弟の変化と登校班
弟の変化に気付いたのは2日後の朝だ。
登下校を共にするため、寝起きの悪い弟を起こすのは僕の役目。時間厳守だし何より僕たち兄弟は3人揃って学校へ向かい1人の生徒を拾って行かなくてはならない。3人というのは僕と叶士ともう一人いる僕らの兄である。24歳で会社員の兄が僕ら2人の弟を送る役目をかって出てくれた。そしてもう1人…僕らの家の近くに住む生徒も一緒にグループに入れてほしいと学校から話があった。なんでもその生徒は近所にグループを組める人が住んでいなかった。しかもその生徒1人のために教師を割けるほど人手が足りているはずもなかった。
そのため我が春雛家は3人兄弟ともう1人の生徒がグループを組んで暫く登下校を共にすることになっている。だから僕らは生徒を迎えに行くためにも遅れるわけにはいかない。
『叶士! 叶士ってば起きてる? 学校行く時間もうすぐだよ、早く朝ごはん食べてよー』
彼の部屋に入った時、すぐにその異変に気付いた。珍しく起きていた叶士に驚いた、スマホを片手にベッドに腰掛けて窓の外を見ているその姿に違和感を感じてもう一度声を掛ける。
『叶士…? どうしたの、叶士』
『…兄貴。いや…なんでもねーよ』
春雛 叶士、僕と違って身長も平均より高くガタイもいい。父親に似て強面にして性格もとんがっているけど家族を大切にする大事な弟だ。
母親似で男なのにヒョロくてチビな僕を叶士と兄の星一兄さんが守ってくれていた。だから僕は今回の事件で落ち込む叶士を元気付けたいと思っていた。
『…すぐ用意すっから』
叶士はむしろ、日に日に顔色が悪くなり最近では眠れないらしく目の下には隈が出来始めて強面が更に拍車をかけている。叶士に部屋を追い出されて一階のリビングに行くと兄の星一兄さんが朝食の準備を終えて待っていてくれた。
『叶士は起きてたか、叶。朝飯出来たからお前も座れ』
『兄さん…叶士、顔色悪かった。起きてたし眠れなかったんじゃないかな…』
僕の言葉を聞くと星一兄さんはそうか…と呟いて椅子に座った。僕もそれに倣って座ると兄さんはコップに紅茶を注いでくれた。
『同級生が亡くなったばかりだからな…。まだ心の整理も必要だろ。あまり親しくなかったとはいえ挨拶くらい交わしたはずだ。同じ教室で一緒に学んだ仲間だからな…俺たちも出来るだけフォローしてやろう。学校では頼むぞ、叶』
『うん。わかってるよ、兄さん。食べたらすぐ行こう? あの子も待たせたら危ないしね』
降りてきた叶士は案の定朝食は要らないと言ったが、不機嫌になった兄さんが紅茶くらい飲めと無理矢理飲ませて僕らは出発した。
殆ど山の中の我が家から数十分ほど下り、今はもう使われていないバス停に佇む1人の女子生徒。とても長く少し癖っ毛のある髪を持つ彼女は僕たち兄弟に気付くと丁寧にお辞儀する。彼女こそが僕らのグループに入った生徒。1年生でしかも転校してきたばかりだという彼女はいつも控えめで大人しいがとても良い子だと思う。
『おはようございます、春雛さん。今日も宜しくお願いします』
頬を赤らめ緊張した面持ちで90度きっちりと体を曲げる可愛い後輩の姿に僕らは手を振りながら合流する。こうして集まったメンバーで登下校を繰り返すのだが、僕は案外この時間が気に入っていた。
1年、2年に3年生と社会人。バラバラの4人での登下校だが毎回会話は途切れず後輩の雨座 瀧阿もまだ会って日が浅い僕らに遠慮しているところが多いけどしっかりした子だから面倒見のいい兄さんも雨座も含めて僕らを守ろうと日々警戒して送迎してくれている。こんな日々もあと数日で終わるかと思うと、少し寂しい気もする。
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