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The Artifact Reaching Out Truth   作者: たいやき
3/82

キラキラ

「遅い」

「ごめん。寝坊しちゃって」

「……だらしないよ」


肩の辺りで揃えた綺麗な黒髪、高圧的な印象を受ける切長の目には呆れがふんだんに込められていた。


恵南杏香さん。

研ぎ澄まされたナイフのような美貌を持つ、自慢の幼馴染だ。


「今来てるのは僕たちだけ?」

「残念ながらあんたが最下位。他のやつらはあそこで、趣味の悪い覗き見をしているところ」


そう言うや否や、噴水の影から2人の女性が現れる。


一人は知っている顔、というか僕のクラスメイトだ。


「いやー、まさかバレるとは。流石キョンちゃん。良い感してる」

「もー。だからやめよって言ったのにー」

「初々しいキョンちゃんを見たいって言ってたのは、どこの誰?」


近藤由香さん。

フワフワな髪型と髪色が特徴的な女性。堂々と校則を侵してはいるものの、成績の良さだけで全てを黙らせ、ある種の尊敬を集めていたりする。


もう一人の方は知らない。


目深に被った帽子から明るい茶髪が見え隠れし、もう春だと言うのに肌を隠す、冬服を着込んでいる。


「それより、どうよ? 昨日の作戦。上手くいった?」

「…………」

「ありゃま? 随分と奥手なことで」

「……殺されそうになっても助けないからね」


会話が弾んでいるところで、スススと距離を取る。


「ちょっとちょっと、何で離れるのさ釘抜(くぬぎ)君」

「あ、僕の名前……」

「そんなに驚かないでよ。クラスメイトだから知ってて、当然じゃん? 今日はよろしくー」


差し出さられた手をおずおずと握る。


「でも一応自己紹介はしておこーかな。クラスじゃあんまり話さないし。私の名前は近藤由香。趣味は将棋で、好物はパフェ!」

「わ、私は桐生陽菜って言います。杏香ちゃんたちとは探索者養成所で知り合って、それから仲良くしてもらっています」


あ、どうもどうも。


と、微妙な空気が流れる。それを一変するように、近藤さんが手を叩いた。


「ほら、次はキョンちゃんの番。名前と趣味と、3サイズと、好きな対位を……痛っ!」

「必要ないでしょ。陽菜、こいつは釘抜延壽。気弱でひ弱だけど、やる時はやるから安心して良いよ」


寛大な寸評、いたみいります。



「取り敢えず釘抜君のために基本情報から教えておこうかな。ダンジョンみたいなのは色んなところにあるけど、私たちがよく使うダンジョンは4つ。どれも20階層を超え、未だ攻略できない大物級ばかり」

「階数なんてあるんですね」

「そ、どのダンジョンにも共通して言えるのは、階層によって分かれていることとダンジョンボスが存在していること。深さとかで、ダンジョンの呼び方も変わってくるんだけど、ここから先は免許を取らない君には関係ないかな」


免許。

各市内に設置されている、探索者養成所に最低でも1年間真面目に通うことで取得できるもの。


車の免許と同じ感覚で、それを持っているからって必ずしもシーカーになる必要はなかったりする。

現に、ゴミ拾いのときに一緒に働いていた先輩も、持ってたし。


「でね。今回目当てのドラゴン石の鉱脈がある階層は6階。例え免許所有者と一緒でも、免許を未所持の人は決して入ることができない階層」


でも、と溜めてから両手を恵南さんの方に広げる。


「彼女は二つ名持ちなので、そこんところを色々とスルーできちゃいまーす!」

「おー!」


3人分の渇いた拍手の音が辺りに響く。


若干だけど、恥ずかしそうな表情をしていた。


「で、二つ名持ちって?」

「協会が認めた、有力なシーカーに与えた特権みたいなもの。探索用の費用の負担とか、素材買取強化とか、探索に関する様々な恩恵が得れる代わりに、有事の際、率先して戦うのを義務付けられたりするんだ。勿論、二つ名を貰うかは本人の意思で決めれるよ」

