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The Artifact Reaching Out Truth   作者: たいやき
19/82

学校行事

「林間合宿?」


東雲君が朝一番に、今度ある学校行事の話題を持ち出してきた。


「そうだよ! 近藤さんに近づく、1番のチャンスだとは思わないか? 親友よ!!」


僕がいつ、彼の親友になったかはわからないけど、野暮なので聞かないでおくことにした。


「で、何でその話を僕に持ってきたの?」

「わかんないやつだな……協力しろって言ってるんだよ」


協力?


「僕の協力なんているの?」

「いるに決まってる! お前は謎に近藤さんと仲が良いからな」


仲が良いとは少し違う気がする。友達の友達って感じ。


「それに、この話はお前にもメリットがあるんだぜ」

「シャンプー?」

「くだらないこと言うなよ……夏目 奏音って知ってるだろ?」


ここの生徒で、その名を知らないやつはモグリだった。


夏目奏音。

この学年一の才女であり、男子からの人気も凄い。それに加えて、あの夏目奏多の妹ということもあって、知名度も半端ない。


恵南さんほどではないけど、他の高校にも名前が轟くほどの超がつくほどの有名人だ。


「で、それが?」

「もしかしたら、お近づきになれるかもしれないって言ったら?」

「詳しく」


声が漏れないよう、ズイッと近づく。


僕のその態度が気に入ったのか、ニヤッと笑うと、先の言葉の真意を語り始めた。


「実はよ。近藤さんと夏目さんって、お互い仲が良いんだぜ」

「え?」


初耳だった。夏目さんにも、友達がいたんだ。


「でも、なんでそんなことを?」

「放課後によ。学校外でちょくちょく会ってんのよ、その2人」

「? だからなんでそんなことを」

「声が大きいぞ」


無理矢理、話を逸らされる。


もしかしてコイツ、ストーカーしてるんじゃ……いや、流石に?


「で、そこで2人の会話が偶々聞こえてきたんだ。林間合宿での実習のとき、一緒に回ろうってな」


偶々? いや、問題はそこじゃないな。


「実習というと?」

「知ってるだろ。林間合宿では色々と体験ができるんだよ、ハンティングだとか筏下りだとか。そしてその中でも、近藤さんたちはダンジョンに行くって言っていた」

「え? 夏目さんも免許持ってたの?」

「らしいな。そんな話、聞いたこともなかったけど」


僕もだ。


「でよ。俺らも2人に混ぜてもらうことができたら、2・2で分かれることができるだろ?」

「なーんだ」


その時点で机上の空論となった。夢見すぎなんだよ東雲君は。


「なんだってなんだよ! 完璧な作戦だろ!」

「無理無理。僕そんなに、近藤さんと仲良くなんかないし」

「誘ってみなきゃわかんねーだろ!」


どんな反応するかなんて、火を見るより明らか。そんな誘い、やんわりと断られるに決まっている。


いや、近藤さんも意外とドライなとこもあるからな。


もしかしたらズバッと思いきり断られるかもしれない。火を見るより明らかというのは言いすぎた。


だけど、どっちにしろ断られる。どこまで行っても断られる。


「なー、頼むよー。望みがあるのがお前だけなんだって」

「東雲君が自分で誘いなよ」


なんてわちゃわちゃしながら、始業前の時間は過ぎて行く。全く持って、無駄な時間だった。



「で? 釘抜君。私に話ってなーに?」


昼休み、近藤さんに校舎裏に呼び出される。


告白なんて甘い展開は最初から期待してなかったけど、思ったよりも苦い展開になって内心焦っていた。


「いや、別に話なんて」

「嘘。シーカーの耳、舐めんなって」


だとしたら前後の会話も聞こえていたはず。なのにわざわざ僕の口から話させるなんて、鬼畜かと思ってしまった。


「……今度の林間合宿で。実習の時間に、近藤さんたちと一緒に行動できないかなって」

「えー………」


わざと聞いておいて、ニヤニヤと、悩む素振りをする。


恥ずかしさで死にそうになった。


「うーん……ま、別に良いかな」

「そんな簡単に決めて良いの?」

「良いの良いの。どうせ、奏音は断らないだろうしね」


でもその代わり、と条件を突きつけてくる。


「あの日、何があったか教えてよ」

「………あの日っていつのこと?」

「決まってんじゃん。釘抜君が試験会場を破壊した日だよ」


嫌なことについて追及される。彼女の目は、完全に僕を疑ってた。


「話を聞いたときは驚いたよ。あのキョンちゃんですら破壊できなかったていう、お手製ダンジョンが壊されたなんてさ」

「あれは僕のせいじゃなくて、ただの事故だよ」

「そういうことになってるね。そのせいで誰にも請求できずに、勿論秘密裏だから保険なんて降りるわけもなく、フロンティアにとって大損害だってさ」


これは、脅されているのかな?


「もし秘密を教えてくれたなら……私、付き合っても良いけど」

「その条件で、取引になってると思ってるの?」

「あー、やっぱ無理だよねー。キョンちゃん一筋だもんねー」


否定するのも面倒なので、そういうことにしておく。


彼女と彼女と彼女の名誉のためにも、墓まで持ってくと決めた。


「じゃあ、そういうことで僕は」

「あ、ちょい待って」


まだ僕のことを引き留めて来る。これ以上、用があるんだろうか?


