先生
二人の警察官と別れてから僕らは再び裏側の捜査を続行した。人を見かけては声をかけ、どんなに嫌な顔や態度をされても聞き続けた。
そんな時だった。交差点を曲がってバッタリ出会ったのは保険医の神之井先生と瀧阿のクラスの担任である小館先生だった。
『君たち…どうしてこんなところに。…ああ、なるほど。君たちも雨座さんを』
神之井先生の言葉に頷くと、ふと目に入ったのは小館先生だ。心なしか先生の目は赤く腫れているように見える。表情からしてもかなり落ち込んでいるのが見てわかるのだ。
小館 夕仔先生。今年初めて自分のクラスを受け持った新米の教師で若い女性ということもあり生徒たちからの人気もある先生だ。自分が初めて受け持った生徒が行方不明になってしまったのだ……その心の内は定かではないが、憔悴しているのは確かで。
『小館先生…大丈夫ですか? 目が腫れてますよ…』
『君は三年生の…よく雨座さんを迎えに来てた、春雛君ね。ごめんね、心配かけちゃって…でもどうしても落ち着かなくて。この辺りはまだ捜索されてないって聞いて…いてもたってもいられなくて、神之井先生についてきてもらってるの。君たちも探してくれてるのね…あまり無理せず家に帰るのよ』
僕らに笑いかけたその笑顔は、今にも泣きそうな顔だった。神之井先生と一緒に違う道から捜索に向かう足は震えながらも何処か焦ったような足取りだから転びそうで危なっかしいものだった。神之井先生は僕らに水筒からコップを外して麦茶を飲ませてくれた。実は軽い潔癖性の兄さんは丁重に断わっていた。
小館先生の恐怖は、僕にはよくわかる。
もしも、瀧阿がこのまま見つからなかったら……もしもまた、今までと同様に生きて見つからなかったとしたら? そう考えると、怖くて怖くて堪らないんだ。
『叶。少し休憩しよう…ちょっと電話してくるから、お前はあそこのベンチに座ってろ』
歩き続けて何時間か経って流石に疲労が募っていた。足だけじゃなく気付けば声も少し枯れているような気がする……話しかけ続けたし、瀧阿の名前を何度も叫んでたからだろう。兄さんも汗だくだし、一先ず休憩に賛成した。ベンチに座ると一気に疲労感が襲ってきてそのまま横になりたいという欲求をぐっと堪える。
『……君は今、何を見ているのかな』
何を見ているのか教えて
誰がいるか見てみて
何を考えてるか知りたい
このまま眠れば、君に会える気がするんだ。
瞼が重くて、駄目だ駄目だと思うほどに何故か意識が遠退くのだ。色んなことを考えて頭も使っていたから参っているらしい……徐々に暗くなる視界。頭の隅でまたあのアラームが鳴っている……寝ちゃ駄目だ……。アラームが鳴るのは……瀧阿の、危機で……。
パチンっ……!
『っ……?!』
『起きたー? 少年、寝ちゃいけないなぁ。用事があるから起きてもらえる?』
目の前にいたのは、黒髪に銀のような……色の薄い目を持った青年。彼の両手を合わせて鳴った音に驚き目が覚めたらしい。それにしても見知らぬ青年だなと見上げていると彼は辺りを見渡してから僕に尋ねた。
『二人組って話だったけど、連れは?』
『兄さんなら今電話に…ああ、帰ってきました』
兄さんが帰ってくる様子に安堵すると、改めて起こしてくれたお礼を言うが彼は気にした風もなく軽くあしらわれてしまった。
もうアラームは聞こえない……起きたからだろうか?
不思議に思いつつ兄さんが僕らの元に到着すると彼は自己紹介を始めた。
『朝狩だよ。
さて。お客様も見付けたことだし、移動しようか。ちょっと複雑な道通るから絶対に俺から逸れたりしないでよ? ここで人探しとか無謀なこと、俺したくないからさー』
どこに行くんだとか、何が目的なんだとかそんな質問に一切答えず朝狩さんはさっさと歩いていく。兄さんは彼に着いて行くことはないと別の道へと足を踏み出した。
『知ってるよ』
振り返った時、朝狩さんは僕らの方も見ずに前を見ながら言ったのだ。
『ここで闇雲に人を探しても見付からない…ここにいないならまだしも、ここに連れてこられたってんならそれこそ相手によっちゃ探し物は一生見つからないよ。方法はただ一つしかない』
『ここのトップに頼む。これが一番早くて確実だよ。俺は幸いなことにそいつを知ってる。だからアンタらはついてくるのが懸命だよ』
朝狩さんはそう言ってまた歩き始めた。その背中は既に小さくなっていてすぐ追わないと間に合わなくなる。兄さんを見上げると少し何かを考えていたけどすぐに意を決したように視線を交わして朝狩さんのもとへ僕らは駆け出した。
.




