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タイプ9は書かないの?

「ついに今日で最後のタイプだね」


いつものように早朝の教室でそう川谷が言うと青山が「体感めっちゃ長かった」と息を吐いた。


「エニアグラムって複雑でわかりにくいよな」


「これでも僕なりに簡略化してるんだけどね」


「例えばどんなのだ?」


 青山にたずねられた川谷は少し顎に手を当ててから話し出した。


「レベルとかは省略していいかなって」


「レベル?」


「うん、レベル一が一番そのタイプのいいところが出てレベル九がそのタイプの悪いところが出る状態だね」


 青山は少し考える様子だったがふと顔をあげた。


「それなんで端折ったんだ?」


「統合と分裂があるからややこしいかなって」


「あれは他のタイプが絡むだろ?」


「あーとね、何というか厳密に言うと統合はレベルが上がる時、分裂はレベルが下がる時の現象なんだ」


 川谷が絞り出すように説明をするが青山は混乱した様子だ。 そちらを見た川谷は言葉を続ける。


「例えばレベルが八から七になる時、五から四になる時、二から一になる時、いずれも統合が起きるといった感じ」


「理解するのが大変だな」


「そうなんだよね。 初心者の青山に対してレベルがどうこうって頭こんがらがるかなと」


「それで省略したと」


 納得した様子の青山が深く頷くのを見て川谷は本日のテーマである『タイプ9について』『タイプ9=精神的平和を保つ』と書き込む。


「タイプ9が恐れるのは精神的な磨耗によって自分という存在が無くなってしまうことだね」


「俺もなんか体疲れてなくても精神的にぐったりする事あるけどそういうのが嫌って事でいいのか?」


「うーん、そうだね、間違ってはないけど嫌っていうか『恐い』かな。 自分が自分じゃなくなるというかS◯N値削られるような恐怖というか」


 頭をひねりながら言葉を紡いでいく川谷に青山も首を傾げながら頷く。


「理解しがたいが理屈はわかるな」


「タイプ9の特徴として美化された思い出や空想で構成された仮想世界『内なる聖域』が頭の中にある。 そこから外の世界をまるでテレビの画面越しに見るように捉えている。 といった点がよく言われるんだけど、それこそがタイプ9の最も重要な防衛機構だといえると思う」


「まあわかる、精神的摩耗が怖くて引きこもってんだろ?」


 青山が頷くが川谷はしかし眉をひそめ考え込む。 やがてゆっくりと顔をあげた。


「引きこもっているというと語弊があるかも、どっちかというと『悩まない迷わない自分の意見を言わない周りの意見に流されながら機械的に生きる』っていう感じ、精神的引きこもりっていうと確かにそうなのかもだけど」


「自分の意見言わずに合わせてたりするとそれこそ精神的に摩耗しないか?」


「たしかに無茶振りされて摩耗する事はよくあるけど相手の意見をはねのけて対立状態になるといろいろ考えないといけない事が増えて内なる聖域にこもってられなくなるから、そっちの方が困るという感じなんだよ」


 そう言って一つ息をついた川谷は眉をひそめて続ける。


「タイプ9はそもそも自我が外に出てこないから人に合わせる事に苦を感じにくいし、むしろ『どう思う?』って聞かれると内なる聖域から自我を引っ張り出す必要があって疲れるから嫌いだったりするからね」


「そういうもんか……?」


「更に自我が薄いからこそ他人に対する好き嫌いも少ないし、意見が対立している人達がいた時にどっちも理解できるから仲裁者として絶大な能力が発揮できるってメリットもあるよ」


 そう言った川谷は「ただ」と呟きながら『タイプ9→ストレス→タイプ6』と書き込む。


「タイプ6は多くの懸念を見つけてきてはそれに対抗するため支えを求めていくタイプだったね」


「そうだったな。 しかしタイプ9の分裂がタイプ6ってのは想像しがたいな」


 首をひねる青山に川谷は笑いかける。


「確かに結構悩んだかな。 それで、えーとね、タイプ9が内面を静謐に保っても外的要因によって台無しにされる事が多いんだ。 だから早期に問題を発見、チームで結束して対処するのが上手なタイプ6に憧憬や羨望、嫉妬などの強い感情を抱きやすい要因になっているんだろうなと」


「リラックスしているとこにズカズカ押しかけてきて面倒ごと持って来る奴らをなんとかしたかったらタイプ6みたいに先手をうって対処する必要があるって感じか」


「そんな感じだね。 タイプ9は臨機応変を求められると一番最初に取り組んだ事をそのまま続けるという形で反抗するんだけど、それでどうしようもなくなるとタイプ6に分裂して問題に取り組もうとする。 でもそもそもその時点で手遅れだから焦ってもどうしようもないよ」


 目を閉じて首を振りながら川谷が言うと青山もため息を吐いた。


「どうなんだそれ、とは思うもののいるよな」


「結構聞くよね。 時間ギリギリになってから慌ててもどうしようもないんだけどね」


 二人で目線を交わしながら語り、区切りのついた段階で川谷は『タイプ9→成長→タイプ3』と書き込んだ。


「タイプ3は目標を定め、それに対して邁進する事が出来、それを誇る事も出来るタイプ」


「そうだったな」


「うん、タイプ3に統合したタイプ9は積極的に自己主張を行えるようになる」


「だろうな」


 相槌をうつ青山に気分が乗った川谷が次々と言葉を継いでいく。


「そもそも内的に安定してないから外部からの刺激に敏感になるし、内なる聖域に引っ込んじゃうんだから精神的な健康を保ってれば自分の考えをはっきり言えるんだよ」


「精神的に健康ならタイプの欠点なんて出ないのは他のタイプでも一緒かもな」


「その通りだね。 じゃあ締めの言葉言って終わりにしたいと思うよ。 自分のために頑張るのは面倒くさくて怠い、つまり内なる聖域から出て来るためにエネルギーがたくさん必要だから根気よく己と向き合う事が大切だよ」

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