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The Artifact Reaching Out Truth   作者: たいやき
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「危なっ」


振り下ろされた鉤爪を手にしたナイフで受け止める。体格差的に、ふざけた映像にしか見えなかった。


「ど、どうして?」


僕のその問いかけにモミジちゃんは、ヤレヤレと、どうしようもない者を見るような視線で肩をすくめて来た。


「出てこないって、約束」

「無効だよ、む・こ・う。手を出さないってのは試験範囲に関すること。これは完全に超えてるでしょ」


あまりその言葉の意味を理解できずポカンとしていると、レインちゃんが助太刀とばかりに魔法を放った。


「あ、あの魔物。完全にホルダーさんを殺すつもりでした」

「そんな馬鹿な!」


語気の強い否定に、レインちゃんがびくついてしまう。


でも、それを気にかけれるほどの余裕は無かった。


「これはただの試験で! 命なんて誰も」

「人為的な介入ですね」


新たに聞こえてきた3人目の声。幼さではなく、冷静さを帯びた大人びた声の方に視線を向ける。



「初めまして、タロットでいう女教皇のカードです。こんな状況ですけど、名前を頂ければ幸いかと」


そのキリッとした固い口調に、事務的な報告。


グレーの髪を機能的に後ろで纏め、メガネが似合いそうな、理知的な女の子がそこにいた。



「アッシュ……とか?」

「ありがたく頂戴いたします。ホルダー様」


ペコリとお辞儀すると、僕と魔物を繋ぐ導線上に立ち塞がるアッシュちゃん。

モミジちゃんと同じで、僕を守ってくれるみたいだった。


「なんだか情け無い……で、アッシュちゃん。あの魔物が人為的なものってどういうこと?」

「おそらくあの魔物は試験用に用意させられた物でしょうが、それを操作している不届き者がいるということです」

「操作?」


はい。と、静かに返事をするその姿からも知性が溢れていた。


「おそらく、ホルダー様のいう『異能』というヤツでしょう。精神操作、それもかなり強力な代物」

「どうしてそんなことが」

「おおよそ生物として不自然な行動を7つほど取っていました。あの魔物が操られているのは、まず間違い無いかと」


淡々と告げるその口調には、説得力が生まれる。


少女は、全てを見透かしたかのような目をしていた。


「アッシュちゃーん? 説明してないで、手伝って欲しんだけど」

「いえ。私は戦闘はあまり得意ではないので」


モミジちゃんからの頼みをキッパリと断るアッシュちゃん。


成程。カードの中にはこんな風に後方支援で、その、ホルダーとやらの助けになる子もいるってことか。


確かに彼女の推察力と知識力は、半端なものじゃない。生まれたばかりと言うのに、すぐに仕組みを看破した。


「近くにいると思う?」

「おそらく。ですが、隠れている場所までは」


そうこうしている間にも、魔物とモミジちゃんたちとの戦いは苛烈さを増し続けている。


「今の動き、人為的なもの。間違いなく敵も、この戦いをどこかで見届けています。カメラ等がどこにも仕掛けられている様子がないので、おそらく肉眼で」


ここの近くに、潜んでいるのか?


