第6話-動き出した歯車-
「んっ。」
皆が意識を失って1日。
つまり私たちがこの世界に来て3日目の深夜。
誰も入ることができない会議室で日記さんとの会話から情報を集めていた私の耳に呻き声が聞こえる。
「気づいた?」
「ん、あぁ。嘉多無さん。ずっとここに居たの?すごいクマだよ?」
一番に目覚めた剣慈君は周りの心配より先に私の心配をしてくれる。
まぁ日記さん、面倒だからリーさんでいいや。リーさんと会話?文通?してたら時間が経つの忘れちゃってたんだよね。
リーさん疲れないし。私は集中したら周りが見えないし。
「大丈夫。これはちょっと調べ事に夢中になっちゃっただけだから。地球に居た頃も2,3日寝なかったこともあるし平気。」
「調べ事って、まさか過去の勇者の文献で魔王達の事を?」
「んー、まぁ似たような感じかな。」
「それこそ申し訳ないよ。俺たちが寝てる間に嘉多無さんだけに負担掛けちゃって。」
私がリーさんとの会話をぼかして伝えると剣慈君はますます申し訳なさそうになる。
リーさんには、出来れば皆に自分の正体を明かして欲しくないって言われてるし。
「気にしなくていいって。それよりほら、体の調子はどう?」
流石にイケメンの申し訳顔は気不味いので私は話を強引にそらす。
「そうだね。魔法の使い方も分かったし、かなりいい感じかな。力が溢れてくるよ。もし皆もこんな感じなら魔王たちも魔神も倒せるかもね。」
剣慈君はそう言ってはにかむ。
うん。やっぱりイケメンだね。
まぁ私はイケメンよりユーモラスな方が好みなんだけど。
・・・って違う!なんで聡介君の顔が浮かぶのよ!
違うったら違うの!聡介君はそういうのじゃないの!
出会ってまだ4日目よ?
それで落ちるとかどこの少女漫画よ!
「嘉多無さん?」
「ひゃいっ!」
私が突然クネクネし始めると剣慈君は心配そうに声をかけてくる。
「どうしたの?」
「な、なんでも、なんでもないよ。ほんとに。」
「んぁーあ。ん?何や起きて早々この甘い空気は。イチャイチャするなら余所でやってくれんか?」
剣慈君と話していると目を覚ました聡介君がからかうように呟く。
ニヤニヤしながら。
「速着火。」
ポッ
「熱っついな!何すんねん。燃えるやろ!」
イラッと来た私はついつい聡介君の鼻先にマッチ程度の火を生み出す。
これは別に属性に関係ない共通魔法だから威力は大きくないし安全っちゃ安全だ。
「あ、ごめん。燃えるごみじゃなくて粗大ゴミだったっけ?」
「ひっど!ケンケン、聞きました?この人俺のことをごみと間違ごうて燃やそうとした上に粗大ごみとか言いましたよ?絶対別人やんな?」
「はは。」
私と聡介君の漫才が始まって少し、次々に寝込んでいた皆が起き上がってきた。
「うぅっ。」
「あ、じゅんじゅんもそろそろ起きるんちゃうか?」
「淳、気付いたか?」
「ん、あぁ。剣慈。あれ、皆も。あ、そっか。嘉多無さんの持ってきたキーホルダーで。」
「うん。皆意識はハッキリしてきたみたいだね。じゃあこれから私の知ってる知識を皆に伝えていくね。」
私は皆が目覚めて頭が覚醒した頃合いを見計らって注目を集める。
ここからはこの24時間でリーさんから得られた知識のお披露目だ。
「まず始めに、誰も死なないで。」
「そんなん当たり前やん。せっかく世界救ったのに誰か死んでるとか、喜べへんやん。」
私の言葉に聡介君が答え、他の皆も頷く。
でも私が言いたいことと少し違った。
「確かにそうなんだけどね、私が言いたいのは違うの。誰も死なないで、ていうのはね、勇者は誰か一人でも欠けちゃうと魔神どころか魔王すら倒せなくなるかもしれないんだ。」
その言葉に皆の顔が強張る。
いや、裕美さんだけは初めからあんな顔か。
・・・悪口じゃないよ?
