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あどけない君に



統木 栄火の霊…


僕は昨日の黒い影を真っ先に思い出した。あれは何かと()い、該当(がいとう)するものが全く思い付かないがそれを唯一言葉にするのならば



霊…とも呼べるのかもしれない。



『それはつまり、死んだはずの統木栄火君の姿を見たとかそういうこと?』



『…さぁ。でもそいつ絶対に統木だって決め付けてた。なんか確信してたし…そういう話、あんまし出来る状況じゃなかったし俺も聞き流してたけど、今日ちゃんと聞いてくる。


…俺もずっと、引っかかってるんだ』




叶士とそんなやりとりをしていると、間も無く雨座の自宅へと辿り着いた。彼女の家はこじんまりとした小さなログハウス風の家で庭には色とりどりの可愛い花が咲き乱れていて裏には畑と小さな果樹園があるそうだ。ガーデニングが趣味なお婆ちゃんと育てた自慢(じまん)の庭なんだと、雨座はあどけなく笑った。



『昨日は畑から飛び出しちゃったから表も裏も鍵し忘れちゃって…待ってて下さいね! これからすぐ着替えてきますから!』



走り出した雨座だったが、ふと思い出したように玄関の扉に手を掛けたままこちらを振り返ってこう叫んだ。



『もし良かったら裏の畑や果樹園でも見てて下さーい! この季節になる美味しい蜜柑(みかん)もあるのでお昼のデザートにとっていって構いませんよー!』



今年は豊作らしいですーと叫び終わると家の中に飛び込んでバタバタと準備を始めた。最初の頃よりも大分お転婆な本性を(さら)して来たなと僕ら兄弟は気付かれないように笑うのだ。



『さて、女の子の準備は色々あるだろうし折角だから蜜柑でもご馳走になろうか』



兄さんの意見に賛成し、僕らは雨座家の裏側に回ると小さいながらも立派な作物の実る畑と果樹園に到着した。僕と叶士は教えてもらった蜜柑の木の元に行き、美味しそうな蜜柑を収穫した。



『兄貴。この蜜柑うめーよ』



『こんな時期に実る蜜柑もあるんだ…うん、美味しいね!』



木の下には少し大きな籠があり、収穫された蜜柑が入っていた。恐らくここにも収穫していたところ僕の悲鳴を聞いた雨座が飛んできたのだろう。嬉しいやら申し訳ないやらの気持ちが入り乱れる中、僕は籠を持って裏口に向かった。



裏口には、兄さんが佇んでいた。畑を見ていた兄さんだが手には僕と同じように収穫された野菜が入った籠を持っていたのだ。どうやら同じ目的で裏口に来たらしい。



『兄さん、兄さんも雨座の落とし物を見つけたの? こっちにもあってさー雨座ってば心配してくれたのは嬉しいけどせめて作物くらいは家に入れてから来れば…』



『…叶』



突然、兄さんが言葉を(さえぎ)った。



兄さんは僕の方へ振り返りもせず何故か(うつむ)いているのだ。



『兄さん…? どうかしたの。気分でも悪くなった…?』



兄さんは右手で、足元を指差した。兄さんの横から指差すものを見て…僕はすぐに裏口から雨座の家に飛び込んで必死に彼女の名前を叫ぶ。



後ろから蜜柑が転がり落ちる音を聞きながら、僕はただひたすらに



瀧阿(タキア)



と、あどけない笑顔をする彼女を探した。














『…お前の嫌な予感は、正解だ。叶…』



瀧阿の家の裏口には、足跡が残されていた。



高校一年生の女の子のものとは明らかに違う。そして何より、それは裏口から出たものしか残っていなかったのだ。


表の玄関から入ったから出る方の足跡しかないのか、或いは…裏口から入ったのは昨日のことで雨で足跡が流され雨が上がり地面が乾き切らず泥濘んでいたから出る方の足跡だけがあるのか。



問題は、何者かが…この家に(ひそ)んでいて僕らの来訪(らいほう)に慌てて去って行ったこと。果たして…瀧阿一人だけがこの家に帰っていたら…。




どうなっていたのか…。




『瀧阿っ…!』



家に入って瀧阿を探すが、一階には姿が見えない。家の中も全く荒らされた様子はなく物盗りの線は薄いだろう。



『先輩…? 先輩、どうかしましたかー?』



ふと二階から、呑気(のんき)な声が聞こえた。様子を窺うような彼女の声にハッとしてすぐに階段を駆け上がる。案の定、瀧阿は僕の気持ちなんて露知(つゆし)らず学校に行く準備が万端(ばんたん)な格好で廊下に立っていた。



『そんなに慌ててどうしたんですか? …あ。もしかして待ちくたびれてしまいましたか!? も、申し訳ないです…』



『っ…おいで、瀧阿!』



瀧阿の手を掴み、僕らは急いで雨座家から脱出した。突然のことに瀧阿は放心(ほうしん)していたものの家から出た瞬間に星一兄さんには抱きしめられ叶士には不安げな顔で頭を撫でられて、彼女の頭にはクエスチョンマークが飛び交っている。



こうして僕らはまた新たな恐怖を抱えて学校へと向かうのだった。





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