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第十一話  徹の彼女

「おはよう深夜って……どうしたのお前」

「……ああ、徹か」

「お、おう。なんかすごいげっそりしているけどなんかあったのか」

「実は……」


 僕がどうしてこうも弱っているかといえば、その原因は端的に言ってしまえば玲が原因である。


 今でこそクラスメイトと楽しそうな様子で会話をしている彼女だが、それまでは本当に酷かった。


 何が酷かったって四六時中僕に付きまとうのだ。昨日の出来事は勿論のこと、今日の朝にしたっていつの間にか僕のベッドに侵入しており、僕に抱き着く姿勢ですやすやと眠っていた。


 それだけならまだいいが、学校に登校する時は、もっと酷かった。


 昨日の下校中みたいにずっと腕を組まされるし、ちょっとでも僕が周囲の視線に目を向けると腕をつねられた。


 小心者の僕としては、その状態をずっと続けられると気が休まるタイミングがないし、何より彼女と密着していると彼女の匂いとか感触とかがダイレクトで伝わってきてはっきり言って落ち着かない。


 そのせいで僕の心は昨日から緊張しっぱなしで、体もそれにつられてかなり疲労していた。


 その事を徹に端的に伝えると徹は、にやにやと意地の悪い笑みを浮かべた。


「なんだよ。その顔は」

「いや、別に。ただお前滅茶苦茶朝比奈さんに愛されているなぁと思っただけだよ」

「まあそれは、そうなのかもしれないけど……」


 確かに僕は玲に愛されているのかもしれない。でもそれにしたってあのアピールの具合は、明らかに度を越している。


 一体何が彼女をそこまで突き動かすのやら……まあ、それでも僕の彼女を好きな気持ちは、微塵も揺らいではいないのだが。


「あ、いたいた」


 そう言って徹を指さしながらこちらに向かうは、かなり小柄な少女だ。


 栗色の髪を肩口で切り揃え、口元からは八重歯がうっすらと覗いている。


 肌は小麦色に焼けており、顔立ちは庇護欲をそそる様な幼さい顔立ちをしており、玲とはタイプが異なるが充分美少女といえる少女である。


 そして僕はこの人を知っている。


 彼女の名前は新藤風音さん。


 その容姿から学校でもかなり人気の美少女であり、徹の幼馴染でもあり、彼女でもある。


「やっほ~深夜君。それと徹」

「おい。俺の事はおまけかよ!?」

「別に徹はいつでも会えるしいいかなって……」


 新藤さんの全く悪びれないその姿勢には、ある種の尊敬の念を抱くものの、肝心の徹といえば愛しの彼女にそっけない対応をされたのかちょっぴり不機嫌な様子だ。


「おはよう。新藤さん。相変わらず元気いいね」


 僕が彼女と会うのはこれで3度目。


 初めて会った時から彼女はかなり人との距離感が近い人で、人とは極力距離を取る僕とは大違いだ。


「あはは! そう? あ、それと私の事は風音でいいよ~」


 八重歯を見せながら人懐っこい笑みで、彼女は僕にそう言った。


「あはは……そうだね。新藤さん」


 流石に本人から許可されているとはいえ、ここで安易に彼女を下の名前で呼ぶわけにはいかない。


 それは偏に彼女の人気のせいだ。


 彼女は玲ほどではないが、かなりの美少女で、人気もかなり高い。


 そんな彼女の名前をもしここで親しげに呼んだらどうなるか、まず間違いなく僕は校舎裏に呼び出され、折檻される。


 それ程までに彼女は人気なのだ。


 現に今も密かに僕を見て何か余計なことをしないから眼を光らせているものが大勢いる。


 そんな人気者が彼女だとさぞかし徹も大変だろうと思うのだが、彼は全く気にしていないどころか、自分が嫉妬されていることに気がついてすらいない。


 まあ仮にどんな邪魔が入ろうと徹は、新藤さんと離れる気はないだろうし、この二人は僕としても本当にお似合いのカップルだと思うので、力になってあげたいとは思っている。


「……ねぇ。徹」

「ん? なんだ?」

「深夜君ってもしかしてツンデレさんなの?」


 新藤さん、貴方もそう言うんですね……


「おお、そうだぞ。しかも今時珍しいとびきりのツンデレだ」

「そうなの!?」

「おい。何新藤さんに嘘刷り込んでいるんだ。大体僕の一体どこがツンデレだと……」

「朝比奈さんの事好きなくせに素直に言葉にしないところとか」

「……」


 そこのところはノーコメントでお願いします。


「え!? 深夜君、朝比奈さんの事が好きなの!?」

「新藤さん!! 声が大きい!! 周りに聞こえちゃうから!?」

「あ、ごめん」


 シュンとして、本当に申し訳なさそうに謝る彼女は、まるでリスみたいでちょっぴり可愛い。


「深夜……」

「ん? 玲?」


 いつの間にか僕の後ろに立っていた玲は、絶対零度の視線で僕の事を見下ろしていた。

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