喫茶『眠威』
統木栄火君へのいじめは入学から数週間後には始まり、主犯は夜丸君を筆頭にした数名の男子生徒によるもの。クラスメートたちもいじめの事実は薄々気付いていたものの皆……夜丸君に逆らうことが出来ず、黙っていることしか出来なかったのだ。飛尾夜丸君の家は祖父が地主で、母方の家では政治家もいる所謂お坊ちゃんというやつだ。しかも彼は素行も悪く喧嘩っ早いこともあり尚更誰も口を出せなかった。
『俺も夜丸とは少し話したことはあるけど……普段は普通に話しも合うし、問題ねぇんだけどよ。栄火のことになると途端に機嫌が悪くなってたんだ。あんまり手を出すなよとか言うとすげぇキレて……なんていうのかな。嫌いを通り越してた。それこそ親の敵みたいに』
『親の敵って……そんなになの?』
僕の問いに叶士は頷く。それほどまでに栄火君を嫌っていたなら……まさか彼が犯人なのでは、なんて考えも浮かんでくる。
『だとしたら……おかしいよね』
栄火君は自分をいじめ続けた夜丸君を相当恨んでいるはずだ。あんな得体のしれないものになって何をしたいのか……きっと復讐だと、叶士は言っていた。でも最近事故死した志島君は一応栄火君をいじめていたグループだったらしいが、一番栄火君を傷付けたのは間違いなく夜丸君だろう。
なのに何故、死んだのは夜丸君ではなく志島君であったのか。
『栄火が志島を殺したんだとすれば……周りから殺していくつもりなのかもな。夜丸より志島を恨んでるとは思えねぇよ。
…まぁそもそも、志島は本当に事故で死んだのかもしれねぇし。二回も栄火に襲われた俺らが生きてるんだからな』
『それ言うとまた襲われるみたいな流れだからやめてくれないかな』
楽しげに遊ぶ生徒たちを眺めながら、僕は思う。こんな風にみんなが遊んだり笑っていた中……一人孤立していた彼は何を思って過ごしていたんだろう。晴れた日は何処か人の少ない場所で過ごしていたのか、雨の日は彼らのいない場所を探して静かに過ごしていたんだろうか。
バスの中で瀧阿を見付け、助けた時……彼は何を思ってそうしたんだろう。自分だって誰かに助けてほしかっただろうに、見ず知らずの後輩を毎日助けていた彼は……何故そんなことが出来たんだろう。
『……僕らも調べてみようか。叶士も、一緒に探してみよう?』
警察でも探偵でもない。でももう、他人事ではなくなってしまったのだから。
『統木栄火君の亡くなった原因を、一緒に探そう』
『……兄貴だけじゃ不安だしな。栄火は殺人だって決まってるから犯人もいる。兄貴じゃすぐやられそうで頼りないから俺も付き合う』
可愛げのない弟の足を無言で蹴っ飛ばす。こんな可愛くない弟じゃなく、僕には可愛い妹がいるのだから問題ない。
足を抱えて痛がる叶士を尻目に瀧阿へ今日は帰る時に寄りたい所があると相談すると……瀧阿は今日は予定があって一緒に帰れないとの連絡があった。
『瀧阿今日は一緒に帰れないってさ…』
『は。マジかよ……帰る時間聞け。瀧阿は一人にしたらマズい』
そう。瀧阿は、本人は知らないし覚えてないが自宅に侵入され黒い人影……栄火君にも追われたのだ。一人で行動させるのは危険なため、叶士の言う通り帰りの時間を聞いた。
『……送ってもらうから大丈夫です、だってさ』
『……誰に』
いや、流石にそこまでは……聞きにくいよ?
年頃の女の子にしつこく予定やら聞いたら嫌われてしまうだろと説明するが、瀧阿をちゃんと守りたい系の弟にはあまり伝わらず残りの休み時間の間ずっと聞け聞けと五月蝿かった。自分で聞けばいいのに、四人でグループを作って誰でも発言出来るスタイルの話しやすい環境を作ってやっているにも関わらずこの弟は変なところで恥ずかしがるのだ。
結局瀧阿は誰かと約束があるらしく捜査初日から参加出来ないことになったため、僕と叶士で放課後から行動する。
『まずは……統木栄火君の殺害現場だね。この河原の近くだよ。流石に警察の調査が終わってるわけだからもう何もないけどね』
栄火君の発見された場所は、川からは大分離れていて死因はわからない。父さんが調べてくれているはずだが普通死因ならある程度知られるとは思うのだが、それもあまり公表されていない。
『場所が場所だからな……。結構草とか生えてるし、ちょっと視界悪いだろ。あんまり川の近く行くなよ、落ちたら糞ダルい』
『ここで殺人事件があったっていうのが単純に怖いよね……。血痕とかはないね……そういう死因じゃないのか、または警察で処理したのか』
結局現場での収穫は何もない。河原の近くには駅があるが、事件は電車の動いていない時間に起きたので目撃者もゼロだ。
『次行こうか、叶士』
次は、栄火君の実家に行くことになっていた。葬式は身内だけで行いたいという話だったらしく、叶士たちクラスメートたちは参加していなかったので叶士もお線香をあげたいという話からそうなった。何処からか奪ってきたらしい自転車に二人乗りして、統木家へ向かう。
『あーあ、僕も弟に影響されて遂に不良の仲間入りかぁ……』
『ニケツくらいでガタガタ言うんじゃねーよ。仕方ねぇだろ、距離あるんだよ。徒歩じゃ暗くなるっつーの』
因みに自転車はクラスメートのもので今回だけ借りたものらしい、弟の話では。
暫く自転車を走らせていると近くのコンビニでたむろしていた学生たちが何故かこちらに手を振ってきた。全く知らない顔ぶれに首を傾げていると叶士がそれに手を振り返した。
『お前か……』
『クラスメート。なんだよ、なんか用かー?』
叶士が自転車を止めて彼らに話しかけると三人組はこちらに寄ってきた。三人組は中々の不良っぽい雰囲気で、髪は茶髪二人に黒髪一人。パンツの見えそうな腰パンっぷりだ。何故こんなにも弟のクラスに素行の悪そうな生徒が多いのか。理由は簡単だ。そういうクラスだから、である。
『叶士ーなんだ兄貴と一緒だったか』
『お前いつももう一人さ、ちっちゃい後輩ちゃんも一緒だったろ。あのむっちゃ髪長い』
瀧阿のことだ。叶士もそう気付いてすぐに肯定すると、黒髪の生徒が言いにくそうに見たことを話してくれた。
『さっきその後輩ちゃん見たんだよ。それがなんか……変な男が一緒にいてさ、一瞬お前らの一番上の兄貴かと思ったけどあの態度じゃ多分違うと思ってよー』
『なんかすげぇ暗かったぞ、後輩ちゃん。会った時は何回も頭下げててさ』
ガシャン、とペダルに足を置く音がしてそっと叶士の顔を伺えばなんとも言えない無表情が逆に怖かった。今にも走り出しそうな雰囲気を感じ取った三人組も顔が引きつっていた。
『喫茶店に入ろうとしてたぜ、ほら……ここ真っ直ぐ行った喫茶“眠威”だよ』
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次回から、第二章に入ります。
……まだ二章ですか、そうですか。登場人物がポンポン出てきてますが要望ありましたら纏めます。




