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転移THE魔法少女!  作者: 田中トム
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プロローグ 力の代償



満月が綺麗な雲のない夜、ある森の中は所々で黒煙があがり、木々が倒れる音や破裂音に金属同士がぶつかる音などで賑わっていた。

そんな中、一際大きな悲鳴が少し落ち着いてきた森の中に響き渡った。


「がああああああああああああああああああああああ離せっ!はな」


 フルプレートアーマーを纏う騎士の頭をヘルムごと握り潰したのは三メートルを超える鋼鉄の巨人。対戦車ライフルにも耐えうる漆黒の装甲は深々と突き刺さった剣や各所のヒビ、ひしゃげた頭部に焦げた後などで無残な姿となっており、右腕に至ってた肘から先は離れた木に刺さった剣を握っていた。


「屑鉄があああああああああぁぁあっ!」

「うおおおおおおおおあああああああああああっ!」


 二人の騎士が左右の斜め後ろから分かれて切りかかり、鋼鉄の巨人はそれに対して騎士の死体を左回転で振りぬいた。

 左から切りかかった騎士は肉塊になったが、右の騎士は姿勢を低くすることで鈍器と化した騎士を避ける。


「フルスイング!」


 剣に限らず手に持つ物に魔力を込めて威力を上げる戦いの基本技。その騎士の魔力が限界まで込められ、淡い光を放ちながら振りぬかれた剣は丁度勢いで一回転して見えた膝裏に直撃し、見事断ち切ることに成功した。


「よし切れた!っえ」


 しかしそのことを予想していたかの様に鋼鉄の巨人は勢いと体の捻りでコースを変え、一トンにも及ぶ自身の体で体勢の崩れた騎士に覆い被さった。


「中隊長!」

「まて!まだそいつは」


 潰された騎士を見て飛び出した弓を持った軽装の騎士と、それを止めようとしたローブ姿に杖を持ったの騎士は鋼鉄の巨人が左腕を向けていることに気付く。

 不味いと思った時には既に手遅れ、轟音と共に発射された大粒の散弾が二人を襲う。騎士のフルプレートアーマーですら紙のように引き裂く威力を軽装の二人が近距離で受ければどうなるかは考えるまでもなかった。


『...ッ!』


 周囲に動くものが見当たらなくなってから十数秒後、ぎこちない動きで付近を見渡していた頭部が急にガコン!という音と共に仰け反った。

 ことりと横に落ちたのは金属製の矢、当然金属製で魔力を纏っていたからからといって対戦車ライフルを弾き返す装甲を貫くことは出来ないが、大きな衝撃は頭部のセンサー系に僅かだが確実にダメージを与えていた。

 鋼鉄の巨人は残ったセンサー類で走ってくる一人分の足音と人影を検知、左腕を向け散弾を発射した。センサー類へのダメージにより正確な位置はわからなくても散弾であるが故広範囲への攻撃が可能となる。命中精度は悪くても一発当たれば体が引き千切れるので問題はない。

 しかし二発撃っても反応が消えず、三発目は撃つ前に矢が腕を弾いたためあらぬ方向へと飛んでいった。その間に距離を詰めた騎士が残った左腕を切り飛ばす。


「仲間の仇は生身のてめえでとってやる。首を洗って待っていろ」


 銀色の刀身は黄金色に輝き夜の森を照らす。振り下ろされた刃は鋼鉄の巨人をバターのように真っ二つし、それ以降巨人はピクリとも動かなくなった。


「ちくしょう...間に合わなかったか」

「レン、あなたは悪くない、まさかドレッドノート一個小隊を分散して配置してくるなんてね、完全に時間稼ぎが目的よ」

「だろうな、奴らが来る前に最低でも基地に取り付いて乱戦に持ち込まないと、リサさん被害はどれくらいですか?」


 ドレットノートを両断したのは他の統一化された重装甲のフルプレートアーマーを着た騎士と違いヘルムは付けておらず、全体的に軽量化され動きやすさを重視した物となっていた。他にもその場にいる五人の騎士はそれぞれカスタムされた武具を装備しており、通常の騎士ではないことがわかる。

