裏側の住人
同じような路地を通り、とても道とは言えない高い塀の上や異臭漂う地下通路。建物の中に入ったかと思えば窓から出て……ベランダから入ったと思えば玄関から出る。直に気付いたことは僕らはもう帰る道など既に記憶していないということ。なるほど、逸れたら二度と朝狩さんを見つけることは不可能だろう。一体どれほどの冒険をしただろうか、ついたのは黒く年季の入った重々しい扉のある建物。
入るとどうだろう……外から見たのは古びた外観だけだったが中は結構広い店内でとても綺麗だし、眠威と似た落ち着いた空間だ。数あるソファーには様々な人が座っているが僕らに視線を合わせることはない。朝狩さんは店内の奥へ進みカウンターにいたバーテン服を着た男性と言葉を交わすとすぐに僕らの方へ向かって来た。
『君たちを会わせてもいいって許可が出てるみたいだよ。色々協力したいからさ、先ずはこっちの誠意ってのを見せなくちゃねー』
朝狩さんに言われ、僕らは更に店内の奥へ奥へと入って行った。やがて地下への階段を降りて着いたのは両開きの扉だ。扉の上には小さな文字で【guest】と書かれている。
朝狩さんは扉を開き、僕らは中へと導かれた。暗い赤を基調とした部屋はグランドピアノや黒と赤の大きなソファー。棚に仕舞われているのはどれも見たことないくらい綺麗で細かい装飾が施されたアンティークの品々。
ふと響いた何かが崩れる音に気付いて、先程の黒と赤の大きなソファーに目を向けた。さっきは気付かなかったが大きなトランプタワーがあったのだ。それが何かの拍子に崩れて先にあったものが……僕らの目に飛び込んで来た。
『っ…ぁ…瀧、阿…! 瀧阿っ……!』
今朝出掛けた時と同じ服装で、水色のレースの半袖に白い膝丈のスカート。怪我もなく髪だけがおろされていたけど何も変わりない……元気そうな姿の瀧阿がそこに立っていた。
『先輩っ……春雛先輩! 春雛さん!』
目尻に涙を浮かべながら駆けてくる瀧阿の姿に僕らも慌てて彼女を迎えに行った。残りのトランプタワーが崩れるのも気にせず、真っ直ぐ僕らの元に飛んできた瀧阿。手を握り再会を喜んで、星一兄さんは瀧阿を抱き上げて高い高いまでする始末……無事に生きて、帰って来てくれた。僕らは暫く互いの再会に喜んでいた。
『改めまして…俺は朝狩。普段から裏側に住んでて色々してるよ。最近は大体、ここで情報整理や収集かな。
で。こっちの二人は黒井と白田。タキアンの暇つぶしに用意したんだ。この【棚蔵】で住み込みでバイトしてるよ。あんま表情動かないけど中坊ね』
朝狩さんに紹介された黒井君と白田君は瀧阿を引っ張っていくと崩れたトランプタワーの元へ行きまた三人で積み立て始めた。どうやら折角三人で作っていたのをさっき瀧阿が崩してしまったためもう一度挑戦するらしい。何度も瀧阿が二人に謝っていたが二人は気にした様子もなく……むしろ少し笑っているようにも見える。
『またタキアンと遊べて嬉しいみたいだねー。タワーが完成することより、誰かと遊んでる時間の方があの二人には重要みたいだから』
平和に遊び始めた子供たちを眺めながら少し大人な僕ら三人は少し離れた場所で話を始めた。朝狩さんには聞きたいことが山積みだから。
『朝狩といったな。で? どうして裏側なんかにうちの瀧阿がいる? ここに来るなんて俺たちは聞いていないんだがな』
『まぁ言っちゃえば俺らが誘拐したわけだしね』
驚愕の言葉に僕らが固まっていると白田君がお茶を淹れてきてくれて、僕らへ出してくれた。朝狩さんはそれを飲むとまた話を再開した。
『俺から全てを話すことは出来ないよ。全てを決めたのはトップだ。知っていることは、雨座瀧阿の誘拐には裏側のメンバーで行って絶対に漏れないようにしている。そして彼女に危害は加えない…これも命令だからね』
『さっきから言っているトップっていうのは…誰なんですか』
すぐに来るさ、と朝狩さんは言い……向こうで遊ぶ三人の姿を見ていた。その視線は今までのミステリアスな彼の雰囲気からはあまり想像出来ないほど慈愛と優しさに満ちたものだった。たまにトランプの崩れる音がして残念がる声が聞こえると可笑しそうにクスクス笑うのだ。
『これから町全体が混乱に堕ちる…でも、それに対抗するカードが何枚かあるけど』
彼が指差した先にいたのは他でもない、瀧阿の姿。
『何よりも必要な……ジョーカーだけは、守り切らないとね』
両開きの扉がゆっくりと開き、その姿を現した。黒い学ランに青いシャツを着た長身の男
裏側のトップと呼ばれていたのは、飛尾 夜丸君だったのだ。
『夜丸君…?!』
『やぁ飛尾。無事にお客様たちを撒いたようで何よりだ』
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