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The Artifact Reaching Out Truth   作者: たいやき
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「おい、新人。何ボサッとしてんだよ」

「は、はい」


今日も今日とて、先輩に叱られる。


昔からそうだった。

自分ではしっかりしてるつもりでも、周りの人からすれば、僕はトロい方のようで。


今だって誰でも簡単にこなせるような業務も満足にできていない。


あだ名が亀になるのも、当然のことだった。


「お、ラッキー! 魔石落ちてんじゃん」

「マナですか?」

「馬鹿、クズに決まってんだろ。でもよ、クズでもうちじゃ取り扱える商品なのよ」


ホクホクした顔で先輩が語っている内容を今一度思い出す。


確か魔石というのは、ダンジョンに出てくるモンスターを倒すと、たまに落とす鉱石のことで。

レア度の高く綺麗なものだと、マナ。それ以外だとクズと呼ばれ、価値が大きく変わってくる。


どちらも探求者(シーカー)の身体能力やら色々を強化する効果を持っているけど、その強化倍率が違うんだっけ。


「だから何でボーッとしてんだよ。お前まだ何も拾ってないだろ」

「は、はい。すいません!」


僕たちが今やっている業務は、その魔石やらなんやら、ダンジョンに落ちているものを拾って本部に届けるという、非常に簡単な仕事だ。


落ちているということもあって、殆どがゴミ同然なんだけど、中には魔石のようなレアなアイテムもある。


シーカーから買い取ると値が張るような代物も、落ちていたらただということで、僕たちみたいな一般人にゴミ拾いの業務を委託してくるんだ。


「あ、錆びた剣が落ちてますけど」

「おそらくシーカーが落としていぅたもんだな。ヤツらは大抵、ダンジョンをゴミ捨て場かなんかと勘違いしてんだよ」

「爪みたいなものも落ちてますけど」

「そりゃ、ここの階層に出てくる魔獣が落としたもんだ。素材としてはまあまあだな。何で爪だけ落とすのかは聞かないでくれ」


こんな風に先輩は色々と教えてくれてとても優しい。


見た目はいかつくて、ガタイもデカくて、口調も荒いけど、こんな鈍臭い僕に親身に付き合ってくれる。


他にも危険な場所やトラップ、魔獣が接近してるかどうかなど、注意深く教えてくれている。


この人がいなければ、ゴミ拾いも満足にできはしない。


「こういうのは慣れだ慣れ。お前も経験積めばきっとできるようになるぞ。10年後くらいに」

「そこまでこんなこと続けれませんよ!」

「そうだ。続けれなくて良い。例えゴミ拾いとは言え、ダンジョンなんかに来るもんじゃねぇよ」


……前から思ってたけど、先輩はシーカーだったのかな?

