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第三話 幸せを掴む為に 中編

入りきりませんでした....

 卑劣な手口に怒り心頭なのは私だけじゃなかった。

 特にお父さんの怒りは凄まじく、この1ヶ月で調べ上げた糞共の情報を正太の家族に全て話した。


「アイツらは...」


「なんて酷い事を...」


 説明が終わり、正太のお父さんとお母さんが呻く様に呟く。

 正太も辛そうな顔でお父さんの説明を聞いていた。

 赤の他人じゃない、実の兄が何故弟に対してここまで卑劣な行動が取れるのか、私には分からなかった。


「人の妬みとは相手が親族だと余計厄介になる物です」


「そういう物でしょうか?」


「ええ」


 お父さんは力強く頷いた。

 厄介な親族を毛嫌いしているお父さん。

 決して親戚付き合いが悪い訳じゃない。

 伊集院家の総領として親戚の相談は親身に乗る。


 しかし中には手に負えない親戚もいた。

 山師の様な事を言って金をせびったり、保証人になってくれと頼んだりする奴等だ。


 そんな連中は父さんが断ると仇の様な態度を取る。


『覚えてろよ!後悔するからな!』


『さあどうでしょう?』


 捨て台詞を吐く奴等に父さんは短く返していた。

 何をしたのか知らないが、そんな親戚はまもなく姿を消してしまう。


 今回はどうなるんだろう?

 出来れば徹底的に潰して欲しい。


 そして一週間が過ぎた。

 現在私の家族と正太の家族は父さんが用意した弁護士事務所の応接室にいる。

 伊集院家の顧問弁護士が経営する事務所。

 なにかと融通はきく。


 リラックスする私達家族と対照的に正太の家族は緊張した面持ちで座っていた。

 もうすぐ奴等が来る。

 父さんが弁護士事務所を通じて呼び出したのだ。

 

「分かってると思いますが、黙っていてはダメですよ」


 父さんは正太の家族に最後の念を押した。


「分かっています。

 しかし私達家族の問題で伊集院さんまで捲き込んでしまい...」


 辛そうに俯く正太の家族。

 正太、そんな悲しい顔しないで...


「山口さん、遠くの親戚より近くの他人ですよ」


「はい、ですが...」


 お父さんの言葉を理解しながらも、まだ躊躇いは捨てきれない様だ。


 「貴方、栞は正太君の他人じゃないわよ」


 「そうだったな」


 「ち、ちょっと!」


 お母さんったら何て事を言うの?

 自分の顔が赤くなるのが分かった。


 「そうでした。な、正太?」


「急に何を..」


 正太のお父さんが言った言葉に正太も慌ててる。

 正太ったら真っ赤な顔で...嬉しい...


 「そんな訳です。

 もう我々は他人同士で無いのです。

 それに問題の先送りは最悪の愚策、状況は更に悪化するだけです」


「そうですね」


 空気がすっかり変わり私達と正太の家族に一体感が生まれた。

 さすがはお父さんだ。


「奴等は貴方達家族だけでなく、栞までも貶めたのです。

 将来の禍根になる事はここで絶ちましょう」


「はい」


 怒気を含んだ父さんの言葉。

 正太のお父さんも静かに頷いた。


「正太君」


 お父さんは正太に向き直る。

 真剣な眼差しに目を背ける事なく、正太はお父さんを見つめ返した。


「はい」


 「奴等は我々がなんとかする。

 君がしなくてはいけない事は別にあるんだよ」


「それは?」


「後で分かる」


「分かりました」


 正太はしっかり頷いた。

 迷いは無い、信じてるよ。


「お着きです」


「分かった、お連れしてくれ」


「畏まりました」


 扉がノックされ、事務所の方が奴等の到着を告げる。

 部屋の緊張感が再び高まった。


「...失礼します」


 扉が開き入ってきた三人。

 年配の夫婦と...アイツだ。

 アイツは私を見るとニヤリと笑う。

 今日はどんな場か分かっているのか?

 金髪にピアス、派手な革のジャケット。

 外見で人を判断してはいけないが、余りに馬鹿丸出しの姿だ。

 しかもあのジャケットは...


