第5話 吸血鬼になるということ
第一章
第5話 吸血鬼になるということ
あの後泣き疲れてまた少しだけ寝てしまった。起きたら男の人もいて、家族へどう対応したのかも聞かされた。私や樹希の家族には、あの男の人は私や樹希の知り合いで、二人の将来についてとても大切なことを言わなければならないのでお貸ししてほしいと言ったそう。
私の家族のほうは、それなりに早く理解してくれたらしいんだけど、樹希の家族のほうはなかなか信じてもらえなかったと言っていた。でも、そこに私が関わってくるというと、渋々ながらも了解してくれたらしい。
そして今は樹希が目の前で寝ていた。
正確には、私の血を飲んだ樹希はあの時の私と同じように頭に衝撃が来ていたらしく、最初はくらくらしていた。そして瞳が紅くなり身体能力が上がっただけになっていたが次第に眠くなり始めたらしく、すぐに私が寝ていた病院の一室みたいなところで寝かされていた。
今は樹希が私の血を飲んでから6日目。あと1日だった。
「鈴さん、吸血衝動などは大丈夫ですか?」
突然ドアから入ってきたのはずっとお世話になっている加田隆司さん。
加田さんはお盆を持っていて、そのお盆の上にはチョコレートと紅茶が乗せられていた。
「はい。大丈夫です・・・」
実を言えば結構限界が来ていた。さっきから何回も樹希に噛みつこうとしていた。加田さんの話では、吸血鬼同士の吸血でも大丈夫らしいと聞いたことがあるけど、それでもさすがに目の前で私の為に吸血鬼になろうとしてくれている樹希に噛みつくほど抑えが聞かないわけではなかった。
でもやっぱり限界で話すのが精一杯だった。
「・・・結構限界なようですね。このチョコレートには衝動を抑えるために血が少しと衝動を緩和する薬と両方入っています。食べてみてください。若干眠くなってしまう薬なのでお気を付けくださいね。あとこの紅茶は吸血鬼が血の代わりに飲むもので、そこそこ味も美味しいので試してみてください。ちなみに私もこの紅茶には結構助けられていますので、効果はあると思いますよ。」
「・・・ありがとうございます」
実を言えばチョコレートから若干の血の匂いがしていた気がしたので、その説明で納得できた。
先にチョコレートを一口食べてみた。
「っ」
あれ?衝動が激しくなった・・・っ
逆の効果なんじゃ!?
そう思ったのもつかの間、目の前のチョコレートはすべて消えていた。
自分で驚くのもつかの間、すでに私は紅茶に手を出していた。
そばにはポットもありおかわりできると思うと、ごくごくと一気にその紅茶を飲み干して、ポットから注いでまた飲みほしてを繰り返した。
だいぶ限界だったみたいだった。
「・・・・・・」
「・・・よく、我慢なされていましたね・・・」
びっくりした顔をした後に苦笑いに代わった加田さんがそう言った。
「普通ならチョコレートを食べた時点で収まりが効いてくるはずなんですが・・・薬よりも血のほうを求めて一気にチョコレートを食べた後に、さらに紅茶まですべて飲み干すなんて・・・普通は限界症状が出てもおかしくないくらいの衝動ですよそれ・・・」
そう言われながらも少し意識がもうろうとしてきた。
「・・・ああ、チョコレートの薬が今やっと効いてきましたか・・・少し眠ってください、鈴さん。」
そう言われた私は樹希のベットに突っ伏して意識を失ってしまった。
「ん・・・」
起きて周りを見渡すと、私は樹希の隣のベットで寝ていた。
あれ?隣にベットなんてあったっけ?
とりあえず今の時間を確認した。
すると、もうすぐ朝の7時になるらしかった。
ということはもうすぐ樹希も目が覚めるかな・・・?
