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託す



燃え盛る炎の中から、悪意によって灼かれるはずだった君が……彼によって救われた。棚蔵はもう完全に火に巻かれていたというのに、黒い人影は自らの周りを燃やす黒い炎によってそれを打ち消す様にして現れた。決して腕の中にいる少女を傷付けさせまいと、炎は二人を灼くことなく周りを燃ゆるばかり。


集まった人々の誰もが言葉を失い、息を飲む。しかし黒い人影はそれらを気にする筈もなくただ……ゆっくりと歩み始めた。



『栄火……』



ポツリ、と零れた叶士の呼び声にも反応することなく黒い人影は真っ直ぐと僕の方へと歩み寄ってきた。何度も僕らの前に現れ、敵なのか味方なのか……その正体すらはっきりとは、わからない。しかし、こうして彼は瀧阿を助け出してきてくれた。完全な味方とは言えなくとも、敵とまではいかないはずだ。


僕は、その場から駆け出して二人の元へと辿り着いた。改めて近くで見る彼は……少し怖いけど。そっと盗み見た瀧阿は意識を失っている様だけど、大きな怪我も火傷の類も小さいものばかりでホッとする。



『……ごめん。ちゃんと守れなくて、君に頼ってしまった。僕たちを信じられるわけないと思う……でも、僕は。僕は、瀧阿を守る。瀧阿は狙われてるんだよね? 君に関する何かを……または、違う何かを知ってるから。


瀧阿にそのことを聞くのを……どうか許してほしい。事件を解いて、犯人を捕まえて、上手くいくかはわからないけど。そのためには……情報が必要だ。彼女が傷付くかもしれないけど、命には代えられないよ。瀧阿を守ってあげて……君の方が、きっと……。瀧阿も安心するよ』



黒い人影は、暫くそのままだった。何かを考えているのか……または伝えたくても、手段がないのか。


そうしていると、彼がそっと彼女の顔を見るように首を下にする。その時だ。幸運にも、雨が降り出した。この火災の中で雨とは……周りの人たちも雨に気付いて歓声を上げ始める。


釣られて僕も空を見上げようとした時……黒い人影が徐々に薄れるのに気付いて慌てて瀧阿を抱き留めようと腕を伸ばして走り出した。



『瀧阿っ……!』



黒い人影が完全に消え去り、地面に落ちる瀧阿を寸でのところで抱きとめることに成功した。バランスを崩して盛大に転んでしまったものの腕の中の瀧阿は無事だ。


ああ、本当に……よく、帰ってきてくれたよ。



『全く……あんなメール寄越したりして。きっと星一兄さんは血相変えてるよ。帰ったら、うんと怒ってあげるんだからね』



それから僕らは、間もなく消防士や警察官が溢れ始めた現場から何とか瀧阿を救急車で病院まで運んでもらった。病院では瀧阿は軽症と診断され、煙もあまり吸っていなかったようで大丈夫。足を少し捻ったのか腫らしている以外は大した怪我もなかった。


瀧阿の意識は戻らないまま、両親と星一兄さんが病院に集まった。瀧阿の意識が戻らないために一時入院ということになったため、個室にみんなが集まった。そこで僕らは裏側で起きた火災を詳細に語った。



『全く……。会社でメールを見た時は心臓が止まるかと思ったんだぞ。お前たちに電話しても繋がらないし、少し目を離すとすぐこうだ』



『僕だって……。でも、こうして無事だったんだもん。本当に良かったよ』



そっと瀧阿の髪を撫でる母さんも、未だに青い顔をしている星一兄さんに苦笑いを向ける。相当ここに来るまでの道のりで荒れていたらしい……病室に真っ先に入って来て、後で看護師さんに院内を全力疾走するなと怒られていたからだ。まぁあんなメールを送られれば、星一兄さんなら仕方ないだろう。


しかし、安心する二人とは違って難しい顔をするのが父さんと叶士だ。



『瀧阿が生還したのは喜ばしい。しかし……まずい事になったな』



父さんは雨に打たれる窓に近付くと、すぐにカーテンを閉めてしまった。誰もが首を傾げる中、父さんは静かに語り始める。



『状況は最悪だろう。


未だに我々も、警察の方も事件の収穫はゼロに近い。ある程度はあっても決定打に欠け過ぎている……犯人の目的も望みも不明。

ただ、瀧阿は狙われていて我々は彼女を隠したが……犯人は何処からか瀧阿が裏側のどこかにいると知ったんだ。しかし、何処かはわからなかった……だから裏側のあらゆる場所に火を放ってあぶり出そうとしたわけだ』



『……それは成功して、瀧阿はこうして表に出て来ちまった……ってわけか』



母さんはハッとしたように口を覆うと、悲しげな顔で瀧阿を見つめた。星一兄さんも悔しげに目を閉じ、静かに拳を握る。



そう、瀧阿もそれを理解していたのだろう。自分の知る記憶が、それほどのものと知ったのだ、あの火事で。だから絶望し、炎に灼かれることを良しとしたのだ……例え生き残ったところで、また同じことの繰り返しが起こるかもしれないのだから。



『裏側ほど瀧阿を隠すのに適した場所は、もうないだろう。そもそも次も犯人の目を欺けるかわからない……向こうも警戒しているはずだ、次はない』



病室には、窓に当たる雨音が妙に煩く響き渡っていた。どうしようもなくなった状況に、次の手を……でも。一体どうすれば? 今この瞬間にも犯人は、この病院に何をしてくるか。いや、僕らがいなくなった瞬間……ここに押入られたら。










『……犯人が、私を狙うのは……恐らく私が現場に三度訪れた者だから、でしょうか。そして何より……私が









私が……彼の、第一発見者……だからかと思います』



少女の懺悔の想い。



そして、溢れる後悔と悲惨な事件。



『あの時の彼が、栄火君が……ずっと助けてくれていたあの人だった』



踏み出せなかったあの時の



『私なんかの、せいでっ……あんな、姿になってまで……みんなに怖がられてまでっ……!』



臆病で弱虫な自分



『お話……します。あの日の、出来事……私の罪を……。私には、わからないからっ……話して、何か掴めるなら!!



……どうか、お願いします』













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