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俺とパイセン  作者: 雨傘撃墜
第一章 後輩の僕と、愉快な先輩たち
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期末テスト四日前


 夏休みまで、あと10日。


 今朝はすっきりとした目覚めだった。やはり早くに眠ったのは正解だったな。

 体の隅まで気力が漲っている。これなら朝から勉強して昨日までの遅れを取り戻せるだろう。

 清々しい気持ちでベッドから起き上がり、何気なく時計を確認する。

 おや? 電池切れかな。時計の針が、深夜の2時で止まっているじゃないか。あ……、よく見たら秒針はちゃんと動いているな。

 ふむ……そうか。そういうことか。ふむ……。


「ほげぇーっ!?」


 やっちまった。

 夜の2時じゃない、昼の2時だ。

 ネトゲ戦士でもないのに寝すぎだ、僕のバカヤロー!! 何時もなら朝の7時には起きているのに……休日の半分を、無駄にした……。


 ていうか、僕の家族はなんで起こしてくれなかった?

 朝起きてこなかったら、部屋で変死してるかもとか心配にならなかったのか?


 慌てふためいて部屋を出ようとしたら、ドアを開いてすぐ下に何かが置いてあるのが目に入った。

 危ないな、危うく踏み潰すとこだったぞ。


 改めてそれを確認すると、ラップの掛かった朝食が、お盆の上に置かれていた。


 この置き方……まるで引き込もりの息子へのお供えものじゃないか……。

 息子の部屋の前にソッと置かれる、親の哀しみと消えそうな愛情が隠し味の、テレビとかでよく聞くアレが置いてあった。 

 え? 僕引き込もったと思われたの?

 半日出てこなかっただけで、判断が早すぎやしないかお母様?

 貴方の息子はイジメを受けても相手に百倍返しして苦しみ悶える姿を見て嘲笑できる強いメンタルの持ち主だから、そんな心配は不要だというのに。


 取り合えず、半日以上眠り続けてお腹が減っていたのは確かなので、さっそく腹拵えをしようとお盆を持ち上げたら、その下に二つ折りのメモが下敷きなっていた。書き置きかな?


 メモを拾って、中に目を通していく。

 どうやら我が母上は、朝一で韓国に日帰りの旅行にいったらしい。

 そういえば昨日帰ってきたときに、そんなことを言ってたような、言ってなかったような……? ダメだ。疲れていたせいか思い出せない。

 まあそんなことはどうでもよくて、ようはそれで僕の世話を隣の幼馴染みに頼んでおいた旨が手紙には書かれていた。

 ということはこのご飯は、あいつが作ったものか。ありがたく頂こう。

 流石にこの時間まで家に居るかどうかわからないが、ベランダ越しに見える幼馴染みの部屋を拝んでおいた。好物の玉子焼きを入れてくれてありがとうございます。美味しく頂きます。



◆◆◆



 朝食という名の昼飯を食べ終わった僕は、急き立てられるように机に向かって勉強を開始した。

 ノートにシャーペンを走らせる音と、時計の秒針を刻む音だけが部屋に響く。


 ……。

 ……。

 ……。


 ……なんだよ。勉強中にも面白いことやれってか?

 無理に決まってんだろ、だって真面目に勉強してるんだし。お笑い要素が入る余地がない。

 テスト前の男子高校生の休日なんて、こんなもんだ。むしろ騒がしいほうが困る。

 それに明日から本気出すって言ったからな、今日の僕はガリ勉クンになるんだ。

 髪をピッチリ七三にセットして日の丸印の必勝ハチマキ巻いて瓶底メガネをかけりゃ、どこに出しても恥ずかしくないガリ勉クンの出来上がりだ。これで机の横に栄養ドリンクを置けば尚良し。

 街を歩けば誰もが振り返る、完璧なコーディネイトと言えるだろう。

 あとは神経質な声で決め台詞を唱えるだけだ。


 僕の勉強の邪魔をしないでもらえるかなキミっ?



【今日の天野くんの勉強時間: +9時間 =  残り、15時間】



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