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いかないで



翌日は、あまり良い天候に恵まれなかった。空はどんよりと曇っていて晴れ間はなく何よりも風が強い日だった。授業も終わり昨日よりは落ち着いた学校だったが、やはりまだ生徒たちの話題に多くなるのは仕方ないことだと思う。


叶士と共に校舎を出ると、またしても出処不明の自転車を引っ張って来るとそれに跨り後ろに乗れと目で合図してくる。



『またその自転車…? 本当に誰のなのさ、借りて大丈夫なの?』



『クラスメートの。


…前に話したろ? 栄火の霊を見たってやつ…あれからすっかり怯えまくって車で登下校してるから借りてる。事件のことも調べてるって話したら快く貸してくれた』



叶士の操縦する自転車に乗り、裏側へと向かう道中……事件のことを思い出していた。


先ず最初に亡くなった統木 栄火君。彼は一年の頃からいじめに遭っていた。理由は、飛尾 夜丸君に夜丸君のお姉さんである飛尾 夜津芽さんの持ち物であるネックレスを渡したことが始まり。夜津芽さんは二年は行方不明で、夜丸君はずっとお姉さんを探していたため栄火君に何度もお姉さんについて問い詰めるも栄火君は何も語らなかったという。



栄火君の事件で一番の容疑者として浮上したのが夜丸君だ。彼は裏側と呼ばれる町の端に面する場所を支配下に置いている。何度も栄火君を暴行するところが目撃されていたため、容疑者とされている。しかし彼にはアリバイがある……勿論、彼の仲間の証言だから信じきることは出来ない。でも僕は、彼が嘘をついているようには見えなかった。



二人目の被害者、志島 卓継君。彼は夜丸君の元で裏側を主な生活区としていた。同じクラスで夜丸君を尊敬していたらしく、死因は事故によるものとされているが真実はわからない。朝狩さんの話では志島君は栄火君の死後、夜丸君にその容疑がかかっていると知り疑いを晴らそうと警察に話しに行こうと仲間に語っていたらしい。事故当日にも何人かの仲間に声をかけていたという話だ。



そして今、町を騒がせる存在 黒い人影。



栄火君が亡くなった夜、それの誕生を見たのが菊一 白洋さんと瀧阿だ。中でも瀧阿はたまたま通り掛かった菊一さんよりも前に現場にいた。そのため瀧阿は何か知っていると思われるが未だ口にする気配はない。



『…やっぱり、栄火君の事件について知ってる人はもう瀧阿だけだ。新たな証人も出ないし…瀧阿に話してもらいたい。早く犯人を見つける…そうでないと瀧阿も元の生活に戻れないよ』



あの時はまだ話してもらえなかった……何故、瀧阿が当時のことを語ってくれないのかはわからない。だけど、事件について進展しない今はどんな情報でもほしい。



『棚蔵に行ったら、瀧阿に話してみよう』



『そうだな。辛いことだろうし、あんまり無理に聞き出したくねぇけど…仕方ないか。


兄貴。朝狩に連絡してくれ、自転車はこの公園に置いとけばいいんだろ?』



強い風が吹いていたので予定より遅く到着した。そこは朝狩さんと出会った(さび)れた公園でベンチしかない物悲しい公園だ。他の遊具は撤去されたらしく台座や砂のない穴の空いた地面しかない場所。裏側でも隅に位置するこの公園は、もはや名前すらすり削られていて読めない。


朝狩さんに電話をするも、中々繋がらず暫く時間が経過する。忙しい時間に来てしまったのかと思いつつ近くの販売機でジュースを買って叶士と休んでいた。



『それにしても、本当に今日は天気悪いよね。朝より風強くなった? 洗濯物外に干さなくて正解だったなぁ』



『洗濯物っていや…瀧阿の服持って来てやるの忘れてねー? もう少し持って来てほしいって言ってたよな』




それは、突然降りかかる悪意




『あ、朝狩さんから電話きたよ』




どんなに僕らが守りたくても


どんなに僕らが大切でも



それは、僕らから容赦なく彼女を奪いにくる。




『もしもし、朝狩さん…? すみません忙しい時間に電話しちゃったみたいで。今、例の公園に弟と来てるんですけど』








【っにげろ…! もうこっちまで燃え広がってる!! 犯人は本気だ、君たちは早くそこから逃げるんだ!】




裏側の廃墟(ひしめ)く通りが目に入り、僕は呆然とスマホから聞こえる声を聞き流していた。隣で自転車が倒れる音がして……ただただその光景を見つめながらもふと、涙が流れてきた。



『瀧阿……』



裏側から上がる、炎。


黒い煙が其処彼処(そこかしこ)から上がってきて、多くの悲鳴と共に曇天(どんてん)の空へ吸い込まれていく。黒い煙を吸った空は重く……今にも落ちてきてなにもかも潰してしまう気がした。



『瀧阿……瀧阿っ、いかないで…』




折角救った命が、悪意の炎によって今……奪われようとしている。




『なにしてんだ、兄貴っ…!』



叶士の声に意識を戻すと、叶士はその場に鞄や上着を投げ捨てて自転車を立て直すと買ったばかりだった水を僕に向かって頭から振りかけてすぐに後ろに乗るよう(うなが)した。



『助けにいくぞ! まだ火が上がって間もないはずだ! まだ助かるかもしれねぇ!』



『でもっ…でも、叶士…僕ら棚蔵の場所も知らないのにっ…!』



叶士の背に掴まりながら、なんとか自転車が走り出す。流れる涙が止まらなくて何度も擦りながら裏側の状況を確認する。廃墟が殆んどで時間も夕方に近かったせいか何人もの人が建物から飛び出しては逃げていく。まだ火事に気付いていない人もいるのか辺りはパニックに包まれていて、僕らはそんな人たちを掻き分けながら進んでいる。


叶士が逃げる人を捕まえては棚蔵の場所を聞き出そうと問い詰めるも、誰も場所を知らない。ただでさえわかりにくい場所に建っているから殆んどの人は知らないのだろう。



『くそっ…! こんなの絶対瀧阿を狙って火を放ちやがったに決まってる! この火事、一箇所じゃなくて色んなところから燃えてる…裏側を全部焦土(しょうど)にする気かよ!』





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