「初めまして、私パットン商事の代表、山口と申します。

 この度は伊集院様に...」


 いきなりの自己紹介、男は胸ポケットから名刺を取り出す。

 その妻も媚びた笑顔でお父さんを見る。

 どうやらアイツの馬鹿さ加減は親譲りの様だ。

 正太の家族は呆れを通り越した様子で馬鹿達を見ていた。


 「くだらん挨拶は抜きにしましょう。

 どうして呼ばれたか分かってますよね?」


「いやそれがサッパリ」


「ええ、私共何かしましたかしら?」


「なんで正太が居るんだよ...」


 名刺の受け取りを拒否された馬鹿達は何も言わない内に椅子へと座る。

 不満そうな態度で正太の家族を睨みつけた。


 「貴方達が山口正太君の家族を貶める為、誹謗する張り紙を学校の門に貼ったからに決まってるでしょうが!」


「何の事だか」


「し...知らないわよ」


「証拠はあるのかよ!」


 当然だが奴等は(とぼ)ける。

 当たり前だが腹が立つ。


「証拠はありますよ」


 お父さんはテーブルに置かれていたパソコンをクリックすると壁に掛かったモニターに映像が写し出された。

 そこには薄暗い中、学校の校門に張り紙を張り付けるフルフェイスのヘルメットを被った二人の人間が写っていた。


「これは...」


「学校の防犯カメラの映像です。

 ほら、この車のナンバー、ハッキリ写ってますね」


 お父さんは動画を止め、写っていた車のナンバーを指差した。


「こんな車に見覚えがありませんな」


「そうですわ、私共の車ではありません」


「なら、これはどうですか?」


「「ぐ...」」


 お父さんはパソコンを操作する。

 フルフェイスの男を拡大された。

 人相は分からないが、着てる服はハッキリと分かる。


 黒の革ジャケット。

 目の前に居るバカが着てる物と同じ...


「ソチラの方が着てる服と似てると思いませんか?」


「知らねえ!」


「た、他人のそら似だ!」


「これだけなら、そうかもしれませんね」


 お父さんはモニターの電源を一旦落とす。

 これで白状するとは思って無い。


「全く、酷い名誉毀損ですぞ」


「本当に、やはり卑劣な人と関わるとダメですわね。

 伊集院家ともあろうお方が」


「そうだよ、アンタも正太とあんな所うろついてたら人生棒に振るぜ」


 息を吹き返すバカ達。

 逃げ切れたと思っているのか?


「栞さんだっけ?

 正太なんかと付き合ってないで、俺の彼女にならないか?」


 バカの言葉は一瞬何を言っていたか分からなかったが、次の瞬間頭に血が昇った。


「...なんですって」


「止めろ栞」


 思わず立ち上がろうとする私の手を正太が優しく握る。

 その手は小刻みに震えていた。

 正太が怒っている。


「正太...」


 椅子に座り直し、テーブルの下で握られていた正太の手を優しく握り返した。


『大丈夫だよ、ありがとう正太』

 心で正太に呟いた。


「そうよ栞ちゃん、家のマー君とお付き合いしなさい。

 貴女なら家のお嫁さんにピッタリよ」


「そりゃ良い、なんと言っても家の息子は医大生なんです」


「止せよ、この子だっていきなり負け犬の正太から俺に乗り換えられないだろ?

 先ずは時間をかけなきゃ、ね?」


 私達が何も言わないのを良いことにバカ共が好き勝手な妄言を吐き散らす。

 なんなんだコイツらは?


「お前等いい加減にしろ...」


 正太のお父さんが声を絞り出した。


「な...なんだと!?」


「確かに私は会社を潰してしまった。

 それは正太に関係無い話だろうが!!」


「そうよ!

 親の仕事は息子に関係無いでしょ!」


 正太のご両親が怒りを露にする。

 当たり前だ。


「ふん、馬脚を現したな。

 伊集院さん見ましたか?

 これがコイツらの本性です。

 全く兄として、お恥ずかしい限りです」


「でも大丈夫ですよ。

 私達はこの一家と縁は切ってますから」


「ああ、安心して俺に着いてきな」


 バカは正太の家族を罵る。

 ダメだ、やっぱり我慢出来ないよ。


「調子に乗るな!!」


 部屋に響く怒号。

 それはお父さんからだった。


「な...」


「黙って聞いてれば、いい気になりおって...」


 怒りを滲ませるお父さん。

 滅多に見せない顔。

 私まで身体が強ばる。


「何が家のマー君のお嫁さんだ?

