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俺とパイセン  作者: 雨傘撃墜
第一章 後輩の僕と、愉快な先輩たち
19/31

期末テスト六日前


 夏休みまで、残り十二日。


 朝からカァカァ煩いカラスの鳴き声で目が覚めた。現実なんてこんなもんだ。小鳥がチュンチュン言って優しく起こしてくれたことなんてあんまりない。今日も殺気を飛ばして近所迷惑な野郎を追い散らしておく。

 昨日は張り切って夜遅くまで勉強してしまった。お陰で今朝は少し寝坊だ。


「んーっ……、おはよう、小梅ちゃん」


 上体を起こして体を伸ばし、枕元にグッサリ突き刺さっていた短刀に微笑みながら朝の挨拶をする。

 ちゃんと鞘に納めて机の上に置いといたのに、寝ぼけて僕のベッドに潜り込んできたな、相変わらず甘えん坊さんだ。

 柄を掴むと、幼女のスヤスヤとした穏やかな寝息が頭の中に直接響いてきた。どうやらまだ寝ているらしい。

 小梅ちゃんを起こさないようにゆっくり引き抜いて、床に投げ捨てられていた鞘に納める。

 レディなんだから、もう少しお淑やかにしないとダメよ?


 心の中で小梅ちゃんを叱りつつ、僕は朝の支度に取り掛かった。



◆◆◆



 ――放課後。


 今日は僕とメア先輩がゴミ当番の日だ。

 懲りずに連日闘争を申し込んでくる漫研の連中を迎え撃つため、メア先輩とお手手を繋いでグラウンドまでやってきたが、漫研の連中はまだ一人も来ていなかった。

 代わりとばかりに、書記長ちゃんがひとりぼっちで立っていた。

 僕たちに気付いた書記長が、いつもどうりの綺麗な礼をしてくる。下結びのポニーテールもピョコンと挨拶してきた。


「お疲れさまです、天野さん、紫峰院さん」

「今日もお疲れさま、書記長ちゃん」

「おつかれ……」


 ここ最近ですっかり定型句になった挨拶を交わして、書記長ちゃんの隣に立つ。

 書記長ちゃんが何故ここにいるのかというと、部活対抗闘争の審判を勤めるためだ。今までも、流れ弾の当たらない場所からこっそり監視してくれていたのだ。ほんと真面目な子だよ。

 テストも近いのに大変じゃないか? と聞いても、「職務ですから」の一言で済ませるクールビューティっぷりだ。


「しっかしアイツら、連日仕掛けてきやがって……テスト週間じゃないのかよ?」

「部活対抗闘争は、部活動とはとても呼べません。ですので、テスト週間で規程されている部活動休止項目には、遺憾ながら含まれていないのです。以前からこの校規の矛盾は議題に挙がっていたのですが……急を要する案件ではないと、後回しにされてきました。こちらの落ち度です」


 僕が溢した愚痴に、書記長ちゃんは真面目に答えて謝罪までしてきた。

 ほんに真面目な子だよ……。


 僕が不用意に溢した愚痴のせいで微妙な空気になってしまったので、暇潰も兼ねて書記長ちゃんとお喋りしようと話題を振る。


「そういえばこの前、幾つか聞きそびれたことがあるんだけど、いいかな書記長ちゃん?」

「なんでしょうか」

「書記長ちゃんのスリーサイズ教えて」

「はい。上から、87・56・85です」


 うーん、やっぱり生真面目に答えちゃうんだなぁ。ていうか、見た目スレンダーなのにあるな。着痩せするタイプなのかも。浴衣とか似合いそうだ。


「そういやこの前は身長聞き忘れてたんだけど、160くらい?」

「いいえ。正確には、156.3センチです」

「160いかないんだ、案外ちっちゃいね」

「15歳としては、平均的な数値かと」

「後輩くん……。それはセクハラだと思う」

「えっ。メア先輩、なんでここでツッコミ入れるんです?」


 相変わらず独特な間合いを持つ先輩だ。お嬢なら聞き始めで扇子が飛んできましたよ。


「? ……わたしのサイズも知りたかった、てこと?」


 こてん、と首を傾げて見つめてくる先輩。

 どういう思考の果てにそんな結論に至ったんですか。というか先輩に対してそんな恐れ多いこと聞きませんって。そ、それに僕は、そういう事に興味ないですし? メア先輩が実は物凄い着痩せするタイプで和服を脱いだらスゴそうだなんて微塵も思ってもいません。本当です、信じてください。ほら、ピュアな瞳してるでしょ、ねっ?


 そんな風に三人でグラウンドの真ん中に突っ立って楽しく会話すること数時間……。

 結局、日が傾きはじめても漫研の奴らは来なかった。まさかのドタキャンである。


 勉強時間返せコノヤロー!?


【天野くんの今日の勉強時間: +2時間 = 残り、23時間】


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