 悔しそうに顔を歪めるのは青年の域にギリギリ達していないような少年。レンと呼ばれた騎士は、森林迷彩の施されたローブを纏う二人のうち女性の方に問いかけた。


「キリアス中隊長が死亡および第一小隊が全滅、それ以外では死亡十七、重症四との報告です」

「キリアスさん...。軍規に従い第二小隊長のジーナさんを臨時の中隊長とし、以後ジーナ中隊と呼称します。今小隊の中で最も人数の少ない小隊は何人ですか?」

「六人です」

「ならその小隊に負傷者を連れ帰ってもらいましょう、残りはそのまま前進、ただしドレットノートを発見した場合は即後退し、俺達が行くまで無理しないよう伝えてください」

「わかりました。十秒ください......終わりました。各中隊前進開始しました」


 十秒ほど祈るように胸の前で手を組み、少し疲れたように息を吐き出す。複数人に対して念話が出来るだけで優秀と言われる中、森に散らばる各小隊の通信役合計十人以上と同時に念話を行えることは彼女が如何に優秀な騎士であるかを証明していた。

 他にもドレットノートに弓矢でダメ―ジを与える。剣で両断する。大粒の散弾を防ぐバリアを張るなど流石帝国の精鋭部隊――インペリアルナイトといった所だろう。


「この奇襲作戦で失敗すれば今後この基地を落すのは難しくなる。だから絶対に作戦を成功させよう!」


 レンの宣言後、リサが杖を掲げると半透明のオーラが全員を包み込む、血の匂いが濃くなっていく夜の森を獣の様な速度で駆けだして行った。







「完全に待ち構えてますね、前方三百メートルに四機のドレットノートが等間隔に並んでます。恐らく銃持ちと剣持ちが二機ずつ、さらに後方二百メートル辺りに一機、おそらく遠距離攻撃が可能な携行砲を装備しているかと」

「リサさんありがとう、時間がもったいないから何時もの方法で行きます。遠くの奴はルイシャ、銃持ちはエルさんとディーノさんに任せます。俺が一対一でドレットノートを潰すのでそれまで何とか抑えてください」

「ええ任せて、無傷で白兵戦まで持ち込ませてあげるわ」


 ルイシャと呼ばれた少女はローブ姿の騎士と同じような森林迷彩の施された大きめのマントをはじめ、迷彩色の動きやすい服やアクセサリーで鼻しか地肌の見える所がないという少し変わった格好をしていた。

 レンの幼馴染にして物心ついた時からの戦友、爛々と輝く赤い目はゴーグルによって良く見えないが、声はこいつにならなんか任せられるという謎の信頼感が生まれる程自身に満ちていた。素顔は見えなくともガッツポーズと声色からわかるドヤ顔に緊張状態の中でも自然と周りから笑みがこぼれる。

 武器は背中に大きな矢筒と小さいな矢筒、手には弦の無い木製の小さめの弓...つまりぱっと見湾曲した只の木の棒を持っていた。


「おう頼りにしてるぞ、よし!全員フルエンチャント、隊列は前からホウズさん、俺、エルさん、ディーズさん、リサさんでいきます。十分でかたをつけるぞ」








『......む?来るぞ!全機撃ち方初め!』


 二機の剣を持つドレッドノートは左腕から散弾を撃ちながら走り出す。残りの二機は元々ヘリや装甲車に装備されていたミニガンを発射した。そして後方の小高い丘には自身の半身を隠す大盾と九十ミリ携行砲を持ったドレッドノートが一機と、周りには大きな三脚の上に乗ったゴツゴツしている謎の球体が幾つも置かれていた。

 激しい弾幕に対して騎士達は一列に並んだまま真っ向から突っ込んでいく、その一番前は通常の騎士より分厚いフルプレートアーマーに巨大なタワーシールドを持つホウズと呼ばれた騎士だった。彼の展開するバリアとそれをサポートするリサのお陰で銃弾は全てはじき返され、本来なら重装備により常人が走る程度の速度しか出ないところがアスリートもびっくりな速度でドレッドノートに迫っていた。