「つまり、二つ名持ちは凄いってことですか?』

「勿論! 大人でも中々いないのに、未成年で二つ名を貰っているなんて全国を見ても片手で足りるんじゃないかな?」


で、その中の一人が恵南さん……思った以上に、凄かった。


「昔からキョンちゃんは凄かったの。私たちと同期なのに、養成所を2ヶ月足らずで卒業したり」

「月間踏破数の最高記録を塗り替えたり」

「……もう、その辺で良いじゃん」


耳まで真っ赤にして、恥ずかしそうにしている。これは2人とも、楽しんでやってるな。



「何て言ってる間に、ほら着いた」


そこにあったのは、狭い入り口に、人人人の長蛇の列。

その列は、入口の近くにある協会支部の出がと入口を経由し、ずっと長く続いていた。


「うへー。やっぱり初日となると凄いねー」

「滅多にとれないドラゴン石だからね。素材としては優秀だし、必然こうなるのも仕方がない」


この列を見ても、呑気な会話をしている2人を不思議に思った。


「並ばなくて良いんですか?」

「良いの良いの。言ったでしょ、二つ名の特典があるって。こういうときに優先権得れるのも得点の一つにあるの」


その言葉通り、列を無視してダンジョンに入っていく僕らを咎めるものは一人もいなかった。


ただ、視線は痛いほど突き刺さる。


「おい『麗姫』だぜ。俺、初めて見たわ。噂通りめっちゃ美人」

「やっぱ、格があるよな。圧倒されるわ」

「後ろの2人はともかく、あの男は誰だよ。羨ましいんだが?」


初めて受ける注目に、動きがぎこちなくなってしまう。


「そんな気にしなくて良いって。どうせあいつらの関心は、私たちじゃなくてキョンちゃんにあるんだから」

「それもそうですね」

「それはそれで悲しい気もするけど、納得しちゃうんだ」



「……ここが第4ダンジョン。初めて来た」


僕の仕事場は専ら、家の一番近くにある第3ダンジョンなので、新鮮味を感じる。


中は入り組んだ坑道みたいになっていて、ところどころ鉱石が剥き出しになった壁があった。


「ここは4つの中でも、一番構造が複雑なダンジョンでね。この階層をマッピングするだけでも10年はかかると言われてるんだ」

「その性質上、一番攻略が遅れてるのもここなのよね」


確かに、下に降りる階段を見つけるだけでも一苦労だ。


「ドラゴン石は6階にあるからサクサク行こう。私たちから、絶対に離れないでね」


そう改めて念を押されたので、コクコクと何度も頷いた。



「………フッ!」


硬い外殻を持つ、鉱石みたいなものを背負ったでかいヤドカリみたいなのが一刀両断される。

その綺麗な断面から、恵南さんが手にしているロングソードは、とんでもない業物だと窺えた。


「やり! 魔石ゲット!」


後ろの方でも戦闘は終わったらしく、デカいハンマーを担いだ近藤さんがホクホク顔で魔石を手にしていた。


今の陣形は、恵南さんと近藤さんが僕と桐生さんを挟んで、狭い坑道内を移動している。


前方の敵を恵南さん、後方の敵を近藤さんが対処して、討ちこぼした敵を桐生さんが薬品をかけて倒す。


随分と、連携がとれているように思えた。


「この3人で、良くダンジョンに潜ってるの?」

「まあ、数はこなしてきた方だと思う」

「でもやっぱり、今日はいつもより調子が良いみたいですね」


そう言ってニヤニヤする近藤さんに、恵南さんが顔を顰める。


「駄目だよ、由香ちゃん。杏香ちゃんが裏で、日下部君のことばかり話してるのがバレちゃうじゃん」

「由香、陽菜。親友として、せめて痛みもなく終わらせる」

「きゃー! 助けて釘抜君!」


なんてテンションの高い3人のやり取りを遠くから見守る。


ダンジョン内だと言うのになぜか、安心ている自分がいた。



「……凄い」


4階に降りて暫く進んでいると、辺り一面が鉱石によって輝いている空間に出た。


おおよそ現実離れした光景は、ダンジョンという現実と乖離した空間でしか見ることができない。

そう思うと、シーカーを羨ましく思えたり。


「ね、凄いでしょ」

「うん。綺麗」

「そ、そう綺麗ね。うん、綺麗」


どうにかしてこの光景を記録したいな。


「あー……ルートから外れると思ってたら、ここに連れて来たかったのね。案外キョンちゃんも諦めが悪いよね」

「うん。でも、ここも発見当初は人でごった返してたよね」

「ま、映えるのは間違い無いし」


そんなこんなで、4人で幻想的な光景を楽しみながら、次の階へと歩みを進めた。



「ここが、6階」


今までと違って、坑道内を淡い青の光が照らしている。


どうやら光源は、辺りに埋まっている青い鉱石らしく。原理はわからないが、絶えず青く光っていた。


「気をつけて、ここはウィスパーが現れるから」

「ウィスパー?」

「人に囁き幻覚を見せ、惑わせる魔物。ウィスパーに囚われたら最後、一生冷めない夢を見せられるわ」


その言葉に背筋に冷たいものが走る。


「とは言え、滅多に現れないから安心して……とは言えないかも。もう、ふざけてられる階層は過ぎちゃったから」

「はい。ここからは、慎重に行きましょう」



「ん? 何か聞こえてこない?」

「男性の喘ぎ声でしょうか? とても気持ちよさそうです」

「いや、冷静に分析してる場合じゃ」

「こんなところでするなんて、信じられない」

「青○ん、レベル100みたいなもんだし、ハマる人にはハマるんじゃない?」


な、なんて低俗な会話だ。思わず耳を塞ぎたくなる。


「ちょっち、私覗いてくるわ」

「ええ!?」

「ほっときなって。そっちはルートからも外れてるし」

「好奇心だよ、好奇心」


そう言って静止も聞かず、声のする方へ走って行った近藤さん。イキイキしていたのが、なんか嫌だった。


「ヒッ!!」


その数秒後、上がる悲鳴。


その声を聞いて、3人で急いで駆けつけると、近藤さんが全身を使って通せんぼしていた。


「ちょっと何よ、さっきの悲鳴は」

「い、いやー。大分ハードなプレイをしてたからさ。思わず悲鳴を上げちゃったよね。ということで、精神衛生上目撃することはお勧めしないな。特に、日下部君は」

「悲鳴をあげるって、どんだけ……」


そう言われて気にもなるけど、流石にそれを聞いて見たいと言えるほどの勇気はないので、大人しく元きた道を引き返した。


◇◇◇


「で、何があったの?」


わざとらしく誤魔化した彼女に、改めてそう尋ねる。この子が男女の情事程度で、悲鳴をあげるわけがない。


「……死体とやってた」


顔面を蒼白にしながら、震える声でそう呟いた。


「……そういう趣味とかじゃなくて?」

「ううん、違うと思う。死体の傷は魔物によるものだったし。それに……なんか、目がおかしかった」


幻覚症状……これは、もしかしたらもしかするのかも。


「一応、報告はしないと。これ以上被害が拡大する前に。陽菜、第4支部への報告と……延壽のことも頼める?」

「うん。わかった」


辺りに冷気を放出させる。


下がる外気の中、息を一つ吐き、その目を閉じた。

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