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The Artifact Reaching Out Truth   作者: たいやき
27/82

実習

「これ、どういうことかな?」


うちのクラスの九谷さんが、声を低くし、青筋を立てて僕を睨みつける。そして、僕の方はただ土下座するのみだった。


「……何の真似?」

「どうか、先生方や警察には!」

「冗談?」


確かに冗談にしか聞こえない。この状況で、見逃してくれと頼むなんて。


「あの3人との関係は?」


そう言って、現在ベットの上で心配そうにこちらを見つめている3人を指差す。


「あの実は」

「妹や従姉妹なんて言ったら、はっ倒すよ?」


どうしよう。打つ手が無くなった。


そもそも最初から逃げ道なんて無かった。あの3人が九谷さんに見つかってしまった時点で。


今回は不幸な偶然が重なった事故みたいなものだけど、遅かれ早かれこうなる運命だったかもしれない。


そう思うとまだ、見つかったのが九谷さんで良かったと思える。


でも、


「……すみません。詳しくは言えません」

「話にならないね」


九谷さんに冷たく突き離される。それでも、モミジちゃんのお願いを無碍にはできなかった。


「……はー、わかったよ。このことは、誰にも話さない」

「え!? 良いんですか!?」

「……さっきから気になってたけど、敬語! 同級生でしょ」

「ご、ごめん」


しかし、どうして?