 しかし流石に九十ミリの直撃ともなれば多くの魔力をバリアに持っていかれるし、破られる危険性も高い。かといって進路を変更する余裕もなく、相手が弾を外してくれるよな幸運なんて期待するだけ無駄だった。


『ルイシェ頼んだぞ!』

『言われなくても!』


 レン達の百メートル程前で小さな爆発が起こった。それも続けて何回も、それが何か後方のドレッドノートを操るパイロットには理解できても信じたくない事実だった。


『まさか撃ち落としてるのか...?しかもここまで届くかのかよ!』


 リロード中のドレッドノートの周囲にも似たような爆発が幾つも起こる。トロフィーシステムによって迎撃され、矢が機体に届くことはなくともセンサーによって出された想定威力は遠隔操作しているパイロットに冷や汗をかかせるのに十分な数値だった。

 ある程度の位置は飛来する矢の方向でわかるものの撃ち返しても意味がないことは解っていた。攻撃は最大の防御、引き続き突っ込んでくる騎士に対して攻撃を続けた。

 しかし同じように全て撃ち落とされ、白兵戦に持ち込まれたことで援護を諦める。いくらドレッドノートが頑丈とかはいえ九十ミリ携行砲を誤射すれば流石に不味い。そこから暫くは遠距離で不毛な撃ち合いが行われることになった。

 

「散開!シールドの維持を頼みます!」


 ミニガン持ちの二機は大型ナイフを持った小柄な少女とローブ(男)姿の男が向かった。

 エルの担当は戦闘では無く隠密系の潜入索敵、攻撃力はほとんどないものの機動力に特化したヒット&アウェイは何者にも捉えることは出来ないと言われている。

 懐に入り、胴手足など一瞬で何か所も切りつけるが傷一つ使ない。それに対してドレッドノートは自身の装甲の一部を爆発させた。中距離タイプは機動力と引き換えに二重装甲を採用しており、装甲の間にある爆薬で外側の装甲を散弾のように飛ばすことが出来た。爆風と相まって接近してきた敵に高確率で大ダメージを与える物だがエルには効かない、瞬間移動を思わせる速度で非殺傷圏外まで距離を取り、再びミニガンを構えるドレッドノートに肉薄し切り付ける。


 ディーズは土魔法でドレッドノートの足と腕を固定していた。長杖を地面に突き刺し、少し俯きながら呪文をぶつぶつと呟いている。一見地味だが本来ドレッドノートのパワー抑えるには魔法に特化した騎士二十人分の魔力が必要だと言われている。サラによる援護が多少あるとはいえ一人で魔導中隊クラスの魔力を有し、それを余すことなく使うことが出来る才能も備えたまさに天才魔導士と言える存在だった。


 ホウズは鎧込みの全長が二.五メートルを誇る巨漢で、そのガタイ相当の盾と剣を装備した重装騎士だ。ミニガンや散弾の流れ弾が当たってもはじき返すシールドをサラの助けを得て全員に付与しており、自身の肉体や鎧にはさらに強固な防除魔法を掛けることでドレッドノートとの打ち合いを実現していた。本来なら真っ二つか軽石の様に飛ばされる一撃も盾で受け切り、剣で殴りつけ相手のバランスを崩す。生死を掛けないショーであれば誰もが見ていて白熱するバトルになっていただろう。


 そしてこのメンバーの切り札、インペリアルナイトの中でも数少ない単体でドレッドノートを撃破出来る騎士、それがレンだった。

 巨体故に遠くからはドレッドノートの剣を振るう動きは緩慢に思える。しかしいざ対峙するとキレのある太刀筋と速度に騎士達は成すすべなく切られ、攻撃は弾かれる。

 だがレンは違った。ドレッドノートの攻撃は最低限の動きでレンに受け流され、逆にレンの濁りなき透明な魔力を纏った剣の攻撃は浅くとも着実にドレッドノートを傷を付けて行った。

