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家族として



廃墟と言っても、まだ開いていた店もあったし木造建ての建物も多い。何より裏側は治安が悪くゴミの問題などがあった。それにより火の手は止まることなくどんどんと燃え広がり、着実に進んでいる。降りかかる火の粉を自転車で振り切りながら僕らは裏側を懸命に走り回るも一向に棚蔵は見つからない。地下道を通った辺りから自転車を降り、今度は走って棚蔵を探す。地下道を出た先は更に炎が激しくて一部の建物は既に全焼し始めていた。



どうやら火は奥から放たれ始めたらしく、この辺りが一番燃え広がっているようだ。



『っ……駄目だ、この先はわかんないよ…! 大体暗い時間帯ばかり通ってたから…、どうしようっ…早くしなきゃ瀧阿が!』



朝狩さんのあんなに焦った声は初めて聞いた……彼があんなに取り乱していたのだから、きっと棚蔵にも火の手が迫っていたに違いない。正確な場所は言っていなかったけどあの状況なら間違いなく棚蔵のことをいったのだろう。



脳裏に浮かぶ、炎の中で泣いている瀧阿の姿。



棚蔵の一番奥にある部屋に瀧阿はいた……いつもそこで人目を忍んで生活していたのだから。あんな地下室にいたら、もしかしたら……逃げ遅れたのかもしれない……もし、今一人で泣いているのだとしたら……




『そんなっ……なんで、こんな……嫌だよ! そんなの絶対に嫌だ! 死んじゃ嫌だっ、嫌だよ…っ





瀧阿っ……!』





また、あのアラームが鳴っている



いつもそうだ。このアラームが鳴る時は瀧阿が関係する時。



だから……瀧阿は今、悪いことが起きてるはずだ。助けないと……正しい方向に進んで瀧阿を助けないと……でないと、瀧阿が……





『……っ栄火』




ふと呟かれた叶士の声に、僕は顔を上げた。


通りの先に立っている……黒い人影。それは変わらず顔がどす黒く塗り潰されていて、僕らの方をじっと無い目で見つめているような気がした。何日も見ていなかった姿に驚きつつ、何か言葉を発しようとする前に彼は僕らに背を向けて歩き出した。距離が離れると立ち止まって僕らの方を振り返り、また歩き出す。



『……まさか、案内を……?』



『この状況ならそれしかねーな……いくぜ、兄貴!』



栄火君を追いかけて僕らは只管(ひたすら)、裏側の奧へ奧へと歩を進めていった。炎によって落ちてくる障害物に注視してる中……落ちて来た看板が栄火君目掛けていったが、それは何かにぶつかる音もなくただ地面に落ちただけだった。完全に栄火君をすり抜けて落ちた看板を(かわ)し、やはり彼は……実体の無い何かなんだと改めて痛感させられた。



とある角を曲がった後、今まで前を進んでいた栄火君がいなくなっていた。どこに行ったのかと探していると、そこは見たことのある場所で……後ろを振り返ればそこには棚蔵があった。



しかし……。




『なんだよ……これ……』




棚蔵は周りの建物以上に激しく燃え広がっていた。元々木造の建物だった……古い建物だったけど、こうなっていると予想したくなかった。


隣で叶士が力なく地面に座り込み、顔を覆って大声で泣き叫んだ。既に避難していなければ完全に手遅れだということは誰が見てもわかる。




ふらふらと棚蔵に向かって歩いている途中、突然背中に何かがぶつかってきて急いで後ろを振り返る。そこにいたのは顔に煤の着いた白田君と上着やズボンの一部が焦げてしまい、足を引きずった黒井君たちだった。



『お姉ちゃんがっ…!』



『助けて! お姉ちゃんが…お姉ちゃんがまだ中にいるんだ! 僕が、僕が…お姉ちゃんの手を離しちゃったからっ…』




そして、どうしようもない現実は無慈悲にも僕の前に告げられることになる。未だに燃え続ける棚蔵を振り返り……あそこに瀧阿がいるのかと、誰派かとなく問いかける。


二人は騒ぎに気付いて外へ様子を見ようとしたらしい。その時はもう棚蔵に火の手が上がった時で、急いで部屋に戻り逃げようと瀧阿の手をとったらしい。しかし途中で混乱の中で怪我をした客を見つけ、瀧阿は他に逃げ遅れた人がいないか見るから二人は怪我人を連れて先に逃げてほしいと……手を離したそうだ。



『奥にも部屋があったし、たまに煙草吸う人とかもいたから見に行ったんだ…さっきお姉ちゃんに逃げるように言われて逃げてきたって人もいた。



でもっ…! お姉ちゃんがどこにもいないんだ…きっとまだ中にいるんだ! 助けに行かなきゃっ…!』



『お姉ちゃんっ…お姉ちゃん、死んじゃやだよっ…誰か助けてぇっ…!』




いつも瀧阿と仲良く遊んでいた二人。瀧阿や夜丸君たち以外の人間とは殆ど口をきかず、目も合わせようとしなかった。それなのに今は震える手で僕を掴みながら必死に口を動かして、瀧阿を案じて行動している。



…僕は、燃え盛る棚蔵に目を向けて一歩歩き出した。



『行くな、兄貴っ…!』



叶士に手を掴まれ、足を止める。目を向けた先にいた弟は泣きながら首を横に振っては懸命に僕を止めようとする。



『もう手遅れだ! こんなに燃え広がってんだぞ?! 例え瀧阿を見つけられたとして、戻って来られる時間があると思ってんのかよ! どこにいるかもわからないんだぞ? 途中で兄貴がなんかの下敷きにでもなったらどうすんだ!



っ…家族を! 家族を、兄貴を! 俺は失いたくない…例えここで瀧阿が中にいたとして! 俺は絶対に兄貴を行かせねぇ!』






その時、ポケットから……一通のメールが届いた。



叶士も気付いた辺り、僕らに届いたメールだ。どうしてもそれを見なければならない気がして……僕はそのメールを開いた。














【お兄ちゃんたちへ



幸せな時間をありがとう。短い間だけでも、お兄ちゃんたちの妹になれたみたいで私は幸せでした。でも、もういいんです。私はやっぱり死ぬべきだから、もう大丈夫。


私は、栄火君を三度も見殺しにした人間なんです。最低で最悪で浅ましい…恩人だった栄火君を救わなかった、クズみたいな人間なんです】













次回、瀧阿目線にて過去編になります。

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