その思いが通じたのか、九谷さんは教えてくれた。


「あの子たちが、釘抜君のことを本気で心配してたから」

「………へ?」

「洗脳かもと思ったけどそれにしては自我もしっかりとあるし……釘抜君が悪い人じゃないってことはわかったから」


渋々といった感じで認めてくれる。


「その、事情はわからないけど…言えない何かがあるんだよね? だから詳しくは聞かないし、ここで私は何も見てないことにする。わかった?」


九谷さんに問われ、何度も頷く。


「じゃ、歯を食いしばって」


言われた通り食いしばる。


その前振りでこれから何が起こるかは大体予想がつくけど、ここで断れるはずもなかった。



頬に走る痛み。ビンタされた、それも思いっきり。


「これは釘抜君が、あの子たちから目を離した罰。面倒見るって決めたなら、絶対目を離しちゃ駄目だよ」


それだけ言うと、僕たちを残して部屋を出て行く。


格好良すぎて、惚れそうになった。


◇◇◇


「おう、大丈夫だったのか? 死にそうな顔してたけど」

「うん。大丈夫だった」


施設のロビーで東雲君に声をかけられる。


食堂で会ったときのことを言っているんだろう。あのときはモミジちゃんたちがいなくなって、本当に死にそうな顔になってたから。


「それで、今日の実習のことなんだけど」

「近藤さんたちには伝えてねーよ。どうせこうなると思ってたし」


今日の実習、僕はいけないと他の2人にも伝えてくれと東雲君に伝えていたのだけれど、その後は続かなかったらしい。


これも東雲君なりの、優しさなのかな。


◇◇◇


生徒全員で挨拶を済ませて、施設を出る。


ここから生徒それぞれの実習場所まで、バスで移動となる。


「川下りー。こっちに集まれー」

「山菜ー、山菜ー」


それぞれを担当する教師の方々が、バスの前で集合をかける。


「ほら、行くぞ。釘抜」

「わかったから、引っ張らないでよ」



ダンジョンへ行く人の数は、他の場所よりもかなり少ない。


免許を持っている必要があることに加え、僕たちの地域はダンジョンが密集していることもある。


奥深くまで潜れないことを考えれば、そうなるのも当然だった。


「そこに、つけ入る隙があるんだよねー」


これは近藤さんの弁だった。


どうやって、担当の教師の目を誤魔化すのか? その問題の答えは物凄くシンプルなもの。


ここにいる生徒全員が、グルだった。


事前に、それぞれのクラスで実習でダンジョンへ行く人を調べ上げて、該当の人全員を抱え込む。


近藤さんの人脈があってこそ、成せるわざだった。


◇◇◇


「おー、凄い自然」


見たまんまを答える東雲君の表情には、どこか圧倒されている節があった。


広がる草原に、流れる小川。揺れる花々。


風光明媚という言葉がよく似合う場所で、こんな光景が観れると知っていれば、多分ここは抽選枠になっていた。


どこか現実離れしたその光景は幻想的で。ここに鳥の囀りでも聞こえてくれば、天国と見間違うほどには完璧だった。


「超常型か……俄然、楽しみだ」


こんな風に、太陽や風が階層内に存在しているダンジョンは『超常型』と呼ばれ、一括りされる。


こういうところで厄介なのは、敵の魔物よりもトラップの方。


勿論ダンジョン内なのでトラップはあるけど、自然を利用して作られているので、見つけるのが難しかったりする。


「ま、安心してえーよ。6階層までは無いのが確認されとるから」


安心できない情報が、担当の先生からもたらされる。


それってつまり、7階層から先に進むのを禁止したのは、トラップがあるからですよね?