 不利と悟ったドレッドノートは大剣を手放し、腰の大型ナイフを脇を閉めるような体勢で構える。巨体が頑張って身を縮込めているようで可愛らしいと一部から人気を得ている構えであると同時に、重要な機器の多い胸部頭部や弱点の関節部分を庇いながら、細かい動きと左腕の散弾銃で牽制して死角である背後を取らせないようにする堅実な構えだ。

 このままお互いに決定打を与えられず膠着するかと思われた状況を動かしたのは騎士の方だった。


「シールドバッシュ!」


 ホウズが自慢のパワーと盾でドレッドノートを吹き飛ばした。吹き飛ばしたと言ってもカウンターで二メートル程下がらせたに過ぎない、しかしその先にはレンに回り込まれまいと牽制しながら後ろに下がるドレッドノートの姿があった。


「これで終わぅっとと」


 重い金属同士が激しくぶつかる音が響き、二機のドレッドノートはバランスを崩す。それでも姿勢制御装置やパイロットの腕によって倒れることは無く、それどころか体を投げ出すように相打ち覚悟の一撃をレンにお見舞いする。ドレッドノートの胴体を両断出来るだけの魔力が込められた一撃は回避を優先したため左腕を持って行くに留まった。


『くうぅ煙幕散布!五番機以外は三番機へ集結!』


 高性能バランサーのお陰ですぐに体勢を整えたドレッドノートを初め、四機が一斉に煙幕を撒き散らす。瞬く間に一面しろの世界へ飲み込まれるものの、サラの風魔法で煙はすぐ霧散した。

 その隙に三機はディーノの拘束するドレッドノートの元へ集結を果たした。拘束されていない方のミニガン持ちがAMT(アンチマジックトーチ)を地面に突き刺し、薄く靄の掛かったドーム状のシールドが四機を包み、土の拘束が解かれる。

 AMTはようするに範囲内のジャミング、拘束などトラップ系や火炎弾など遠距離攻撃は勿論、魔法による洗脳や睡眠状態なども無効化する優れものだった。しかしながらドレッドノートも通常動力と魔力動力のハイブリッド、対策はしているとはいえ性能は大幅に落ちる。さらにAMTは大量生産できない、効果時間が短い、範囲もさほどということから一時しのぎの非常手段として使われるのが主だった。

 近づけばAMTの範囲内に入りまともに戦えない、ただ中遠距離では火力が足りない。時間稼ぎが目的のドレッドノート優勢に思われた戦況の中、レンは勝利を確信した。

 AMTが置かれた直後エルの走り出した先は孤立する携行砲持ち、二百メートルなどエルなら十秒と掛からない距離だった。


『そっちに速いのが行ったぞ!』

『わかってる!くっそ当たんねぇ!』

 

 初速千m/sを超える砲弾を回避され、奥の手であるバックパックからのグレネードばら撒きもルイシェによって誘爆させられ効果はなかった。接近したエルはトロフィーシステムを全て破壊、携行砲を諦め拳銃を手に取るドレッドノートを翻弄する。

 その間にルイシェは大きな矢筒より巨大な金属の矢を取り出して構える。するとただ湾曲した木だった弓が光輝きだした。元から数倍の大きさにまで成長した光の弓はルイシェと矢も共に輝かせ、夜の森で闇を払う導となる。つまりとても目立っている。


「シルオリエンテス!」


 光の矢が生み出すは敵の亡骸とそれまでの煌く軌跡、寸分違わず胸のど真ん中を貫かれたドレッドノートは機能停止し、自然の法則に則り地面に崩れ落ちた。


「よし!後一機ぐらいは倒しとこうかな、お邪魔シールドがあってもこいつなら―」

『見~付けたぁ』

「えっ」





「ナイスだルイシェ!このままぁあ!?あの爆発はなんだ!ルイシェ!」


 すぐ近くに月でもあるのかというほど輝いていたルイシェの居る所が急に大口径自走砲をも凌駕する大爆発を起こす。もちろん『シルオリエンテス』にそんな付属効果はない、明らかな外部からの攻撃だった。


