そして少女は
『皆さんに、沢山の嘘をついていました……。私は彼が、統木 栄火君が殺されたことを知っていた。そして恐らく私が第一発見だと思います。事件について知っていたこともあったし、何度も当日……殺人現場を訪れていました。
良くしてくれたのに……黙ってて、ごめんなさい……。事件を解決しようって皆さんが必死になってるのに、その情報を隠していたんです。
もう、私のことは放っておいて構いません……私は、罰を受けたいんです。栄火君が殺してくれなくても、いつかはっ……』
“犯人に、殺される”
震える声で紡がれた声は、小さく部屋に響いた。
みんなの反応は様々だ、父さんは先程から何か考えてるらしく椅子に座ったまま目を閉じている。母さんなど途中から涙が止まらなくて酷い有様だ……初めて聞く事件の内容と瀧阿の気持ちとが一緒になって許容オーバーらしい。叶士は後半からその場にしゃがみ込んでしまい、腕で顔を覆っている……こちらも心的ダメージが酷いらしく、未だに顔を上げる様子もない。無理もない……こんな酷い事件が僕たちの町で起きて、しかも被害者は同級生。殺され方は、あまりに異質……暴力に加えて衣服を脱がせて外に放置までしたのだ。何故そこまでする必要があったのか……全く見当もつかない。
そして、一番意外だったのが……最初に動き出したのが星一兄さんだったこと。
『瀧阿』
僕らに顔を背けて横になる瀧阿に、星一兄さんは近づいてベッドの横にしゃがんだ。星一兄さんが近くに来たことをわかってても、瀧阿は背けた顔を見せることはなかった。
『どうした、瀧阿。随分と嫌われたもんだな、可愛い妹に顔を見せてもらえないと寂しいんだがな。
瀧阿。隣町のクレープ、何味を食べたんだ? 俺はまだ行ってないんだ。瀧阿が食べたやつを食べたいな……どうだ? 今度は春雛三兄弟と一緒に行かないか? 男兄弟ばかりだとなぁ、ああいうキラキラした店には入りづらいんだ。瀧阿が一緒なら、花があって最高だ』
『瀧阿は料理が上手だからな。この前は簡単なものしか一緒に作れなかったから、二人でお弁当作りしよう。みんなで休日に出掛けるんだ、瀧阿は何処に出掛けたら喜ぶか楽しみだ』
『白洋のやつにな、我が家の可愛い瀧阿に手を出すな! って言ったらな【弟が二人いるのに妹まで我が物面か、ブラシスコン野郎】って。別に弟たちはどうでもいいんだがな……瀧阿は別だ、シスコンでも許してくれ』
『ああ、瀧阿。自転車の二人乗りは危ないから止めるように。もしも事故に遭ったらどうするつもりなんだ? お友達に誘われてもさり気なく、断るように』
段々と、ベッドの布団が小さく動き始めた。そして……小さな泣き声も聞こえ始めると、星一兄さんは一人話すのを止めて布団にそっと触れる。
泣き声は、やがて大きく、大きく……病院中に響くのではと危惧するほどのものとなった。
『俺はな、瀧阿。瀧阿に会えてとても幸せだ。父さんも母さんも叶士も叶一郎も、
栄火君もだ。いいか、彼に瀧阿を殺す気なんてないんだよ。彼は瀧阿を助けたい……勿論、俺たちもだ。だからどうか、瀧阿……死なないでほしい。生きるって、言ってくれ。生きたいって、言ってくれ。
それが難しいなら、……せめて』
布団が、大きく翻った。
飛び出した影に驚く間も無く、驚いてその場に尻餅をついた星一兄さんの膝に落ちてきたのは紛れも無い篭城犯の瀧阿。
彼女は言った、涙しながらも声高らかに……しっかりとした口調で。
『っ助けて……助けて、下さい……!! 私たちを……私と栄火君を、どうか……助けて下さいっ……』
それは変わらず、僕の好きな真っ直ぐと輝く瞳を持つ彼女だった。震える手を、足を。唇を……でも、瞳だけは。濡れても変わることない、綺麗なそれは覚悟を決めた意思の表れ。
