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第09話 謎の女神と守護の魔法


「思ったより、この洞深いのね…。」


ヒカリゴケの変異種を見つけるため、メルナは魔法杖に松明を括り付け洞の奥へ進んでいる。

洞は暗く入り組んでいるが、一本道であるため迷うことはなかった。

しかし、進めど進めど未だにヒカリゴケの変異種は見つからない。


「(あまり進むのも危険ね…。もし村に怪我人がが出たらあたししか直せないし…。)」


そう考え、引き返そうとした時だった。


「こ…ないで…」

「だ、誰!?」


メルナの進む方角から微かに女の子の声が聞こえた。

彼女は即座に両手で杖を構え、暗闇を睨む。

だが、何も起こらない。


「(気のせい…よね…?)」


メルナは魔法杖をおろすと、ため息と共に体の緊張を解いた。


魔法使いと言えど、治癒を専門とする彼女が持つ攻撃手段はただ魔法杖で殴るだけである。

村の屈強な戦士ならともかく、16歳の彼女の攻撃では怪異はおろか動物にも通用するか怪しかった。


「ちょっと、無茶しちゃったかな…。」


松明やヒカリゴケの明かりで足元は見えているが、一寸先は何も見えない。

メルナは不安感から、洞の闇が自分を飲み込んでくるような錯覚をする。


「…もう少しだけ、進んでみよう。」


村のため、ククルのため、怯えてなどいられなかった。

メルナは勇気を振り絞り再び足を踏み出す。


「だめ…!」

「っ…!?」


今度ははっきりと聞こえた。さっきより声が近い。


「…誰!誰なの!?」


メルナは杖を前方に伸ばし、膝を曲げて構える。


「きゃっ!」


突如、前方で眩い緑色の光が輝く。

久々の眩い光に、メルナは思わず目を細める。


「(眩しい!前が見え…。)」


眩しさに視界を一瞬奪われるが、すぐにその光は小さくなった。


「…あ、あなたは…?」


メルナの前に現れたのは、ぼんやりと光る同い年くらいの少女であった。

彼女の体は薄く透けていて、妖精種のように宙に浮いている。


見慣れない格好をしているものの、その幻想的な姿は村に伝わる女神のようであった。


「…私は、サキよ!」


彼女は、自らをサキと名乗った。


「残念だけど、あなたに詳しく説明している暇はないの。…ああは言ったけど、きっとお兄ちゃん(・・・・・)はこっちに来ちゃうから…。」

「お、お兄ちゃん…?」


メルナはサキの言っていることが理解できない。

サキは、状況が呑み込めず混乱するメルナに構わず言葉を続ける。


「あなたがどうして、こんなところにいるのか私にはわからないけど…。とにかく、私はすぐに行かなくてはならないの…。」

「お待ちください!どうか、皆を助ける力をお貸しください!」


事情はわからないが、サキはすぐにでもどこかへ行ってしまいそうな様子だった。

サキが女神かどうかは分からないが、藁にも縋る思いのメルナはサキに訴える。


「力を貸すって言われても…。」

「お願いします!どんなことでもします。皆を護る力が欲しいんです…!」


必死で訴えるメルナを見たサキは逡巡した後、ゆっくりと両手を差し出した。


「…わかったわ、ここで会ったのも何かの縁よね。私はどうせ何もできないし、あなたに私の力を授けるわ。大切な人を護り抜く、大いなる力よ。」


サキが差し出した手の先に、白い光が現れる。

その光は、メルナの身体へ吸い込まれるように消えていった。


「これは…なんて…!」


メルナは身体の奥底から膨大な魔力が湧き出るのを感じる。

彼女は、サキが女神であると確信する。


「大きな力を感じます。女神さま、このご恩は一生忘れません。」

「感謝なんていらないわ。その代わり、もしもあなたの願いが叶ったなら、私の願いを聞いて欲しいの。」


サキの申し出にメルナは真剣な眼差しを向ける。


「…キョウという人と出会ったら、私の代わりに彼をその力で護って欲しいの。これはお願いよ。」

「わかりました!命に代えても、そのお願いを果たして見せます。」

「…命を懸けるほどではないわ。」


サキが苦笑いをすると、彼女を包む光がだんだんと弱くなっていった。


「じゃあ、もう行くわね。あとは…頼んだわ。」

「ええ。本当に、ありがとうございます。」

「…また、どこかで会うかも知れないわね…。」


サキは微笑むと、そのまま闇の中へと消えていった。


「(不思議な出来事だったわ…。)」


サキが消えると、メルナは目が覚めたように現実へと引き戻された。

夢だったのではないかと疑うが、湧き上がってくる魔力が間違いなく現実だと証明していた。


「早く、みんなのところへ戻らなきゃ。」


メルナは振り返ると、来た道を急ぎ足で戻って行った。



* * * * * * *



「お姉ちゃん!」

「メルナ!無事だったか!」


ドルトとククルが、帰ってきたメルナへ駆け寄ってきた。