そう思って樹希を見てみた。すると、雰囲気がきれいになっていた。
顔も、もとからそこそこかっこ良かったけどそれ以上にきれいになっていた。
あれ?そういえば私、鏡一回も見てないなあ。鏡そこにあるし見てみようかなと鏡に近づいて見た。
誰も映らなかった。
「えっ」
私が声を上げたとき、ドアが開いた音がしてそっちを見る。
「鈴さん、おはようございます。」
「・・・おはようございます。」
落ち込んだ声でそう言うと、加田さんは私の目の前にある鏡と私を見て納得した顔をした。
「・・・ああ、自分の姿が見たいのですね。鏡を見たいならこちらの鏡を使ってください。」
と渡されたのは虹色に光っている手鏡だった。
恐る恐る見てみる。すると、私だとはわかる顔立ちだけどとても私とは思えないようなきれいな女性の顔がそこにはあった。瞳の色も黒から蒼に変わり、髪の色は若干白っぽくなっていた。
「・・・もしかして、鏡に映らないっていうのは本当なんですね?」
「はい。特別なものでないと、鏡には映れません。」
「そうですか・・・」
私が少し落ち込んだ声を出すと、加田さんは言った。
「その鏡はお譲りします。いつでも使ってください。それでは少し用事がありますのでこれで失礼しますね。」
そう言うと加田さんは部屋を出て行った。
私はしばらく鏡に映る自分を見ていたが、もう少しで樹希が起きることを思い出して樹希の寝ているベットに向かった。
そして樹希を観察した。
髪の長さは変わりがなく、相変わらずおしゃれでかっこいい髪形をしていた。
でも髪色は黒っぽい茶色から明るめの茶髪に変化していた。
というかこれはもう深い金色といった方がいい色をしていた。
とてもきれいだなあ、なんて思いながらそのまま観察を続ける。
すると、まつげが少し多くなっていて長さも少しだけ長くなっていることに気が付いた。
これは確かにきれいな雰囲気になるよね、と思いながら今度は口元を見てみる。
口からはあの鋭い八重歯の先がちらっと見えていた。
そこを見て、私はとてもドキッとしてしまった。
(・・・吸われたいな・・・)
・・・あれ?私、樹希に今なんて思ったんだろう。
でも一瞬のこと過ぎてすぐに忘れてしまったから、観察は終わりにしようと少しだけ樹希から目をそらした瞬間。
「・・・」
樹希の息が寝ているときの穏やかな息から起きているときのような息になろうとしていた。
それを聞き分けるほどの聴力もあるんだなと心で苦笑いして、起きたんだと樹希を見る。
すると、樹希の面影のあるとんでもなくきれいでかっこいい男子がこっちに蒼色の瞳を向けていた。
そして、にこっとではなくふわっと笑って、一言。
「おはよう、鈴。」
私も嬉しくなって思わず抱きついた。
「おわわ。」
「おはよう、樹希!」
「うん、おはよう鈴。」
そして少しの間二人で抱きしめあっていたが、急に気になったのか鏡が見たいと言い始めた。
さっき貰ったあの鏡を樹希に渡す。
「えええええっ!!!」
さすがの変化に樹希も驚愕したみたいだった。
私もびっくりしてた、うん。
「え、これ俺なの?どんだけ顔きれいになったの?もはや外国人じゃん!!」
「そうだよねそうだよね、もはや外国人だよね!そして私の髪も見てみてよ!樹希。」
そして私のほうを見た。
「あれ?この前鈴が起きた時は気が付かなかったけど、白っぽくなってるね。銀みたい。」
「えっ銀みたい?」
「うん。灰色っていうより、銀色って感じだ。」
そう言われて初めて確かにそうだったかもなあと思えた。
そして二人で他愛のない話をしていると、ドアが開いた。
そこには加田さんと、もう一人女性が立っていた。
今更だけど加田さん、やっぱり瞳の色蒼なんだなあ。髪の色は・・・黒に近いなあ。
女性のほうも瞳は蒼色で髪の色は金と銀の間って感じでがっつり外国人ぽかった。
「ああ、やっぱりもう起きてましたね。樹希さんおはようございます。」
「ああ、はい、おはようございます。」
「それで今連れてきたこの人ですが、紹介しに来ました。」
「おはようございますお二人さん。私は~、吸血鬼の~、医者ですぅ!名前はフィーネ・ツェリオ・ローズです~!よろしくねぇ?」
私と樹希は少しだけのんびりとした口調と名前の長さに圧倒されて少しだけ返事が遅れてしまった。
おかげで樹希とハモって挨拶をした。
『あ、えっとはい、おはようございます。よろしくお願いします。』
「は~いっ!よろしくおねがいしま~す!」
「こう見えても物凄く腕はいいんですよ。フィーネさん、きちんと二人が吸血鬼になっているのかの確認と、体調のチェックをお願いします。特に鈴さんは、昨日まで限界症状が出てもおかしくないほど我慢されていましたから。」
「はいは~い、了解しました~。じゃあまずは鈴さんからね~?」
そう言って私の体をあちこち触りまくっていた。
そして今は特に異常はなし、ちゃんと吸血鬼になれていることと、今後無茶しないようにと言われた。
樹希のほうも問題なく吸血鬼になっていたようだった。
そして、あのチョコレートのタブレットを渡しておくので血が吸いたいなあと思ったら2粒ほど食べてくださいと加田さんからミ〇ティアみたいなのを渡されて、その日は解散した。
そして次の日、体調も大丈夫だったということで直ぐにあの化け物を倒す訓練が始まった。