「そんな嘘だろ、サラさんルイシェは!?」

「応答ありません!」

「嫌だルイシェ...ルイシェ今いぐぅ!ホウズさん何うぉ」


 駆けだそうとしたレンの前にホウズは剣を突き刺す。その直後大きな爆発が付近を覆う、もし駆けだしていてホウズのシールド外に出ていれば無傷では済んでいないだろう。そのまま剣から手を放し、レンの肩を力強く握り締める。中身の見た目とは正反対に温厚なホウズは久しく出すことの無かった怒気を全力でぶちまけた。


「しっかりしろ!冷静に成れ、あれは奴らの攻撃なのはわかるだろッ!大隊に撤退命令だ。俺達もエルが戻り次第ルイシェを回収して逃げる。いいな!?」

「あ、あぁ」

「分かりました。各隊に連絡を...待って下さい!巨大な魔力弾が四つ向かって来ます!着弾地点は―そんなっ!」


 流星のように尾を引きながら飛来する四つの魔弾、遠くからはでもよく見えるその魔弾は優にメーター超えの大きさを持つ。

 着弾と同時に大地が震え、その余波は遠く離れたレン達にも及んだ。一キロ離れていてもこれだ。直撃を受けたであろう各中隊がどうなったかなど考えるまでも無かった。


「誰とも...繋がりません」

「チッ、エルはどうした!はや」

「エルさんが狙撃手を発見撃破すると言っています!」

「バカ野郎それは罠だ!今すぐ呼び戻せ!」


 ホウズを抜いた四人の平均年齢は約十九歳、そこにホウズを入れると一気に平均二十三歳にまで上がる。諸事情で階級は低いものの騎士としての経験や実力はトップクラス。

 そんなホウズの経験上、高レベルの騎士戦において基本的に位置を悟らせない様戦う狙撃手が自ら姿を見せる理由は二つ、『そうするしかなかった場合』と『そうしても問題ない場合』。明らかに後者の今回は伏兵がいると分かっても伝える時間が足りていなかった。


「あっ新たな高魔力反応が二つエルさんに向かってます!これは人です!」

「エルさん!」

「待てレンッ!ええいお前ら続け、俺から離れるなよ!」


 既にドレッドノートは煙幕を張りながら下がり始めており、無視してよい程脅威度は低くなっていた。一連の攻撃から予想される敵の正体と仲間の状態を考えると勝てるビジョンは見えない。単純な損得で言えば全滅よりもエルを囮にして残りで撤退、もしくは自分だけでも逃げるというのが正しい。とはいえそんな簡単に割り切れるなら苦労はしない、盾としてこれ以上誰も傷付けさせないと決意を新たにしたホウズ。しかし早くもその決意は無になった。

 エルの目の前で突如巨大な爆発が起こる。何とか直撃こそ避けたものの、軽い体は宙に舞い、無防備な姿を晒す。そこへ走り込んできた片方の放った炎の槍が迫る。何とか体を捩り、炎の槍は回避するが、時間差で放たれたもう一人の光の槍は深々とエルの体に突き刺さる。さらに止めとばかりに追加で放たれた炎の槍によってエルの体は燃え尽きていった。


「エルさああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」


 進路を変え、レンとぶつかったのは二十歳程の男女だった。鎧ではなく、ポケットやフォルダーの多い機能性を重視した戦闘服を着ていた。

 男の方は右手に何の変哲もない両刃の剣、左手に赤い魔法石の付いた五十センチ程の短杖。女の方は右に細身のレイピア、左手に小型のラウンドシールド、どちらも量産品のように銀一色であり、暗色系の森林迷彩が施された戦闘服と驚くほど似合っていない。

 最初にぶつかったのは魔法だった。百メートル離れた状態で牽制のためディーノとサラが放った広範囲の風魔法により狙撃手の攻撃を妨害、空中で爆発した魔法弾の下で風魔法を女性がシールドで無力化しつつ男の方が炎の槍をレンに向かって放つ。炎の槍をレンは剣で一閃、そのまま肉薄し、十分に魔力と勢いの乗った一撃を盾持ちの女にぶつけた。ドレッドノートですら一撃で戦闘不能に陥る威力があり、真正面から小型のラウンドシールで受けに来た女を真っ二つするビジョンがレンには見えた。だからこそ渾身の一撃を聖母の様に微笑みながら耐えきった女に恐怖の念を抱いた。

