第8話 若干の放棄
第一章
第8話 若干の放棄と驚愕
「お疲れさまでした、鈴さん、樹希さん。まさかあの場で発現させてしまうとは思いませんでした。とりあえず今日はもう休んでください。明日の朝10時に呼びに行くのでそれまで自由にしていてください。あ、親御さんたちには私の勤めている会社へ入ることが決まったので研修させているということにしておきました。期間は3年だというとなかなか渋られてしまいましたが何とか説得することができましたので。あとは・・・もし親に会いに行くのなら、その顔のことを話してから会いに行ったほうがよいでしょう。顔のことについての説明はあなたたち二人で考えてくださいね。私は顔についてはフォローしかできませんので、それだけはすいませんが・・・。それでは、解散です。お金がそれぞれの個室の机の引き出しに入っていますので、それを使ってここの施設の中にある食堂で夕食をとってください。ほかの施設を使いたいときは周りの人に聞いてください。以上です。」
ギャランを倒してあの森が消えたと思ったと同時に加田さんが入ってきてそう一気に説明を受けた。
いや待って、発現ってなに?やばいことでも起きてるの?
とかいろいろ聞きたいことがあったんだけどな・・・。
なんて思いながら、もう加田さんが居なくなりそうだったので諦めようとしたとき、思いついたかのようにこっちを振り返った。
「そうでした、これを渡しておかないといけませんでした。これを部屋以外では常時身に着けていてくださいね。それでは。」
そう言って私に中身の入ったパスケースを2つ渡して今度こそ去って行ってしまった。
・・・なんか、切羽詰まってた?
やっぱりやばいことになってるのかと思いながらもパスケースの中身を見てみると、白いカードの真ん中少し下に名前、左上に私の写真、そして右上にはⅭ-と書かれていた。
私は樹希の名前が書かれたものを樹希に渡して自分のを見ながら言った。
「ねえねえ、このⅭ-ってなんだろうね?」
「さあ?多分ランクとかそんな感じの奴じゃない?一応加田さんも持ってたし。確か加田さんはAって書いてあった気がするけど。」
「・・・じゃあやっぱりランクなんだこれ。異世界でもないのにランクなんてなんで必要なんだろう?でもまあ、これを相手に見えるようにしておいたほうがよさそうだね。」
「そうだね。」
そしてそれを首にぶら下げた。
「今から自由だって言われてもなあ・・・今運動してお風呂入りたいくらいしかないよねえ。」
「そうだなあ・・・ここが訓練場なら近くにシャワー室くらいはあるんじゃないかな?」
「ああ~、アニメとかだとそうだよね。ちょっと外出てみよっか。」
そうして訓練場から外の廊下に出ると、すぐ右にドアがあり、その上にはシャワー室と書かれていた。
わかりやすっ
二人して入ると今度は男と女でドアが分かれていた。
あ、30分くらいでいいかな?
「今ちょうど14時だから、14時半にまたここで集合しよ!」
「あ、うん、いいよ。そうしよっか。とりあえずはそうしよう。」
「・・・?どうしたの?」
「いやなんでもないよ。」
「うん?わかった。じゃあまたあとでね」
なんか少し微妙な顔をしていたけど何でもないならそれでいいや。
なんて思うわけないでしょ。まあでもあれはあれでいいや。
後で問い詰めよう。
そう思ってそのままシャワー室に行ってシャワーを浴びた。
ー30分後ー
あ~気持ちよかったさっぱりした。
服どうしようかな。同じだと汗臭いしなあ。
・・・あれ?確かにここに置いたのに服がどっか行ってる・・・?
でもパスケースとカードはちゃんとある。
ん~、まあいいか。
なんか変えになるものないかな?
そう思って周りを見回してみた。
あれ?なんかボタンがある?なにこれ?
そう思ってみてみると服の種類が書いてあった。
それぞれ下に引き出しがあり、種類の書かれている上にはボタンが。
えーと、ロリータにカジュアルにガーリーに・・・もしかしてこれ着替えかな?
じゃあそうだなあ・・・カジュアルでいいかな・・・?
