タイプ6は書かないの?
早朝の教室、いつものように川谷がそこに入ると青山の姿が無い。
川谷は首を傾げながら時計と青山の席を見比べ、やがて自分の席に座った。
青山が来たのはその数分後で、彼は小さく「人身」とだけ伝えて席に座ると川谷の方を向いた。
「時間も無いし、早めに進めてくれ」
「わかった」
頷き、『タイプ6について』と表題を書きこんだ川谷が少し溜めて話しだす。
「タイプ6は『不安のアンテナ』を発展させたタイプでどこからともなく心配事を見つけてくるよ」
「どこからともなくってどういう事だよ」
その言い回しに思わず笑ってしまった様子の青山が問いかけ、その笑いが理解出来ない様子の川谷が訝しむ。
「どこからともなくはどこからともなくだけど?」
「もういいから進めてくれ」
青山に促された川谷は納得していない様子ではあるものの説明を再開した。
「人間関係・将来・災害など常に何かしらの心配事を抱えたタイプ6はそれに対抗するための拠り所を欲するよ」
『タイプ6=支えを獲得・維持』と書き込んだ川谷は一拍置いて続ける。
「個人や組織、つまり人であったりノウハウや前例といったものであったり、とにかくいざという時に頼りになるものを求めるんだけど……」
「だけど、なんだ?」
「うん、タイプ6の心配は頼りになるかもしれないものにまで向けられる。 実はあまり頼りにならないのではないか? こちらに牙を剥くのでは? って感じに」
川谷はそこで一旦切ると青山の様子を伺いながら続けた。
「これがタイプ6的な反骨精神、つまりは信用できない支配者を打ち倒して頼りになる拠り所を新しく擁立していこうになっていくよ」
「それはわからんでもないな」
頷く青山に苦笑を返し川谷は言葉を継いだ。
「でも疑うからこそ自らも『自分を頼りにしていい・自分は裏切らない』っていうメッセージを周りに送る事が多いよ。 頑張り屋さんでとっても貢献してくれる」
「それも納得できるな」
それにも頷く青山。 それに対して川谷も小刻みに頷く。
「あとタイプ6の特徴として矛盾があげられるよ」
「矛盾?」
「そう、臆病なのに無謀な試みばかりする。 感情的なのに理性的、依存的なのに一人を好むといったように」
「意味わからんのだが」
「考えてみれば自然な話なんだけど、そもそもタイプ6は拠り所に対する忠誠と反骨精神っていう相反するもののバランスで成立しているから正反対の要素を内包してて当然なんだよ」
「タイプ6という……役割か? とにかくタイプ6である為に必要な素質がそれっていう事だな」
未だ納得は出来ない様子ではあるものの青山がまとめると、川谷はそれを受けて先に進める。
「そんなタイプ6の分裂はタイプ3。 かっこよくて優秀で頼りになるから」
『タイプ6→ストレス→タイプ3』と書き込む川谷に青山は苦笑を向けた。
「直球だな」
「そうだね。 もう少し詳しく言うと、タイプ3のように要領良く実績を積んでいれば拠り所をこちらから探す必要はないと思うんだよ」
「それは向こうから『うちに来てくれ』ってスカウトされるのが羨ましいって感じか」
「そういう事かな。 分裂したタイプ6はカッコつけたがりで嘘つき、また拠り所としている組織などのライバルを敵視して攻撃する傾向があるよ」
そう言って締めた川谷は続けて『タイプ6→成長→タイプ9』と書き込む。
「タイプ9は落ち着いていておおらかな癒し系、そんなタイプ9に統合する事でタイプ6は芯を手に入れるよ」
「芯?」
「拠り所は自分自身という事。 実はタイプ6の場合、恐怖がまずあって何をそんなに怯えているのだろうと考える結果として心配事を見つけてくるんだけどこの恐怖が消える」
そう言って川谷を青山は不思議そうに見やる。
「それ消えたらタイプ6の特徴全部無くならんか?」
「無くならないよ。 不安は不安として、ただ必要以上に怯えない、事実をありのままに感じる特徴を備えるだけだから」
「よくわからんがすごいのは伝わった」
「でもそこに至るまでが大変で過去のトラウマなんかと向き合う事で自分の中に潜む恐怖を探さないといけないから辛いとは思うよ」
しみじみと語った川谷に青山は梅干しを口に放り込まれた様な顔をした。 あまりの形相に川谷が引いているのを無視して口を開く。
「そんなネガティブな事してまで統合する必要あるんか? 人生楽しくいこうぜ」
「うーん、でもそもそも慢性的な不安から逃れる手段って事だからその人の価値観だとは思うけど」
遠慮がちに川谷が言ったところでチャイムがなる。 青山は少し納得できていない様子ながら黙り込んだ。