第2話 夢と現実
第一章
第2話 夢と現実
-夢の中ー
「鈴!!後ろを見ろ!!!」
私は後ろを振り返った。
すると、何かうごめいている丸い物体が、目の前に迫ってきていた。
「っ」
逃げようとしても、足が動かなかった。立つだけで精いっぱいだった。
「鈴!!危ない!!!!」
目の前には触手が迫ってきていたのに気が付かなかった。
樹希が咄嗟に私の手を握って走った。
運動はそこそこ得意だったから、何とか樹希に引きずられるようなこともなく走ることができた。
建物の角を利用しながら、隠れながら走って行って一時的に撒いた。
「はあ、はあ、はあ、はあ、はああああ・・・」
「・・・」
「鈴、大丈夫?」
「・・・ぁ、あ・・・」
声が出なかった。何とか逃げ切れたものの、あのまま食われていたらと思うと怖くて泣きだしそうだった。
「・・・大丈夫だよ、俺が絶対に守るから。」
そう言って抱きしめてくれた樹希も、震えてた。
でも、あったかくて、やさしくて、少しずつ落ち着いていった。
落ち着いた後に顔を見上げると、その眼は本気だった。
確実に私に何かあれば死んでも守ってくれるだろうと思った。
それは嫌だと、きちんと伝えようとした。
「ねぇっ、樹希っ!私、樹希を失いたくな・・・」
ドゴオオオオオン!!
突然後ろの建物が崩壊した。
おそらくはあの何かが、この後ろの建物を崩壊させてしまったんだと思った。
そして、その影響でできた破片がこっちに飛んできていた。
このままだと私に突き刺さるなあと思って目をつむる。
だけど、私には何もなかった。
恐る恐る目を開けてみる。
すると、目の前にはおなかに破片が突き刺さっている、大好きな人がいた。
私は、見ていられなかった。
守ってくれたことよりも、樹希が死んでしまう事実が怖かった。
「・・・樹希っ!!!!」
「・・・鈴、にげろ・・・にげろっ!」
「いやだ!!死なないで!!!いやだっ!!!」
「・・・逃げて・・・くれよ・・・」
その言葉を最後に樹希は少しも動かなくなってしまった。
「っ、樹希?樹希っ!!いやだ!!死なないで!!お願い起きてよっ!!」
「・・・・・・」
「・・・い、やだ・・・いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
――――――
「やああああっ」
目が覚めた。
どうしてあんな夢・・・
もう寝たくないけど・・・でもまだ夜だし・・・
怖いけど・・・もう一回寝たほうがいいよね・・・
よし。何とか寝よう。次は見ないはず。
―――――
サアアアアア・・・
気持ちのいい風が吹く、壮大な草原の上に私はいた。
こんな気持ちのいいところは、日本にはないから・・・夢かな?
『正解ですよ、鈴さん。』
突然声が聞こえてきた。
えっ心読まれてるの!?