カジュアルと書かれている上のボタンを押すとボタンの隣にあった小さなランプが黄色に光った。
しばらくして引き出しのほうでカタンと音がしたと思ったらランプが青で点滅していた。
恐る恐る引き出しを開けてみると中にはいかにも普通のカジュアルな服が一式入っていた。
ついでに下着やインナーも入っていた。
どこまでサービスがいいのと思うのもつかの間、下の少し大きな引き出しからも音がした。
そこでようやくランプは点滅を終わり、10秒ほど点灯した後消えた。
もしかして、この服に合う靴とか靴下とか・・・?
そう思って開けると予想通り靴とタイツが。
しかもどういうわけなのか靴もタイツもきちんと私のサイズに合っていた。
・・・ん?タイツ?タイツも靴下といえば靴下か。
そうして私が着たのはジーンズ調の裾が少しゆったりした短パンに白のTシャツ、そしてその上にオレンジの7分袖のアウターだった。
短パンの下には黒のタイツを履いているが、履き心地は抜群で逆に動きやすかった。
靴は白に短パンと同じ色が少し入っているシンプルな靴だった。
その靴も、なかなか履き心地がよくて靴擦れとかの心配はなさそうだった。
最後にもらったカードを身に着けた。
着替えた後、時間を見ると40分。
あ、やばっ。早く行こう。
そうして待ち合わせした場所に行くと、シンプルな服に身を包んだ樹希がいた。
黄色と紺のチェック柄のシャツにジーンズ、そして濃紺のジャケットを着ていた。
「ごめんね、着替えるのに時間かかっちゃって遅くなっちゃった。」
「いいよ、俺も似たようなもんだし!それよりこれからどこ行く?」
「ん~、どうしよう?部屋には行けるんだよね?」
「行けると思うけど。あ、そうだ、施設見学しよ施設見学!俺たちまだ全然ここのこと知らないじゃん。それは少し不便だし誰かに頼んで案内してもらおう!」
「いいねそれ。地図があればいいんだけどなあ。あれ?というか私たちの荷物どこにあるんだろう?」
地図という単語から私はスマホとかあればいいのにと思った。
そしてそういえばスマホとかいろいろな荷物はどうしたんだろうかと疑問を持った。
同じようなことを思ったのか樹希も不思議な顔をした。
でもすぐにひらめいたかのように樹希は言った。
「それも部屋に行けばわかるでしょ!多分。とりあえず部屋に行ってみよう。」
そして、1時間ほど時間をかけて施設見学を兼ねた迷子になりながらも、やっと自分たちの部屋を見つけ出すことができた。
外見は普通の寮みたいな大きさだった。
多分二段ベットとか置いてあるような小さい部屋なのかなと思いながらも、中に入って部屋を見てみると、なんと高級マンションの一部屋並みの大きさの部屋だった。
キッチンは一般家庭にあるようなものだけど、リビングがかなり広くなっていて、そこから4つのドアが設置されていた。
一つはトイレ。いや、なんでこんな広くしたのこんなに要らないでしょ・・・?何するところよここ。
一つはお風呂。脱衣所広い!なんで分かれてんの?!えっジャグジー?!うそでしょ・・・?!銭湯みたいな広さだね!?!?
残り2つは私たちの個室だった。
いや、普通の一般家庭のリビングくらいの広さはあるよこれどうなってんの本当に?
やばい、こんなところで暮らすの?まじで?
「ねえ、樹希・・・」
「なに、鈴・・・」
「広すぎない?」
「広いね。」
「というかさ、個室って言ったけどこれもしかして。」
「うん、完全に同室でもいいよねこれ。」
唖然としながらどうしてそう言ったのか。
それは、大きいサイズのベットが個室の中に2つずつあったからだ。
さらに、机もそれに合わせて2組あったからだった。
そこそこベットとベットの間は離れているし、机も離れているが。
十分2人部屋になりうる根拠だった。
ていうかここ本当は4人で住むところだよね・・・?いや実際は8人でも十分だよね・・・?!?!
そんなことを思いつつチラッとベットの下を見ると、私と樹希の荷物が、そこに置かれていた。