表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
The Artifact Reaching Out Truth   作者: たいやき
26/82

太陽の光がカーテンを貫通し、僕の顔を照らした。


朝が来た。来てしまった。

チラリと押入れの方を見る。まだ、中には彼女たちがいた。


(はーー………)


心中で深いため息をつき、昨日の夜を思い出す。


◇◇◇


夜12時。

消灯時間から、2時間ほど経った頃。


勿論、普通なら高校生が寝ている時間帯ではない。が、見回りの先生が、しつこいくらい巡回していたんだ。


会話もろくにできず、携帯も使えないとなれば、眠ることしか出来なくなる。

いくら高校生と言えど、そこは変わることはない。


ので、しんと静まり返り寝息さえ聞こえるようになった頃合いで、2段ベットの階段を降りていく。


音を出さないように、慎重に、慎重に……


「釘抜君。トイレ?」

「っ!!」


し、心臓が飛び出るかと思った……なんだ、まだ起きてたんだ。


というか、起きてたとしてもあまり声はかけない方が……いや、今回の場合は結果的に良かったけども。


もし声をかけてくれなかったら、普通に押し入れ開ける僕の行動がバッチリ見られるわけだからね。


「うん。そうなんだ」

「気をつけてね」


若干引くほどの優しさを受けながら、部屋を出る。


1時間くらい、潰してから戻るか。



1時間後。


流石にもう寝ているだろうとたかを括りながら、ドアを開ける。


「随分、遅かったね。便秘?」

「えっ」


声にならない声をあげた。


再び同じ人物。僕のベットの下で寝ている橋下君に声をかけられる。しかも、男子相手でも問題になりそうな言葉だった。


デリカシーとか知らないのかな?


「うん……ちょっと最近ね。そういう橋下君はなんで起きてるの」

「眠れないんだ。枕が違うと」


知らないよ!

と、思わず脳内でツッコんでしまった。良いから寝てほしい。


仕方ないので、再びベットに潜ろう。



2時間後。


「それでね、言ってあげたんだ。その汚いのが僕の家ですって」


寝ろー!!!!

寝てよ、良い加減! 何時だと思ってるの!? 3時!!!


しかも教員はもう来ないものとたかを括って、普通に話しかけてきてる。それが何よりも腹立たしかった。


「いや、嬉しいよ。まだ僕のために起きててくれるなんて」


誰も君のために起きてない! というか、なんで僕がまだ起きてるって知ってるんだ!? 返答はずっと前から、返してないのに!


自分が独り言言ってるかもとか思わないの?


殆どの人間は既に寝てるよ。僕が起きてるのも事情があってのことで、そうじゃなければ、こんなつまらない話を聞いて起きてられるわけがない。


だけど弱った。かなり思い込みが激しいタイプらしい。


なら、演技をしてでも騙し通すしかないな。



布団の中で寝息を立てる、出来るだけリアルなヤツ。寝言まで言ってやろうかと思ったけど、ボロが出そうなのでやめた、


「あれ? 釘抜君。寝ちゃった?」


少し心苦しいけど仕方ない。騙されてくれ!


「そっか寝ちゃったか。なら、僕もーー」


ここで思ってもみなかった幸運が舞い込む。なんと、橋下君が寝る決意をしたんだ。


そのおしゃべりが止まってくれれば程度に思っていただけに、心は自然とわきあがる。


「僕も、一人で喋り続けるか」


……? 脳が理解することを拒んでしまった。


前後の文的におかしいのはもちろんのこと、人間としてどこかおかしいとしか思えない。


寝てよ。頼むから。




「おー、起きてるかお前ら?」


回想をしていると担任の先生が聞こえてくる。


はい、起きてました。一晩中ずっと。


結局あの後、更に2時間は喋り続けていた。その後、電池が切れたみたいにピタリとお喋りが止まったけど。


止まったけど動くことはできなかった。本当に寝ているのか、確信が持てなかったから。


そんな感じで決めかねていると、とうとう朝になっていた。



チラリと下を見る。

綺麗な顔で寝息を立てている橋下君の顔面を、殴りたくなった。


◇◇◇


「これからの流れは知ってるよな? 8時半から食堂に集まって朝食を食べて、10時にはここを出るからな。それまでにちゃんと部屋の清掃をしとけよ。何回もやり直しになるのは嫌だろ?」