「魔王ってそれほど強いのか?」
口を開いたのはさっき私に魔王すら魔神相手でも倒せると豪語した剣慈君だ。
「純粋な強さだけならもう皆の方が上だと思う。何て言ったって過去に魔神たちを倒した勇者の力を引き継いだんだから。でもね、魔王って誰でも倒せる訳じゃないんだ。」
「そらそうやろ。誰でも倒せるなら勇者なんて要らんもんな。」
「そうじゃなくてね、魔王にも属性があって、その属性と対になる属性を持つ者にしか傷つけられないの。」
「じゃあもし今目の前に魔王が現れたとして、その属性の対の属性が拳成だったら全滅しちゃうってことですか?」
不安になった淳君が手を挙げて発言する。
「それについては大丈夫。魔王は"火"、"水"、"風"、"土"の四属性で魔神が"魔"属性なの。拳成君は確か"闇"属性だったから今魔王が現れても全滅はないよ。」
「ちょっと待て。我々の属性には確か"魔"というものは無かったな?"魔"属性とは?」
裕美さんが話に割って入る。
「"魔"属性は唯一魔神だけが持つ属性のことだね。魔王と違って対になる属性以外の属性を無力化しない代わりに弱点がないんだよ。ただ、"光"と"闇"属性を合わせた結界だけは破壊できないみたい。今封印してるのも過去の勇者の"光"と"闇"属性を合わせた結界なんだ。」
「つまり最終的に魔神を封印することのできるのは俺と拳成の二人だけってことか?」
剣慈君が固い表情のまま告げる。
「そうだね。本来、倒すことは誰にでもできるけど、過去の勇者が封印するしか無かった程強大な力を持ってるらしいから封印に留める方が無難かもしれない。」
「で、でもそれだとまた何年かしたら封印が解けちゃって僕たちみたいに無関係の人が巻き込まれるんですよね?」
「じゅんじゅん。だからって俺達の誰かが死んでもうたらお話にならんやろ?」
「それは、そうですけど。」
「一ついいか?」
淳君と聡介君が話していると、これまで黙っていた阿樟君が口を開く。
「俺たちが今回力を得られたのは過去に一度だけ、嘉多無と同じく白銀の勇者が居たからだよな?その時の他の勇者達の力を未来の勇者に、俺たちに譲渡したからだよな?」
「そうだね。」
「なら、それ以外の勇者はどうやって魔王や魔神を封印したと思う?」
「それは、訓練したんじゃないの?」
「いや、それはないな。」
阿樟君の疑問に私が答えると、裕美さんが否定する。
「私は地球で弓道を嗜んでいたから言えることだが、一週間程度の訓練では目に見えた上達はない。いや、1日目と7日目を除くと5日か。それでは訓練上ではうまくいったとしても実践で使い物になるとは思えない。」
スゥ
裕美さんの言葉に反応するかのようにリーさんが新たな一文を加える。
それを私は皆に気づかれないように読む。
<回答>
我々の代の勇者は神器を受け取った時点で力を得て、魔王に出会うまでの道中、魔物の討伐で経験を得た。
魔法に関しては魔物の討伐で一つ一つ覚えていったので実践で使えるレベルの魔法は殆んど無かった。
「過去の勇者は神器で力を、魔物の討伐で経験を積んだらしいよ?」
「そういえば王様も神器から過去の勇者の培った実力が流れ込んでくるって言うとったな。」
「ならすぐにでも城を出るか。ゴタゴタで唯でさえ7日しかないものを3日目まで無駄にしてしまっている。それに拳成にも一日寝込んでもらわないといけないからな。出来れば今日中には拳成を見つけたい。」
「そうだね。でもその前にやることがあるよ。」
「なんや?力の確認か?」
私の言葉に聡介君を始め、皆首をかしげる。
「ご飯食べよ?」
・・・・・この時の皆の視線は一生忘れないだろう。
仕方ないじゃん!皆は寝てたけど私は一日飲まず食わずだったんだから!
「本当にもう出ていかれるのですか?」
食事の後、王女様に出発の旨を伝えると街の外まで自ら見送りに来てくれた。
「えぇ。既に期日まで半分を過ぎましたしそろそろ動かないと間に合いませんから。」
「・・・そうですね。勇者様、どうか無事に拳成様と合流し、父の仇を討ってください。それと真帆様、本当に着いていかれるのですか?」
皆に話しかけた後、王女様の視線は私の方へ向く。
考えた結果、リーさんが付いてる私も一緒に行動することにした。
私も一応は自分の身だけは守ることができるし、何より私の魔法は隠れた魔族を探し出すことに適していた。
「もう決めたことなんで。必ず朗報を持って帰ってきます。って私は戦わないんですけどね。」
「ふふ。そうですね。真帆様は安全なところで皆を助けてあげてください。では、あまりお引き留めしてもご迷惑なので、私たちは城へ戻ります。どうか、お気を付けて。」
王女様の言葉で私たちは街に背を向けて歩き出した。
行き先は私の手に収まる"玉標"が示してくれる。
「私たちの冒険はここからだ!」
「ちょっ、やめてくれへん?そんな打ち切り決まった漫画みたいなセリフ。ヤル気無くすやん。」
左右を見渡すと皆も頷いていた。
「ご、ごめん。」
私たちの3日間の冒険が始まった。
勇者たち
光園寺剣慈
長身黒髪アシンメトリー系イケメン
神器:純白の剣。
氷村裕美
黒髪ボブ高身長女子
神器:獣の顔を伸ばしたような弓。
土居淳
ミニマムマッシュな眼鏡の男の子
神器:大きく武骨な盾。
鞍馬拳成<魔族の傀儡>
黒髪ウルフマッチョ厳つめ男子
神器:赤い爪の付いたグローブ。"神堕ツ魔拳"
火野阿樟
中肉中背坊主男子
神器:真っ黒の両刃斧。
風見聡介
金髪ツーブロックのチャラ男風関西人
神器:穂先が十字になった槍。
嘉多無真帆
黒髪ポニテの図書委員長女子
神器:なし。