タイプ8は書かないの?
その日、いつもより少しだけ早く目が覚めた川谷は青山のいない教室でなにやらノートに書き付けていた。
「はよ」
「おはよう」
しばらくして青山がやって来るとノートの覗き込もうとする。
「どうしたの?」
「いや、なに書いてるか気になるだろ」
川谷は悩むそぶりを見せる事無くノートを差し出した。
「僕も小説書いてみようかと思ったけど、書き出ししか書けてないよ」
「なになに?
灰色の塔が崩れ落ちるのをヴォルフは物陰から見ていた。 ヴォルフの仕事は鉱夫、ビルと呼ばれる塔を解体して金属を採取することだ。
ってなんだこれ」
「だから書き出ししか書けてないよって言ったじゃん」
不満を表明する川谷を青山は呆れた目で見る。
「いや、世界観がなんだこれって事だよ」
「文明崩壊後の世界を舞台にしたやつだよ? よくある事ない?」
青山は眉を寄せるもすぐに顔を上げた。
「まあいいわ、それよりタイプ8始めてくれ」
青山に促された川谷は無言でノートに『タイプ8について』と書き込む。
「タイプ8は危険察知能力の不足、要するに傷つけられたり裏切られる事を事前に察知できなかったというのがまず来ると思う」
川谷はそこまで言うと少し考えてから補足する
「いつ危機に瀕するかわからないなら先に怪しい奴を片っ端から倒して支配下に置いておきたい。 そうすれば危機を未然に防げて安全だろうって感じかな」
ノートに書き込まれるのは『タイプ8=自立の為に戦う・勝ち取る』という文字列。 それを読んで青山が質問する。
「自立したいって思うのはなんか理由があるんだよな?」
「あるよ。 えーとね、自立してないって事は誰かの支配下にあるって事になるでしょ? その人と、人とは限らなくてノウハウとか前例とかの場合もあるけど、そういうのと敵対しちゃうと大変な事になっちゃうから」
少し考えてから言った川谷に青山は頷く。
「支配下にあったらそもそも敵対なんて出来ん気がするけどな、泥舟乗り続けて破滅なんて事になったら嫌の方がわかる気がする」
「あー、その説明でも良かったかも」
川谷は一つ頭をかいてから続ける。
「それで後半の『勝ち取る』の方なんだけど、タイプ8はケンカ好きってよく言われるからこの言葉を選択したんだよね」
「実力を証明しないと支配下に置かれるからだな」
「うん、それもあるよ。 でももう一つ、ケンカしている時はその人の本性が出てくるっていうのもあるよ」
そう付け加えた川谷は一拍おいて詳説した。
「信頼できる人なら部下になって指示に従う事も問題ないから試したいんだよね。 あと自分で自分を信じれる様に自分自身を試すって意味合いもあるよ」
「自分で自分を信じきれてないっていうのは?」
「そのままの意味だよ。 自分に十分な能力がないとか性格的に信頼できないとかになるとタイプ8の基本方針的に困った事になるから困難にチャレンジしてみる事で『どうだ自分はすごいだろう』って言い聞かせているイメージかな」
「タイプ8も結構大変そうだな」
「どのタイプも大変そうだよね」
川谷は苦笑を見せてから『タイプ8→ストレス→タイプ5』と書き込む。
「タイプ5は多くの情報を収集、分析するタイプでタイプ8からするとこれから起こる事全てがわかっているから何事にも動じないという風に見えるみたいだね」
そこで少し考えてから川谷は付け足した。
「なにが起こるかビクビクして虚勢はって弱いとこを見せないようにしている自分とわかっているから達観しているタイプ5 、比べるとちょっと凹むのかもね」
「やっぱ分裂はなんか聞いてると辛くなってくるな」
「そうだね」
二人の間をしばし暗い空気が漂うが川谷は気を取り直したように話し始めた。
「タイプ8は自分の力が不足していると自覚したり実際に負けてしまったといった弱さがさらけ出されてしまった時に分裂を起こすよ」
「これまでの説明からすると納得だな」
「分裂したタイプ8は戦略を練る為に時間を必要として引き篭もり傾向がでる上に、他人の価値観を馬鹿にする事が多くなるよ」
「そうだろうなとは思ったわ」
「予測してたんだ」
川谷は感心したように頷きながら『タイプ8→成長→タイプ2』と書き込む。
「タイプ2は他人の為に自分になにができるのかを常に考えているタイプ」
「そうだったな」
「タイプ2に統合することでタイプ8はリラックスできるようになるよ。 優しさや他人の事を考え・気遣う事は弱さの証明でも無様な事でも無いんだと気づく事で、気を張る時と気を緩めていい時、メリハリだね。 これが身につくんだよ」
「逆にそれを通常時は出来ないっていうのが驚きなんだがな」
しみじみとした青山の言葉に川谷は苦笑で返すと締めの一言を放った。
「でもその為には信頼したい人への警戒・威嚇をやめ防御を緩める勇気を必要とするよ」