タイプ2は書かないの?
川谷が通う高校は家から徒歩三分の近場にある。 朝練もない部なのでギリギリまで寝ていられるのだが彼は朝早くの教室を好んでいた。
「おはよう」
今日も早めに教室に入ると先客がいた。 青山だ。
「はよっ」
挨拶を交わし席に座ると、青山が昨日の続きを持ち出して来た。
「昨日の話で気になったところがあるんだけど」
「えっと、エニアグラムのタイプ1の話だよね。 なに?」
「分裂する先のタイプ–タイプ1なら4だったか–4は小説で重要な役目を果たしたほうがいいのか?」
「その方が自然だと思うけど、あえて外す事でオリジナリティが出る場合もあるから難しい問題だと思うよ」
青山の疑問に少し外して答える川谷だったが青山に笑い飛ばされる。
「基礎できてないのに応用が出来るかよ」
「それもそうか」
尤もだと頷く川谷に青山は焦れた様子で説明の続きを促し、川谷が口を開いた。
「分裂先のタイプには強い感情を抱きやすいわけだけど、それが嫉妬とか憎悪みたいな感情なら敵キャラになるし尊敬なら目標となるような偉大な先達になるし、憧憬だとヒロインやヒーローになったり、ポジションは定まって無いと思う」
「でもそれだと、あー、分裂先のキャラを複数出してもいいものなのか?」
少し悩みながら疑問を言葉にした青山に対し川谷も少し考えながら答える。
「もちろん良いとは思うけど、キャラ被り問題は出て来るよね。 えーと、一番重視する配役に一人の方が初心者向けではあるかも」
「重視する配役っていうとこの物語はヒロイン重視とかそういう事か?」
「そうだね、ヒロインとの恋愛をテーマにしている作品なのかライバルとの熱戦を重視する作品なのかってことだね」
そこまで聴くと青山も納得したようでしきりに頷いた。 川谷は青山の納得した様子を見ながら次に進める。
「じゃあ本題、今日はタイプ2だね。 タイプ2は自己承認力がとても弱いんだ」
川谷がそう話すと青山は首を傾げた。
「自己承認力? なんだそりゃ」
「自分が生きているのは正しいと判断することが自分で出来ない。 人に判断してもらう必要があるという事だね」
川谷は今回もノートを取り出して『タイプ2について』とタイトルを書くとその下に『タイプ2=親切による関心の獲得』と続けた。
「タイプ2は感謝や関心が得られないと自分が生きている価値は無いのでは無いかと悩んでしまう事が多く、それを避ける為に人の為に頑張って頑張って頑張るよ」
「本人も大変そうだし、周りもお節介な奴って思いそうだな」
眉を寄せる青山に川谷も同意する。
「それに際限も無いし」
「一応誰にでも親切って事はないけどね。自分が好意を持っていて自分の助けを必要としている人にだけ」
「それでもすごい多いし、苦労に見合った感謝が得られるとは思えないんだが」
首を傾げる青山に川谷も苦笑を返した。
「その通りなんだけど、タイプ2は自分は見返りを求めてないと認識しているからそれでもいいつもりなんだよ」
「実際はそんな事ないんだけど」と付け加えた川谷に青山はますます首を傾げる。
「ますますわっかんないな」
「えーとね、何というか、自分は助ける側だから助けを求める事は許されていないって感じなんだけど、伝わる?」
「とりあえず進めてくれるか? いろいろ聞いてたらわかって来るかも」
川谷はなんとか伝えようと言葉を探すが青山一旦置くよう提案されると気持ちを切り替えた様子をみせる。
書き出されたのは『タイプ2→ストレス→タイプ8』だ。
「タイプ8は自分の主義や主張を発信して戦うタイプで人から反感を買ったとしても自分の求める物の為に戦う姿がタイプ2からみて憧憬や羨望、嫉妬などの強い感情を抱きやすい要因になっているよ」
「やっぱり他人に媚びないとやっていけない自分に思うところがあるんかな」
「媚びるって言い方はどうかと思うけど」
「そうだな、悪い」
少し強めに抗議した川谷にばつが悪いような様子の青山が謝る。
「タイプ2は助けたことに対する見返りや感謝がないと自分は役立たずだと落ち込み、タイプ8に分裂して、高圧的で支配的、脅したりして感謝を得ようとするよ。 助けてはくれるんだけどお節介だし恩着せがましい感じ」
「昨日のタイプ1もそうだけど分裂すると性格悪くなるんだな」
「性格が悪いというより自分のことで精一杯になってしまうんだよ」
「そう言われると仕方ない事なのかもしれんな」
青山としては納得出来ない部分もある様子だったが、頷いて続ける。
「上手くいかないとグレるのも無理ないのかもな」
小刻みに頷く川谷を横目で見ながら青山が自分を納得させるようにつぶやくと川谷も頷いた。
「よし、じゃあ統合に行こうか、タイプ2が統合するとタイプ4ぽくなる」
川谷がノートに『タイプ2→成長→タイプ4』と書き込むとすかさず青山が疑問を呈した。
「またタイプ4が出て来たな」
「各タイプ統合と分裂で一つずつ登場するからね。 これでもうタイプ4は分裂と統合じゃあ出てこないよ」
川谷がそう説明すると青山は頷いて先を促す。 それに対して川谷も答える。
「タイプ4は自分が今まで何を学び何を成してきたのか。 今何を思っているのか、感じているのか、自分はこれから先何を成す事が出来るのか。 そういった自分に対する深い探求心を持ったタイプ」
「統合で出て来るとカッコよく思えるな」
川谷は青山の茶々を無視して続ける。
「そんなタイプ4の素質を得たタイプ2は自分をケアすることが出来るようになるよ」
「ケア?」
「自分を犠牲にして人を助けるのではなく、自分が今どれだけ頑張っていてどれだけ辛いか。 どの程度の余裕ならあるのかをしっかりと把握して出来る範囲の人助けをすると言う事だよ」
そろそろチャイムがなりそうな時間だ、青山が少し焦った様子で尋ねる。
「普通は感謝されてないと精神的につらいから助けるで良かったか?」
「うん、分裂〜通常はそんな感じだね。 統合することで、こう言う言い方が正しいかはわからないけど『趣味』で人助けをするようになるんだよ」
「チャイムもう鳴る、まとめろ」
いよいよ焦った様子で青山が急かす。川谷が最後に。
「ただ、自分のケアをするのはワガママじゃないのかと悩みがちだから根気よく向き合っていく事が大事だよ」