 大体stool(スツール)医科大?

 なんだそのふざけた大学は!」


 確かに聞いた事の無い大学だ。


「あなた、誰でも金を積めば入れるので有名な医科大よ」


 お母さんが呆れ顔で教えてくれる。

 成る程、偏差値は推して知るだな。


「ど...どうしてそれを」


 バカ共は真っ赤な顔で絶句する。

 知られて困るなら医大生と自慢しなきゃ良いのに。


「お前等の事は調べさせて貰ったぞ!

 何がパットン商事だ、中身はマルチ商法スレスレではないか!」


「それも粉飾決算を繰り返して倒産寸前」


 お母さんは絶妙な合いの手。

 公認会計士の資格を持つお母さんは手に入れたバカ共が経営する会社の帳簿を調べ上げた。


「覚悟するんだな、叩けば埃所では済まされんぞ」


「「「そ...そんな」」」


 お父さんの迫力。

 バカ共は完全に呑まれていた。


「お...俺は関係無い」


「こら昌夫!」


「何を言うのマー君!」


 「俺は関係無い!

 お前等が勝手にやった事だろ!」


 醜い仲間割れ。

 しょせんクズという事か。


「張り紙もか?」


「俺は何も知らねえ!」


「そうだ!名誉毀損だ!」


 バカ共は正太のお父さんに食って掛かる。

 私のお父さんに行かない意気地無しが。


「レンタカーだろ?」


「ど....どうしてそれを?」


 「...調べる間でもない、ナンバーを見ればな。

 後はレンタカー屋を当たればお前等にたどり着く」


「あぁ...」


 バカ共はガックリとうなだれる。

 どうやら破滅を覚った様だ。


「山口さん」


「...はい」


 お父さんが部屋を出るバカ共に声を掛けた。


「あなたがご両親から相続した遺産についても色々と疑いがありますね」


「な!?」


 奴等は驚いた目をする。

 そんな事まで調べたのか、と思っているのだろう。

[手加減はしない]

 お父さんはそういう人だ。


「遺言書に対する私文書偽造罪も加わりましたね」


「そんな...」


「おい、何とかしてくれ!!」


 クズは正太のお父さんにすがりついた。


「私から話す事はありません。

 後は外に控えてらっしゃいます弁護士と話をされたらどうですか?」


「...糞」


 突き放す正太のお父さんにクズが吐き捨てた。


「くだらん事は考えない方が身のためですよ」


 お父さんが睨みつけた。


「なに?」


「忠告はしました」


「わ...分かりました」


 バカ共が項垂れながら部屋を出ていくと部屋に静寂が戻る。

 事務所のスタッフが新しいお茶を運んで来た。


「ありがとうございました」


 正太がお父さんに頭を下げた。


「何がかな?」


「僕だけでなく、お父さんの事まで」


 正太の手に力が籠る。

 そういえばさっきから握られたままだった。

 離さないよ、当然だけど。


「次は君の番だ」


「それって?」


「君が過去に決着をつける時だよ」


 お父さんの言葉を理解出来てない正太。

 ゴメンね、でも乗り越えて欲しいんだ。

 私の為じゃない、正太の為に...


「伊集院様」


 扉が再びノックされた。


「川合様がお見えです」


「...え?」


「入って貰いなさい」


 その名前を聞いた正太は全てを理解したのだろう。

 私を見つめ静かに頷いた。

 安心して、私は絶対に貴方の傍にいるからね。


 静かに扉が開いた。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] 金髪にピアス、派手な革のジャケット こんなのが何が良くて、マー君なんだか。 [一言] パットン商事(笑)。どんな会社だよ。 いやいや、国家試験パスせんのじゃあマー君(笑)。 マー君…
[一言] 主人公にも見せ場があるようで一安心。 ですが、川合家って何か呼び出すほどの事しましたっけ? 嘘に踊らされて、裏取りもせず罵倒したくらい?(罵倒では無いか) 実は相続に絡んだ不正に関わって…
[一言] まだ序の口かな。裁判ドラマを見ている訳じゃないので結果と悲惨な末路がわかればいいかな。川合家は選択を間違えただけなので絶縁以外は特にすることはないなぁ。これで正太が何かしたら明らかにやり過ぎ…
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