 硬直を狙い、回り込むようにレンの側面を突こうとした男の方は範囲を絞って放たれた風の刃を炎の壁で防ぎ、女と共に大きく後ろへと飛んだ。

 男の方も女とは種類が違うものの笑っており、愛弟子と稽古する好青年のような爽やかな笑みだった。女共々敵でなければ良い印象を持ったであろう二人の笑みも、仲間を殺された後では苛立ちが増す要因でしかない。


「逃がs」

「馬鹿下がれ!」


 爆発がレン達を覆い、追いついた騎士達を含め四対二+二で仕切り直しとなる。数的有利を生かし、レン側が押しているものの狙撃手の存在によりホウズから離れられないせいで下がる相手に追撃を行えずにいた。それでも時間の無いレン側は無理にでも押し込んでいく、もう少しで狙撃手を魔法の射程内に入れられるという所で戦闘服の男女が高さ十メートル以上の大ジャンプをした。


「何か来るぞ!俺の後ろにかくっぐうおおおぉ!!!」

「クソ地震か!」

「俺から離れるn」

 

 唐突の大地震、それも所々大地が裂けるレベルの局所的な大地震がレン達を襲った。立っているのもままならない揺れの中、意識が乱れ、強度の低下したシールドを()()が突き破りホウズの腹に風穴を開けた。

 ホウズの死後、全滅まではスムーズだった。地震が止むと同時に降下してきた戦闘服の二人が体勢を崩したディーノとサラの首を刎ねる。そしてそれを実感する前にレンの命も失われていた。





――――

「うっううぅ...あれ、私生きてる?」


 爆発で倒れた木の横で目を覚ましたルイシェは自身でも驚くほど軽傷だった。装備はボロボロで見る影もないが、そもそもあの一撃をもろに受けて擦り傷程度という事がおかしい。本当に致命傷はないか体を軽くチェックしていると左手に違和感を覚え、左手の薬指に目をやるとレンから貰った指輪がサラサラとチリになる所だった。

 プロポーズの際にレンから渡された指輪であり、使えるお金に余裕の無い中レンお手製の気持ちプライスレスなルイシェの宝物だった。何となく、直感でルイシェはこの指輪が自分を守ってくれたのだと分かった。使用された材料の大半は気付かない振りをしながらルイシェ自身も手伝ったため分かるが特別な物は使っていない、しかし魔力を帯びた物は組み合わせ次第で時として人知を超える力を発現させることがあった。今回も指輪も様々な素材とレンの思い(魔力)によって出来た偶然の産物だった。


「戦闘音がしない、皆はどこに...っ!あれは統一惑星軍の兵士、あそこで何してるの」


 少し離れた所で現在アース帝国と敵対する二勢力の片方、二十年前空より突如現れた『統一惑星』と名乗る集団の兵士が集まって何らかの作業をしていた。

 魔力で視力を強化して見たことをルイシェは後悔した。何故ならパワードスーツと呼ばれる帝国のとは違う種類の鎧を着た兵士が運搬していた人型のモノを見たからだ。

 楽しかった記憶が走馬灯の様にグルグルと回る。体の中が空になったような喪失感と共に吐き気が襲ってきた。無意識に握っていた折れた弓を手放し、筒から零れ落ちた矢を数本拾う。そのまま敵の集団に一歩踏み出し――華麗な百八十度ターンを決め、友軍基地への撤退を選んだ。


「魔力反応検知!騎士の生き残りだ!」

「全滅させたんじゃないのかよ!」


 丁度道中に居た二人の歩哨は銃を構える前に、顔から矢を生やしたオブジェになっていた。投げナイフの要領で投げられた金属の矢を止まることなく引き抜き、基地へと走り続ける。


