タイプ5は書かないの?
いつもは二人しかいない早朝の教室。 しかし今日は珍しく何人かの生徒が机に突っ伏して寝ていた。
「おはよう」
「はよ」
すぐ後ろにも寝ている生徒がいる為少し音量は低め。
「どうしたんだこいつらは」
「野球部の朝練が潰れたんだって」
と、睡眠中の野球部を気遣いながら二人は話し出した。
「そういえば思ったんだけどさ、理解度テストみたいなやつ出した方がいい?」
「面倒くさいから嫌だ」
「そうなんだ。 じゃあとりあえず無しで、気が変わったら言ってね」
「変わらん」
そんな会話をしながら川谷は『タイプ5について』と書き込む。
「じゃあタイプ5なんだけど、資源の乏しさを心配している感じかな」
「環境問題の話では無いよな」
「違うよ。 主に関心や時間等だね。 自分は他の人より劣っている分、沢山のエネルギーを遣うので無駄遣いすると枯渇してしまうと恐怖している」
「時間はともかく関心なんて減らなくね?」
首を傾げる青山に川谷は首を振った。
「関心を持って取り組める活動には限りがあるというのがタイプ5的な考えみたいだね」
「そうなのか、ケチっぽいな」
「ケチではあるかな、あ、お金に関してじゃ無いよ、金欠だったら別だけど」
「それはまぁわかるけど」
青山が言うのを聞きながら川谷はシャーペンを動かし『タイプ5=思考に退く・エネルギーを遣う』と書き込む。
「自分に自信を持ちたいけどスポーツには体力、物自慢にはお金を稼ぐ時間と労力といった資源を使っちゃう。 リスクも大きいし、そう考えるとコストパフォーマンスに優れているのは『頭』学んで観察して考察する事なんだろうなと」
「頭使うのこそ疲れる気がするんだが」
「えーとね、精神的な疲れは置いといて肉体的疲労だけで考えると少ないコストで成果を得られるし、一度勉強した事を失うリスクも低めでやればやるほど自信につながる分野だから、時間やお金を投入しやすいと考えるみたいだね」
川谷は少し考えながら話すような仕草をしばしば挟みながら進めていく。
「その結果、情報を整理して新しい考えを付け加えてってやっていく事が得意になっていくからこれが自信の源になるんだけど……」
「だけど、なんだ?」
「目の前の一つ一つに関わっていない感は出てくるよね、客観的、悪い言い方をすると他人事みたいな、冷静で『お前当事者だろ』って突っ込みたくなる感じ」
「なんか参謀的な数字で見ている感だな」
「そうだね、そんなイメージ、感情が無いわけではないみたいなんだけど興味の対象というか『自分ってこういう場面ではこんな感情になるのか』みたいな」
と川谷がそこまで話したところで時計の方を見た青山。
「そろそろ分裂にいかないとSTまでに終わらないぞ」
「まだ上手く説明出来てない気がする」
少し不満そうな様子を見せながらも川谷が『タイプ5→ストレス→タイプ7』と書き込み頭を切り替える様子をみせた。
「タイプ7はいつも楽しげで目の前の物事全てに熱中している、マルチタスクで動くのと考えるのを両立しているタイプだね」
「あれだな、いつものタイプ5 からは上位互換に感じるやつだな」
「そうだね。 資源も無駄使いしないように情報を集めて分析した上でそれに沿って動こう、それまでは行動しないでおこうっていうのがタイプ5。 そんなタイプ5 からすればタイプ7は無限のエネルギーがある様に見えるよ」
「タイプ5はエネルギー不足を感じやすいんだったな」
と今までの説明を思い返している様子の青山に対し川谷は首肯した。
「そうだね。 でも強いストレス下にあるタイプ5は後がないというか残存エネルギーを使い果たす勢いでいろんな活動に飛び込んでいくんだけど、やっぱり余裕がないから、うん、何というか健全じゃないとこに行ってしまうみたいだね」
「分裂聞いてると気分が滅入ってくるな」
青山のため息に苦笑した川谷は『タイプ5→成長→タイプ8』と書き込む。
「タイプ8は可能性を信じ挑戦する事に喜びを感じ、ごまかしを嫌い率直に生きる事を誇りとするタイプで、そんなタイプ8に統合したタイプ5は実践力を身につける事になるよ」
「実践力?」
もっと詳しく話せとばかりにおうむ返しした青山を横目で見ながら川谷が説明をする。
「タイプ5は自分の蓄えた知識を放出したり長年温めていた計画をいざ実行しようって時にためらう傾向があるんだけど、えーと、ようするに周りに教えたら相対的に自分が下がるとかまだ準備不足じゃ無いかって思ったりとかそもそも思考に比べて身体に信頼をおいてないとかって事なんだけど」
「それが統合したらそう思わなくなるって事だな」
「そうだね。 構想が実際に形になっていく事に対する喜びと達成感、それがタイプ5にとって大切な事なんだという事だね」
そう締めくくった川谷だったが青山がポツリと言った。
「急かしたら逆に時間余った」
「知らない」
川谷はふて寝した。