やっと目が覚めたのか、それぞれが動き出す。


トイレに行くもの、歯を磨きに行くもの、布団を畳むもの。


僕はというと押入れを開け、3人が寝ていることを確認する。


(よしよし。誰にもバレてはいないみたいだ)


ただ、問題はここからだった。


これから全員、寝ていた布団からシーツを外し、シーツの方は係が回収、布団の方は畳んで押し入れにしまうという作業に移る。


つまり、それまでに起こさなければ


「何してんだよ。釘抜」

「なんでもないよ! なんでも!」


押入れをスパッと閉じる。


……しかも、怪しまれないように。


(何はともあれ、ひとまず3人を起こそう)


誰も見ていないことを確認して、押入れを……いや、駄目だ! クラスメイトの大島君に怪しまれてしまった!


じっとこちらを見て来ている!


「何してんの、釘抜君。さっさと自分の布団畳んだら」


これは、なんてお節介!


「ほら、橋下君がシーツ回収できないじゃん」


更にこっちの罪悪感まで突いてきた! 断る方が無理だ!


「あ、ごめんごめん。そうだよね」


仕方なく押し入れから離れる、一時退却しかない。


けど、これで更にミッションが難しくなってしまった。はっきり言って、最高難易度だ。



取れるプランは3つある。


プランA、騒音作戦。

大きな音を立てることで、押入れの中の3人を間接的に起こす。


ということで、ベットの上から敷布団を落とす。


「おい! あぶねー!!」

「ごめんごめん。ベットの上で畳んでたら落ちちゃった」

「ちゃんと下に降りてから畳め!」


クラスメイトにマジ叱りされる。死にたくなった。


が、多分この作戦は失敗した気がする。


布団なだけあって、あまり音は響かなかった。かと言って、これ以上変なことをすると、本格的に怪しまれてしまう。


次のプランだ。



プランB、妨害作戦。

こちらは至極単純。布団を片付けようとする生徒に対して『それ、畳み方違うよ』と囁くことで、片付けるのを遅らせる。


狙いとしては言い合いになって、『じゃあもう、布団を片付けるのは朝食の後にしようよ』と、持ちかけること。


僕の考えたプランの中で、一番自然で現実的なヤツだ。


そして、狙い通りことが進んでいく。


「は? お前、さっきそれが違うって言ってなかったっけ?」

「それは違うって、だからーー」

「わけわかんねー! なんでこんな、ややこしいんだよ!」


シメシメ。パニックになってるなってる。


後はここで人を駄目にする魔法の言葉、『後でやろうよ』と提案すれば良いだけだ。


が、そんなに上手くいくはずもなく。


「お前ら、まだ片付けてねーのか」

「先生! やり方わかんないんですって!」

「仕方ねーな、手本見せてやるよ。ほら、貸せ」


まずい。非常にまずいことになった。


と、焦っている間にも綺麗に畳まれていく布団。


『こうして、こうやるんだよ』という担任の言葉に、『合ってたじゃねーか!』と、避難がましい目線を向けてくるクラスメイト。


今はそれらのことがどうでも良くなるくらい、切羽詰まってた。


後はこれをしまうだけど、押し入れに手をかける。3人が熟睡している押し入れに。



こうなったらーー、


プランCしかない。



「先生、大変です! 三橋君と水野君が喧嘩しています!」

「なに!?」


開いていたドアから飛び込んできた悪い知らせに、先生の意識がそっちに取られる。


「何やってんだあいつらは!!」

「先生、早く来てください!!」


その情報を持ってきた生徒の懇願に従って、先生は布団なんかほっといて部屋を飛び出した。


そして、それは生徒も例外ではない。


「お、おい。喧嘩だってよ、見に行こうぜ」

「ああ! あの2人が喧嘩だもんな? どっちが勝つんだ?」

「ああ、僕は良いや」

「いや、見なきゃ損だって!」