「レン...皆...ごめんなさいッ...」


 ルイシェは別に戦いの恐怖から逃げた訳ではない。それでも一人...いや()()()逃げることに対する罪悪感は拭えなかった。

 疑念が確信に変わった体に起こる異常の正体、今回の作戦が終わった後、真っ先に伝えようとした相手はもう死んだ。それでも自身の成すべきことは見失っていない、今は生き残るため、ルイシェは只々走り続けた。






――――――――――――

「狙撃手が生きてた?それで兵士が二人やられたと、...分かった。こっちが片付いたら俺達も哨戒任務に加わろう」

「まじ?ネリちゃんの魔弾直撃してた気するけど」

「ふふっ、ネリちゃん油断したわね」

『はぁ!?絶対ぶっ殺したって、魔力反応も消えてたし。なんかの間違いでしょ』

「さあな、とにかくさっきの光が何なのか早く確認するぞ、俺は眠いんだ」


 普段から笑う事が少なく、眼つきが悪いせいで常に怒っていると思われているリシェド・ユウ・カイランは珍しく怒っていた。夜戦は眠い、いくら訓練を積んでもやはり人間は夜寝る生き物だと再確認させられる。しかし待望の勝利の睡眠は突如空に現れた謎の光の調査という緊急任務により邪魔をされたのだ。さらに直帰の予定は生き残り探索で潰れ、その光は人型という事もあり、敵なら一発ぶんなぐってから殺すか捕縛するか考えようと思うくらいにはイライラしていた。


「確かにねみーなー、にしてもほんとにこっちであってんのか?」

『...』

「あっもしかしてネリちゃん見失っいてぇっ!何でユウが殴るんだよ」

「俺も見失ったから」

「リツ、私たちは索敵関係が苦手なんだから文句を言ってはいけないわ」


 全員年は今年で二十歳、陽気な男はリランツ・ファイ・フォン。身長は百八十後半で、髪は赤に黒いメッシュが入っている。今だに悪ガキ感の抜けない手のかかる奴ではあるものの、邪気の無い笑顔と振る舞いは不思議と人を笑顔にさせる力があった。


 常に聖母のようなほほ笑みを浮かべているのはユーリ・ナース・シータ。戦闘時はお団子状にしている長いさらさらブラックヘアーは夜の森で迷彩効果を発揮していた。背は高くリシェドとほぼ同じで百七十ちょい、動きは緩やか上品さがあり、言動や言い方は清楚で優しいお姉さんという雰囲気を醸し出していた。


 百五十に満たない小柄な少女はネリアリア・ジス・ダンテル。鼻まである襟(?)にフードを目深に被っているため顔はチャームポイントのツリ目ぐらいしか見えない。言葉はマイクのような人工喉頭を使わなければ発せないため、念話による意思疎通が主になっている。武器は折り畳み式三十五ミリ『テルアレン携行砲』、仕舞長八十センチ、全長一・五メートルとネリが使うには少し大きい。


「何で俺らボット使えないんだろなー、使えたらめっちゃ便利なのに、体に埋め込んだ魔石は同じなんだろ?」

「魔石云々じゃなくて才能やセンス...っつうより向き不向きの問題だろうな、俺やネリはお前らみたいな白兵戦はどうやっても無理だ」

『煩い黙れ喋るな気が散る。対象を発見、あっち』

「流石ネリちゃん、ご褒美に抱っこしておげる」

『おいやめろ馬鹿』

「おっ!じゃあ俺は銃持ってやるよ」


 口は悪いが特に抵抗することなく、成されるがままにリツに銃を取られユーリにお姫様抱っこされており、パーティーのマスコットキャラとしての役割を全うしていた。


「情報共有してくれ、...あーおっけい場所は解った。魔力の反応は無い...訳じゃないな、動いてないのは気絶してるだけか、こっちだ」


 ネリは三つ、リシェドは二つ、計五つの『三式多目的ボット』を展開していた。拳大の白い球体で、索敵攻撃通信小物の運搬など多岐に渡る使用方法がある。先ほどもリーダー格の騎士へ止めを刺したのはこのボットだった。

