留めている様子はなかった。


「謝るなら、私じゃなくてキョンちゃんにだね」

「恵南さんに? なんで?」


話を聞くと、僕たちの後を追って、あのダンジョンへやってきていたらしい。

あの青年を倒したのも、恵南さんなんだそうだ。


「なんで」

「そりゃ、心配だったからでしょ。罪な男だねー」


近藤さんが戯けたように言う発言が、冗談かどうか判断するのは難しかった。


「しかし、釘抜君も不運だね。もうちょっとでやり過ごせたのに」

「え?」

「これから先生がやってくるの」


近藤さんが何を言いたいか。それだけで察せれた。


「いやー、助かったよ。これでお叱りも分散される……って、こらこら寝ないで。ほら、起ーきーてー」




「いやー、散々な目にあったね」


笑いながらそう言う近藤さんは、お説教もどこ吹く風といった感じで大して気にした様子もない。

僕なんか、泣きそうになったって言うのにね。



あの後、担任から主任から、校長に至るまで、多くの人からお叱りを受けてしまった。悲しい。


勝手な行動ををした僕たちの処分は、話を聞く限り、全員揃って停学と免停の扱いを受けるみたいだ。

1ヶ月間、ダンジョンに潜れなくなると言う。


処分としては軽い。免許剥奪まで、あり得ると思ったけど。


「キョンちゃんが手を回したのかな?」


怖いことを言っているけど、聞かないことにする。



「そう言やさ。釘抜君って赤髪の少女について、何か知ってる?」

「え?」

「……やっぱ、ごめん。そりゃ、知らないよね」


間違いなくそれが、モミジちゃんを指しているのはわかった。


そう言えば、あの子たちはあれからどうなったのか。タロットも見当たらないし、話しておきたいこともあったんだけど。



「…………」

「…………」


気まずい無言の間が生まれる。


気にするなとは言われたけど、それを真に受けれるほど図太い神経もしていなかった。


「……私もね、ワープの罠を踏んで、仲間に迷惑をかけたことがあるんだ。昔の話だけどね」

「え?」

「あのときもキョンちゃんが助けに来てくれてさ。そこは適正レベル帯でもないのに。本当、キョンちゃんって優しいよね」


急に昔話を語り出した近藤さん。


困惑を隠さずに、つい口を挟んでしまった。


「ごめん。なんの話?」

「えーっと。釘抜君が落ち込んでるかなと思ってさ」


そこでやっと、気を遣われているのがわかった。

近藤さんも、また優しい。


「あのーー、」

「よう! 起きてるか!」


会話を遮るように、東雲君と夏目さんが医務室に入ってくる。


この2人にも、かなり迷惑をかけてしまった。合わせる顔がない。


「んだよ。おきてんなら、そう言えよな!」


そんな気持ちを知ってか知らずか、フランクに接してくる。


「悪いな、こんなことに巻き込んじまってよ。今更ながら、あの時のお前の怒りは当然だったわ」


それどころか謝られてしまった。こっちが申し訳なくなる。


「いやいや。あれは、自分ながら子どもっぽかったって反省してるって」

「いやいや、どこかだよ。勝手に連れ回され死にそうな目に遭ったんだぞ。むしろ、シーカーなら怒るべきだ」

「いやいや」

「いやいや」


なんて無意味なラリーをしていると、


「あー! もー! 聞かねー、野郎だな!!」


突如としてキレられる。意味がわからない。


今まで東雲君は、席の近いクラスメイト程度の印象しか持っていなかったけど、ここに来て興味が湧いてしまった。


「はいはい、そこまで。君は何しに来たのさ」


今すぐにでも掴みかかろうとしてくる東雲君を押さえて、落ち着かせる夏目さん。………なんか、仲良くなってる。


「そうだったそうだった。ほい、これ」


そう言って東雲君は、ポケットから3枚のタロットカードを取り出して、こちらに渡してくる……え?


「な、なんでこんなものを」


焦って呂律が回らなくなる。


もしかしてバレた? バレたの?