断ろうとしていた橋下君を無理矢理引っ張って、部屋から出る。



プランC、陽動作戦。


勿論、この部屋に来た彼とグルだったわけじゃない。喧嘩は実際に起こっている。いや、引き起こしたんだ。


昨日、トイレに行っている間にこうなることを見越して、彼らの寝ているベットにある仕掛けをしておいた。


自分でも悪いとは思っている。


言い訳に聞こえるかもしれないけど、この作戦を実行するつもりはなかった。あの3人を回収できたら、その後で仕掛けも回収するつもりだったし。


仕掛ける相手も慎重に選んだ。


なるべく力が対等で、ガタイの良い2人。しかも、どちらも熱しやすく冷めやすい性格なので、後腐れもないように。


アフターフォローまでつけておいた。


そこまでしても罪悪感は消えない。当たり前だった。




部屋を出た皆んなからはぐれて、一人部屋へと戻る。


部屋の中には、当然誰もいなかった。


今までの苦労を乗り越えた達成感から、ホッと息を吐きながら押入れを開ける。


そこに、3人の姿はなかった。


◇◇◇


「ひゃっ!!」


トイレから部屋へ戻るまでの廊下を歩いていると、足元に何かがぶつかってきて、更に声が聞こえてくる。


……おかしい。前からは誰も来てなかったはず。


おそるおそる目線を下げると、昨日浴場にいた青い髪の少女が尻餅をついて倒れている。


わけがわからなかった。


「あの……大丈夫?」

「は、はい……あ! み、見つかっちゃった……」


泣きそうになる少女に色々事情を聞こうとすると、急に立ち上がり『今見たことは、忘れてくださいっ!!』と言い残して、消えていった。


本当にスッと、幽霊みたいに。


私、霊感あったんだ……と一人、慄いていると、5メートルぐらい先にあった、使われていないはずの部屋の扉が一人でに開く。


ドアノブも回って、まるで透明人間が開けたみたいに。


「…………」


よせば良いのに、気づいたら私はその部屋に入っていた。


「「「…………」」」


ただじっと見つめ合う、4人の図が完成した。



「……つけられましたね」

「何やってるの、もう」

「あう……ご、ごめんなさい」


弱気な少女が、少女2人に詰め寄られるのを仲裁する。


「で、どうする? やっぱり後頭部?」

「一か八かですけど……記憶消去の魔法を」

「いえ、必要ないですね。例えご学友に私たちのことを伝えたとしても、信じてはもらえないでしょうし」


「君たち? 私の扱いについて勝手に決めないでくれる?」


大体なんでこの子たちはこんなところにいるんだろう。


「もしかして、何か困ってることでもあるの?」


図星だったのか。3人の目が逸らされる。


ここまでわかりやすいのも初めてだ。


「ほら。お姉さんに相談してみな?」

「……少し、宜しいですか?」


3人を代表し、キリッとした子が対応する。


そう言って時間を取ると、2人の少女を説得しにかかった。



「私は反対だな」

「………わ、私もです」

「聞いてください、2人とも。ここで、この方に協力を仰ぐのが一番ベストなんです」

「でもホルダーさんの平穏が」

「確かに脅かされるかもしれません。ですが、最悪でもありません。まだ私たちはカード化してないのですから」

「……ホルダー様と私たちの繋がりを話されたら?」

「カード化してシラを切れば良い。今ここで、ホルダー様を見失うことの方が痛いです」

「「………えー」」

「わかりました。プリンを買って差しあげます」



話は纏まったのだろう。


やっぱりキリッとした子が代表になって、頭を下げてくる。



「お手数をおかけしますが、今私たちは人を探しておりまして……釘抜 延壽という方を知りませんか?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