『ほら、瀧阿。喉渇いただろ? お茶買って来たから飲めよ』
『いやぁー兄さんがクレープの話をし始めた時は何言ってんの馬鹿兄さん、なんて思ったけど……流石兄さん、元悪は違うよねー。
ところで叶士? 僕のお茶はないのかな、ついでに売店でお菓子も買ってくれないかなー』
あれから小一時間ほどして、すっかり調子を取り戻した僕らは今後の方針を固めていた。瀧阿からの貴重な情報も得られて事件についても進展していくだろう。
『いいだろ、クレープ。あのクレープ屋は本当に美味いらしいぞ。甘さ控えめの物もあるらしいから、全員参加な。
あと叶一郎、お前いま何つった? いい度胸してるじゃねぇか久しぶりに遊んでやろうか、なぁ』
『みんな遊ばないの! 星一、汚い言葉使っちゃ瀧阿ちゃんが怯えちゃうでしょ。病院の外か家でやって頂戴』
素早く瀧阿の後ろに隠れると、流石の星一兄さんも手も口も出せない。瀧阿と顔を見合わせて笑っていると父さんの手を叩く音で全員が動きを止め、やっと考えがまとまったらしい名探偵の方を見る。
『瀧阿も大分落ち着いたようだから、話をまとめるぞ。……瀧阿、大丈夫か?』
父さんの問い掛けに、瀧阿はしっかりと首を縦に振る。その様子に父さんもよし、と声を出してポケットから手帳とペンを出す。
これから始まるのは、改めて……事件の流れを整理すること。
『まず、事件発生時刻……これは不明だ。加えて犯人も、目星はついてない。
瀧阿の目撃証言から夕方、駅近くの河原にて統木 栄火君がクラスメート複数から暴行を受ける。しかし、死因はこの暴行とは別であると裏側の朝狩君が証言しているが信憑性に欠ける。そして、2度目に瀧阿が河原に向かったのは深夜……零時過ぎと推測しておこう。
ここで、瀧阿と白洋君の二人が栄火君のひとならざる姿を見た……ここから町でも目撃情報がある、例の黒い人影が誕生。再び時間が空いて、三時過ぎ辺りに瀧阿が家を出て、四時近くに河原に着いて遺体となった統木 栄火君を発見。これが、大まかな流れとなる』
父さんの視線を受け、瀧阿は……はい。としっかりと頷く。それを見て父さんも頷くと手帳を一枚破き、また何かを殴り書いては頭を抱える。
固唾を飲んで見守る中……父さんは、ある真実をみんなに伝えた。それは僕だけが以前聞いた……恐ろしい内容だ。
『瀧阿、落ち着いて聞いてほしい。君が最後に栄火君といた時……事件は終わっていなかったんだよ』
『……え? で、でもその後……家に菊一さんが来て、事件のこと』
そっと瀧阿の手を握り、父さんの言葉に身を固くする。そう……瀧阿はまだ、あのことを知らなかった。
『殺された統木 栄火君の遺体の一部が切り落とされ、未だに見付かっていない。
……彼の頭部が、見付かってないんだ』
力が失われた手を、こぼさないよう必死に握り続ける。
『直に報道されるだろう……警察でも河原や川の中もくまなく捜索してる。しかし、今も発見には至ってない。なんの意図があってかは全くわからない……ここまで猟奇的な事件は、そうは無いだろう……』
『傷だらけだったんです』
手に力が戻り、僕はこの時……初めて彼女が意外に思えた。
蘇った思いは、怒り。
『とても古い傷痕や……火傷。痣の数々、きっと……幼い頃から。それなのに……体、を奪うなんて……』
『そうだ。首を持って逃走するとは考えにくい……初めはすぐに発見されるとされていた。しかし頭部の行方は全くわからない。瀧阿も知らなかったとなるとこれ以上の情報は期待出来ないな……』
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