「林間合宿前に打ち合わせとか必須でしょ。今日の放課後、学校近くのモスで待ってるから」


それだけ言うとスタスタと去っていった。訳もわからず固まってしまった僕を置いて。


◇◇◇


「おー、来た来た。こっちこっち」


カチカチに緊張した様子の東雲君が、同じ方の手と足を同時に動かしながら彼女たちが待っていた席へと着席する、


僕もそれに続いて先に着くと、前方から良い匂いが香ってきて、少し萎縮してしまった。


「カノン。コイツらが私が言ってた男たち」

「へー。初めましてだよね? 私は夏目 奏音。お菓子作りが好きで、由香ちゃんとは昔からの付き合いなんだ。よろしくね」


はい、存じておりますとも。


長く綺麗な黒髪に、パッチリとした瞳。鼻筋は通っていて、口元は小さく。胸部は慎ましやか。


まさしく男の理想とする女性像そのままの姿。


正直、こうして話をできるだけで夢みたいだったり。


「あー……俺、東雲 慶一郎って言います。よろしく」


なっ……東雲君が、夏目さん相手だというのに無難に挨拶を終わらせてみせた。


こんな風に対応できる男子、東雲君ぐらいだろう。


「おい、釘抜。次はお前の番だぞ」

「あっ! 僕その、釘抜 延壽って言います。その……よろしく」


自己紹介だけで、こんなに緊張したのは初めてだった。


大分失敗していたはずなのに、馬鹿にする様子もない夏目さんは本当に聖人君子のようで。


隣で笑いを堪えている東雲君とは、大違いだった。


「……まさか、惚れてる?」

「ぶふっ!!」


近藤さんの突拍子もない発言に、飲んでいたコーラがブクブクと音を立てる。


「大丈夫?」


混じり気のない心配で、僕のことを見てくれる夏目さん。


打って変わって、そんな僕の様子を見届けていた近藤さんは、汚物を見るかのような目を向けてきた。


「いや……そんな、惚れてるなんて……」


隣で東雲君が、先の近藤さんの発言を自分に向けられたものだと思い、赤い顔をして手をモジモジとさせていた。


それが勘違いじゃないことを願いたい。


「由香ちゃん。そろそろ、話を進めようよ」

「……………そうだね」


ボソッと、覚えてろよという言葉が聞こえた気がしたけど、やっぱり気のせいだった。


そもそも声音が全然違ったし。



バサッとマップを広げてくる。


そこには今度僕たちが行く宿泊施設の、周辺の地図が載っていた。


「ここにあるマークが、今言ったダンジョン。なんとここ、まだ攻略されてないんだって」


攻略されているか、されていないかでダンジョンの価値は大きく変わってくる。


ここら辺の地域が良い例だ。

ダンジョンはいくつもあるけど、シーカーはもっぱら4大ダンジョンの方を選ぶ。旨味とかが桁違いらしい。


「それって、敵が強いってこと?」

「というより辺鄙だからかな。わざわざここまで攻略のためだけに来る物好きなんていないよ」

「湧き潰しとかは、職員の方がやってくれてるみたいだからね」


でさ、ここからが本題なんだけど。と、近藤さんが言葉を繋げる。


「私たちの手で攻略してみない?」


ピクっと眉が上がる東雲君。


やはり彼もシーカーなのだろう。顔つきが一瞬にして変わった。


「それって可能なの?」

「勿論難しいと思う。そもそも、生徒たちは7層から先に進むのを禁止されるみたいだしね」


それを分かった上で言うってことは、教師の目から隠れてこのダンジョンを攻略するつもりみたいだ。


バレたら停学じゃ済まないだろう。


それでも未踏破のダンジョンがあれば、そちらを優先する。最近になってそういうシーカーの生態を、やっと理解できた。


「入念な準備が必要だな」

「担当する教師への根回しとかね」


シーカーとしての歴の差なのか。


東雲君と夏目さんが、ノリノリで近藤さんの提案に続く。


「後、不安なのは人数かな。4人で行けるかは微妙なラインだし。ちゃんと役割が分かれていたら楽なんだけどね」


ということで、シーカーとしての情報交換に移る。


「僕が使うのは、盾とショートソードかな。一応ショートソードは持ってるけど、基本的には盾で戦ってる感じ」

「あー、タンクなのね。私はパワー系だから、そういうのが一人はいた方が楽なんだよねー」


確かに、前ダンジョンに潜ったときはハンマーみたいな武器を軽々と振り回していた。


改めて、この腕のどこにそんな筋力が隠れているのか不思議だ。


「私はじゃあ、後方支援に回ろうかな。弓も扱えるし」


そう言って、弓矢を放つポーズをしてみせる。可愛い。


「俺はシーフだ」

「てことは、東雲君ソロなんだ」


言葉のナイフに、東雲君のハートがいたく傷つく。


シーフとは、斥候だとかスカウトだとか盗賊だとか、色んな呼び名があってややこしくなるけど、基本的には罠を探したり敵を探知したりという、サポート系を得意とするシーカーを指す。


勿論、パーティーの中にそれ専用の働きをする人を入れているところもあるけど、基本的にパーティーでのそういう仕事は全員で受け持ちでやっている、というところが殆ど。


つまり自らをシーフだと自称するのは、一人でダンジョンを攻略するためそっち方面に技能を全振りしなければならない、ソロの方が多かったりする。


なんだか、悲しいね。

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