「あー……大丈夫だろ」


意味ありげな視線を東雲君に送ると、安心できない返事がくる。


うちの地域にはダンジョンがたくさんあるけど、『超常型』は一つもない。そもそもが珍しいんだ。


つまり、ここでは普通のダンジョンでの知識とかもあまり役立たれそうにない。にも関わらず、この自信。


「もしかして、ここの生まれじゃないの?」

「一応な。関西の方から引っ越してきたんだよ」


そんな会話をしていると、小川の方で魚が跳ねる。


「魔物以外の生き物もいるんだね」

「普通の魚は跳ねないだろ」


ここでも意見が分かれた。本当、相容れない。




「先生! ちょっと来てください!」

「問題か?」

「はい! 3階層の方で魔物が!」

「すぐ行くわ。君は案内、君は代わりに立っといて」

「はい! わかりました!」


7階層へ行く階段の前で仁王立ちをしていた先生が、生徒たちに連れられ持ち場を離れる。


それを見計らって、4人で移動する。


「頑張ってね! 近藤さん!」

「おー! 任せろってー!!」


代わりに見張りに選ばれた生徒に見送られ、7階層へと降りる。



「劇的に違うわけじゃないんだね」


僕と近藤さんが先頭に立って、降り立つ。

7階層は、今までと同じような景色が広がっていた。ただ、強いてあげるなら森が広がっている気がする。


「取り敢えず進むか。よろしく、東雲君」

「お、おう。任せとけって」


近藤さんに任せられ、息巻く東雲君。


そんな東雲君の先導で、森の中に入っていく。


「次への階段って、大体こういう森の中にあったしね」

「あるよね。そういうダンジョンの性質、みたいなもの」


自然と距離が近くなった夏目さんと会話を交わす。


自分が思っている以上に、声が上擦らずに話せた。


「……あんま、気を抜くこともできないみたいだな」


前を歩いていた東雲君がしゃがみながらそう言うと、地表まで出てきている木の根を引っ張る。


立っていれば、東雲君の上半身があった位置に、木製の鏃が飛んできて、そのまま根を伸ばしていた木へと突き刺さった。


「油断してると、こうなる」


なんてわかりやすい具体例なんだ。



「なんだ……猿か?」

「上の階では見なかった魔物だね」


見た目としてはマンドリルに近い魔物の群れが、僕たちの頭上で木の枝につかまりながら、鳴き声を上げている。


囲まれているらしく、8匹の魔物が枝から枝へ移りながら、僕たちの周りをグルグル回る。


「ありゃ、いきなり不利だね」


ハンマーを担ぎながら、心配そうな顔持ちで言う近藤さん。


確かに、今のパーティーの武器構成でいったら間違いなく不利だ。バランスが取れている分、一人一人で対処しなければいけない状況になると、途端に脆くなる。


はずなんだけど、


「おら! 死んどけ!」

「……甘いん……だって!」


そんな心配が不要なほどに、夏目さんたちは強かった。


しかも、東雲君はともかく夏目さんに至っては、体術だけで襲いくる魔物を倒している。


素手ではダメージを与えられないので、弓矢とは別に、あの着用しているグローブにも金属を仕込んでいる。


だって凹んでるんだもの。打撃を受けた部分が。


で、そうなるとキルレートが一番遅いのは当然僕になるわけで、僕が1匹倒している間に、近藤さんは新手も含めて、4匹を一斉に薙ぎ倒していた。


「やっぱ、敵はまだ弱いね」

「ゴブリンよりも貧弱だったね。その分知恵はあるんだろうけど」


戦闘の所感を語りながら先へと進む。




樹上で狂ったように鳴き続ける猿の群れ。


いい加減、全員が辟易していた。


「弱いけど、こう多くもこられたらね……」

「ごめんね。私があんなことを言ったばっかりに」


しょぼんと、夏目さんが申し訳なさそうに言う。


あんなこととは、この階層に猿の魔物しか現れないとわかったときに、全員に向けて『猿が多く出てくる方に進もう』と、提案したことを指していた。


「謝るなよ。その提案に乗ったのは俺たちだし、実際俺はその提案が正しいと思っている」


落ち込んでいる夏目さんをすかさずフォローする東雲君。


「迷ってんなら、お前を信じた俺たちを信じろよ」

「………うん」


その歯が浮くような言葉に、生娘のように顔を真っ赤にして頷く夏目さん……あれ?


僕は頭の中が、ハテナでいっぱいになった。


◇◇◇


「な? 言った通り、あってただろ?」

「そうだね」


僕たちの目の前には、8層へ続く階段の前で、部下の猿たちから貢ぎ物を受け取るボス猿の姿があった。


上にも横にもデカい。普通の猿の魔物の、5倍はある。


「フロアボス……ってヤツ? 今までの階にはいなかったのに」

「ああ。まるで違うダンジョンに入ったみたいだな」

「聞くところによると、そういうダンジョンも時々あるみたいだよ。珍しいことは確かだけど」


半分より上までは火口のように暑かったのに、半分を過ぎると極寒みたいな気温になるダンジョンもあるらしい。


普通に考えて、最悪すぎる。



「……で、近藤さんは何を待ってるの?」


僕たちに突撃するのをやめさせ、茂みに隠れるように指示した近藤さんは非常に難しい顔をしていた。


「……当てが外れちゃったかも」

「あてって?」

「ほら、ここってあの魔物の仲間しかいないじゃん? だから絶対にいつか隙を見せる時が来ると思ってたんよ。食事中とか」


が、予想とは違って、倒木に腰を下ろし、食事中であるにも関わらず油断なく辺りを警戒している。


「これってつまり、戦ってきた猿たちを通してあいつに私たちの情報が行き届いてるってことだよね?」

「思ってた以上に相手が賢いってことか……」

「何、暗い顔してんの?」


近藤さんの言葉に首を傾げる。そういう流れじゃないの?


「つまり、自由に暴れろってことだろ?」


そう言うと、まず最初に東雲君が地面を這うように飛び出す。


敵に気づかれないように、気づかれても最速で倒して、ボス猿の元へと近づく。

そして跳躍、からの投擲。


ボス猿の目の位置へと正確に投げられた投げナイフは、その小ささが嘘みたいに、硬そうな瞼を突き破り目を的確に潰す。


目が潰されたことにより、怒り狂ったように身体全体で暴れるボス猿にもう一撃。

その矢は魔法みたいに、未だ機能している片方の目へと吸い込まれていった。


そして両目を潰されたところで、近藤さんの一撃が脳天にクリティカルヒットする。


その一撃でボスは完全に沈黙し、猿の群れは森へ消えていった。

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