バントや、バントや!
打って、投げ、守って、走って、チームプレイを輝かす。
そんなスポーツの一つが、野球にはあるだろう。
プロ野球リーグ。
野球選手を目指し、その道半ばで諦めるものは大勢おり、その中の頂点とは一握り。誰もが一番を、……そう思ってぶつかり、壁を知る。自分は大したことのない選手であったのか。現実の壁にぶつかった。
「1アウト1塁か……」
そのプロ野球選手の壁にぶつかった男。
選手の名は、旗野上護。22歳の4年目。
守備という面では、このプロ野球界でも5本指には入るだろう名手。どんなポジションでも鉄壁な守りを持ち、強肩、状況判断も優れている。ある時はショート、ある時はキャッチャー、ある時はセンターと。守備全振りのユーティリティーな選手は、プロ野球マニアには少し受けが良かった。
そんな選手がなんでスタメンになれないのか。
まず、使い勝手が良すぎるので、ベンチにいて欲しいこと。サブとして優秀過ぎる。
そして、ゴミ過ぎるほどの打撃能力だからである。
「さぁー!ここで打席に立ったのは、旗野上!現在、10打席連続ノーヒット中。打率、0.105!」
実況に言われるほど、彼の打撃力は乏しい。目はいいんだが、センスの欠片もないと自他共に認めている。相手投手からすれば、イージーな打者だ。投手程度の選手が8番打者にいてくれる。
打線を完全にぶったぎる、雑魚。
「………………」
ここは三振しとくか。ヒット打てる気がしねぇし。バントしたって、次の川北さんに代打出すわけねぇし。まだ5回で余力ありそうだしな。
そんな考えもあって、旗野上はあっさりと三振するのである。
やる気がないわけではない。1番打者からスタートした方がいいという考えだ。なんでもかんでも、ヒットを打てばいい。まぁ、打てないけれど。調整はなんでも大事だ。
◇ ◇
20歳という若さから一軍で経験を積んでいるが、未だに守備固めを中心とした起用。打撃での期待はまったくなし。それは結果からもそう……。
3年目の打率は1割。
4年目も1割……。
足は速いが、自分で塁上に出られる力は乏しく。四球さえ気を付ければいい。そんな彼なのだが、ある条件ではなんと脅威の3割打者に変貌する。本人、それを自覚した事もないのだが。
その条件とは、
【ノーアウトOR1アウト、1塁】
「あー、またかよ……」
物凄く、嫌そうな顔をして打席に入る旗野上。この打席、あまり好きではない。
「おらーーー!旗野上、バント決めろーー!!」
「守備だけが野球じゃねぇんだ!バントは決めろ!」
チームメイト、観客含め。ヤジとちゃかしばかり。相手チームも、旗野上のバントを警戒したシフトを組む。それにその通りですと、バントの構えをする。
バントを警戒される中、それを決める……。これがプロなのだが、いや難しいし慣れない。
どうせ、次は投手の打席だ。バントしてもあんまり変わらないだろ。せめて、併殺にならないようにするくらい。
バシィィッッ
「ストライク!」
相手投手がエース級なら、迷わずバントだ。決められる球でバントを決める。
だが、3番手や4番手投手なら。1ストライク後。バントってのは、守り側からすればかなり楽なアウトの1つだ。それと相手投手もどーいう球を投げたいかを見る。
カッ
「ファール!」
2球連続。簡単にストライクをとってくる。ただのバント失敗だが、それでも向こうの守備態勢はバント警戒。できるんだったら、2塁を刺す構え。
サードは前進。ショートは、ややセカンドベース寄り。
内野全員、プレッシャーをかけるように前に意識が向き。外野も前進守備。
欲張るアウトを取りにきている。そうなると、インハイに強めのストレート。あるいは右投手のスライダーで、左打者の自分を差し込むような球。
そこらへんに絞れれば、
カキ―ーーーンッ
芯で捉えた(?)らしき音だが、力負けか捉え損ねているようなフラフラした打球。ファーストの後ろに飛んでいった打球は……
「ヒットーーーー!旗野上、強行でチャンスを演出!ノーアウト1塁2塁!!」
内野の頭を越え、前進している外野の前に打球が落ちる。
雑魚と言われていても、守備の穴を突けばヒットになる。その手のバントを封じにくる球は、振りを早めて引っ張るといい。上手く当たると、セカンドの頭を越えるし。ストレートに少し振り遅れても、サードとショートの頭を越えてヒットになる。
「まーったく……手ぇ痛っ」
「ナイバッチ」
「あ、どーも」
外野も前進してるから、その間を鋭く打球が抜ければ2塁打。
運が良ければ、打点も挙げられる。
ま、この手の守備は打者がまったく打てる選手じゃないって条件付きだろう……。打力のない自分にピッタリである。
旗野上の打率は例年通り、1割台。
しかしながら、ノーアウトOR1アウト、1塁での打率は3割6分。バント成功率も8割と……。
「ほとんど、その時しか打ってねぇじゃん!」
打撃オールGの旗野上が猛打賞。(パワプロにて)
いずれも、走者1塁で同じような当たりでヒット……。
なお、後続は続かず、負けた模様。




