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The Artifact Reaching Out Truth   作者: たいやき
28/82

実習2

走る僕たちに迫る、背後からの黒い影。


噛みつこうと飛びかかってくるそれを盾で防ぎ、その間に眉間へと矢が突き立てられる。


黒い影は飛びかかった体勢で、地面へと落ち、そこからピクリとも動かなくなった。


が、猛追は止むことはない。


再び走り出す僕たちをつか狙うかのように、今度は右手の木々の中を走る真っ黒な2体の狩人が、付かず離れずの位置でマークしていた。


何かを待っているのか、襲ってくる気配は一向に無く。


ただ、何かを伝えるかのような鳴き声だけが、森の中を遠くまで確実に響いていく。


「徐々に寄ってきてる! ルートを変えよう!」


東雲君の指示に従い、真っ直ぐ走っているのを方向転換して、左の方に舵を切る。


「振り切れたか!?」

「う、うん……不気味なくらいに」


後方を振り返り、そう忠告する。

こちらを追うわけでもなく、ただ立ち止まってじっとこちらを見つめてくる2匹の狼。それは罠のように思えて仕方がなかった。


「前から3匹! 待ち伏せだ!」


予感は的中した。


狼の狩りは群れで行う。猿の魔物よりも数自体は少ないが、そこを連携で補い、追い詰められていた。


全員の顔に浮かぶ、疲労の色からも窺える通り、さっきの階よりも何倍も手強い相手だった。


「迎え撃つしかないね」


悔しそうに、近藤さんが判断する。

できれば戦闘は避ける。それが全員の総意だった。


「当たれ!」


懇願するようにそう叫ぶと、夏目さんは番えた矢を高速で発射し続ける。も、一本として当たることはない。

焦りや、先程噛まれたときの腕の痛みもさることながら、分が悪かったことも原因として挙げられた。


木が乱立していることにより、射線の通りが良くないことに加え、相手はここを生息地としている。


矢に当たらないよう、木という遮蔽物を利用しながら近づくなんて、魔物にとって造作もないことだった。



「何やってんの! 後ろ守って!!」


魔物との接敵に備え、盾を構えながら前に出ようとすると、近藤さんに咎められる。信じられないといった目を向けられながら。


言われた通り後ろに回ると、背後からさっきの魔物2匹が、僕たちに追いついてくるのが見えた。


(やばいやばいやばいやばい)


ここを、無事やり過ごせる未来が全く見えない。


例え、この3人が強いと言ってもただじゃ済まないだろうし、今はそれに加えて僕という足手まといも抱えている。

無傷で切り抜けれる確率は、限りなく低く思えた。


(ここはもう、モミジちゃんたちを呼ぶしか……っ!!)


3人の命には換えられないと、内ポケットに忍ばせていた2枚のタロットカードに手を伸ばす。


その時だった。

辺りに白い煙が充満して、一気に視界が悪くなる。更に言えばこの臭い、口呼吸を余儀なくされるぐらいには刺激的だ。


「こっちだ」


手を引かれ、その場を走り抜ける。


背後では獲物を失い、悲しげになく狼たちの遠吠えが聞こえた。




「煙幕だよ、臭いつきの。ソロとしては必須級のアイテムだ」


何とか難を逃れ、4人して地べたに座り込んでいるところで先程使用したアイテムについて説明が入る。


「ま、もっと早く使えって思うかもしれないが、なんせ高級品だからな。俺も3つほどしか持ってない」


閃光玉と、肥やし玉の複合品みたいな性能をしている。値が張るのも当然で、むしろ3つ持っているだけでも相当に思える。


そしてその、3つのうちの一つを使ってしまったことで、わかりやすく落ち込んでいる東雲君。

地面を見つめ、土をほじくっては戻すのを繰り返していた。



「………えっ?」


東雲君は何か、信じられないものでも見たかのような、ポカンとした間抜け面を晒す。


いや、東雲君だけじゃない。


僕も夏目さんも、呆気に取られたような表情をしていた。


ただ一人、全員の視線を浴びる近藤さんだけが、耳まで赤くして恥ずかしそうに、はにかんでいた。


東雲君は頬に触る。意中の人の、唇が触れたその場所に。


「……ほら、元気出せって……初めて、なんだし」

「あ……あう……あ」


その言葉を受け、わかりやすく混乱して口をパクパクさせる。


その一連の流れを、夏目さんは口に手を当てて、目を輝かせながら見守っていた。


「はい、休憩終わり! 早いうち、見つけなきゃ!」


全員の意見も聞かず、立ち上がり一人で先へ行こうとする。


わずかに見せる照れは彼女の本心に思えて、その行動全てが演技によるものだとは思えなかった。


少なからず、いや大いに、東雲君には可能性があるんじゃないか?