 背中に担いだ『テルアレン携行砲』の全長と同程度の長さを持つ筒状の武器、『レーザバズ』を木々に引っ掛けながら、えっちらおっちら百メートル程進んで行く。すると森の中に一部ぽっかり空いた草木の生えてない地面に仰向けで倒れている少女が見えた。


「おっ、可愛い子じゃん、ぐえぇへへー」

「人...だな、十五、六歳って所か、白髪なんて珍しいな、こんな服も初めて見た」


紺色の短いスカート。上の服は首元や肩に掛けて紺色で、それ以外は白く、胸元にある赤い大きなリボンが特徴的だった。黒い靴下は膝まっであり、革製と思われる黒い靴を履いていた。一般的な服装とはかけ離れてあり、素人目に見ても材質が良いことは解る為、稀に良くある帝国貴族などの金持ちが作らせた凡人にはよくわからない高尚な一品だろうリシェド達は結論付けた。


「怪我は無さそうだけど、ボットのライトを当てても起きないなんて相当疲れてるのね」

『明らかに怪しい、どうする?』

「少なくとも味方ではないな、こんな目立つ格好の奴は聞いたことないし、仮に極秘の何かでも俺達に知らせてない奴が悪い。魔力の反応は弱いがさっきの光を見た後じゃな、何が起こるかわからんし面倒だから殺しとこう。それでいいか?」

「私もそれで良いと思うわ」

『意義なしー』

「俺も~、変に情沸く前に殺しゴフッゴホッ!ゲホッゲホッ!」

「コフッ、コホ...ううっぅ...リネちゃんごめん、血がかかっちゃった」


 唐突に吐血するリランツとユーリ、それをリシェドとネリアリアは平然と眺めていた。少し前から戦闘終わりなど、魔力を多く使用した後に気を抜くと両者は吐血など体に異常をきたすように成っていた。二人が平然としているのは全員とっくの昔に覚悟を決めていたからだ。


『別に、気にしてない』

「...こいつは連れて帰る」

「おえーペッ!プッ!ん?どうしたんだ急に、お前こういう子が好みなのか?まあ胸はあるかよくわかんねぇけど面は良いと思うぜ」

「あほか、味方ではないイコール敵て訳でもないだろ。こいつを連れて帰って俺達はそのまま直帰だ。謎の光に謎の衣装、帝国貴族の娘とかって可能性もある。哨戒任務よりこっちの方が大事だと俺は思っただけだ」

「くくくっ、そんな気ぃ使わなくても、ちょっと休んだ程度じゃ意味無いことは解ってるだろ?俺達はどうせそう長くない。変な拾い物して面倒事はごめんだぞ」

「そうよ、何となくだけど、その子は普通じゃない感じがするわ。あなた達も解ってるのでしょ?」


 肩を竦めながらやれやれといった感じで話すリツと少し笑みに影が刺したユーリ。実際リシェドとネリアリアもこの子は何となく普通ではないと感じていた。だからこそ満場一致で殺しておこうという結論になったのだ。


「勘違いするな、俺は早く帰って寝たいんだよ、それにこれは命令だ。そいつを連れて帰って仕事は終わりだ」

「へいへーい命令ならしゃーねぇーか、まっ俺も眠いし反対はしないさ」

「なら女の子だし運ぶのは私に任せて、その代わりリネちゃんをお願い」

『は?私は別にぃっ!おい放せバカンツ』

「よし!そうとなったら早く帰って寝るぞー!お前らも走れーっ!」

「ふふっ負けないわよ」

「おいお前らっ...!はぁ、まあいいか」


 少し落ち込んだ雰囲気は何時もの明るさに戻った。ある程度空気は読むものの基本的には笑ってやろうをモットーに生きているのは伊達ではない。

 戦友としても、普通の友人としてもかけがえのない仲間である三人との別れは近い。それに対する踏ん切りはついたつもりでも、今のような吐血などされると外面には出さないものの、リシェドの心は酷く揺れていた。普段なら始末していた少女を助けたのも仲間思いが故だった。


 統一惑星第四強行偵察艦隊のべ二十万人がワープ中の事故によりここ、惑星フィリスに不時着してから今日で丁度二十年が経っていた。



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