タイプの書き分けをやらないの?
木曜日の早朝。 昨日まで続いたエニアグラムの話が終わったと考えている様子の青山はつまらなそうに口を尖らせて川谷の方を向いた。
「そういえばエニアグラム終わったけど今日は何の話する?」
「えーとね、今日からは各タイプのバリエーションを増やしていきたいと思うよ」
それに対して川谷の答えはエニアグラムについての話を続行するという事だった。
「まずウイングだね。 これは幅を表す概念で例えば同じタイプ2でもタイプ1よりのタイプ2からタイプ3よりのタイプ2まで個人差があるという感じ。 ちなみにタイプ1はタイプ9より〜タイプ2よりになってるよ」
「隣のタイプのどちらにかたよっているかって奴なんだな」
「そうだね、ただこのウイングってどういう理論かまだよくわかってないんだよね。 でも実際の人間観察によってウイングが存在する事は確実視されているから軽く話していきたいと思うよ」
少し困ったように、もしくは悔しそうに川谷は語った。 それに対して青山はことさらに明るく返す。
「おう、なんか難しそうだが頼むわ」
「うん、それとウイングについてこういう理論なんじゃないかって思ったことがあったら教えてくれると嬉しいな」
「わかった、なんか思いついたら言うわ」
一度区切りがつくと川谷はペットボトルのフタをひねって水を口にしてから続けた。
「それで次に生得本能だね、これは人の行動の動機となる三つの本能のうちどれが優勢かっていうので本来はエニアグラムとは別の理論なんだけど組み合わせて使えるよ」
「エニアグラムとはどう違うんだ?」
「えっとね、例えるならお金貯めてゲームを買いたいっていう状況があるとするとそれに対してバイトしまくるとか無駄遣いを見直すとかするのがエニアグラム。 その場その場であれ欲しいこれ欲しいってなるのが生得本能って感じかな」
その例えに青山は首を傾げた。
「ちょっと整理していいか? 各タイプがそれぞれ別の戦略をたてて生得本能はそれを邪魔するってことでいいのか?」
「そうとは限らないかも、例えが悪かったかな? とりあえず具体的に説明するね」
そういうと少し目を閉じて考え込む様子を見せてから話し始めた。
「まず自己保存。 自分の健康に必要な食べ物や衣服。 自分の安全に必要な家や力、疲労の回復に必要な寝具などといったものを求める欲求だね」
「かなりひっくるめてるな、もう他に本能なんか無くないか?」
不思議そうにつぶやく青山。 川谷は聞こえなかったのかそのまま語り続ける。
「次はソーシャル。 僕たちには仲間を見つけると反射的に安心する心の働きが備わっているけど、それを常に感じていたいっていう欲求だね」
「その言い方だとソーシャルが劣勢な奴も仲間見つけたら安心はするって事か?」
「そうだよ。 ただそれで安心する事に意義を感じないだけだね」
頷く青山に苦笑を送ってから川谷は慎重な口調で言葉を継ぐ。
「それで最後がセクシャルだね。 自分に足りないものや欠落している部分を探し、手に入れたくなる欲求で好奇心や執着といった感情の源となっていることの多い欲求だね」
「なるほどな、でもなんでセクシャルなんて名前なんだ?」
「有性生殖の人間にとってみれば欠けているのは異性って感じやすいからだね。 自分に不足している部分を備えたパートナーを探し求める傾向がある人が比較的多いとされているんだ」
「少しわかりにくいけど、まあなんとなくイメージは出来たわ」
頷く青山に少し申し訳なさそうに川谷は苦笑した。
「ごめんね、この三つが生得本能なんだけどタイプによって対立してたり方向性が一致していたり、様々だね。 覚えておいてほしいのは繰り返し欲求を感じる事で性格自体に影響を及ぼす事だね」
「まあよく欲しくなるもんはあらかじめ計算に入れておくわな」
「そう言う事だね」
と頷く川谷。
「とりあえずこれでウイングと生得本能の基本は話したから明日から本格的にやっていきたいと思ってるよ」
「そうだな、頼むわ。 あとどうでもいいけど今日ノート書かんかったな」
「そういえば忘れてたね。 まあノート書くの面倒くさいから今後はもうやめとこうかな」
「おう、そうしろ」