先程の衝撃を未だ脳が処理しきれず、フワフワとした足取りで歩く東雲君の隣で、そんなもしもを思い描く。


◇◇◇


「でもヤバイかもね私たち。こんな森の中じゃ私たち、一生かかっても出られないかも」


自分で作り出した空気に耐えれなかったのか、明るい感じでメチャクチャ怖いことを言ってくる。


苦し紛れに出した話題だったかもしれないが、今の僕たちの状況を見ると、その言葉が冗談だとも思えない。


「……確かに、帰り道すらもわからないしな」


あの東雲君も流石に現実へと引き戻されたのか、真面目な顔をしてこれから起こりあるであろう最悪を予期している。


ここは森が平原に囲まれていた7層とは違い、最初の入り口付近の平原が森に囲まれていた。


超常型のダンジョンの特徴としてマッピングの難しさが挙げられるくらい、遭難者も毎年多数報告される。


けど、今回に限っては心配なかった。


「大丈夫だよ。道は覚えてるから」

「覚えてるって、何を?」

「今までの道順」


3人の視線が突き刺さる。化け物を見るような、慣れた視線だ。



僕も記憶力には、多少自信がある。

神経衰弱は負けたことがないし、フラッシュ暗算だって間違えずに答えを導ける。まあ、暗算の方はできないんだけど。


そんな異常性を抱えて生きてきたのだから、気味悪がられるような目を向けられたのは一度や二度じゃない。


だから、望むと望まざるに関わらず、慣れていた。



「そんなわけないだろ。俺たちは何度も魔物に追われたんだぞ」


だから覚えているんだって。


いつ魔物に襲撃され、どんなルートを通って追っ手を撒き、どのくらいの時間逃げ惑っていたのか。


帰る時を想定して、ずっとルートに意識を向けてたんだから。


「煙幕で視界が見えない中も、ちゃんと覚えてるんですか?」

「おいおい夏目よ。そんな話なんか信じなよな」


良いよ、信じて貰えなくても。


どうせ入り口に連れて行けば、一発でわかる。


「その必要はないって。ハルルンも言ってたし」


僕の心を見透かしたように、近藤さんがフォローしてくれる。


「でさ、そんな記憶力の良い釘抜君に相談なんだけど。下層への階段の場所とかに、心当たりとかない?」

「ちょっと由香。無茶振りは」

「……一応、あるにはあるけど」

「あるんだ!? すっごい!!」


夏目さんには悪いんだけど、そんな期待した目で見ないで欲しい。


「知ってるなら、早く言えよ」

「確証なんて微塵もない、ただの願望だよ。だから、聞かれるまで誰にも話せなかったんだ。間違ってるかもしれないし」

「で、それってどこら辺?」


そう問われ、向かって右を指差した。


「覚えてる? 何回か追いかけてきた魔物が、急にピタッと止まったことがあるでしょ?」


心当たりがあってんだろう。


凄く良い笑顔で、あるあるあると、何度も頷いてくる。


「で、その追いかけてくるのをやめたポイントを線で繋いでみると、半円っぽい形が浮かんだんだ」


そこで言葉を区切る。

皆んな僕が何を言いたいのかを、察したみたいだ。


「つまり、門番みたいに立ち塞がってたってことね」

「………本当に?」


疑いの目を向けられる。僕だって、自分でも疑ってる。


「真偽は今は良いよ。ちょっとでも可能性があるなら、そっちに進んでみるべきだと思う」


近藤さんが僕の味方をしてくれる。そうすると、反対票を出していた唯一の有権者が賛成票に寝返り、4ー0で可決された。


◇◇◇


「踏んだみたいだな! 地雷を!!」


どこか非難めいた口調で、走りながらそう叫ぶ。


しかし今の僕たちには、それに反応している余裕はなかった。


「でも、釘抜さんの読みは、当たってましたね」

「それを喜べる状況でも、無いでしょ!」


右に3匹、左に2匹、そして後ろに真っ白な体毛をした巨大な魔物。おそらくヤツらのボスと思われる個体が追いかけてくる。


階段は幸い見つけれていた。


でも、出口前に張っていたボス狼に見つかり、こうして僕たちは追われる羽目になった。


「このままじゃ、いずれ追い付かれるっ!」

「それに下への階段からも……遠ざかってる」


そんな相手が圧倒的に有利な状況の中で、ボスの魔物は王手をかけるように一つ吠えた。


それが合図だったのか、右にいたうちの一匹がこちらへと近づいてきて、飛び込んでくる。


「なっ!!!」


その噛みつきを前と同じように盾で防ごうとすると、上にのしかかり押し倒される。パワーが段違いだった。


更に、至近距離から発せられた弓矢を歯で受け止める。


このフィジカルと反射神経の向上、あのボスの魔物が何かをしているのは明らかだった。


(だとして! 絶望的すぎる!!)


僕が足を止めたせいで、全員が追い付かれる。


「うわっ!!」


この状況を打破しようと、懐に手を忍ばせ、魔物たちの前に出ようとした東雲君が、つたの形状の罠に引っかかり逆さ吊りにされてしまう、


状況は間違いなく悪くなった。


「いやー、やばいでしょ」

「……お兄ちゃん」


僕の上に乗り掛かった狼の魔物が、肉付きの良さからか、それとも僕なんていつでも後回しにできるからか、お互いを背中合わせにしている夏目さんたちの方に、視線を向ける。


他の魔物たちも、そちらに釘付けになっていた。



だから、チャンスは今しか無かった。


(ま、魔法を放った後は、できるだけ私に覆い被さってください)


合図に合わせ、魔物たちが飛び上がった瞬間、僕の左隣に現れていたレインちゃんの方に被さるように倒れ込む。


(雷よ。あのゴミどもを消し炭にしろ)



「な、何これ!?」

「釘抜さん!?」


一瞬にして、高電圧により火だるまとなった5匹の魔物たち。魔物としてはわかりやすく、ボスはその状況に焦っていた。


「説明は後でする! だからあいつを!」


まさに疲労困憊ですといった感じに、すべきことを再確認させる。



そして流石というべきか。


2人は既に、目標をその目ではっきりと見据えていた。



そしてそれは相手にも言えて、逃げることもせずにボスらしく、夏目さんたちに牙を向ける。


が、ボスと言えど所詮は1匹だった。


眉間に矢を受け、それを押し込まれるように脳天に槌の一撃をもらい、7層のボス同様に、あえなく倒された。

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