『はい。ですが喋っていただいた方がはっきり聞き取れますので、喋っていただいてもいいですか?』
「・・・あ、はい、わかりました?それより、あなたは誰ですか?」
『・・・そうですね、とある妖怪といった方が通じるかもしれませんね。』
「妖怪・・・?」
『はい。私たちは一般的にはあなたたち人間に恐れられています。ちなみに、夜に主に活動する、夢に介入できる妖怪と言ったら、何だと思いますか?』
「えっと・・・夢魔・・・?」
『いいえ、違います。正確には夢魔も私たちと同類ですが、種族が違いますね。』
「人間に恐れられてるっていうくらいだし、夜に活動するんだから・・・まさか、吸血鬼・・・?」
『正解です。実は吸血鬼も、人の夢に介入できるんですよ。』
「でも、どうして私にそんな、吸血鬼さんが・・・というか、血は吸わないの・・・?」
『そこまで節操なしではありませんよ。それに組織に入っていますから、さらにそんなことできません。』
「そうですか・・・」
『そして、どうして私がここにいるのか。それはさっきの夢にあります。』
「っ!?」
『あの夢は予知夢と言います。あれは確実に起こることとして、予知夢となってあなたの夢になりました。』
「予知夢って・・・実際に起こることを先に夢で見てしまうことですよね・・・?」
『はい。知っていましたか。ではここからが本題なんですが。』
「はい・・・」
『私がここに来たのは、あなたたちが死ぬあの未来を変えようとしてここに来たんですよ。』
「えっ」
『あの未来を変えるには一つしかありません。鈴さんを強化することです。』
「・・・強化?」
『我々吸血鬼は、その血を他者の血に混ぜるとその人の身体能力が上がるんです。ちなみに飲むと、確実に吸血鬼化してしまいますが。』
「・・・訳が分からないけど、もう少し説明ください。」
『はい。まずは強化の話から。先ほども言った通り私たちの血を人間の中に入れると、人間は人間離れした力を持ちます。さっき血を混ぜるといった表現をしましたが、注射などで取り込むという意味です。そちらでも数パーセントの確立ですが吸血鬼化してしまいますが・・・。基本的には、相容れないものなので異物として排泄されるのですが、たまに栄養として取り込んでしまう人間もいて、そのために5%ほどの確立で人間は吸血鬼化してしまいます。』
「・・・なるほど。」
『ですが、飲むと違うのです。胃に入るので栄養として取り込んでしまい、100%の確率で吸血鬼化することが分かっています。なので・・・』
「私の解決策として、吸血鬼になってしまった場合には・・・っていうことですか?」
『そうです。』
「・・・・・・」
『ちなみに、それを使わずに生きれる時間はあの予知夢を見て対策したとしても最高で5分伸びるだけです。それ以上は確実に無理で、二人とも必ず死にます。』
「そんなっ・・・。仮に、吸血鬼になったとして・・・私や樹希はどうなるんですか・・・?」
『先ほど私は組織に入っていると言いましたね?その組織に来てもらうことになります。学校や友達を捨てて。そして、少しの訓練を受けていただき、私の立場に立っていただくことになります。』
「・・・立場?」
『ああいった怪物を退治するという役です。組織はそのためにあるので・・・』
「・・・」
『迷うようなら、私の血が入ったこの注射器を置いておきます。わかりずらいですが、こっちのほうに針が入っているので、もし使うならばこっちの穴をさしたいところに充てて思い切り押し当ててください。もう時間がないようなので。』
ふと見ると空中に人形と注射器が出てきて、人形が注射器をさす真似をしていた。そしてすぐに消えた。
「一つ聞いてもいいですか?」
『なんですか?』
「吸血鬼って本当に太陽が苦手なんですか?」
『苦手といえばそうですが、灰になったりはしません。身体能力が少し落ちるだけです。ほかにもニンニクが嫌いだとか、銀の杭で打たれないと死なないとか、そういうのは嘘ですよ。ただ、水は少し苦手で海とかに落ちたら少し肌が荒れますし、川などで勢いのある所に入れば力が出なくなって流されてしまいますね。プールとかなどではあまり流れもないので大丈夫なんですが・・・。あと、不老については本当ですが不死は迷信です。寿命は確かに何千年と生きることができますが、2個ある心臓を壊されてしまったら死にます。ですが一つなら、壊されても何も問題はないです。むしろ2,3日で治ります。』
「・・・いろいろ、嘘が混ざってるんですね・・・」
『まあそれは仕方のないことですね。本当のことは本当に見た人が流していますが、それに便乗した人が嘘を語ってそれが真実と混同してしまうことはありますからね。』
「そうですか。」
『それでは、この注射器は枕元に置いておきますので。覚悟ができたら、使ってください。』
その言葉を最後に、気持ちのいい草原は消えて夢から目覚めた。
バサバサっと何かが飛ぶ音が聞こえて起きた。
おそらくさっきの説明の通り、蝙蝠が飛んで行ったのだと思った。
そしてすぐに耳に入ってきたのはアラームの音だった。
アラームを止めて、枕もとを見に布団に戻った。
すると、本当に先ほど見た注射器がそこに置いてあった。
夢の中の話ではなく、本当のことなんだって言う実感がこの時には沸いていた。