急いで壁や天井を見渡す。不可解なところは一つもなかった。


「あ、アッシュちゃん」

「慌てないでください。御三方は必ず私が守ります」


「う、うん……え?」


「どうかなさいましたか?」


こちらの動揺が伝わったのか、魔物への視線を逸らさない中、チラリとこちらに意識を向けてきた。


「いや……だって、3人って……」



「はい、後ろにいる御二方と合わせて3人です。数の数え方は間違っていないと思いますが」


◇◇◇


私がこの能力に目覚めたのは、丁度4ヶ月前。

行き過ぎたイジメの一環で、ダンジョンに置き去りにされてしまったときだった。


昔から良く、標的にされた。


端正な顔立ちとか、生まれながらの金髪とか。イジメられるだろう原因はたくさんあって、小3の頃には見切りをつけていた。


ウィッグをつけて、誤魔化してみても無駄だった。


今まで排他されてきた人生の中で、私自身が他の全員を排他するように作り替えられていた。


馴染まず、読めず、受け入れられず。


男子からの性的な視線に、女子からの根も葉もない噂話に、予想した通り、同じように、高校での居場所は無くなっていった。



私が初めてこの力を使ったのが、丁度3ヶ月前。


噂を信じた馬鹿な担任に、援交を持ちかけられたときだった。


◇◇◇


「うわっ!」


急に真後ろに現れた2人の女性に、びびって尻餅をついてしまう。


そんな僕の行動が余程異常に感じたのか、アッシュちゃんは有無も言わさず、僕と彼女たちの間に割り込んだ。


「あ、天海さん?」

「……………」


僕の問いかけに彼女からの返事はない。ただ人形のように、黙って虚空を見つめている。


首輪みたいな見た目のチョーカーが、妙に印象的だ。


「……お知り合いですか?」

「うん……でも、なんでここに?」

「それはこっちのセリフ」


そう言うと、はーっと深いため息を吐く。


天海さんとは違い、彼女の方は意識があるみたいだった。


「君って……」

「初めましてじゃない。前、親切に教えてくれたし」

「そうだったね。で、これってどういうことかな?」


核心を突くその質問に、どう答えようかな…とばかりに頬をかく。心なしか申し訳なさそうだった。


「じゃあさ。お互いに質問してかない? そっちが先で良いよ」

「……うん。君たちはここで何してるの?」

「待ち伏せ。君たちってより、私だけだけど」


あっけらかんと、悪気もなくそう答える。


「じゃあ今度はこっち。その子たちは何者? 誘拐とか?」

「いえ。私たちはホルダー様の所有物ですので」


そのアッシュちゃんの言葉にドン引きされる。今だけは、ほんの少しだけでも黙ってて欲しかった。


「サイテー」

「不服だけど、今はそう言うことにしといて。で、こっちの質問だけど、あれは君の『異能』によるもの?」


現在、大暴れしている魔物を指差す。


さっきよりもボロボロで、身体の至る所に傷跡が付いていた。


「まあね。洗脳って言うの? 生物を操ることができるの」

「そんな」


馬鹿な、と言いかけたところで天海さんの方に目が行く。


まさしく操られているような、そんな虚な表情をしていた。


「この子だけじゃなくて、貴方にも使ってる」


その言葉を、強く否定することができなかった。なぜなら


「気づかない間に、僕の背後にいたのも」

「そう。貴方がこの最下層に来たところからずっと背後にいたの。貴方の認識する機能にちょっと手を加えてね」


……思いっきりアウトだ。

バレれば懲役5年は余裕で行くようなことを、この人は平然とやってのけている。


「じゃあ、なんでそのとき僕に攻撃しなかったの」

「そもそもあなたを殺したいわけじゃないわ」

「何言ってるのさ。あの魔物を操ってたのは君なんだろ?」

「だから、あれはただ人を殺せるか確かめたかっただけ」


その物言いに声も出せずにいると、『それより』と、起こったような口調で咎めてきた。


「交互に質問するんでしょ。さっきのはルール違反…ま、良いわ。あなたに攻撃しなかったのは、あなたの実力を見ていたから。で、こっちの質問ね。あなたはここに何をしに来たの?」

「試験だよ……僕を待ち伏せてたんじゃないの?」

「違う。私が待ってたのは、私のクラスメイトの方」


その言葉とともに、瞳が暗く濁った。


「巻き込んじゃって、ごめん」

「……そのクラスメイトに何するつもりだったの?」


そこでフフフッと笑みを浮かべる。


まるでくだらないことでも聞いてきたと、嘲るみたいに。


「殺すの。決まってるでしょ」

「なっ!!!???」


言葉に詰まる。まるで声帯を誰かに操られているかのような不快感が、そこにはあった。


「ホルダー様!!」


泣きそうな顔でアッシュちゃんが倒れかける僕を支えてくれる。なんとか、不快感は治った。


「やっぱり完全にはかからない。この能力の弱点だけど、催眠みたいに人によって操れるかどうかが変わるの。知能が低かったり、思い込みが激しいタイプだと、ころっと行くんだけど」

「どうして!!」

「復讐」


短くそう答える彼女の目は更に濁って、ハイライトの消えた目でこんこんと語り出した。


「私だって、普通の高校生活を求めてた。友達と仲良く、彼氏と楽しく、そんな俗的な生活に馬鹿みたいに憧れていた。見限ったから何? 夢見ちゃダメなの? 人の人生を踏み躙る権利があるの?」


そこは地雷だったのか、

今まで冷静に接していた彼女に、ドス黒いものが渦巻いているのを幻視する。


彼女の憎しみの深さなんて、知るよしもなかった。



「ホルダーさん!」

「ホルダー様!」


そこでタイミングよく2人が駆けつけてくれる。魔物の方は死んでしまったのか、完全に沈黙していた。


「下がっててください!」

「今、片付けるっ!」


僕の制止も聞かず、モミジちゃんが躍り出る。


その手にした刃物は、完全に殺意が込められていた。

 


「私の『異能』の強さは、操る生物のスペックで左右される」


ドス黒いオーラを醸し出す彼女に向かって、弾丸のように飛び出したモミジちゃんの一撃は、あえなく受け止められる。


天海さんの手によって。


「そんなっ、くっ!」

「元のスペックと心の緩さ。この子はスペックは足りないけど、その分信じる心は理想的なほど強い」


剰え弾き、追撃まで仕掛ける。熟練のシーカーのような動きは、天海さんのものでは決してない。



「だから限界以上に働く駒になる」



捨て身のような連撃の数々。

無理矢理動かされているのか、人間工学的にあり得ない関節の曲げ方をしている。


「レインちゃん! 援護!」

「は、はい!」


少しでも早く動きを止めようと、レインちゃんに指示を出す。


それを待っていたかのように、ゆっくりと近づいてきた。


「良かったの? 戦闘員を割いちゃって」

「ご心配には及びません。貴方程度なら、私だけでも事足ります」


そう強がるアッシュちゃんに、再び彼女は笑みを浮かべる。


「言ったでしょ。私の『異能』は生物に効くって」


そう言って胸ポケットから錠剤のような物を取り出す。

それは風邪薬みたいな可愛い物じゃなく、保健の授業で見かけるような、超ド級にヤバい代物だった。


「それは私自身も例外じゃなく。そしてーー、思い込む力の大きさが強さに直結する」

「止めろ!!」


「貴方を、欲しくなっちゃった♪」



静止も止むなく、彼女はそれを口にした。

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