「ククル…みんな、どうしたの?」


メルナは、予想以上に村の皆が自分の心配をしてくれていたことに驚く。


「オババが突然、この洞の奥に強大な力を感じるって言ってよ。急いで皆を集めたんだが、お前だけ居なくて心配してたんだぞ。」


オババは、かつて魔法使いの冒険者だった老婆である。

どうやらサキの力を察知したようだった。


「今はもういないようだが、メルナは大丈夫か?」

「あたしは大丈夫よ。それに、その強大な力の持ち主をあたしは知っているもの。」

「どういうことだ…?」


眉を潜めるドルトに、メルナは先ほどまでの不思議な出来事を語った。


「女神に会って、力を授かっただってぇ?」

「本当よ!皆を護る力を授かったわ!」


ドルトは、メルナの話に半信半疑と言った表情を向ける。


「しかしそんな女神、伝承でも聞いたことねぇなぁ…。」


ドルトは腕を組み考え込む。

こんな名も無き洞の奥地に女神など現れるはずもない。


「信じて!今すぐここを出て、(ランド)アルカナを目指すの!」

「おいおい待てって。そんな賭けみたいなことできねぇだろ…。」


メルナは今にもこの洞を飛び出そうと息巻いている。

もし彼女の言うことが真実ならば、村人皆で逃げ伸びることは不可能ではない。


「(どのみち、ここにいたら死を待つだけなのは間違いねぇ…。)」


光玉は尽き、食料も水もなくなりかけている。

洞の入口は既に黒い根が侵食し、今にも魔影がここまで入り込んで来そうだった。


しかし、村人の命を預かる者として迂闊な行動はできない。


「(どうするべきか…)」

「ドルト様!」


ドルトの思考を遮るように、洞の入口で見張っていた若者が飛び出してきた。


「魔影が!洞に入り込んで来ました!」

「何ぃ!?」


ドルトは思考をやめ、魔影の対処に頭を切り替える。

いずれは来るだろうと考えていたが、予想より早い。

侵略のスピードは想像以上だった。


「女子供と年寄を奥へ!若い者は剣を取れ!」


ドルトは村人へ指示を出すと、自らも剣を取った。


「(光玉もない今、どこまで食い止められるかはわからないが、今はやるしかねぇ…!)」


洞の入口の方向を睨むと、ドルトは眼を見開いた。


「おい…メルナ!」


あろうことか奥へ避難させるはずのメルナが最前線に立っている。

その先には、松明に照らされた魔影らしき姿が数体確認できる。


「メルナ!何してんだ!早く奥へ逃げろ!」


ドルトの大声が洞に響き渡ると、彼女は落ち着きながら振り返って言った。


「言ったでしょ。あたしには、皆を護る力があるって。」

「何言ってんだ…!」

「…本当よ。」


メルナは微笑み、杖で地面を突いた。

その瞬間。


「なっ…!?」


魔影の前に突如魔法壁が現れ、進行を完全に食い止めた。

魔法壁の向こうには攻撃する魔影の姿がうっすら見えるが、破壊される様子はない。


「防御魔法…?」


オババが、驚きに満ちた声で呟いた。


魔法を全く使えないドルトにも、何が起こっているのかは理解できた。

魔影の攻撃を受けてもびくともしない魔法壁など、人類には実現不可能なほど高度な魔法だ。


「それも、詠唱も魔方陣も無しにか…。」


ドルトは、魔法壁の前に立つ少女の背中に視線を移した。

小さなその背中は、村にとっての最後の希望となった。



* * * * * * *



「引き返していったぞ!」


村の若者が、喜びの声を上げた。

魔法壁を破壊できないと知った魔影は諦めて洞の外へ引き返した。


魔影の知能はそこまで高くはない。

テリトリー内の獲物はどこにいても感知し追いかけてくるが、手を出せない獲物は早々に諦めて別の獲物を探しに行く。

故に、またしばらくの間は安全と言えた。


「ふぅ…。」


メルナは、額についた汗を拭う。

魔力量には余裕があるものの、人類が体験し得ない大出力の魔法は、慣れない身体には負担が大きかった。


「まだ、練習が必要ね…。」


勝手がわからず全力で魔力壁を発動させたが、魔影の様子を見る限りもっと力を抑えても問題なさそうだった。


「メルナちゃん!大丈夫か!」

「助かったよ!ありがとう!」


洞の村人が口々に感謝の言葉を投げかける。

メルナは背中がむず痒くなった。


「メルナ、お前の言うことを疑って悪かった。」


ドルトが剣を置いて彼女に近寄る。


「大丈夫よ。こんな魔法、私でも信じられないもの。」

「がはは、違いねぇ。」


ドルトは笑うと、メルナの肩に手を置いた。


「お前の言う通り、明朝ここを出て村の皆で(ランド)アルカナへ向かおうと思う。魔力は大丈夫か?」

「ええ、大丈夫よ。少し休めば問題ないわ。」

「そうか。…村を、頼むぞ。」

「任せてちょうだい。」


メルナは力強い眼差しをドルトへ向けると、魔法杖を強く握りしめた。


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