タイプ4は書かないの?
いつものように早めに登校した青山と川谷。 二人の今日の会話は青山が口火を切った。
「そういえばエニアグラムってもともとリアルの人間に使うものだったよな?」
「うん、そうだよ」
「俺のタイプとか分かったりするのか?」
青山がそういうと川谷は露骨に顔をしかめた。
「難しいかな、エニアグラムの診断テストを作っている人や組織はいろいろあるんだけど参考にしかならないからね」
「ん? どういうことだ?」
「言動はザ・4、診断テストでも4って結果が出たけど、実はタイプ3的な動機がこれまでの経験と結びついた結果タイプ4みたいな行動をとってた。 みたいな人がかなりいっぱいいるんだよ。 もちろんこの人はタイプ3と診断するのが正しいんだけど難しいね」
「そうか内面の内面の内面の内面がエニアグラムだからか」
「なんで四回?」
首を傾げた川谷に青山がそろそろ本題に入るよう促した。
「タイプ4は『隣の芝生は青い』を極めたタイプと言えるかな」
「また、どでかいコンプレックスが来たな」
「自分が劣っているのは何故だろう、何処に原因があるのだろうと考える事が多いよ。 まぁ客観的に見れば別に劣って無いんだけどね」
それを聞いて青山は苦笑した。
「なんかそんなんばっかだな」
「いわゆる囚われってやつだね。タイプごとに何か心に引っかかっている思いがあるんだっていう」
川谷は神妙な顔で呟くと『タイプ4について』『タイプ4=終わりの無い自分探し』と書き込み続ける。
「タイプ4はその囚われのせいで、自分について考える時間がとても長くなる傾向があるよ。 そして考えれば考えるほど自分が自分で理解できなくなってしまう。 その為『これが自分だ』という自己イメージを勝手に作りそのイメージに寄せた言動をとる事で理解できる自分になろうとするよ」
「タイプ4はどうも苦労している印象があるな」
「確かに苦労している人は多いみたいだね。 でもタイプ4が存在する・淘汰されていないって事は人間社会に十分通用するって事だと思うから、苦労している可哀想な人って事では無いよ」
「流石にそこまでは言ってないぞ」
やや飛躍した苦言を話し始めた川谷に青山が眉をひそめる。 そちらに目を向けた川谷は謝る。
「ごめん、ちょっと過敏になってるかも、……先へ進めようか」
そう言って深く頷いた川谷が書き出したのは『タイプ4→ストレス→タイプ2』だ。
「タイプ2は多くの人に感謝され人が集まるから単純に羨ましいというのもあるけど、タイプ4は自分の事を自分より理解してくれる人が現れてくれないだろうかと思っているから『この人ならわかってくれそう』と思う」
「そうなるのか」
「タイプ4はストレスを感じれば感じるほどこんな人間だって認識している部分をオーバーに演じる? 違うな、自己催眠かな、そんな感じになるよ。 『じぶんはこういう人間だ』っていう自己認識がしっかりしていることがストレスへの対抗として必要なわけだね」
「それは欠点とかネガティブな事でもいいんだろ、なんかわかってきた」
そう言って頷く青山に一つ笑みを見せ川谷は言葉を継ぐ。
「その結果、自分の事を理解されてない・誤解されていると思いやすいから孤独感が増幅される」
「それで捨てないで欲しいから押しつけがましくなるって感じか」
納得した様子を見せる青山に対して川谷は一つ首を振ると言葉を紡ぐ。
「そのパターンともう一つ自分の才能が認められたけど、やはり本当に理解された訳では無いというパターンもあるよ」
「タイプ3と似ているな」
「言われてみればそうかも、でも褒められた時にタイプ3が『本当の自分が承認されない』という不満を持つのに対してタイプ4は『本当の自分が理解されない』という不満を感じるのが大きな差と言えるかも」
「そこにタイプの違いが出るんだな」
「そうだね。 えっと話を戻すと才覚を表して賞賛されると『劣っているから特別にならないと』が『優れた特別な存在』へと変遷する事になって『特別な存在だから孤独であり、優れた存在だから施しを与える』という流れになる感じかな、この辺はちょっと自信持って断言できないからあれなんだけど」
最後は少し自信無さそうにいう川谷に呆れがこもった様な視線を向けた青山はちらっと時計を見てから「そろそろ統合を頼む」と言った。
「わかった。 タイプ4の統合はタイプ1になるよ」
「タイプ1は確か、正しさにこだわる奴だったよな」
「うん、タイプ1は正しさという確固たる基準でもって行動するタイプだね。 そしてだからこそ『隣の芝生は青い』とは無縁なんだ」
「自分と相手を正確に比較できるって事だな」
納得するように頷く青山に「忘れてた」と呟きながら『タイプ4→成長→タイプ1』と書き込んだ川谷が訂正する。
「というより平凡とか普通の人がみんな同じ顔で同じ身体能力で同じ出来事に出会ってきた訳じゃない事に気づくって感じかな」
「それは当たり前だろ」
「通常〜ストレス時はそれが分かんないから苦労するんだよ」
しみじみと言った川谷に首を傾げた青山。
「自分らしさは自然と滲み出して来るものだから特に努力する必要もない、ならそれまでそこに費やしてきたエネルギーが余るから現実に関わりたい。 理想を実現するために頑張りたいといった想いが芽生える事になるよ」
「統合したらなんかすっげえ人になるな」
「ただ自分に都合が良い妄想、自分が劣っているとか、それをカバーできる才能も持っている、を手放して客観的に判断する。 自分らしさは自然と滲み出して来るものだから普通にしていれば特別になれるって事に気付くよう頑張って向き合っていく必要があるよ」
そんな青山を無視して川谷が締めた。