「いやな? 俺もよく知らねーんだけど、九谷からこれを釘抜に渡せって言われてさ。お前はなんか知らねーの?」

「いや……うん。知ってる」


嘘をつくのもどうかと思ったので正直に答えると、『そうか』と一言だけ言って、それ以上言及しては来なかった。


九谷さんが……経緯は謎だけど、また迷惑をかけてしまった。


「ほら。お前も用があるんだろ?」

「う、うん」


今度は夏目さんが促され、僕の方へ近づいてくる。


何か用でもあるのか、と若干ドキドキしていたら。


「………え?」


デコピンをされた。近藤さんと2人揃って、目を丸くする。


「これは、恵南さんから。帰ったら容赦しとけ、だって」


その言葉に、僕はわかりやすく肩を落とすのだった。


◇◇◇


「それで? この情報は本当なのか」

「はい。全て事実です」


ダンジョンから帰還し、持ち帰った情報を探協に提出すると、そのまま本部長室に通され、何があったのかを根掘り葉掘り聞かれる。


珍しく神妙な顔をしているかと思うと、低く唸った。


「いや、お前の言うことだから嘘じゃなんだろーが……首を落としても死ななかったってのがな……」

「本当ですよ。なんなら、肩の傷を見ますか?」

「いや、良いわ。お前が怪我したってことは、そういうことだろうしな。にしても真っ赤な体表のオーガね……」


心当たりがあるのか、顎に手を添え考える素振りをする。


「もしかしてそれ、妖かも知れねーな」

「妖ですか?」


聞いたことのない単語に首を傾げる。


「日本の伝承の中に存在する魔物たちの総称だ。その中に、情報通りの見た目をしたやつがいた気がする」

「つまりそれは、御伽級だったってことですか?」

「あくまでも可能性の話だ」


御伽級。魔物に付けられる階級の中でも特別なもの。


その階級が付けられた魔物は、見た目や能力が神話や伝承の化け物と非常に酷似していて、総じて強力であり、一体で国が一つ滅びると言われるほど。


過去には、ヒドラやドラキュラといった存在が確認されている。


「もしそうなら、例え麗姫と言えど手には負えないだろうしな」

「……そんなにハッキリと、言わないでください」


自惚れてはいないけど、その物言いには頭に来るものがあった。


それが例え、事実だったとしても。


「ま、とにかく生きて帰ってくれて良かったよ」

「麗姫の損失は、うちに不利益を被る……ですか?」

「なんだ。良くわかってんじゃねーか」


その失礼な物言いに、わざと足音を立てて退出することで、不機嫌ですよとあからさまにアピールをする。



なんであんな人が、本部長をやってるんだろ。


◇◇◇


コンコン


近藤さんとしりとりをしていると、ドアを丁寧にノックされる音が医務室内に響いた。


「失礼します」


そう言って入ってきた2人組に、2人揃ってベットの上で慄く。


2人揃って180を超えるガタイ。カタギとは思えない傷だらけの顔に、ぴっちりと着込んだスーツ。

見た目だけで言えば、思わず嫌厭しちゃうような人種。


「あ、あの……」

「今日は、釘抜さんにお話があって来ました」


何かの冗談かな?


「あ! 私、お花摘んで来まーす!」


標的が自分でないと見るや、ベットから飛び降り部屋を退出する近藤さん。やられてしまった。


後に続きたいのはやまやまだけど、2人の男の射抜くような視線がそれを許してはくれない。


「お話を、伺っても宜しいでしょうか?」

「は、はい?」


怯えながらも、何とか冷静に対応する。


「こちらの写真の男に、見覚えはありますね」


何の用かと身構えていると、ペラッと胸ポケットから顔写真を取り出して、そんなことを聞いてくる。


その写真に写っていた顔は、確かに見覚えのあるものだった。


「浅間 健治……」

「浅間 健治と言うんですね。この男は」


その質問に頷くと、項垂れる2人組。なんだ?


「あの、どうかしたんですか?」

「あ、すいませんお見苦しい姿を。それで? この写真の男とはどういうご関係で?」

「え?」

「誤魔化しても無駄ですよ。あなたがこの男に面識があることは」

「クラスメイトです」


そう言うと、2人揃って面白い顔をする。


何だか、楽しくなって来た。


「か、通ってたんですか? 高校に!?」

「はい。ほんの1週間ほどですけど」

「そ、それはいつぐらいの話ですか?」

「丁度、2ヶ月ぐらい前です」

「有り得ない!!」


突如として、ずっと押し黙っていた男が異議を突きつけてくる。


「ヤツがラグナロクに加入したのは、一年ほど前のことだ!!」

「加入? ラグナロク?」


何か不穏な話のようなので、気になってそう尋ねると、しまったという感じで再び押し黙ってしまう。


「バカが」


そう小さく呟くと、可哀想なものを見るかのような目で、大事なことを口走った様子の男のことを見る。


一連の流れで、力関係は見てとれた。


「その、あなたたちは一体」

「すみません。その質問は、答えかねます」


そう言われたので、それ以上深くは追及しなかった。


聞かずとも、何かやばい組織だということはわかったから。



結局、終始一方的に質問を投げかけるだけで、こちらの疑問に答えることもなく彼らは医務室を出て行ってしまった。


不公平と思わざるを得ない。




「………もう良いよ」


近藤さんも、さっきの男2人組もいなくなり、一人がらんとなった医務室で、そう呼びかける。


人間へと姿を変えた少女たちは、全員気まずそうにしていて、誰とも目が合うことはなかった。


「……僕が怒っていることは、君たちも理解しているんだね」

「「「……………」」」

「………ならさ。あのときも僕の気持ちを理解して欲しかったな」


自分でもねちっこいとは思うけど、言わずにはいられなかった。


少女たちが提案し、同意したこと。

関係もない他人を、捨て駒のように扱おうとしたこと。


それはとても、許される発想では無かった。


「手段は選んで欲しい」


3人に言いたい内容を、簡潔に伝える。


「僕以外の命を軽視しすぎている。自覚はある?」


3人揃って頷く。反省はしているみたいだ。


「じゃあ、今後は二度とこんなことがないように。わかった?」

「えーっと、それはホルダーさんの命令?」

「そう受け取ってもらって良いよ」


全員、渋い顔をする。それを言い聞かせるには、まだ時間がかかりそうだった。



これからの不安を残し、長かったように思える林間合宿は終わりを迎えた。

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