見た目からして完全に、シーカーっぽいし。


ただ、先輩は過去を話そうとはしない。


なので僕も深くは聞かない。

いくら鈍臭いと言えど、そこら辺を判別できない間抜けじゃない。


「ん?」

「どうした新人?」

「いえ、変てこな絵柄のカードがあったので」


崖の上で、陽気に前へ歩き出そうとしている人が描かれている。


「そりゃ、タロットカードだな。何でこんなとこに」

「タロット……これが」

「ま、本部はどうせ受取拒否するだろうし、貰っとけや」

「でもタロットって、一枚じゃできませんよ?」


そう言うと、いつもの自身に溢れていて安心感のある背中をむけながら、


「いつだって、足りないのが人生だ」


なんて無責任なことを言われてしまった。


◇◇◇


「お疲れ様です。基本給として4000円。そこに投棄品がざっと、3000円なので、合わせて7000円ですね」


ニコッとした笑顔で、受付の人が報酬額を伝えてくる。


1000円を超えないこともザラにあると考えたら、中々の成果。


「あ、あの、もしろよしければ、これも」

「はい?」

「いや、なんでもないです」


流石に羞恥心が勝った。


でも、タロット占いなんてやらないしな。


「そう言えば、先程まで恵南(えなみ)さんが探してましたよ」

「え!?」


急いで辺りを見渡す。彼女の姿は見当たらなかった。


「安心してください。いらっしゃらないと伝えておいたので」

「そ、そうですか。ありがとうございます」

「いえいえ。こちらとしても、シーカーでないものを探索に向かわせるのは止めないとなりませんので」



本部からの帰り道、今日拾ったカードをじっと見ていた。


タロットに興味はなかったけど、こう改めて見ると、不思議な魅力があったりする。

まるで吸い込まれるような不思議な感覚だ。


じっと、じっと、じっと、穴が開くほどじっと見ていた。



だから気が付かなかったんだ。辺りから人の気配が無くなっていることに。


「え?」


デカい図体、醜悪な顔、臭い体臭。


道の真ん中で、その丸い鼻を必死に動かしながら、辺りをしきりに見渡していた。


ゴブリンを大きくしたような見た目の緑色の化物はトロールという存在で。こんな街中にいて、決して良いものではなかった。


「す、スタンピード?」


どうして? 何で? シーカーは? 一体だけ?


疑問が濁流のように流れ、思考を埋め尽くしていく。



震える足を叱咤し、必死に来た道を引き返す。


鼓動がうるさいぐらいに鳴り、生きようとする渇望だけが、湯水のように溢れ出てくる。


「逃げなきゃ、逃げなきゃ」


セーフティエリアはもうすぐそこだ、そこに行けば、兵団の人たちも常駐している。

むしろ誰かが既に、呼びに行ってくれているかもしれない。


だから、今は一刻も早くあの化け物から。


幸い、あの体躯と引き換えに五感は良くない。今なら、何とか見つからずに



「お、お、お母さーん!!」



今にして思えば、この選択はまちがっていたのかもしれない。


誰かのため、自分が命を落とすことはないだろう。

無慈悲に冷酷に、あの子どもを見捨て逃げた方が賢いはずだ。


でも、何度やっても僕は間違え続ける。


それが正しいと、知っているから。




トロールが爆音により、目の前の泣きじゃくる子どもからこちら側へと標的を変えた。


止まっていた車のガソリンタンクに穴を開け、引火させ爆発させる。無我夢中だった。


「はぁ……はぁ……もっと遠くへ」


その一心で走り続ける。


狙い通り、トロールはこちらに関心を持った。後は出来る限り引き付けて、逃げ切れば良い。


無謀だ、愚かだ、そんな僕を心の弱さが嘲笑っていた。それでも


「馬鹿で良いさ……賢ぶるより、よっぽど楽だ」



疲労から足がもつれ、その場に倒れる。


アスファルトで擦りむいた膝から血が滴り落ち、それがやつの食欲を誘っているようだった。


「……フシュー」


倒れる僕に向かって、トロールは手にした一時停止の標識を高く振り上げた。


その真っ赤な文字は、これからの展開を暗示しているようで。


死ぬ間際、僕は生まれて初めて、自分の鈍臭さを酷く呪った。



…………


…………………。



思わず目を瞑ってしまったけど、何秒待っても僕を打ち付ける衝撃は襲ってこなかった。


走馬灯にしてはやけに長い。時間でも止まっているのかと錯覚するほどに長い。


思い切って目を開け……そして、閉じる。


(あれ? 幻覚かな?)


そして、再び目を開けるも……光景はさっき見たまま、何も変わっていなかった。

唯一変わったとすれば、トロールが死にかけから、死体へと変わっていることぐらいだった。


さっきまで持っていた標識を口の中へ貫通させ、立ったまま天を見上げて、白目を向けていた。


そこに命の残り香は感じれず、程なくして仰向けに倒れる。口に刺さっていた標識は、上手い具合に抜けなかった。



そして、それをしたであろう張本人は、死体の腹の上で満面の笑みでピースサインを向けてくる。


紅いツインテールは風に靡く。

純白な肌に映えるように散らされた返り血は酷くアンバランスで。


どこか、悦に浸るような顔を向ける少女の姿は、それに輪をかけて異常だった。

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